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一部 紫織汐の英雄譚

第17話 撃て

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 ロボットがまた室内に入ってきた。女の子たちは自分が捕まらないように目を伏せていた。ビクビク震え、体を寄せ合い早く通り過ぎてくれ、と願うばかり。
 私は意図的に立ち上がった。ロボットの赤い瞳と合う。周りが静かにどよめいた。

 思惑通りロボットに拘束され、引っ張られる形で室内を出た。もう少し優しく接してほしい。人間じゃない扱いだ。他の部屋からも女性が現れてきた。やっぱり隔離部屋が何個もあった。そのうちの一つの部屋から愛理巣ちゃんが出てきた。感動の再会だ。
「愛理巣ちゃん!」
「汐さん!? 捕まったんですか!?」
 愛理巣ちゃんは目を見開いて立ち尽くした。ロボットたちから棒で叩かれ仕方なく、前後で歩きながら会話する。
「他の人も捕らえられ何人かは処刑されました。汐さんがここにいるということは、光輝さんや米川さんは? 二人とも、無事なんですよね?」
 愛理巣ちゃんの疑問視が投げられてくる。前を歩いているせいで、どんな表情しているのか分からない。声色から生きていると信じている。

 私は「死んだよ」と一言で片付けた。自分でも酷く冷たい声だ。愛理巣ちゃんは何も言わなかった。前を歩いて、肩をプルプル震え歩幅が小さくなっている。
 自分の知っている人間が自分の知らない場所で死んだと報告されると、やるせない気分だ。

 やがて広い空間にたどり着いた。壁は全身白く、天井は高く、様々な方角から視線を感じる。嫌な視線だ。
 ここが処刑場。
 円形場になっていて、観客席が設けている。誰が誰なのか分からない。舞踏会の仮面みたいな仮面を被っている。
 真ん中にギロチンが立ててあった。鋭い刃が照明のせいでギラギラしている。女性たちがギロチンの台に乗っていた。
 頭に布も被せられてない。
 そのままの状態。
 ほんとにあれで処刑するんだ。見せしめとして。

 処刑台にゆっくり女の子が歩いていた。ヨタヨタした足取りで遠目からみても震えているのがわかる。床面は掃除したばかりか、綺麗にピカピカだ。でもこの場所は血の匂いがこべりついて臭い。こんな場所が人生最後の場所なんてなりたくない。

 街にはまだ化物がいた。
 まだ女王は殺されていない。
 女の子はロボットに立ち位置を誘導され、輪っかのなかに頭を通し、間もなくして刃が折りた。ズドン、と重たいものを斬ったような生生しい音が反響する。

 真っ赤な血しぶきが噴水のように舞、ゴロゴロと首がサッカーボールのように転がった。こちらと目があった。泣き腫らした目を見開き、鬼ような形相。
 私の前だった愛理巣ちゃんは泣き出した。
「怖い……あんな死に方、いやだ」
 ポロポロと涙を溢した。
 他の人の死に様を見て、恐怖心を湧き上がせる。それが狙いだ。どんどん順番が回ってくる。

 女王をはやく撃たないといけない。なのに肝心の女王は本性を表す気にもない。だんだん順番が回ってき、ついには愛理巣ちゃんの順番がきた。彼女はロボットに叩かれながら、ゆるゆると処刑台に登っていく。

 ふと視線をあげると、観客席のさらにその上に大きな席が用意されていた。初めてみるお方だ。全身金の羽織を着ていてニコニコと楽しそうに処刑を見下ろしていた。大層なご趣味をしている王様だ。
 こんな人が狙われている。別に助けたいとも思わない。でも女王の狙いは王様の玉座。女王は間もなくして現れるはずだ。

 ばん、と扉が開いた。
 外の光が白く溢れんばかりで、入ってきた人間の顔は反射して見えない。シルエットは丸っこくて女性ぽい。
 観客席がどよめく。ロボットたちも銃を持って遠慮なく撃った。銃声が轟、一部観客が外に飛び出す人もいる。
 処刑を中断しろ、と言う感じで入ってきたのはやはり、女性だった。あれほど銃で撃たれたのにすぐに再生し、近づいてきロボットたちを見えない刃で細切れにした。 

 髪の毛は赤毛で制服は、清水聖女学院。真っ白いワンピースの制服が半分真っ赤に染まり、染みとなっている。顔は異常に白く、生きているのか死んでいるのかを疑う。

 ロボットが破壊されたこと、銃乱射で観客席には誰もいない。もちろん王様だって。ここにいるのはロボットと愛理巣ちゃんと私。

 突如乱入したきた輩。私はゴクリと唾を飲み込んだ。喉がカラカラで飲める唾は口内で生産されていない。でも少しでも緊張を和らげたかった。
 ロボットはすぐに交戦した。間もなく輪っかに頭を通すところで固まっていた愛理巣ちゃんは力なく、その場で倒れる。
 ロボットたちの意気込みにまるで、鼻で笑うように、すぐに細切れにされる。
「汐さん、今です! 逃げましょう!!」 
 愛理巣ちゃんは処刑台から降りて、私に手を差し伸べた。ロボットたちが相手している今、監視もいなくなり、ここから逃げられる。

 だが、私はその手を取れなかった。
 私には使命があり、そのためにやってきた。女王を撃ちに。

 中々手を取らない私をみて、不思議そうに愛理巣ちゃんは首を傾げた。私は懐から拳銃を手に取り、乱入してきた女子生徒を射殺した。しっかり頭を撃って。
 力なくバタンと倒れる。
 私は彼女に近づき身元確認できるものを持っていないか手探りで調べた。愛理巣ちゃんは口をパクパクさせている。
 ロボットも圧倒したのに、呆気なく死んだ。いいや、元々死んでいた。

 彼女は井戸水井水。

 四日前から死んだとされる女子学生。手探りで調べたとき、お腹を触った瞬間妙な感覚になった。お腹が沈みやすい。恐る恐る服を脱がすとぎょ、とした。
 彼女は肉も臓器もなく、文字通り空っぽのまま動いていた。喰われたのか、それとも出し抜かれたのか、分からないが綺麗に抜かれて血も出ていない。空っぽの体に丸めた新聞紙が入っていた。

 これで動いていたのかと思うと、怒りと悲しみしか出てこない。女王は化物も、死んだ井戸水井水を操れる。彼女を乱入させ、状況を混乱させた。
「そ、その子は……」
 愛理巣ちゃんは近づいてきた。
「死んだはずの井戸水井水。女王が操っていたのかも」
「そんな! 死者をそんなふうに」 
 バタバタと足音が聞こえてきた。
 外から漏れ出す光に反射しすぎて、どんな人物か分からないが、金色の羽織を着ている時点で分かった。
「こやつめ! 吾らのショーを邪魔しおって! このっ! このっ!」
 王様はバタバタと廊下から駆け足、倒れている彼女を鼻で笑って足で蹴った。何度も何度も蹴って。

 王様が目の前にいる。直々に降りてきた。それはショーを台無しにした女を自ら蹴るため。女王はこれを計算していたのだろうか。

 井戸水井水を乱入させ、観客を外に連れ出した。彼女にロボットを破壊させ、もう一度戻ってくると分かっている王様が降りてくる。その頃には、王様を守ってくれるロボットも民衆の目もない。
 となると、全て計算していた。こうなることも。けれど――私が拳銃を持っていることは計算していないはず。




「――そうでしょう? 女王、外薗愛理巣」







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