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二部 神戸康介の英雄譚
第21話 撤退
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真綾たちと合流し、タケとモノを獅子に任せた。
「コウ兄は!?」
獅子が叫んだ。
「化物を倒しに行ってくる! それまで家族を任せた」
俺はニッと笑って、家族に背中を向けた。背中から叫び声が聞こえる。こんなとき、家族のそばにいるのが当たり前かもしれない。でもその役目は俺の他にもいる。誰かがやらなきゃいけないことを俺がやる。
あいつらから化物を遠ざけたい。
足蹴にした化物は体型が変形していても、足がある限り何度でも起き上がってくる。
見た目は宇宙人。
化物は足蹴にしてきた俺を警戒してか、ゆっくり近づいてきた。俺はここを守らないといけない。小さい体だし、こんな異形、大人たちと比べたら大差ない。
甘くみてみてたら、反撃を食らった。見えない速度で腹を殴られ吹っ飛ぶ。木に頭をぶつけ、視界が横転し、天と地が逆になった。
痙攣している。
体が思うように動けない。くそ。みんなを守らないといけないのに、こんなところで伸びてたまるか。こんなの、暴力親父よりも痛くねぇはずだ。
足裏に力を込めて、腰を浮かせた。
化物たちは家族たちに走っていった。叫び声がする。今すぐに駆けつけないと。手元にあった大きな石を投げつけた。
投げつけられた小石が頭に命中し、化物がぐるりと振り向いた。やっぱり首の角度曲がってんじゃねぇか。化物が立ち向かってきた。甲高い雄叫びをあげて、鋭い牙が口内から覗く。一体一ならなんとかできる。
向かってくる化物に拳を振り落とした。骨がギシギシ音を立ててふっとんだ。
「はっ! さっきのお返しだ!」
化物は建物に頭をぶつけ、青い血を出している。ピクリとも動かなかった。万年、ここの木偶の坊の拳を受け止めた拳。存分に味わったか。
左側から化物が突進してきた。右側からも。追い込まれた。
「コウ兄っ!」
獅子が叫んだと同時に、足元に金属バットが転がってきた。家族のほうに顔を向けると、みんな、不安そうな表情していた。
あぁ、不安にさせていたのか。
それじゃあ、兄ちゃん失格だな。
金属バットを手にとって、左側から来る化物を殴った。右側から来る化物を足蹴にした。バットで青い血が出るまで何度も殴りつけた。バットが変形できるほどの頑丈な体で、骨が軋む音が響く。
一体の化物を倒すために体力を消耗した。化物を倒していっても、中々数が減らない。どんどん多くなっている。倒しているはずなのに、向こうから寄ってくる。
「コウ兄っ!」
獅子が叫んだ。
「化物の主食は人肉っ! あたしらがここにいても、ここはもうだめ! 逃げたほうがいい!」
脇子が甲高く叫んだ。
そのとおり、もう周囲は化物が群がっている。ここにいつまでも居座ったら餌食にされる。撤退だ。
石を投げながら、園をあとにした。化物の足は速い。見た目は子供なのにアスリート並に速い。
「追いつかれる!」
一番足が遅い脇子が涙目で叫んだ。
「頑張って!」
真綾がその隣を走る。
建物から、茂みの奥から化物がわんさか出てくる。大量生産器か。至るところに死体が転がっており、道路には臓物が散らばっている。悪臭が漂い、頭が痛い。
ほんとにこれは、現実なのか。世界がいきなりこんな悲惨な光景に。今でも信じられない。頭がこんがらがって訳が分からない。それでも分かることが一つ。家族を守ること。これだけはどんな事が起きても、絶対だ。
バスに群がる化物たち。餌に群がるハイエナのように群れて、車内の窓一面が真っ赤に染まっていた。
高層マンションの壁をよじ登っていたり、どこ逃げても化物がいるのは明白。何処に逃げ隠れるか分からない中、走っている。体力の消耗だ。
早く何処かに逃げ隠れしないと体力がない脇子がさきにバテる。すでに足が虚ろうつろで肩は激しく上下している。俺は踵を返して脇子より後ろに下がった。
「コウ兄!」
タケとモノが一緒に戻ろうとするも、獅子と真綾に引っ張り戻される。
「先にいけ! あとから追いつく!」
俺はバットを強く握った。
後ろからすぐに「分かった。待っている」という声を聞けてほっとする。こんなとき、即決で子供たちを頼れるのは獅子だ。流石は家の自慢の次男。
獅子は暴れるタケとモノを抱えて、バタバタと走り去っていく。背後から二人の声と脇子の声まで聞こえてくるが振りかえることない。
目前の敵に集中すべし。
「獅子、今すぐひきかえさないと!」
真綾が獅子の前に出て静止かけた。
「見たろ!? 化物がうじゃうじゃといて、食べられる! 嫌だそんなの――」
真綾が腕を掴んでやっと獅子は止まった。真綾の目は恐怖と不安で涙混じりに、でもその奥は怒りがこもっていた。その理由は誰もがわかる。
「コウ兄だけ置いて、わたしたちただけ逃げるのは嫌! あんな数、不利だよ!」
「だったら真綾だけ引き返せばいい! こっちは任せられたんだ、その意志を貫くのが筋だろ!」
「なにそれっ! さっきから言い訳ばっかして、要は戦いたくないだけでしょ! 弱虫!」
真綾の言葉に獅子はカッとなった。
一触即発の空気で間に入ってきたのは脇子。肩を上下させ、足が鹿のようにプルプル震えている。真綾の腕を掴んで一旦、深呼吸した。
「真綾の気持ちも、獅子の気持ちも分かる。とりあえず、きゅ、休憩しよう」
ゼエゼエ息を荒くして、懇願した。立ち止まっているから休憩していても、脇子にとってそうじゃない。何処かに座って飲料水を飲むことが休憩だ。
喧嘩の仲裁に入るかと思いきや、別の案件が飛び交って、二人は喧嘩するの馬鹿らしくなり、また走り始めた。近くの公園まで行く。この時間帯、小学生が遊具で遊んでいる。
それが、遊具は血だらけで地面にゴロゴロと惨たらしい死体の山が。それが幼い子供であれば、目をそらしくなる。
顔半分がなかったり、腕がなかったり、みんな、目に涙を浮かべて。最期に目にしたものは何だったのだろう。考えると悲しくなる。
タコ型モチーフの滑り台に隠れる。ここまで全速力で走って、みんな肩で息をしている。全身汗だくで、走れないほど体力が消耗している。
「ねぇ、大丈夫かな」
真綾が息を切らしながら喋った。
「化物はいない。大丈夫」
獅子が周囲を見渡して言った。すぐさま否定が出た。
「違う。コウ兄だよ。すぐに追いつくて言っておいて全然来ない」
獅子の顔色がさぁ、と青くなった。
タケとモノがグスグス泣きじゃくる。この状況で一番負担にさせているのは、タケとモノだ。それを理解すると、獅子は二人を力強く抱きしめた。背中を撫でる。それでも泣きやまない。
脇子はこんなときでもスマホをいじっていた。むっとした真綾が脇子のスマホに手を伸ばし、ヒョイと奪い取る。
「あ、ちょっと!」
「こんなときによくやれるわね。二人を宥めるなり、周囲を警戒してて」
「こんなときだからやっているの。こんな異常事態、どうするか、何をすればいいか、まず情報が必要。みてこれ」
ヒョイと奪われたスマホを奪い返して、スマホの画面を見せた。
そこに映っているのは、化物が世界各地で暴れまわっていること。大臣がいそいそと会見を開いて、汗だくな顔色で「なるべく家から出ないように」「命を大切に」と言っている。
「コウ兄は!?」
獅子が叫んだ。
「化物を倒しに行ってくる! それまで家族を任せた」
俺はニッと笑って、家族に背中を向けた。背中から叫び声が聞こえる。こんなとき、家族のそばにいるのが当たり前かもしれない。でもその役目は俺の他にもいる。誰かがやらなきゃいけないことを俺がやる。
あいつらから化物を遠ざけたい。
足蹴にした化物は体型が変形していても、足がある限り何度でも起き上がってくる。
見た目は宇宙人。
化物は足蹴にしてきた俺を警戒してか、ゆっくり近づいてきた。俺はここを守らないといけない。小さい体だし、こんな異形、大人たちと比べたら大差ない。
甘くみてみてたら、反撃を食らった。見えない速度で腹を殴られ吹っ飛ぶ。木に頭をぶつけ、視界が横転し、天と地が逆になった。
痙攣している。
体が思うように動けない。くそ。みんなを守らないといけないのに、こんなところで伸びてたまるか。こんなの、暴力親父よりも痛くねぇはずだ。
足裏に力を込めて、腰を浮かせた。
化物たちは家族たちに走っていった。叫び声がする。今すぐに駆けつけないと。手元にあった大きな石を投げつけた。
投げつけられた小石が頭に命中し、化物がぐるりと振り向いた。やっぱり首の角度曲がってんじゃねぇか。化物が立ち向かってきた。甲高い雄叫びをあげて、鋭い牙が口内から覗く。一体一ならなんとかできる。
向かってくる化物に拳を振り落とした。骨がギシギシ音を立ててふっとんだ。
「はっ! さっきのお返しだ!」
化物は建物に頭をぶつけ、青い血を出している。ピクリとも動かなかった。万年、ここの木偶の坊の拳を受け止めた拳。存分に味わったか。
左側から化物が突進してきた。右側からも。追い込まれた。
「コウ兄っ!」
獅子が叫んだと同時に、足元に金属バットが転がってきた。家族のほうに顔を向けると、みんな、不安そうな表情していた。
あぁ、不安にさせていたのか。
それじゃあ、兄ちゃん失格だな。
金属バットを手にとって、左側から来る化物を殴った。右側から来る化物を足蹴にした。バットで青い血が出るまで何度も殴りつけた。バットが変形できるほどの頑丈な体で、骨が軋む音が響く。
一体の化物を倒すために体力を消耗した。化物を倒していっても、中々数が減らない。どんどん多くなっている。倒しているはずなのに、向こうから寄ってくる。
「コウ兄っ!」
獅子が叫んだ。
「化物の主食は人肉っ! あたしらがここにいても、ここはもうだめ! 逃げたほうがいい!」
脇子が甲高く叫んだ。
そのとおり、もう周囲は化物が群がっている。ここにいつまでも居座ったら餌食にされる。撤退だ。
石を投げながら、園をあとにした。化物の足は速い。見た目は子供なのにアスリート並に速い。
「追いつかれる!」
一番足が遅い脇子が涙目で叫んだ。
「頑張って!」
真綾がその隣を走る。
建物から、茂みの奥から化物がわんさか出てくる。大量生産器か。至るところに死体が転がっており、道路には臓物が散らばっている。悪臭が漂い、頭が痛い。
ほんとにこれは、現実なのか。世界がいきなりこんな悲惨な光景に。今でも信じられない。頭がこんがらがって訳が分からない。それでも分かることが一つ。家族を守ること。これだけはどんな事が起きても、絶対だ。
バスに群がる化物たち。餌に群がるハイエナのように群れて、車内の窓一面が真っ赤に染まっていた。
高層マンションの壁をよじ登っていたり、どこ逃げても化物がいるのは明白。何処に逃げ隠れるか分からない中、走っている。体力の消耗だ。
早く何処かに逃げ隠れしないと体力がない脇子がさきにバテる。すでに足が虚ろうつろで肩は激しく上下している。俺は踵を返して脇子より後ろに下がった。
「コウ兄!」
タケとモノが一緒に戻ろうとするも、獅子と真綾に引っ張り戻される。
「先にいけ! あとから追いつく!」
俺はバットを強く握った。
後ろからすぐに「分かった。待っている」という声を聞けてほっとする。こんなとき、即決で子供たちを頼れるのは獅子だ。流石は家の自慢の次男。
獅子は暴れるタケとモノを抱えて、バタバタと走り去っていく。背後から二人の声と脇子の声まで聞こえてくるが振りかえることない。
目前の敵に集中すべし。
「獅子、今すぐひきかえさないと!」
真綾が獅子の前に出て静止かけた。
「見たろ!? 化物がうじゃうじゃといて、食べられる! 嫌だそんなの――」
真綾が腕を掴んでやっと獅子は止まった。真綾の目は恐怖と不安で涙混じりに、でもその奥は怒りがこもっていた。その理由は誰もがわかる。
「コウ兄だけ置いて、わたしたちただけ逃げるのは嫌! あんな数、不利だよ!」
「だったら真綾だけ引き返せばいい! こっちは任せられたんだ、その意志を貫くのが筋だろ!」
「なにそれっ! さっきから言い訳ばっかして、要は戦いたくないだけでしょ! 弱虫!」
真綾の言葉に獅子はカッとなった。
一触即発の空気で間に入ってきたのは脇子。肩を上下させ、足が鹿のようにプルプル震えている。真綾の腕を掴んで一旦、深呼吸した。
「真綾の気持ちも、獅子の気持ちも分かる。とりあえず、きゅ、休憩しよう」
ゼエゼエ息を荒くして、懇願した。立ち止まっているから休憩していても、脇子にとってそうじゃない。何処かに座って飲料水を飲むことが休憩だ。
喧嘩の仲裁に入るかと思いきや、別の案件が飛び交って、二人は喧嘩するの馬鹿らしくなり、また走り始めた。近くの公園まで行く。この時間帯、小学生が遊具で遊んでいる。
それが、遊具は血だらけで地面にゴロゴロと惨たらしい死体の山が。それが幼い子供であれば、目をそらしくなる。
顔半分がなかったり、腕がなかったり、みんな、目に涙を浮かべて。最期に目にしたものは何だったのだろう。考えると悲しくなる。
タコ型モチーフの滑り台に隠れる。ここまで全速力で走って、みんな肩で息をしている。全身汗だくで、走れないほど体力が消耗している。
「ねぇ、大丈夫かな」
真綾が息を切らしながら喋った。
「化物はいない。大丈夫」
獅子が周囲を見渡して言った。すぐさま否定が出た。
「違う。コウ兄だよ。すぐに追いつくて言っておいて全然来ない」
獅子の顔色がさぁ、と青くなった。
タケとモノがグスグス泣きじゃくる。この状況で一番負担にさせているのは、タケとモノだ。それを理解すると、獅子は二人を力強く抱きしめた。背中を撫でる。それでも泣きやまない。
脇子はこんなときでもスマホをいじっていた。むっとした真綾が脇子のスマホに手を伸ばし、ヒョイと奪い取る。
「あ、ちょっと!」
「こんなときによくやれるわね。二人を宥めるなり、周囲を警戒してて」
「こんなときだからやっているの。こんな異常事態、どうするか、何をすればいいか、まず情報が必要。みてこれ」
ヒョイと奪われたスマホを奪い返して、スマホの画面を見せた。
そこに映っているのは、化物が世界各地で暴れまわっていること。大臣がいそいそと会見を開いて、汗だくな顔色で「なるべく家から出ないように」「命を大切に」と言っている。
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