―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第二章 ナミ側

第22話 仇

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 虎が唸り声をあげ、向かってきた。くるりと回転し足を高くあげ、顔面を蹴った。
「邪魔っ! お前じゃねぇっ!!」
 途端、虎の自慢の牙がポロと取れ、建物に吸い込まれる勢いで激突。砂埃がたち、牙が取れた箇所には血が滴している。ピクリとも動かなかった。
「ファ!? トラガ!」
 猿が躊躇もない攻撃をくらった虎を窺った。その隙に颯負が猿の懐に入る。その速さ0.1秒。しかし、その殺気に気づいた猿は即座に避ける。
「………避けんなよ」
 鋭い眼光で猿を睨みつける。猿はガクガク震わせ、シュンとその場をくらました。
「チっ……逃がすかよ」
 爪を噛んだ。あいつだけはなにがなんでも絶対に仕留める。

 誰もいないエリアを選んで猿は姿を現した。簡単には殺せない虎をも破った男に心臓の根が急激に縮まり今も血の毛が引いている。辺りは鬱蒼と生い茂る森の中。
 木が黒い空に天高く伸びている。
 胸を撫で下ろした。束の間、足音が。もしや、あの男が…。目を見開きバっと後ろを振り向いた。しかし、そこには長身でスタイル抜群な少女、玲緒が。
「ワォ!!」
「え!?」
 巨人と同じ体格をした猿を目の前にし、度肝を抜かした。
 M字開脚で腰を抜かし、玲緒の側に猿は近づいた。愚かな目で見下してくる。逃げないとと全ての神経が言ってるが身体が上手く動けない。
 もう、ダメだと思った束の間、茂みから男が現れた。

 背後から猿を股で蹴り飛ばす。猿の胴部分がグニャリと曲がり勢い良く飛ぶ。数メートル飛ばされた猿は、怪訝な顔をし、男を見た瞬間、明らかに表情が変わった。
 玲緒の場合は男を見た瞬間、助けにきてきれたんだと嬉しさが込上がった。けど、一瞬で消えた。男の胸には二つのピンが。
私を助けに来たんじゃない、仇に来たんだと。急に心が冷めた。が、それでも良いと思った。
 颯負は起き上がった猿に微笑し、腕を前に人差し指を自分に方に小さく指差す。
「来いよ」
 カッと目を見開き、颯負の挑発に我を忘れ向かってきた。かかった!と思い、渾身の拳を猿の顔面に殴りつける。
「歯ぁくいしばれ!!」
「ブッ!!」
 殴ったことで数メートル飛び、森の奥にある崖にまっさかさまに落ちていった。数秒後、ドスンと鈍った音が。

〝お願い生きて見てるから絶望を希望に変える世界〟

 ふと菜穂の言葉が脳裏に過ぎった。

「あぁ、生きてやる、俺が希望に変える世界絶対見といて」
 星もない空を見上げ、小さく言った。胸についてるピンが返事をするようにキラッと光った。暫く、顔を空に向け腕を垂れ下げてた。

「あの…大丈夫? その、菜穂ちゃん…」
 玲緒がおずおず聞いてくる。既に悟られてしまってる。
 限りなく、平気な素振りを見せた。が、玲緒には分かってるようで沈黙してる。玲緒から背を向き、旗に向かった。
 名の通り、黄金できらびやかな光。こちらを映している。学校で見かける立派な支え棒で黄金の旗が支えられていた。
 一つの旗を巡って色々な事が脳裏に浮かんだ。旗の前に立ち、目を瞑った。椿との攻防戦や、菜穂の事、仲間の悲鳴…これを掴んだら終始だろうか。
 目を開けた。目覚めると元の世界でもなく、夢でもない。ただ、あったのは残酷に続くゲームの世界。

「玲緒」
 ピクリと玲緒は反応した。至って変わらない自分の名が呼ばれた事に驚いている。颯負は地面に腰を降ろしている玲緒に手招きする。玲緒はつられて、颯負のいる場所へと歩み寄る。
黄金の旗を目の前にして。
その時、
「待って下さい~!!」
 和奈の声。鬱蒼と生い茂る森の中で反響し、何処にいるのかわからない。
「ほっときましょ」
 玲緒がさめたふうに言うが、菜穂だったら…と考えた。
「あふ…待っ…ひぅ…待って…くだ、さい」
 和奈が肩で息し、森の中を掛け走ってきた。顔を真っ赤にし、額から頬にかけて、ひと粒の汗が滴している。
「待ってください…私達も生きたいです!!」
 一生懸命な顔で声を上げた。いつもはオロオロしているのが今や、必死な形相。
「ちょうど良かった」
 颯負は肩で息している和奈の手を引っ張り、玲緒も引っ張ると同時に支え棒を掴んだ。
瞬間、上空から映像が浮き出た。画面奥にはナミが映ってる。
 また顔の毛穴が見えるんじゃないか思う程、ドアップで映りこんでいる。

『お久っナミだぉ! お疲れ~旗+旗ゲーム、遂に終了ー!! なんと! なぁぁぁんと!! 3チーム同時に同時刻に旗を奪ったぉ! 現在、桜 11名、藤 12名、椿 13名計36人レッスン3 生きる!』
 その瞬間、至るエリアから歓喜の声が轟いた。
「終わった…終わったのか?」
「やった…生き残った」
 玲緒の目には涙を浮かべてる。颯負も終わった事に涙が出てきそうになる。2つのピンをぎゅと握り、涙を堪えた。
 緊迫が解れ、辺りは喜びの歓声が沸き起こり、今や敵対してた椿とも腕を取り喜びあうように。



『えー、じゃレッスン4 をやるよ!』
 ナミがいきいきと言った。すると、ピタッと歓喜の声が止まり、静まり返ると、ナミは指をパチンとならした。
 森だったのが広場に変わった。広場には椿も藤も全員集まっている。その中央に白い朝礼台が建っていた。辺りが混乱でざわざわする。
「お互い、生きてたね」
 ふと、横からナイトから喋った。よく見ると、服もボロボロで頑張ってたんだと知る。
「あぁ、そうだな…」
 ここで、菜穂がいない事を知り一瞬で悟った顔をする。ざわざわする広場の中、ナミが登場。
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