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第三章 ファイルステージ
第38話 宇月玲緒の希望
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頭に見えた情景はいつくるのか、足がとどまった玲緒の視界には、ひきつった顔して苦しんでいる颯負がいた。地面に落ちた血のあとが夥しい。
止めなきゃ、私が。
呼吸が徐々に荒くなってきた。緊迫感で身体がプレスに潰れたように重い。全ての神経を研ぎ澄ました。束の間、高層ビルの建物から何かが見えた。はっきりと見えない。
「玲緒ちゃん…ここは」
和奈が涙目で何かを訴えてきた。
「今は一人で逃げて、あとから追うから」
「い、いやです!!」
ブンブンと頭を振り、珍しく力強い目を玲緒に向けた。
「私も、ここに残ります!!三人でここを突破しましょう!」
和奈の目が強くまっすぐに玲緒を見つめてきた。そんな視線は向けられたことない為、くすぐったい。しかし、そんな猶予な時間はなかった。最後に自分の持って生まれた力を信じた。足元がおぼつかないながらも、颯負は腰をあげた。右脇をもう片方の手で押さえている。
「逃げるぞ…二人とも…」
「だ、大丈夫なんですか!?」
和奈が駆け寄り、肩を回した。
その時、弱々しい男の声が。
「良かった…ここにいて…」
雪戸は無我夢中で走ったのか、肩で息をし、頬や額には脂汗が浮き出ていた。
「どうしの!?」
聞くと、雪戸は顔をあげた。大粒の涙を目に貯め、切羽詰まった苦しい表情。暗闇の中それが、真珠の光のようだ。
「ぼ、僕のせいで…三月ちゃんとか葵とかぐっ…」
正直、何を言っているのかわからない。
けど、三月たちに何かあった事は雪戸の涙と表情を見て勘づく。
それは、颯負も気づいている。
その時、浮かんだ情景がやっと現実に現れた。古い建物のマンションと高層ビルが佇まった間の建物からとてつもない速さで駆け巡ってくるのはキリストでみかける、十字の形した木材。
それは、狙っているのか颯負に。
玲緒は持っている力を全て颯負に体当たりした。颯負はそれで足元がふらつき、再び地面に尻をつける。
ごめんね。そう言いかけた直後、身体から鋭い電撃でもあたったかのような痛みが。
「そ、そんな…」
和奈はヘナと腰を地面に落とした。同じく、その周りにいる二人も。ほんの少しだけ。僅かに瞬きした瞬間の出来事を庵ぐりで玲緒の状態を見上げた。
「あ、あぁぁあ」
雪戸は目を見開き、気力のない声を出した。玲緒を見上げた。颯負も、自分を庇ってこんな事に…。
十字の形した木材に首から足まで、身体の奥に刺さっている。それはまるで、串刺しのよう。地面には足がついていなく、木材の先端がついており、身体はプランと宙に浮いていた。その辺りは玲緒の鮮血な血が黒くさせている。夥しい血が何処から何処なくドクドクと流れる。
「玲緒…玲緒っ!!」
右脇を負傷しているにも関わらず、颯負は声をあげ駆けつける。首は下に項垂れ、生きているのか死んでいるのかわからない。服も血で黒く染まっている。
その服の袖を掴むと、顔が見えた。痛いとか、助けてとかそんな表情はしていない。
ただ、顔をゆっくり向けた瞬間口の角度だけがあがった。
「良…かった…役にた…った」
「なんで、どうして身代わりになるんだよ!!」
その目には大粒の涙が貯まっていた。
珍しく弱気な声。向けられている感情、表情、全て玲緒には嬉しかった。どうして?と言われると難しい話しだ。
涙目で玲緒を見つめるその目の奥には血だらけの自分が映っていた。そんな顔を向けられたのは初めてだ。と呑気に思う。
乾ききった喉はもう声を出す気力がない。しかし、目の前にいる存在にどうしても言いたかった一言が、思いをぶつけたかった。
「最後に…」
手を伸ばそうとした。が、届かない。
こんなに近くにいるのに手がもう、立ち上がれる気力がない。
悲しい、寂しい。
何で?どうして…
すると、颯負のほうから大きな手のひらが玲緒の手を覆い被さってきた。
嬉しさと一つの涙が伝った。
「好きって…言っ…て」
もう、意識が遠い。
だんだん目が…。
早く、お願い。
「…―好き」
その瞬間、何かがはじけたような気がした。
ひと粒が大粒になり、頬を濡らした。
もう、何もない。ありがとう。
「ありがと…うれし」
プツンと糸が切れたように首が逆のほうを向いた。黒い髪の毛がだらりと垂れ下がり顔に半分かかっている。瞼は閉じ、優しい微笑み。顔にかかった髪の毛を払い退ける事も出来ない。ピクリとも動かなかった。
止めなきゃ、私が。
呼吸が徐々に荒くなってきた。緊迫感で身体がプレスに潰れたように重い。全ての神経を研ぎ澄ました。束の間、高層ビルの建物から何かが見えた。はっきりと見えない。
「玲緒ちゃん…ここは」
和奈が涙目で何かを訴えてきた。
「今は一人で逃げて、あとから追うから」
「い、いやです!!」
ブンブンと頭を振り、珍しく力強い目を玲緒に向けた。
「私も、ここに残ります!!三人でここを突破しましょう!」
和奈の目が強くまっすぐに玲緒を見つめてきた。そんな視線は向けられたことない為、くすぐったい。しかし、そんな猶予な時間はなかった。最後に自分の持って生まれた力を信じた。足元がおぼつかないながらも、颯負は腰をあげた。右脇をもう片方の手で押さえている。
「逃げるぞ…二人とも…」
「だ、大丈夫なんですか!?」
和奈が駆け寄り、肩を回した。
その時、弱々しい男の声が。
「良かった…ここにいて…」
雪戸は無我夢中で走ったのか、肩で息をし、頬や額には脂汗が浮き出ていた。
「どうしの!?」
聞くと、雪戸は顔をあげた。大粒の涙を目に貯め、切羽詰まった苦しい表情。暗闇の中それが、真珠の光のようだ。
「ぼ、僕のせいで…三月ちゃんとか葵とかぐっ…」
正直、何を言っているのかわからない。
けど、三月たちに何かあった事は雪戸の涙と表情を見て勘づく。
それは、颯負も気づいている。
その時、浮かんだ情景がやっと現実に現れた。古い建物のマンションと高層ビルが佇まった間の建物からとてつもない速さで駆け巡ってくるのはキリストでみかける、十字の形した木材。
それは、狙っているのか颯負に。
玲緒は持っている力を全て颯負に体当たりした。颯負はそれで足元がふらつき、再び地面に尻をつける。
ごめんね。そう言いかけた直後、身体から鋭い電撃でもあたったかのような痛みが。
「そ、そんな…」
和奈はヘナと腰を地面に落とした。同じく、その周りにいる二人も。ほんの少しだけ。僅かに瞬きした瞬間の出来事を庵ぐりで玲緒の状態を見上げた。
「あ、あぁぁあ」
雪戸は目を見開き、気力のない声を出した。玲緒を見上げた。颯負も、自分を庇ってこんな事に…。
十字の形した木材に首から足まで、身体の奥に刺さっている。それはまるで、串刺しのよう。地面には足がついていなく、木材の先端がついており、身体はプランと宙に浮いていた。その辺りは玲緒の鮮血な血が黒くさせている。夥しい血が何処から何処なくドクドクと流れる。
「玲緒…玲緒っ!!」
右脇を負傷しているにも関わらず、颯負は声をあげ駆けつける。首は下に項垂れ、生きているのか死んでいるのかわからない。服も血で黒く染まっている。
その服の袖を掴むと、顔が見えた。痛いとか、助けてとかそんな表情はしていない。
ただ、顔をゆっくり向けた瞬間口の角度だけがあがった。
「良…かった…役にた…った」
「なんで、どうして身代わりになるんだよ!!」
その目には大粒の涙が貯まっていた。
珍しく弱気な声。向けられている感情、表情、全て玲緒には嬉しかった。どうして?と言われると難しい話しだ。
涙目で玲緒を見つめるその目の奥には血だらけの自分が映っていた。そんな顔を向けられたのは初めてだ。と呑気に思う。
乾ききった喉はもう声を出す気力がない。しかし、目の前にいる存在にどうしても言いたかった一言が、思いをぶつけたかった。
「最後に…」
手を伸ばそうとした。が、届かない。
こんなに近くにいるのに手がもう、立ち上がれる気力がない。
悲しい、寂しい。
何で?どうして…
すると、颯負のほうから大きな手のひらが玲緒の手を覆い被さってきた。
嬉しさと一つの涙が伝った。
「好きって…言っ…て」
もう、意識が遠い。
だんだん目が…。
早く、お願い。
「…―好き」
その瞬間、何かがはじけたような気がした。
ひと粒が大粒になり、頬を濡らした。
もう、何もない。ありがとう。
「ありがと…うれし」
プツンと糸が切れたように首が逆のほうを向いた。黒い髪の毛がだらりと垂れ下がり顔に半分かかっている。瞼は閉じ、優しい微笑み。顔にかかった髪の毛を払い退ける事も出来ない。ピクリとも動かなかった。
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