―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第三章 ファイルステージ

第35話 静寂な夜の中で

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 その夜は中々、寝付けなかった。
静まってる廊下では、皆、死んでるのではと思うぐらい。
 昨日まであった皆の元気な声が廊下に響かない。静寂な闇がこの場所を取り囲んでいる。

 葵は中々、寝付けなかったので部屋をあとにした。水を飲みに、向かった先はリビングルーム。足音をたてないように忍び足で運ぶ。
 明かりも何もつけなく、足元が見えない中、階段を降りた。こう、真っ暗だと流石の葵でも進む足を一歩一歩遅足で向かった。その時、真っ暗な闇から背後に白い手が伸びてきた。
 ぽんと肩に手をおかれた。葵はさぁと全身の血の気が引いていく。

「いやああああ!!」
「ごめ、ごめん!!」
 弱々しい声が暗闇から聞こえた。葵は肩で息しながら、恐る恐る振り向いた。そこには、白い肌の持ち主、雪戸が。
 真っ暗なせいか白い肌が目立つ。正直、ぶん殴りたい所を葵は抑え、震える手をもう、片方で手の平で覆った。
「…な、何かよう?」
「葵が見えたから…その…」
 追ってきたの?この暗闇で?肩に手を置くとか真っ先に殺しにかかってきてる。私の死因、心臓発作じゃん。
「見えたからって着いてくんな、気持ち悪い」
 冷めたふうに言うと、雪戸の顔見ず、背を向き、歩いた。
 それまでゆっくり忍び足だったのが、ここまでくると大胆にかつ、大股に歩いた。頭には、雪戸の怒りしかない。
ふいに背中に生温かさを感じた。思わず、振り向く。

「葵…好きだ!」
「…ふぇ!?」

 身体が硬直したまま、後ろから雪戸に抱きしめられてる。それまで、雪戸に対しての怒りが風のようにふっとぶ。
「ちょ、な、何、いきなり…!!」
「…最初のゲームで、僕はすぐにカルタだって分かった、けど、皆僕が言っても信じて貰えなくって…だけど、葵は違った! 葵は味方になってくれた。信じてくれた…それから選別でバラバラになったけど、ここまで生き残ってまた会えるなんて…葵とはもう離れたくない!!」

 胸の谷間の下に潜り込んで離さないように手がしっかり握られて、身動きが取れない。
 雪戸の腕は女の腕みたいに細いのに、こんな時、振り払えない。
 葵の頬が紅色に変化してる事に雪戸は気づいていない。むしろ、抱きついてくる力を強めてきた。
「あの、もう、離して…」
 心臓の圧迫で死にそう。
 言いかけても、返事はない。顔色が変化してるので、恥ずかしくって後ろを見れない。
「ねぇ、離してってば…」
「…一緒に死のう」
 雪戸の口からとんでもない発言が降り掛かってきた。静寂な廊下でいくつにも反響してる。
葵の思考が急激に冷めていった。頭一面にピンクの花が咲いたと思ったら急に枯れ果て、徐々に、普段の力が沸き思考を取り戻す。
「今……なんっつた」
「このあと皆死ぬんだ、だったら、今、葵と死に……―」
 雪戸の頬に強烈なバラの棘のような痛さが。
勢いで、床にしゃがみこむ。頬を抑え、涙目で葵を見上げた。
 暗闇でも分かる程、冷めた目をしてる。紅色だった頬が肌色に。弱い犬を真上から見上げた態度で口を開いた。
「あんた、それ言って私までも道連れにしようとしてたの? いい度胸ね」
空気が一変した。二人しかいない廊下が葵の言葉で反響し、それが、多数の声と思う。

「私は!! 〝一緒に死のう〟より〝一緒に生きよう〟が聞きたいの!!」

 取り返しがつかない程、怒っている。雪戸を睨みつけ、今度こそ背を向け歩いた。ポツンと廊下の真ん中で雪戸を置いて。
 リビングルームに行くと、そこには先客が。部屋から顔だけ出し、プンスカ怒っている葵をうっとりした表情で見てきてる。
「何よ」
「別に~若いなぁと思って」
颯負がクスクス笑う。葵はライオンにも似た目つきで颯負を睨みつけた。颯負は笑うのをやめ、微笑すると、若干、羨む目で葵を見てきた。
「ボーイは大切にしないと、すぐに歳がきて枯れ果てるぞ」
「余計なお世話よ、オッサン」
「おまっ、オッサンって…まだ若いからな!!」
20代だけど、確かにこの中で年老いてるけど…など、ぶつぶつ小声で文句言う。
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