―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第二章 ナミ側

第19話 襲撃にそなえて

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 持っていたナイフで紐を切ろうと試みる。しかし、無駄に硬い。滑車に取り付いたロープはまるで、生きているかのように円をかき、颯負にも襲いかかった。
「な、なんであんたが…」
 涙混じりに玲緒が言う。顔は涙でグシャグシャだ。
「絶対助けるから!」
 そう言ったもののロープは硬い。あの男はどうやって切ったんだ。
 困惑する中、獅子舞の動きが速くなった。縛る力が強くなり、身体中に赤黒い斑点が浮き出る事も知らずに獅子舞は口内へと引っ張る。
「クソッ…たれ!」
 迫りくる口内に颯負は右足を高く上げ獅子舞の顔を蹴った。途端、面に亀裂が入りロープが千切れ、獅子舞は勢い良く空中に飛んだ。玲緒の身体に絡まった紐もスルッと離れ宙に浮いていたのが、フワリと落ちていく。
 それを見事に受け止める颯負。お姫様抱っこだ。
「あ…」
「捕まってろ!」
 玲緒の腰に手を回し、その場を離れるように走った。
 抱えられた状態で下から颯負の顔をまじまじ見つめる。こんな時だけ月の明かりさえあってくれたら良いのに…
ふと玲緒がそう思った。
 颯負は菜穂たちがいる場所へと向かう。三月は口を金魚のようにパクパクし、対して菜穂は眉をつり上げ怒った表情を浮かべてる。
 颯負は玲緒を抱え、菜穂たちのいる物陰へと入った。
 菜穂は颯負よりも目にくれず、玲緒の足をまず止血させた。

「こ、コレ使った方が…」
 三月がポケットから手乗りサイズの四角い箱を取り出した。その箱は突然光り、が、すぐに止まった。
 玲緒が慌てた様子で足を触る。見ると、血がドクドク流れてた傷痕も血痕もない。本来の肌色に戻っていた。
「コレ…傷を癒す箱なんだ…」
 三月が箱をポケットに再度戻した。玲緒は傷ついた足を何度も触り安堵の笑みを零した。
 玲緒は颯負の方に顔を向きモジモジしながら口を開いた。
「あ…あの…あり…がと」
「ん? 御免、聞き取れん何て?」
 聞き耳をたて、玲緒に近づくと玲緒は耳まで赤くなりプィと顔を逸らし口を閉ざした。一体何言おうとしたんだか…
 ハァと溜息を吐き、菜穂の顔を見た。あの時より、益々怖い顔をしてる。
 すると、頬に鋭い痛みがきた。菜穂の強烈な平手打ちをくらったのだ。一瞬、何が起こったのか分からず頬を抑え菜穂を見る。

「え? 菜穂ちゃ…」
「このバカたれがーーー!!」
 空気が鎮まり返り菜穂の言葉が何度も響いてる。
「何やってんの!? あんな無茶して! 心配する人の気持ちも分かってよ!」
 菜穂の両目がうるうるした。溢れそうになる涙を必死に止めてる。その姿に颯負は心が居た堪れなくなった。「御免…菜穂ちゃん」ソッと近づき手を握る。その姿を玲緒は気を落とした顔で見守る。

「玲緒っち!」
 聞き覚えある尖った声が聞こえた。遠方から藤率いる佳奈が慌てた様子でこちらに向かって来る。
「佳奈…どうして」
「あいつから聞いて…あと、菜穂ちゃんらもアジトに戻った方が良い! 椿が…暴れてるの!!」
 佳奈の声がやたらと響き、玲緒を無理やり引っ張って帰ってく。佳奈のいってた言葉が未だに分からない。
 玲緒たち一行が帰って行く背を唖然と見つめる颯負たち。

 そんな時、建物の屋上が光った。それに一早く気づいたのは颯負。「隠れて!」とまた押し込む。が、時既に遅し。
 物陰に隠れている事はバレ、狭い路地で前方位囲まられた。ここで佳奈の言ってた意味を理解する。
「二人には感謝してます。ここまで私を生かしてくれた事に」
 聞き覚えのある声。和奈の声だ。何を言ってるのかよく分からない。けど、分かったのは和奈の校章は椿。敵である事。束の間、菜穂が弓を引く体勢をした。
「行って…あとで行くから」
と弓を引いた。その矢はヒュンと空気を割き、数秒間空に浮き、徐々に下がって人影に命中。屋上から姿が消える。菜穂の真剣で強い眼差が見つめてくる。
「…わかった、絶対来てよ」
 菜穂に背を向け、三月と一緒にアジトに向かう。
「行かせない!! 完全優勝するのは椿だ!」
 会った頃とは別人に、清楚さえも感じない声色。菜穂が心配で、振り返って立ち止まる。大丈夫、菜穂ちゃんならあの場を切り抜ける。そう、心の中で祈った。


 『桜が人数制限無しをセットしました』
 黒い空に突如、淡々とした女性の声が響き渡った。
 今は、誰がという疑問を考えている場合じゃない。菜穂が与えてくれた時間と勇気に立ち止まっている場合ではない。

 桜のエリアに向かうと、人の体格を悠々と超えた十二支といえる動物たちが暴れ回っていた。恐らく、椿が放ったといえる。
 人数制限無しというシステムをセットしたからなのか、桜と藤の全員が懸命に戦っていた。昨日まではこんな景色、想像もしていなかった。
 人と人がぶつかりあい、体格も見る限り違う動物に挑んでいる。

 同じ、境遇の椿は今や「生きたい」という願望で他人をひきずり降ろしている。間違った事じゃない。誰だって、死の恐怖は怖い。だけど、こんなのは間違っている。
 桜のエリアだけじゃなく藤のエリアでも椿が放ったと言える、十二支の動物たちが暴れ回っていた。
「ぎゃああああ!」
年頃の女が甲高い悲鳴をあげ、のたうち回った。
「今、助け―…」
言ってる束の間、鋭い爪で引き裂かれる。目の前で。血を噴き出し黒い目を上に向かせ、瓦礫の山へと倒れた。
あぁ、俺には何も出来無いのか?
皆、もっと生きたいと願っているのに、儚くも死んでいくのに対し俺は助ける事も手を伸ばす事も出来無い。

〝助け合う〟ってあの時言ったのに。

その時、菜穂の声が聞こえた。ついに幻聴まで。自分はおかしくなったなと声のした方向を見た。幻聴でも幻でもなく菜穂が颯負の名前を呼び、駆け寄ってきてる。

「菜穂ちゃ…」
「大丈夫!?」
歩み寄ってくる。
その時、近くから爆発が。菜穂を守る為、咄嗟に身体を覆った。すぐにその上には瓦礫の岩が飛ぶ。それは連続で爆発が。木が生い茂ってた場所だっからか、風圧だけで免れた。

「良かった…ここまでこなくって…」
顔だけを覗かせ、辺りを見渡した。藤の援軍が来て益々、悪化している。まさに、戦場と化しているエリア。
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