―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第二章 ナミ側

第27話  衝撃

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 雪戸は正直、羨ましかった。
 この場の信頼と希望を持たされた男に。
 何よりも彼女を危機から救ったことに。
 生まれてこのかた、人から必要とされてない。いつも人から見くびられ、利用される毎日だった。
 一度でいい。
 誰かに必要とされたい。
 誰かに自分の力を認めてほしい。
 彼女の為だったら…。

 真ん中の肉切りハサミと一番上の鋸が同時に回ってきた。んな、アリかよ!?

「…僕…止めてくるよ」
 掻き消える小さな声で雪戸が言うと、回っているハンマーに走り出した。
「雪戸っ!? 何して…」
 大股の距離にあるプレートを踏んで走っていった。颯負は急いで雪戸の後を追う。
「待って、雪戸っ止まれ!」
「皆の為に役に立って死にたいんだ!」
 そう言いきって、ハンマーの取って部分にヒョイと乗る。途端、ハンマーがフワッと消える。空中に浮いてたのは雪戸だけ。その下に落ちたら、肉切りハサミが。しかも、開いてる。
「うわぁぁぁぁ!!」

「ヒッ!!」
「嘘でしょ…!?」
 颯負は肉切りハサミがまだ回ってきてない場所に向かい、腕を広げた。
「雪戸、来い!!」
 雪戸は目に大粒の涙を零しながら、颯負の腕の中に落ちた。
「僕…皆の役にたった?」
 顔を埋めながら問う。颯負はポンと頭に手を置いた。
「あぁ、役にたった。これで皆生き残るぞ」
 それを聞いた雪戸は益々、顔を埋めた。
「グヘフフ♡」
 三月が恍惚した表情を浮かべ、颯負たちを見つめてた。それは、まるで……。
 ゾッと鳥肌がたち、「わかった少し離れよう」と雪戸の顔を無理矢理放す。元の場所になんとか戻ってみると、葵が涙目で雪戸に一喝。颯負は横目で次、積み木が回ってくるより先に喋った。
「俺が積み木を消す、だから皆は回ってきた時に落ちないように気おつけて!!」
 言いかけた直後、一番上と下が同時に回ってきた。きた!と態勢した時、一番下の鋸がナイトによって消えた。手で触れただけでも消えるのか。
「何してんのさ、自分だけカッコつけて」
 顔色変えないで言う。その言葉に次々と賛同が上がった。
「そうだそうだ! カッコつけるのなしな!」と明。
「怖いけど、私も活躍しないと…」と亜里。
「そうよ! 占った結果、次はとんでもない速さでくる」と玲緒。
 急に胸の中が温かくなってきた。陽だまりのような温かさ。玲緒の言う通り、真ん中がとんでもない速さで回ってきた。

『あ、ストップ、ナミもう飽きたからもういいよ』

 途端、ガタンと機会が止まる音と同じ、積み木が止まった。空洞にあった棒がまるで自由自在に下に下がり、ナミがマイク片手に突っ立っている。足元にあるプレートも、プレート同士が重なり、一つの巨大な円となる。

『お疲れお疲れ~座っていいよ!』
「終わった…のか?」
 颯負は辺りを見渡した。周りはもう、座りこんで安堵の顔をしてる。胸の中にあった陽だまりの温かさが消えない。

『終わったよーナミもお腹満腹満腹』
 ポンと下腹を叩いた。
 ナミの足元にはお菓子のゴミや食い散らかしがポロポロと。俺たちが頑張ってる時にナミは満喫してたらしい。
 不意にナイトが目に入った。片腕を抑え、苦しい表情。手の甲から指先までをポタポタ赤い血が落ちていた。まさか、今ので…?
「あれ? 怪我してる?」
 ナイトの側にナミが近づく。その距離はジャンケン以来。
 ジッと傷ついた片腕を観察してる。スッと黙って傷ついた処に腕を伸ばし、なぞるかのように上から触った。
 すると、あっと言う間に血も傷もない。一体どうやって…。
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