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ハコニワ

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一部 紫織汐の英雄譚

第11話 真相

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「鬼セン、校長センセが来るまでその子の接待をしてたんだ。もちろん、女性教職員もいて、ちょっと鬼センに用があって訪ねたらすげぇ、怒られた。その子もすげぇ震えててさ、すぐに追い出されてその後は何もなかったけど、その子、女性教職員から〝イドミス〟て呼ばれてた。で、調べてみたら〝井戸水 井水いどみす いすい〟ていう女子生徒。もしかしたら、その子が女王でうちの学校に恨みがあるからうちが最初に狙われたのかも」
 光輝は真面目に言った。
 光輝の推理は辻褄を無理やり合わせてたような強引な推理。
「接待してただけで感染すんの? それに、その子は?」
 私は問いた。 
「唾が飛んだりするだろ? それで感染したりとか」
 光輝はそっけなく返した。すると、カーテンがいきなり開いた。顔を出してきたのはあの、嫌味な女子生徒。私たちは一斉に口を閉した。女子生徒は深いため息ついた。
「残念だけど、その子ならとっくに死んでる。最初の感染者として」
 冷たく言った。
「どっから話を聞いてたの?」
 私は睨みつけて訊いた。
 彼女は私を一望すると、やけに大きなため息ついた。
「さっき。井水の名前が出てきた辺りから。あたしもその子と同じ学校なの。そんな問題抱えていたこと同じクラスでも知らなかったけど」
 彼女はくるりと背を向けた。それを光輝が呼び止める。
「用があるんじゃないか? 何しにきた」
「別に。顔を見てこいて言われただけで特に用はない。元気そうだから、失礼するわ」
 彼女はあっけらかんと出て行った。まるで嵐のようだった。残ったのは沈黙。光輝が名推理したものはものの、一分で粉砕した。


「井戸水井水は死んでた。しかも最初の感染者……」
 光輝は頭を悩ませた。
 突如新たに出現した証言に、頭も目もぐるぐる円をかく。

 ずっと暗くてさまよっていた難解な迷路に、明るい灯火がついた。それは一つの蝋燭の炎で、すぐに消えた。希望の光が途絶え、私たちはただ沈黙するばかり。
「先生とその子は関係ないとして、先生はどうして感染したのか気になる。ああ見えて先生は嫁一筋だったし」
 私は呟いた。
「……あの、接触感染なら触れただけでも感染すると思います」
 愛理巣ちゃんが静かな空間で怪訝な飄々でそう答えた。
「そんな感染経路あるの? その、キスじゃなくて」
「キスは例え話です。他にも、感染経路はあります」
 愛理巣ちゃんは真面目に答えてくれた。確かに飛沫感染とかあるけど、そんなしたら、近くにいただけで感染することになる。近くにいただけで体内にあの化物が孕めるのだろうか。

 この一件は保留になった。
 女王が誰かなんて私たちには分からない。元来情報が足りないのだから。もっと情報を集めなくては。そうしているうちに、六時がやってきた。

 外を見張っていた男性が言うには、無数のロボットたちが街の中をうろついて、女性を見つけては拘束し、車に乗せていると。ロボットは目を赤く光らせ、それが特に夜の時間帯になるとその姿はおぞましき物体で、なおかつ、規則正しい動きをしていることにも不気味さがわき出す。

 抵抗する女性は腕をもげられたり、裸にされたりなど、暴虐を貫く。それに止めに入った人は即処刑。そこで首を斬り落とされる。だからどんなに女性が暴れても周りは何も言えないし、抵抗もできない。

 今、世が混乱に満ちている中、さらに混乱に落とそうとしている。
「王様は一体何を考えているんだ」
 米川さんは舌打ちと同時に言った。
 今、仲間を集めて作戦会議中。米川さんを囲むような形で、みんな、コンクリートに座っている。
「女王を早めに突き止めないと、さらに日本の人口が減ってしまう!」
 眼鏡の青年が叫んだ。
 声が反響して、不愉快だ。
「……この中に、あたしたち女を売るやつがいたら、おちおち眠れない! この中に裏切り者がいたら正気じゃない!」
 OLの人が立ち上がって、左右、睨みつけてきた。目は赤く充血しており、、髪の毛はボサボサ、手首には無数の赤い糸が入っていた。
「落ち着いて。俺たちの中にそんな者はいない」
 米川さんは女性に駆け寄った。でも女性は暴れまわって、近くにいる男性二人でやっと静まった。
「……俺はこの仲間を信じている。何があっても絶対に仲間を売らないと。みんなも、肝に命じてほしい」
 米川さんが真面目な表情で言った。
 その言葉に「はい」と答える人は、その人の人望を本当に信じていることだ。ちなみに、私はすぐに「はい」と返事は出せなかった。彼の人望はろくに信じていないからだ。

 衣食住を貰っているし、申し訳ないが、私はあなたこと、信用していない。何故なのか分からないが他人を庇って、怪我している人を見つけては手を伸ばす、そんな正義感を振り回している人、最初から嫌気が指していたのかもしれない。そんな人、嫌いだから。

 私が他人の命を救わない人間だからだ。あるいは、助けようと思わない意思を持っているからだ。人を助けることは、自分に余裕があるときだ。命の危険が晒されるこんな状況で、他人を救うことは自分も危険に晒される。

 そんな余裕なんて持っていない。だから嫌いだ。自分には持っていないものをもっているから。これはただの嫉妬なのかもしれない。素直に打ち明けるとただの嫉妬だ。なんて醜悪な。でもこれは、自分の本性だ。

 女王が誰かを決めたとき、ここを出る。衣食住ある場所でも、あの人がいる場所は私にとって、屍の上の墓場だ。
「世界にいるたった一人を探さなくてはならない。世界中にいる学者も女王が誰なのか判別していない。困難なことだ。でもそこで俺たちが女王をみつければ英雄だ」
 米川さんはまるで、宗教の話をしているかのように話しだした。それを胡散臭いとも思わない連中。

 米川さんを中心的に議題が伸びている。その流れに一投小石を投げたものが現れた。
「女王の手がかりは見つかっていると、専門家が発表しています。ほら」
 光輝がスマホを取り出し、ネット掲示板のサイトを見せてきた。
「はっ、ネット掲示板に書かれていること、信用ならん!」
 米川さんは鼻で笑った。
「いやでも、専門家て名乗る人が掲示板の中で女王が誰なのか審議している。しかも、女王は日本で十五~十八歳の人間だって、特定している」
「そんなのデマカセだ! 信じられるか!? ネットなんて『未来人です』と名乗れば誰だって信じる。そんな時代だ。専門家と名乗る連中がただネットの中で審議している。本物の専門家なら、表に立ってそれを早く公表している!」
「いや国の掲示板。本物の専門家だよ。調べたらちゃんと、功績を挙げている人たちだった」
 光輝はけろりと冷たく言った。
 米川さんはムッとしながらも、すぐに自分のスマホを取り出し光輝が見ているネットの掲示板に侵入した。

 そこに書かれていることは、専門家たちの暑い審議。誰よりもこの状況を打破したい集まりだった。米川さんは不服そうだが、この掲示板を借りとった。
「……女王はどうやら日本人らしい。発生源が日本だって証拠がでている。しかも歳まで割り切っている」
 
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