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一部 紫織汐の英雄譚

第10話 探求

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 目が覚めると知らない天井だった。白いベットで横になっている。高い天井で真っ赤な蝋燭が点々と視界に映る。 
 下水道の臭いと汗臭さの臭いが充満して、鼻がおかしくなりそうだ。
 恐る恐る上体を起き上がらせると、ズキン、と頭に激痛が走った。あぁ、そういえば叩かれたんだっけ。強烈だったな。私は頭をさすった。頭に包帯がぐるぐる巻いている。

 隔てるようにカーテンが敷かれていた。そのカーテンがシャ、と開いた。
「汐さぁぁぁぁん!!」
 起きた私を最初に目撃したのは、愛理巣ちゃん。私に抱きつく。
「あぁ良かった! 本当に良かったです!」
「愛理巣ちゃん、心配してくれてありがと。だけど声が、頭に響く」
 私は頭を抑えて 苦し紛れに言うと、愛理巣ちゃんは飛び跳ねた。
「ごめんなさい! 配慮してなかったです」
 しゅん、とまるで捨てられた仔犬のようにしょんぼりする。

 あとから光輝も見舞いにやってきて、頭を叩きつけてきた人も謝罪に来てくれた。私が気絶したのは二時間前。強く打ち付けられて、血がダラダラ垂れたらしい。

 でもこのとおりピンピンしている。老爺の人が診察してくれたのかな。
 カーテンをしめると、空間内に私と光輝と愛理巣ちゃんしかいなくなる。狭い空間だけど落ち着く。
「ここは化物が入ってこないいい施設だ。地下だし、あいつらが侵入すると警報が鳴るシステムまで備わってしかも、こっちまで行き着くまでに罠が何十も仕掛けられている。俺たち、拾われて良かったな」
 光輝が安心した様子。
「確かに言われると凄くいい環境だけど、光輝っ! あんたまさか、朝の水飲んでないよね?」
 私は光輝をじっと見つめた。光輝ははっ、と嘲笑うかのように笑いだした。
「ありゃ下水道だろ? 臭いで分かった。飲んでもいねぇし、顔も洗ってねぇ」
 それだけ聞くと、ほっと一息ついた。体の中の緊張がどっと解かれた。光輝が無事でいてくれて良かった。
「そっちこそ、あんな水」
「飲むわけないでしょ」
「そうか……」  
 今度は光輝がほっとした。

 でもいつまでも拒み続けらるか。水は貴重だ。生きていくうえで大切なもの。トラックの中には大量の食料はあるのに水はなかった。つまり、水の普及はない。
 私たちが持っている僅かなペットボトルの水が命綱。
「それより、今日で三日だ。日本もそろそろ動き出したぞ」
 光輝が私たちに自分のスマホを見せてきた。画面は動画。

 アナウンサーもキャスターもいないニュース報道。ただただ、画面に黒も文字がある。

『王様が開催発表。女王を集めて殺菌する。朝の八時~九時、昼の十二時~一時、夜の六時~七時の時間、女性のみ集め処刑する』

 文面をみたときは驚いた。
「こ、これて女性だけ?」
「みたいだな……」
 私と愛理巣ちゃんは顔を見合った。
「この指定されている時間帯に女性を捕まえて王様がいるあのターミナルで処刑するんだと。ちなみに、捕まえるのは最新の探索機つきロボット。通報したら約百万円が貰えるらしい。捕まったら……どうなるのか分からない」
 光輝が暗い顔をおとした。
 これはさっき、一時間前に発表されたものだ。そういえば、周りが騒がしいのに気がついた。ここにいるのは、老爺だけじゃない。女性が二十名ほど。
 私も例外じゃない。 
「大丈夫だ。米川さんは何があっても絶対に国には売らないて、言ってた」
 光輝は顔を上げた。
 私は内心怖くて堪らない。朝、昼、夜、それぞれ指定された時間帯に、そのロボットが街で彷徨い女性のみを捕獲する。

 あのターミナルに行ったことはない。無論、一般市民が行けるわけない。あそこは近づく者はレーザーで焼かれるから。 

 ここは妥当女王の仲間。そう米川さんが断言していた。一人人数が少なくなったらそれだけで、女王は倒せなくなる。人員のため。
 愛理巣ちゃんが腕時計を見下ろした。
「指定された夜の六時が間もなくです。ここは外の音が遮断されてるので、分かりませんね」
 間もなくと聞いて、胸がドクンと高鳴る。


 脈が異常に速く、ドッと血の巡りが速くなり体温が熱く、走ってもいないのに、背中やら額には汗が流れた。
「早く本物の女王を撃たないと!」
 私が死ぬ!
「あぁ。それなんだが、米川さんも女王が誰なのか考えている。俺たちのとき、思い出してみろ。陸上部の鬼センだったろ? 最初」
 光輝が真面目な表情で話しだした。私は頷く。あの人から始まり、学校が恐怖の渦に、そしてそこから脱出し、色々あり、この現在になる。
「あんとき、一回教室に行ったろ? そんときの時間が四時五十一分。で、戻ったのが四時五十八分。それと同じ時間帯に鬼センはおかしくなった。いいか。俺たちは四時五十八分から始まった。でも他の人たちから聞いたら少し誤差はあるが、みんな、五時過ぎからだった。俺たちの学校だけが早い」
 光輝はじっ、と私の目を見た。
 私は恐る恐る口を開く。  
「女王は、私たちの学校を狙った?」
「それもあるが、あの鬼セン、すげぇ嫁さんと娘さんだけは溺愛してたの知ってるだろ?」
「うん」
 時々、聞かれてもいないのに突然娘さんの話をしだす。最近生まれたばかりの娘さんで、白くてマッシュマロみたいに柔らかそうな赤ちゃんが写っている写真を見せてくる。

 最近ハイハイになったとか、お風呂のときは最初大変だったけど今は楽しい、とかそれはもう嫌と聞いたほどに自慢してくる。親バカなんだろうな。それを話している先生は本当に楽しくて、眉が垂れ下がっている。 
 楽しくて、仕方ない。だから私は親バカ話を聞くしかなくて、陸上部やめてからもしつこく言ってくる。
 その頃の楽しそうに笑う先生の顔が浮かんできて、涙が出そうになった。でもそれは一瞬で最後の瞬間こそが目に焼き付いている。赤黒く変色した先生の姿が思い浮かんで、頭を振った。

「あんな人が嫁さん以外にすると思うか?」
「しないね」
 よくよく考えれば違う。
 冷静になれば見えてくる視点。
「一応さ、嫁さんに確認したんだ」
「ディープキスしたかどうかを!?」
 私はつい大声で叫んだ。光輝は急いで私の口を覆う。カーテン越しからこちらを見つめる視線が分かる。 
 光輝は暫くしてから手を放した。小さな声で話を始める。
「そんな確認取れるか。旦那さんに最近おかしなことはありませんでしたか、て確認したら、最近ある生徒のことで学校側が揉めているて、話が出た」
「ある生徒……?」
 私はオウム返しに聞き返す。体を前乗りになって。先生個人的な気になる生徒ではなく、学校全体が気にしているある生徒とは。
「ほら、女子校あったろ? よく共同したよな? そこの生徒なんだ確か……清水聖女学院きよみずせいじょがくいん
「うちの学校じゃないの?」
 私は目が点になった。
 どういうことか、光輝は詳しく言ってくれる。
「その女子生徒、うちの学校の奴らにレイプされた、て告発してきて。この学校に一回来てた。そんで、その子の顔を見ている」
 私は口をパクパクした。
 最初から最後まで訊ねなきゃいけないのがいっぱいだ。あえて一つ絞るなら、どんな生徒なのか。そして、その子と先生が何故関係してるか。  


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