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第二章 ナミ側
第20話 原田菜穂の希望
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そこで、ふと、我に返りハッと改めて態勢を見た。守った際、抱きかかえた状態で地面に身体を押し付けていた。世にいう床ドンだ。
「もう…いい?」
菜穂が若干困った顔をする。さっとそこから離れた。鼓動も速くなり、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。それを真っ暗な視界で見えていない事を願った。
鬱蒼と生い茂る森の中に、4つの目玉が二人の様子を見てた事に気づいてない。
菜穂が背を向き、来た道を人差し指で指差した。
「こっちに来る途中、私、黄金の旗を見かけたようなきがするの!」
「…え」
そこで、颯負の脈うつ心臓の音もややおさまった。菜穂が指差した方向を目を見張って見つめる。それが本当なら、今すぐに奪いたい。この戦争と化した今の状態をすぐに終らせたい。しかし…
「私は椿は嫌いだよ。こんなやり方してまで生きたいとは思わない。けど、和奈ちゃんがいたから別」
透き通った優しい声が力強くなり、水のように濡れた瞳が見つめてきた。それに一瞬、ドキリとする。
「桜も藤も椿も全員、助かる道を選びたい」
聞いた途端、胸が張り裂けそうになった。
二人の間は沈黙が生まれ、静寂しきった夜の森となる。しかし、颯負の中では心臓の鼓動が菜穂にまで伝わっているのではないかと思う程、高鳴っている。
ガルル…
前方から唸り声が聞こえた。
暗闇から2つの目玉がギラつき、発光してる。ペタペタと裸足で歩み寄ってくる四足動物。虎である。通常の虎の体格を超え、牙は顎まで達し殺気のような黒いモヤがかかっている。
「エトシン…トラ…マイル」
グワッと飛びかかってきた。体勢を整える。しかし、背後にいたもう一体の存在に気づかなかった。
「颯負くん危ない!」
ガッ!
菜穂の悲鳴にも似た声が轟いた。後ろを振り向いた矢先、赤い鮮血な血が顔にかかった。菜穂が颯負の後ろに立ち、猿の鋭い爪に背広を引き裂かれていた。
「な、菜穂ちゃああああん!!」
背中から赤い血を噴き出し、膝をうち、横に倒れる際を受け止めた。
傷ついた処に両手で抑えても、蛇口を回した水のように溢れてくる。
「菜穂ちゃん、そんな…」
虎が牙を剥き出しにし、爪をたて攻撃する余地がない颯負に飛びついた。
「失せろ」
自分でも感じたことがないモヤが身体から浮き出た。虎は耳を横に尻尾を丸め「くぅぅん」と逃げていった。いつの間にか、猿も姿を消している。
「待ってて、すぐに箱持ってくるから!」
「待って、いかないで、ここにいて」
立ち上がろうとした際、菜穂が寸止めで止める。溢れんばかりに涙がこぼれてる。抱えた手の平を見た。ドロッとした液がついている。水道の蛇口を回したように菜穂を中心に血が広がっている。
「ごめん…俺が」
「颯負くんのせいじゃないでしょ…」
困った笑み。刹那、咳込みし、吐血だした。
「菜穂ちゃん!」
「ごめんなさい、ここまでみたい…」
「そんな、待って…」
「あなたに…出会えて…本当に良かった…」
溢れんばかりに大粒の涙を流してる。
菜穂の手を強く握るも、枯れるように弱々しい。
颯負の涙が頬を伝い握りあってた手に溢れ落ちた。
「こんな別れかた嫌だ。菜穂ちゃんのこと…好きだったのに」
自分でも何を言ってるのか分からなかった。頭が混乱して、口が勝手に動く。
途端、菜穂が颯負を愛しい目で見つめてきた。
「私も…好き、だよ……両想い…だね…」
コクリと頷いた。
すると、菜穂の息が荒くなり、ヒューヒュー言うようになった。
腕から伝わる体温も冷たくなり、握りあっている力も花のように弱々しい。
「見た…かった、なぁ…デートしたり…いろんなとこ…わた、し…ね……」
遠くを見つめ、何かを言おうとしてる。
が、それをやめ困った笑みをし、弱々しく片方の腕を伸ばした。
颯負の頬にソッと手を添える。
目が…。遠くなる…。
1秒でも長くいたかったなぁ。
悲しい…寒い…あぁ、これが「死」ってやつかぁ。こんなふうになるんだなぁ…。
菜穂を見つめる颯負の眼差しが熱い。
いやだな…死にたくないなぁ…。
向けられている視線と感情がこんなにも愛しい事にこんな瀬戸際で気づくなんて。
音もなく、涙が勝手に顔を濡らす。途切れる意識の前にどうしても伝えたい事があるのを菜穂が最後の力だと思い、口を開いた。
「わらって……わらって…ないと…かなし…よ…おねがい、いきて……みてる、から…ぜつぼうを…きぼう…にかえ…るせ、かい」
スルと握ってた手が溢れ落ちた。
優しい笑みのまま一生目覚めぬ深い眠りに入っていった。
閉じている瞼には涙がうっすらと残り、ゆっくりと音もなく、耳と髪の毛の間にひと粒の涙が伝った。
あの笑顔がもう見れない。
もう、目も開かない、何も喋れない。
温かい手の温もりが…。
「あ、あ、ああああああああ!!」
菜穂の手を強く握りしめ、赤ん坊のように泣き叫んだ。ずっと生きててほしかった。もっと側にいてほしかった。この世に神様がいるのなら、何故この願いは聞いてくれないのだろう。
「もう…いい?」
菜穂が若干困った顔をする。さっとそこから離れた。鼓動も速くなり、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。それを真っ暗な視界で見えていない事を願った。
鬱蒼と生い茂る森の中に、4つの目玉が二人の様子を見てた事に気づいてない。
菜穂が背を向き、来た道を人差し指で指差した。
「こっちに来る途中、私、黄金の旗を見かけたようなきがするの!」
「…え」
そこで、颯負の脈うつ心臓の音もややおさまった。菜穂が指差した方向を目を見張って見つめる。それが本当なら、今すぐに奪いたい。この戦争と化した今の状態をすぐに終らせたい。しかし…
「私は椿は嫌いだよ。こんなやり方してまで生きたいとは思わない。けど、和奈ちゃんがいたから別」
透き通った優しい声が力強くなり、水のように濡れた瞳が見つめてきた。それに一瞬、ドキリとする。
「桜も藤も椿も全員、助かる道を選びたい」
聞いた途端、胸が張り裂けそうになった。
二人の間は沈黙が生まれ、静寂しきった夜の森となる。しかし、颯負の中では心臓の鼓動が菜穂にまで伝わっているのではないかと思う程、高鳴っている。
ガルル…
前方から唸り声が聞こえた。
暗闇から2つの目玉がギラつき、発光してる。ペタペタと裸足で歩み寄ってくる四足動物。虎である。通常の虎の体格を超え、牙は顎まで達し殺気のような黒いモヤがかかっている。
「エトシン…トラ…マイル」
グワッと飛びかかってきた。体勢を整える。しかし、背後にいたもう一体の存在に気づかなかった。
「颯負くん危ない!」
ガッ!
菜穂の悲鳴にも似た声が轟いた。後ろを振り向いた矢先、赤い鮮血な血が顔にかかった。菜穂が颯負の後ろに立ち、猿の鋭い爪に背広を引き裂かれていた。
「な、菜穂ちゃああああん!!」
背中から赤い血を噴き出し、膝をうち、横に倒れる際を受け止めた。
傷ついた処に両手で抑えても、蛇口を回した水のように溢れてくる。
「菜穂ちゃん、そんな…」
虎が牙を剥き出しにし、爪をたて攻撃する余地がない颯負に飛びついた。
「失せろ」
自分でも感じたことがないモヤが身体から浮き出た。虎は耳を横に尻尾を丸め「くぅぅん」と逃げていった。いつの間にか、猿も姿を消している。
「待ってて、すぐに箱持ってくるから!」
「待って、いかないで、ここにいて」
立ち上がろうとした際、菜穂が寸止めで止める。溢れんばかりに涙がこぼれてる。抱えた手の平を見た。ドロッとした液がついている。水道の蛇口を回したように菜穂を中心に血が広がっている。
「ごめん…俺が」
「颯負くんのせいじゃないでしょ…」
困った笑み。刹那、咳込みし、吐血だした。
「菜穂ちゃん!」
「ごめんなさい、ここまでみたい…」
「そんな、待って…」
「あなたに…出会えて…本当に良かった…」
溢れんばかりに大粒の涙を流してる。
菜穂の手を強く握るも、枯れるように弱々しい。
颯負の涙が頬を伝い握りあってた手に溢れ落ちた。
「こんな別れかた嫌だ。菜穂ちゃんのこと…好きだったのに」
自分でも何を言ってるのか分からなかった。頭が混乱して、口が勝手に動く。
途端、菜穂が颯負を愛しい目で見つめてきた。
「私も…好き、だよ……両想い…だね…」
コクリと頷いた。
すると、菜穂の息が荒くなり、ヒューヒュー言うようになった。
腕から伝わる体温も冷たくなり、握りあっている力も花のように弱々しい。
「見た…かった、なぁ…デートしたり…いろんなとこ…わた、し…ね……」
遠くを見つめ、何かを言おうとしてる。
が、それをやめ困った笑みをし、弱々しく片方の腕を伸ばした。
颯負の頬にソッと手を添える。
目が…。遠くなる…。
1秒でも長くいたかったなぁ。
悲しい…寒い…あぁ、これが「死」ってやつかぁ。こんなふうになるんだなぁ…。
菜穂を見つめる颯負の眼差しが熱い。
いやだな…死にたくないなぁ…。
向けられている視線と感情がこんなにも愛しい事にこんな瀬戸際で気づくなんて。
音もなく、涙が勝手に顔を濡らす。途切れる意識の前にどうしても伝えたい事があるのを菜穂が最後の力だと思い、口を開いた。
「わらって……わらって…ないと…かなし…よ…おねがい、いきて……みてる、から…ぜつぼうを…きぼう…にかえ…るせ、かい」
スルと握ってた手が溢れ落ちた。
優しい笑みのまま一生目覚めぬ深い眠りに入っていった。
閉じている瞼には涙がうっすらと残り、ゆっくりと音もなく、耳と髪の毛の間にひと粒の涙が伝った。
あの笑顔がもう見れない。
もう、目も開かない、何も喋れない。
温かい手の温もりが…。
「あ、あ、ああああああああ!!」
菜穂の手を強く握りしめ、赤ん坊のように泣き叫んだ。ずっと生きててほしかった。もっと側にいてほしかった。この世に神様がいるのなら、何故この願いは聞いてくれないのだろう。
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