―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第二章 ナミ側

第18話 真っ黒

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坂瀬 颯負(22)宇月 玲緒(17)ナイト(19)

 原田菜穂は科学者という家柄に生まれた。母、父、3つ下の妹。妹はテストをオール満点取る才能があった。しかし、菜穂にはそんな才能はなかった。才能の子を望んでいた両親は私の才能の無さを見て劣等感を感じた。そして、才能のある妹が生まれた直後、両親は愛情を全て妹に向けた。家でも、学校でも、弁当だって。
 別に妹のことは恨んでない。
 両親も悪くない。悪いのは頭が悪い私だ。今でも必死に勉強してる。
 いつか、妹と同等の目を向けてくれるのを願ってるから。
 そんな時、そんな願いは叶わないよとゲームが始まった。人の死に際を初めて見た。苦しむ間際をこの目に焼き付けた。毛虫が這いつくばってくるゾクゾク感、恐怖でいっぱいになった。
 冗談じゃない、私はまだ、死にたくない。




  1日目

 颯負たちは早速作戦会議を行なった。旗+旗ゲームの開始時刻までそれぞれ準備をする。旗を奪うのは、颯負と菜穂、三月。
「暗いなぁ」
 菜穂が窓の外を見て不安げに言う。外は朝というか夜。月も星もない。真っ暗な闇が佇まっていた。
「暗いの苦手?」
「ううん、寧ろ虫かな」
 菜穂が苦笑いし颯負に言った。
 突然、家中の警報機が高く鳴り響いた。颯負を率いる三人は慌てて外に向かった。
 外は真っ暗。街頭すらもない。颯負たちは『商店街』というエリアを歩いた。

 「精肉店」や「文房具店」など必要不可欠な店が点々といくつも並べられていた。小さな建物の中に物がいっぱい。
 店を挟んだ形で舗装された一本道路には人が賑かりやすいように広く舗装されていた。色鮮やかなレンガタイルの道路。
 まるで、ひと昔前賑やかな場所。
 それが今やシャッターが全て閉められ不気味な静寂が時を進んでいた。
 黒く染まった看板。
建物全体を覆うほど濃い緑の蔦が伸びている建物や舗装された道路に所々雑草が生えている。


「商店街って大昔本当にあったらしいよー」
 菜穂が自信満々に言う。好奇心旺盛に辺りを行ったり来たり。
「ここら辺は潜む場所が多い、注意して行かないと」
 颯負が真面目に言うと、菜穂は頬袋を膨れ「分かってますー」とあからさまに顔を逸らした。
 いちいち可愛い仕草をやる菜穂についつい目がいく。

「外に帰ったら第一に何する?」
 隣にいたロングヘアーの三月が問いかけてきた。両頬にえくぼを浮かせ、爽やかな笑み。緊迫した空気の中で、不釣り合いな質問。
「う~んと、私は会いたい人に会いたいなぁ」
 菜穂が遠い目をし、応える。その声は今さっきと違い悲しい小さな声となっている。顔を下にし、足元を見張っている。
「会いたい人って?」
 三月が顔を覗き込む。
「え~と……」
 困った顔をし、考え込む。
 

 商店街の一本道を通る中、前方から人影のような物体が見えた。「隠れて!」と菜穂と三月を無理やり物陰に押し込む。
 影は異様なもので暗闇の中、踊ってるように見えた。
 人影が二つ。
 その中で、酔っぱらいのようにフラフラと動いてる獅子舞がいた。その傍らに1体のお腹から下がないのがゴロンと無情にも転がっている。そこからシュウと火で浴びたように煙がたっていた。獅子舞の口からは滑車に巻き付いたロープが出てた。

「なにあれ…まさか食われて」
 三月が戸惑いに聞いてくる。菜穂がソッと口元に人差し指を立てた。
「ここで動いたら殺される…あれを見て」
 古びたアパートが佇んでいた。まさか、このエリアは椿のだったとは。
「菜穂ちゃん…凄いね」
「えっへん」
「でも、何で獅子舞とか動いてんの?」
 三月が戸惑いに聞く。菜穂が人差し指を口元から離し冷静にものを言った。
「それは、ナミが言ってたでしょ? 〝何でもアリアリな世界〟って多分…物が普通に動いてあり得ない事があり得る…みたいな?」
 菜穂の言う通り、獅子舞という本来は動かない道具が動いてる。という事は武器庫にあった十二支もきっと…。
 獅子舞は自ら顔を揺らし、口内から大量の滑車に結ばれたロープが二人の身体を縛り付けてた。
 その中に一人、見知った人物を見つけた。長い髪を一つに纏めた少女、玲緒だ。校章は藤。もう少しで口内に近い。

「助けなきゃ……」
 言ったと同時に足が勝手に動いた。背から三月と菜穂の声を無視しながらその場に向かう。



 遡る事10分前。

 藤率いる玲緒たちは知らずに椿のエリアに入っていた。気づいたのは時遅く、相手の罠にハマってしまった。
 一人は死に、残った玲緒たちは獅子舞に引きずりこまれる所を踏ん張っている。

「ああああああ!! ヤバイ無理っ! 無理無理無理っ!」
 身体中に紐がくくりつけられ、はたから見たらSMされてるみたいだ。胸を強調するかのように紐がくくりつけられ、布ごしから割れ目を食い込んできた。
 束の間、もう一人の男が紐を切った。小型ナイフで。
「良かった…私の方も―…」
 そう言ったが男はプィと身体ごと玲緒に背を向いた。唖然する。「御免、やっぱ怖い…」と玲緒を置いて走り去っていく。
「はぁ!? おまっ…!? ザケンなぁぁぁ!!」
 玲緒の怒声にも似た悲鳴が虚しく掻き消える。獅子舞は待ってましたと言わんばかりに口をカッコカッコ揺らした。
「ふざけんな、アイツ…マジで…逃げるとかありえないから! 助けろやおいぃぃ!」
 そう叫んる最中、身体ごとフワリと宙に持ち上げられた。すると、紐がグンと勢い良く口の中に引っ張られる。

「痛…っ! 痛い痛い痛い! やだ誰か助け…」
 足に激痛が走った。
 虫に噛まれた以上に、鋭い刃物で奥から刺されたような痛さ。
 玲緒の頬には涙が伝った。ありえない、一人で死ぬとか。誰か…そう思った矢先、一つの光が見えた。
「今、助ける!!」
 その言葉は玲緒にとって涙が拭い切れなかった。
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