3 / 126
Ⅰ 若き過ち~12歳~
第3話 チョコレート
しおりを挟む
見惚れてしまうほど美しい女性の背中を小さくなるまで見ていた。いいや、見ていたかった。それを遮ったのはジン。
「あの人、AAクラスのシモンさんじゃね?」
ルイが首を大きく頷く。
「ほんとう……凄い美人さんだったぁ」
赤くなった頬に両手をあてる。美人を目の当たりにして赤く染まったらしい。ジンも見惚れて小さくなる背中をどこまでも追った。
「シモンさんって?」
オレは訊ねた。途端、ジンとルイの目つきが変わった。目を押し上げ、びっくりしているついでにドン引きしている表情。
「お前、シモンさん知らねぇの? 学園一最強の名をもつシモン・デ・アスパラガス超有名だよ」
ルイがうんうんと一人でに首を頷く。赤ペコみたい。
「AAクラスよりもっと群を抜いて七年生にも関わらず、今や先生たちとほぼ互角の人なんです! この前だって禁止時効した上級生をほんの数分で絞めたって噂です!」
その噂は聞いたことがある。上級生が上級生を絞めたっていう。しかも、その学園一最強といえるのはあの容姿だけじゃない。確か、シモン・デ・アスパラガスって。
「【空間支配の呪怨】」
オレが言う前にアカネがポツリと呟いた。そう、あの女性は全ての空間と異次元空間を支配し意のままに操れる呪怨の持ち主。
「実際に目にしたことはないけどそんなに強いのかな」
呟いた。すると
アカネはなにが気に食わなかったのか早く行こうと急かしてきた。
「早く行きましょ。席がなくなるわ」
そう言ってくるりと踵を返す。そのあとに続いたのがルイ、それとジン。オレは看板を暫く一瞥したあとみんなの後を追った。
収斂棟にたどり着き、大きな門を開いた途端、ムワッとした人の熱気が襲った。
同時に、わっと歓喜の声が室内を轟いていた。舞台だけが明るく光って、客席は薄っすら暗い。それなのに、意思を捗るように舞台に魅入っていた。
見渡せば、ありあまる客席が全部埋まっている。席に座れないので、壁際に立って劇を見下ろした。見れば、疎らに立っているやつもいる。
今、やっているのは七年生の劇らしい。しかも、AAクラスの。大きな舞台では今さっき噂していたシモンさんがカッカッと軽快に歩いていた。あのフリルのついたドレス、この劇の為だったんだ。
明るいスポットライトを全身を浴びせ、肌を艶かしている。四方八方からの熱気が凄いなか、シモンさんがセリフを言った。
舞台から遠い位置にいるオレたちにもよく通る声、そして水銀を震わす澄み切った声だ。AAクラスってだけで目立つので、登場している俳優みんなに目が釘打ってしまう。でも、シモンさんだけは登場して喋ってるだけで周りの空気が違う。
一変して、氷漬けされたみたいに空気がヒンヤリしている。なんというか、他の人とは違う〝魅了〟があるんだな。
「なぁ、あの眼鏡っ子ちゃん可愛くない?」
ジンがある女の子を指差した。つられて、指差した方向に目を向けると確かに可愛い。白い肌にぷっくりとした唇、トロンとした目尻を隠すように青い眼鏡をかけている。
ジンが気色悪いニヤニヤした面でその女の子を眺める。隣にいたアカネがキッと睨み、ジンの足を踏み潰した。
ジンが痛っ、と叫ぶ。実際、凄い音したから強烈な蹴りだったな。静かな空間が一瞬、ざわざわとする。オレとルイは慌てて周りにペコペコと謝罪する。
アカネはさも当然といいたげにふんぞり返ってる。
「あんな女、どこかいいのよ。あんたも趣味おかしいわねぇ」
「趣味で蹴られる理由超分かんないんだけど……痛っ――!」
また、アカネがジンの足を踏んだ。今度は深くギリギリと。うんわぁ、痛そう。こいつの力半端ないんだよな。くわばらくわばら。
七年生の劇があっという間に終わった。たった五人のAAクラスだけでもこちらが熱くなるほど盛り上がった。
キャストたちが一斉に前にでて、舞台でお互い手を繋ぎ、大きく礼をする。上下左右から明るいスポットに当たり、顔が艷やかに光っている。並ぶとやはり、格の違いがわかるな。美少女美青年だらけだ。
楽しい劇も終わり展覧会も最終にさしかかった。教室に戻ると、委員長がポイントの計算をしていた。今日来てくれたお客さんのポイントで今日の文化祭の順位が決まる。
委員長の前に置かれた募金箱の中身はごっそり紙が雪のように詰まっている。今日来てくれたお客がどれだけかを物語る。
結局、文化祭で一位をとったのは六年生、Aクラスの「マジカルショータイム」ていう箱の中身を当てるしょぼいゲーム。因みに劇部門一位は七年生、AAクラス。
この結果発表で誰が悲しんだと思う。そりゃあ、委員長だよ。わんわん泣いて宥めようにも暴れるんだよ。面倒だなぁ。
クラス全員で宥めるのが必死でそのあとのことなんて、よく覚えていない。
文化祭が終わった翌日、いつものように食堂で他愛もない話しをする。話題は文化祭の委員長の話しだったり、文化祭に来ていた可愛い高等生の話し、ほんとに平和な日常を送っていた。
「はぁ、もうすぐテストだなぁ」
ジンが牛乳を飲んでストローを口から離してから言った。
「あぁ。憂鬱だ」
オレも大きなため息をついて牛乳を飲んだ。
文化祭が終わったらたいして大きな行事はない。強いていえば毎月行われるテストかな。
呪怨の力がどれぐらいかをはかるテストだ。文化祭の一週間後にあるテストなんだけど、これがまた厄介で。
他の教科は教科書とか見れば全然大丈夫なんだけど、呪怨テストは違う。毎回用意された先生の難問を三〇秒以内に終わらせるのが難しいんだ。これがどれだけ難しいと思う。
一週間後に控えたテストなのに、手足が震えるほど緊張しているんだ。
それと同じようにみな、テストの日にかけて火花を散っている。普段はぎゃあぎゃあ騒がしい食堂がこんなにも静かだ。小等部各クラスいるのに。
文化祭では泣いて笑ってた委員長さえも誰もくるな、と寄せ付けないオーラを放っている。
「はぁ……こんなときは甘いものだな」
ジンが懐から手のひらサイズのチョコレートを取り出した。四角い形していて包装は銀のプラスチック。
「なんだそれ」
「知らねぇのか? 今流行りのメイジだぜ」
オレは知らないな。チョコレートなんていつも先生たちが定期的にくれるからそんなに欲しがらないし、そんな商品あったんだ。
「なぁ、それどこで調達したんだよ」
訊くとジンはニタァと不気味に笑った。彼の褐色肌が豪快に輝く。
「外に落ちてたんだ」
「外に!? お前抜け出したのか!?」
小さく声をあげるとジンは嬉々とした瞳を潤し、お腹を押さえて笑いだした。ジンとは裏腹に聞いてた三人の顔色は蒼白していた。
「だ、誰にも見つからなかった?」
と心配するルイ。
「あんた勇気あるわね」
舌を巻くほど驚くアカネ。
「お前だけ抜け出したなんてずるいぞ! 今度はオレも誘え!」
机から前乗りになって叫ぶオレ。
ジンはコホンと咳払いをこけるとパチンと左目をウインクした。
「おうよ! そんときはみんなでな」
「あの人、AAクラスのシモンさんじゃね?」
ルイが首を大きく頷く。
「ほんとう……凄い美人さんだったぁ」
赤くなった頬に両手をあてる。美人を目の当たりにして赤く染まったらしい。ジンも見惚れて小さくなる背中をどこまでも追った。
「シモンさんって?」
オレは訊ねた。途端、ジンとルイの目つきが変わった。目を押し上げ、びっくりしているついでにドン引きしている表情。
「お前、シモンさん知らねぇの? 学園一最強の名をもつシモン・デ・アスパラガス超有名だよ」
ルイがうんうんと一人でに首を頷く。赤ペコみたい。
「AAクラスよりもっと群を抜いて七年生にも関わらず、今や先生たちとほぼ互角の人なんです! この前だって禁止時効した上級生をほんの数分で絞めたって噂です!」
その噂は聞いたことがある。上級生が上級生を絞めたっていう。しかも、その学園一最強といえるのはあの容姿だけじゃない。確か、シモン・デ・アスパラガスって。
「【空間支配の呪怨】」
オレが言う前にアカネがポツリと呟いた。そう、あの女性は全ての空間と異次元空間を支配し意のままに操れる呪怨の持ち主。
「実際に目にしたことはないけどそんなに強いのかな」
呟いた。すると
アカネはなにが気に食わなかったのか早く行こうと急かしてきた。
「早く行きましょ。席がなくなるわ」
そう言ってくるりと踵を返す。そのあとに続いたのがルイ、それとジン。オレは看板を暫く一瞥したあとみんなの後を追った。
収斂棟にたどり着き、大きな門を開いた途端、ムワッとした人の熱気が襲った。
同時に、わっと歓喜の声が室内を轟いていた。舞台だけが明るく光って、客席は薄っすら暗い。それなのに、意思を捗るように舞台に魅入っていた。
見渡せば、ありあまる客席が全部埋まっている。席に座れないので、壁際に立って劇を見下ろした。見れば、疎らに立っているやつもいる。
今、やっているのは七年生の劇らしい。しかも、AAクラスの。大きな舞台では今さっき噂していたシモンさんがカッカッと軽快に歩いていた。あのフリルのついたドレス、この劇の為だったんだ。
明るいスポットライトを全身を浴びせ、肌を艶かしている。四方八方からの熱気が凄いなか、シモンさんがセリフを言った。
舞台から遠い位置にいるオレたちにもよく通る声、そして水銀を震わす澄み切った声だ。AAクラスってだけで目立つので、登場している俳優みんなに目が釘打ってしまう。でも、シモンさんだけは登場して喋ってるだけで周りの空気が違う。
一変して、氷漬けされたみたいに空気がヒンヤリしている。なんというか、他の人とは違う〝魅了〟があるんだな。
「なぁ、あの眼鏡っ子ちゃん可愛くない?」
ジンがある女の子を指差した。つられて、指差した方向に目を向けると確かに可愛い。白い肌にぷっくりとした唇、トロンとした目尻を隠すように青い眼鏡をかけている。
ジンが気色悪いニヤニヤした面でその女の子を眺める。隣にいたアカネがキッと睨み、ジンの足を踏み潰した。
ジンが痛っ、と叫ぶ。実際、凄い音したから強烈な蹴りだったな。静かな空間が一瞬、ざわざわとする。オレとルイは慌てて周りにペコペコと謝罪する。
アカネはさも当然といいたげにふんぞり返ってる。
「あんな女、どこかいいのよ。あんたも趣味おかしいわねぇ」
「趣味で蹴られる理由超分かんないんだけど……痛っ――!」
また、アカネがジンの足を踏んだ。今度は深くギリギリと。うんわぁ、痛そう。こいつの力半端ないんだよな。くわばらくわばら。
七年生の劇があっという間に終わった。たった五人のAAクラスだけでもこちらが熱くなるほど盛り上がった。
キャストたちが一斉に前にでて、舞台でお互い手を繋ぎ、大きく礼をする。上下左右から明るいスポットに当たり、顔が艷やかに光っている。並ぶとやはり、格の違いがわかるな。美少女美青年だらけだ。
楽しい劇も終わり展覧会も最終にさしかかった。教室に戻ると、委員長がポイントの計算をしていた。今日来てくれたお客さんのポイントで今日の文化祭の順位が決まる。
委員長の前に置かれた募金箱の中身はごっそり紙が雪のように詰まっている。今日来てくれたお客がどれだけかを物語る。
結局、文化祭で一位をとったのは六年生、Aクラスの「マジカルショータイム」ていう箱の中身を当てるしょぼいゲーム。因みに劇部門一位は七年生、AAクラス。
この結果発表で誰が悲しんだと思う。そりゃあ、委員長だよ。わんわん泣いて宥めようにも暴れるんだよ。面倒だなぁ。
クラス全員で宥めるのが必死でそのあとのことなんて、よく覚えていない。
文化祭が終わった翌日、いつものように食堂で他愛もない話しをする。話題は文化祭の委員長の話しだったり、文化祭に来ていた可愛い高等生の話し、ほんとに平和な日常を送っていた。
「はぁ、もうすぐテストだなぁ」
ジンが牛乳を飲んでストローを口から離してから言った。
「あぁ。憂鬱だ」
オレも大きなため息をついて牛乳を飲んだ。
文化祭が終わったらたいして大きな行事はない。強いていえば毎月行われるテストかな。
呪怨の力がどれぐらいかをはかるテストだ。文化祭の一週間後にあるテストなんだけど、これがまた厄介で。
他の教科は教科書とか見れば全然大丈夫なんだけど、呪怨テストは違う。毎回用意された先生の難問を三〇秒以内に終わらせるのが難しいんだ。これがどれだけ難しいと思う。
一週間後に控えたテストなのに、手足が震えるほど緊張しているんだ。
それと同じようにみな、テストの日にかけて火花を散っている。普段はぎゃあぎゃあ騒がしい食堂がこんなにも静かだ。小等部各クラスいるのに。
文化祭では泣いて笑ってた委員長さえも誰もくるな、と寄せ付けないオーラを放っている。
「はぁ……こんなときは甘いものだな」
ジンが懐から手のひらサイズのチョコレートを取り出した。四角い形していて包装は銀のプラスチック。
「なんだそれ」
「知らねぇのか? 今流行りのメイジだぜ」
オレは知らないな。チョコレートなんていつも先生たちが定期的にくれるからそんなに欲しがらないし、そんな商品あったんだ。
「なぁ、それどこで調達したんだよ」
訊くとジンはニタァと不気味に笑った。彼の褐色肌が豪快に輝く。
「外に落ちてたんだ」
「外に!? お前抜け出したのか!?」
小さく声をあげるとジンは嬉々とした瞳を潤し、お腹を押さえて笑いだした。ジンとは裏腹に聞いてた三人の顔色は蒼白していた。
「だ、誰にも見つからなかった?」
と心配するルイ。
「あんた勇気あるわね」
舌を巻くほど驚くアカネ。
「お前だけ抜け出したなんてずるいぞ! 今度はオレも誘え!」
机から前乗りになって叫ぶオレ。
ジンはコホンと咳払いをこけるとパチンと左目をウインクした。
「おうよ! そんときはみんなでな」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる