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一部 紫織汐の英雄譚

第7話 朗報

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 どんなときだって、子は親から生まれるもの。そして、その子は親に従順であり、その糸は、巨大となり女王が誕生する。
 女王を撃てば、悲劇は終わる。スズメバチだって、巣の中にいる女王を殺せば、親のいなくなった子は、バラバラに散り、何処かに去っていく。

  化物に女王がいる。これは、ついさっき日本全土に広まった情報だ。
「でも、あれは私たち人間の腹から出てきたよ」
 私は、不安になって訊いた。
 確かに見た。化物は人間の腹の中から突き破って出てくる。そしてまた、新たに孕まされている人も。
「接触感染よ」
 私の問に答えたのは斎藤さん。
 昨日はあまり顔を見てなかったから、綺麗な切れ長の目とぶつかる。私は首を傾げた。もし、女王が人とぶつかったらそれだけで感染するものなのか。それだけで、人間の腹の中にアレを孕ませるのか、よく分からない。私の疑問を全部、斎藤さんが淡々と答えてくれた。

「恐らく、普通の接触では感染しないでしょうね。でも、濃厚な唾液交換なら感染するでしょう」
 反応したのは、私だけじゃないはず。淡々と綺麗な人が、下ネタを言っている。でも、本人は真面目な表情している。反応した私がおかしいのだろうか。
「女王とキスすると、感染する。恐らくだけど、キスされたほうは感染されたと思っていない。そして、感染された子はそれに気づかず、広めるように種をまく」
 私は、生まれて男性とキスもおろか、付き合ったことはない。だから、私は除外された。でも、安堵している場合じゃない。

「女王は、誰なの?」
「それが分からないから苦労してるじゃない」
 みんなに睨まれた。私は肩を萎縮する。
 世界中の中で、たった一人の女王を見つける。困難なことだ。でも、アメリカでは既に女王殺しが始まっている。

 女性のみ集め、唾液を鑑定し女王なのか鑑識する。ヨーロッパでは、女王だと思われた女性を焼き物にしているそうな。

 もうすでに、世界がめちゃくちゃだ。日本も策を打っている。王様が何やら化物を捕まえて実態実験をしているそうな、ないような。そんな噂。

 でも、あることに気がつく。その疑問点に気づいたのは、私だけじゃないはず。
「女王を殺したら、化物はどうなるの? 力無くの? 消えるの?」
 スズメバチに例えたら、女王蜂がいなくなったら子分は巣を捨てまた新たな女王に仕える。蟻も同じ。自然界での動物たちの話だ。なら、あの化物たちはどうなるんだろう。

 女王殺しが出来ても、化物はどうなるのか。こんな事例は今まで過去未来ない。だから、誰もその先を知らない。ある者は自然界と同じように、新たに女王をつくると言うもの。ある者は、女王と同じように消えていく。後者にかけたい。
「スズメバチと同じだと思っている。女王を殺しても、また女王を生み出していくと思う。あの化物事態を殺さないと」
 斎藤さんが言った。この人も、大切な人を奪われているんだろう。女王を殺すことに、怒気が含まれていた。

 これから、私たちは女王を特定し殺す。震えはなかった。ただ、終わりの道が見えた希望と高揚感。女王を殺すことに、執着ある人間ならこの世界中に満ちていてる。何処も逃げ場がない。

 新しい情報が入り、それだけで、舞い上がっていた。もっと悲劇は続くのだと。

 今日も誰かが近くのコンビニまで行き、食料を調達しなければならない。でも、今日に限ってその役目の人が、私たちを推した。
「知ってるんだぜ。俺は陸上部だからな。エースの香合に、去年からばったり見なくなった元エースの詩織。こいつら、俺より足が速いんです」
 それを聞いた、金髪男性がへぇと興味津々に話に食いついた。私も光輝も、別に隠していたわけではない。ほぼ初対面だし、聞かれなかったから。

 彼が私たちを知ってるのなら、この人は何処かの大会であった人だ。私たちは見覚えないけど。陸上強豪校のエースときいて、斎藤さんは私たちを行かせることに。嫌な役目だ。化物に囲まれた外に向かうには、容易じゃない。でも、食べ物がないとみんな生きていけないから、仕方なく行くことに。

 窓から外に出る。食料は全部で十品掻っ攫ることを約束した。この役目は、三人でやっている。でも、私たちは陸上部のエースでありその為か、二人の役目。外に出ると、異様に冷たい風が頬を伝った。もうすっかり慣れた死臭が、頭をガツンと殴る。

「さっさと行ってさっさと帰るぞ」
 光輝が覚悟決めた表情で呟いた。
「うん」
 愛理巣ちゃんも私たちに期待している。必ず生きて帰ってくることを。でもその前に謝らないといけないことがある。私は、みんなが期待しているほどの陸上競技者じゃない。確かに、一度はエースとなったことがある。でもそれは花のように一瞬ですぐに枯れた。

 昨日は走りすぎてか、傷跡が痛む。でもここで期待に応えなきゃ、面目たたない。右足のアキレス腱を眺めていると、光輝がそれに気づいた。
「痛むか?」
「……ううん」
 光輝には心配かけたくない。アキレス腱を擦って、立ち上がった。目指すは、コンビニ。車のバリケードを通って、一キロくらいある場所にコンビニがある。 

 私と光輝は、冷たくなった大地を踏みしめて化物が蹂躙する世界へと歩を進む。昨日も思っていたことだけど、化物の気配がない。朝なのに、こんなに静かだとおかしくなってしまう。

 人のいなくなった世界を、たった二人で走っていく。無事、コンビニにたどり着いた。中の様子を伺うと、人はいない。棚の食品が殆ど空になっている。
「これ、何取ればいいの?」
 空になった棚を物色しても、賞味期限を三日も過ぎたものだらけだ。
「食えるもんなら、いんじゃね?」 
 光輝が適当に、パンやら飲み物を取っていく。ほんとに堂々として、なおさらかっこいいな。
 私たちが取ったあと、棚の物はもうなくなった。
「どうするんだろ?」
「もう一つ店とかあんじゃねぇの?」
 光輝が面倒くさそうに頭をかいた。コンビニから出るときも、周囲をうかがった。化物がいないとは限らないから。
「しっかし、妙だよな」
「化物がいないこと?」
「それもあるけど、女王についてだ」
 光輝がさすのは女王のこと。
 何処かおかしいのか、私は首を傾げた。光輝は、呆れたようにため息ついておもむろに口を開いた。
「確かにボスがいてもおかしくねぇけど、世界各地にこれらの異常事態が発生している。接触感染で、世界各地に広まるかよ」
「きっと、グローバルな人とき、き、キス……したんだよ」
 うわ、声がうわずった。恥ずかしい。
 羞恥心で顔を赤くする私をよそに、光輝は話を続けた。
「まぁ、外国ではキスする習慣があるしな。でもこの日本にはないだろ? それに、女王が接触感染できるのなら、女王は元々胎内に化物が孕んでいたとなる。人間じゃない」
 そうだ。女王を殺すことに着目してたけど、よく考えれば、女王は元々アレを孕んでいた。人間じゃない。もしかして、女王は人間じゃない可能性がある。
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