―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第二章 ナミ側

第24話 約束

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 それまで希望に満ちていた空気が玲緒によってまた、冷たい空気へと化している。
 それから、ナミが勝つと笑ったり、負けるとムスッとしたりナミの一人百面相が続いてる。
 次第に死臭の匂いも気にすることなく朝礼台のほうに視線を集中した。
「何、言おうとしてたんだろうね」

 横からナイトが淡々と問う。その声はやけに響いていた。当然だ。
 その頃には、広場にいるのは佳奈と俺とナイトだけになっていたからだ。
『んじゃ、佳奈!』
佳奈がまず指名された。
 佳奈は黙って朝礼台に向かう。その背をいつまでも見守る。ナミと並ぶとジャンケンが開始された。
 しかし、佳奈は何も出してない。どうしたんだ、まさか…

『ジャンケン……ポイ!』

ナミだけが拳を振り下ろしてる。佳奈は黙って何も出してない。
「どうして出さない?」
いつもの呑気な口調ではない。怒りが混じっている。
「……あんたに勝っても誇りに思わないからに決まっているっ!!」
強く断言したあと、パッと颯負の方に顔を振り向いた。口をパクパクし、何かを言ってる。
「託したから…―」

パァン!

 最後にみたあの顔は忘れられない。唇の骨格は上に心配要らないよと言う笑顔。
 託したとは希望か、想いか。人の死を見ても嘆かない自分にはもう、分からない。
 この次、ナイトが呼ばれた。大丈夫、そう願ったからなのか、結果、やっぱり勝った。消える際、ヒラヒラと小さく手を振ってく。
 



『最後、女一人守れなかった坂瀬颯負くん!』
嫌味のような事を言われた。ピキッと頭の血管が浮き出る。颯負はナミを睨んだ。ナミはそれでも、平常の顔。
 この台で多くの死に際をみて来た。悲惨な光景を見ても驚かない自分がいる。ここで誰か大切な人を失ってるはず。
だからこそ生きたい。
「ナミ、俺が勝ったら約束しろ」
朝礼台に登る際、俺が言った。ナミはキョトンとしてる。
「勝ったら俺の質問に全て答えろ、これが約束だ」
「勝ったら、の話しでしょ?」
 クスクス笑った。
 朝礼台に並ぶとジャンケンが行われた。ナミは自信満々に拳を振り、颯負も臆することなく拳を出した。ナミはグー。颯負はパー。
 瞬間、冷たい風が肌をなびいた。一気に緊張と不安が消し飛ぶ。また、この風を感じる事は生きてることに直視する。
「約束だ、答えてくれるな?」
 透明になる自分を前にナミに言った。ナミは鋭い目つきで睨んでる。それは最後まで。本当に消えかかった時は目を瞑った。この身体は何処に行くのだろう。

 不意に人の気配がし、目を開けてみる。そこはレッスン1で落ち合った体育館。隣には玲緒が。
「お疲れ、皆待ってるよ」
 体育館の隅で円になって囲んでいる皆を指さした。玲緒と一緒にそこに向かう。
「良かったぜ!」
 筋肉ムキムキな男性が最初に言う。
「あぁ、ありがと」とその隣に座った。
「俺はあきらだ、よろしく!」
 顔の筋肉を笑顔をにし、にこやかに言った。明の隣にいる小柄な体型した女がヒョイと顔を出してきた。
「私は亜里あり
 ニコッと笑った。その隣にいる伊糊も顔を出す。
「良かった! あ、僕は伊糊と言います」
 時計周りで自己紹介が行った。
矢野やのや、よろしゅう」眼鏡をかけた関西弁男。
「三月です」変わらぬ笑みを漂わしてる。
双葉 葵ふたば あおいよ」黒髪ロングの目がキリッとしてる子。
「ゆ、雪戸ゆきとと言います…」男にしては小柄な少年。
「鈴木…和奈です…」謙虚さが戻った言い方。
南城なんじょうです」クセっ毛がある少年。
「玲緒…」
双葉 雫ふたば しずく、そこにいる葵の妹」黒髪ロングの子を指さした。あまり似ていない。
「ナイト……」
 ボソボソと小さい声で微かに言う。見兼ねて、ポンと背中を叩いた。
「俺は颯負だ、こいつはナイトな」
 怪訝な顔をし、背中においた手を振り払われる。
「しっかし、減ったな~13人って」
 円になった人数を数え、明が言った。確かに、ジャンケンでかなりの人数が減った。
「ジャンケンの確率とか少確率すぎじゃない?」
 南城が眉をひそめ、言う。その場は、まるで今でもあの朝礼台でジャンケンをしているかのような冷気が立ち上った。
「来いって言ったのにな…」
 明が残念そうにつぶやく。
「ここの体育館、こんなに広かったけ?」
「あ、それな!!」
 三月と亜里が人を挟んだまま楽しく会話してる。不穏とした空気に呆気となる空気だ。その会話の中に、何故か矢野が再戦した。
「最初、人がぎょうさんいて分からんかったもんな~」
うんうんと一人で頷いてる。

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