―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第一章 カイト側

第10話 赤い幕

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 『終わったところでレッスン4に進みますね』
 カイトが何食わぬ顔で言った。途端、ピタと歓声が止まり静寂になる。カイトは自由気ままに指をパチンと鳴らした。
 森の茂みや黄色い地面がパァと違うステージに移り変わる。
 体育館よりも真っ広い空間。ステージを隠した赤い幕を前に部屋の大部分には豪華な食事が机上に並べられてた。隣を見ると、不釣り合いなゲーセンスタジオが並んでいた。ホッケーやクレーンゲームなどのスタジオが並んでいた。

 ゲームはまだかまだかとウズウズしてく。が、それ以降、カイトは映像に映しだされなかった。次のゲームという事で期待してたのに、ガッガリだ。
 豪華な食事に手をつける者やゲーセンで遊んでる輩もいる。今まで牙を向き合ってた仲の銀杏と紅葉がもう親しげに遊んでる。
まるで、戦いが終わった兵士たちの集まりだ。
待てど暮せど、快感をしめるゲームはやってこない。部屋の隅で一人、パイプ椅子に腰掛けた。
 目を瞑ると、耳の五感だけが大きくなる。ざわざわ騒ぐ者の声が耳に障る。このざわざわした空間はまるでゲームが始まる前の退屈だった日常の雑音と同じ。
 ふと、足元に人影が覆うようにきた。目を開けるとそこには手に抱え切れない程、お菓子やキャラクターのグッズを持っている帝斗が。
「満喫してんな」
「ハハッ、ゲーセンなんて久し振りすぎて」
 何とも言えないご満悦の顔で笑う。
 すると、抱えてるぬいぐるみを心也に前に差し出した。
「いる?」
「いらない」
 即答に断った。帝斗はふぅんと鼻で溜息をつくと手を戻し、上空に投げ、またキャッチするお手玉をやってのけた。
「女子風呂覗こっかな~」
「……」
 この大部屋には銭湯なども設置されてる。当然、疲れを取る為に入る輩もいるだろう。
「……この後のゲームどう思う?」
 ふいに問いてみた。
 帝斗の目も若干、見開いてる。そんな驚く事か? 空気が何とも言えない空気に変わるのが分かった。俺は、この空気に耐えられなくパッと違う話しをした。
「そういや、お前には心配する親族がいなかったな、テレビでいってた」
「……一年前のニュースだぞ?」
 帝斗の顔がここでぎょとなる。無理もない。この男が捕まったのはおおよそ、2年も前の話し。人はいつか忘れる。当事者しか覚えていない記録を心也いつまでも覚えてるという。
「記憶能力?」
「……生まれつきさ」
と会話を続けてる内に帝斗の顔が若干、寂しげになったのを見過ごさない。しかし、それは一瞬。パッとその表情を不敵な笑みな代わり、また楽しげな顔に変わる。

「つか、もう始まってるけどな」

 その一言で考える思考がストップした。発言を脳裏に焼きつき、何が始まってるのかを頭で少しずつ考えた。
 その結果、始まってるとはゲームという事…。

「……えっ!?」
 パイプ椅子から立ち上がり、声を上げた。その顔は今までみっともない顔だっただろう。帝斗が腹を抱えゲラゲラ笑った。
「始まってるってゲームがか?」
「プっ……他に何があるって言うのさ」
 腹を抱えたまま喋る。んな、笑える事かよ。その前にもう始まっている?いつから?何故気付かなかった!? ぐるぐるとそんな考えが回った。

「お前、あれ食べてないだろ」
 帝斗が涙目で腹を抱え、指先で食事の机上を指さした。食ってるも何も、あんな食事に手をつける暇さえなかった。快感求めてから。
山程盛っていた食事はもう、かなり減っている。自分用なのか、一つの皿に肉やらなんやら盛っている輩が大勢。

「毒でも入ってるのか?」
「ん~ちょい似てる」
 勿体ぶって話してくれない。苛々が募る。それを察したのか帝斗は口を開いた。
「寄生虫」
「き、寄生虫!?」
 寄生虫なんて、ニュースで毎度言ってる事件。脳裏にパラパラと寄生虫という単語が用いる事件を開いてく。
 帝斗が豪華な食事机から2つの皿を持ってきた。
「ほら、こっちが入ってない奴と入ってる奴、食べてみ」

 じゅうじゅうに鉄板で焼けている牛肉とウサギ形したリンゴが乗ってるパフェを差し出された。
 入ってない肉をさきに差し出される。
横からは食べてみ食べてみと急かしてくるので仕方なく肉を人切れ切って食べてみる。
 これはまた絶品の美味しさ。じゅうじゅうに中まで焼けてて、肉汁が口の中に入れた途端…って食レポしてる場合じゃない。
 肉は置いといて、パフェに注目する。
 小さい頃から甘いものが好きではないので生クリームを容器の隅に退かすと、そこから何か白い埃ぽいのが出てきた。

 中をグリグリ抉ると、スプーンにピクピク動いてる白くって小さいのが乗ってる。生クリームの先にアイスがあり、そのアイスの表面には1センチにも満たないポツポツした穴が無数に空いてる。
 そこから、ヒョコッヒョコッと土竜のようにナニカ・・・が顔を出してる。

 帝斗が言わなかったら、これは流石に口に入れてた。それ程、小さいのだ。実際、髪の毛よりも細長くて小さい。
 無我夢中で食事を平らげてる輩を恐る恐る見た。知らないで食べている。
いいや、もう連中の腹の中には寄生虫が這いつくばってる。
 ゾッとした。こんな形で快感が蘇ってくる。あぁ、これはまた恐ろしい。カイトの野郎、俺以上の素質があるな。
 その時、前触れもなく室内の明るい照明がパッと落ちた。同じく、ゲーセンの光も音も。辺りが冷たく静まり返る。

 始まった…ここからが本番だ。
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