この虚空の地で

ハコニワ

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Ⅷ 果てしない未来

第125話 夢を掴んだ

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 団体たちの襲撃、そして〝終末の書〟を見つけに島を出て、色んな人々と出会えた。そして、出会いもあれば別れもある。

 牡丹先生は、休暇をとると〝死の島〟にいるタウラスさんに会いに行く。何故かニアもついていって、タウラスさんは賑やかだと楽しいと笑っているけれど、あの二人は、楽しくやっていないと思う。

 時が流れるのは早い。時間が砂のように流れる。ルイちゃんとリゼは、今頃どこを航海しているのだろう。楽しくやっているかな。あれから数ヶ月が過ぎた。
 みんな、ルイちゃんが卒業したことに驚きと悲しみでしくしく泣いていたけど、でも時が経つにつれ、普段の学園生活に戻っていく。
 時が流れるのと一緒で、俺たちもまた、変わらなければならない。
 アカネちゃんは、ルイちゃんがいなくなったその日はずっとグズグズ泣いていた。数ヶ月が過ぎても。
 でも、時折ルイちゃんから意思伝達の声や、文通があると嬉しくて、はしゃいでる。
 一時の寂しさに胸を締め付けられ、俺たちは、時間とともに前を向く。

 満杯島に行ったものの、上陸はしてないので記憶は思い出さなかった。「彼女」との記憶が思い出せば、何かが変わると思っていたのに。
 終末たちが仕掛けた事件から学園は平和で、毎日生徒の楽しそうな声が学園中を響き渡る。平和になったものの、何もすることがない。それで、暇でぶらぶら廊下を歩いていたところだ。
「ねぇ、ちょっと! そこの、おと……カイ・ユーストマ!」
 びっくりした。
 いきなり名前を大声で呼ばれたからである。振り向いて誰なのかを確認する。
 アカネちゃんたちと同じ生徒で、でも、お胸のほうは、小さいながらに発展してある。
 肩までストレートに伸びた金色の髪の毛、くりくりした青い瞳、食べているのかと思うほど華奢でしなやかな体型。
 見覚えがある子だ。
 分かった。小夏先輩と一緒にいたAAクラスのシモン・デ・アスパラガス。〝終末の書〟を探しに島を出るところ一回しか顔を見たことない。それでも、何故か印象に残っている。
「な、何?」 
 恐る恐る訊くと、相手はむっとした。
「何度も声かけたのに」
「ごめん。気が付かなかった」 
 シモンちゃんは、トコトコやってきた。近くに寄ると、美しさに圧倒される。まだ小学生なのに、大人のような艶めかしい色気を発してる。
 シモンちゃんは、上目遣いでこちらをまじまじと見てくる。何故か怪訝な表情で。
 くりくりした目で、そんなまじまじ見つめられると、発狂しそうだ。何だ、俺何かしたか? シモンちゃんは、怪訝な表情をさらに濃ゆくさせ、怒っている表情に。
「やっぱりだ。何なの? この胸の高鳴り。ドキドキしてる。私がおかしいの?」
 胸に手を当て、切ない表情。
 か弱い声でボソボソ言ってるので、聞こえなかった。シモンちゃんは、さらに眉間に皺を寄せた。きれいな顔だちに皺が入る。

 ふと気づいた。シモンちゃんの目、アクアマリンみたいな青い瞳だ。夢に出てくる「彼女」と姿が一致する。偶然だろうか。

「何か、あった?」
 恐る恐る訊いてみる。シモンちゃんは、プイと顔をそらした。
「なんでも? それより、小夏……先生知らない? また、勉強みてほしくて、小夏センセを探しているんだけど、見当たらないの」
 俺は頭をひねった。
 朝起きて小夏先輩と遭遇したことはない。今もそうだ。廊下をぶらぶら歩いてても、ばったりすれ違うことはなかった。
「会ってないな。一緒に探そうか?」
 シモンちゃんには即答で断られた。ピシッと背筋を伸ばし、凛とした佇まい。やっぱり。大人びているなぁ。俺がこの子と同じ年頃のときは、はしゃぎ回って後先考えてなかった。
 シモンちゃんはまだ、十二歳なのにこの冷静さと落ち着きさ、あの頃の俺とこの子がもし同学年だったら絶対近づかないタイプ。
「小夏は、約束破らない人なので待っていれば、絶対来ます。では、私はこれで。睨んですみませんでした」
 ペコリとあやまった。すごく素直な子だ。
「いや、別に、気にしてないし……本当に大丈夫? 探したほうがいいんじゃない?」
 俺の誘いにシモンちゃんは、落ち着いた風貌で「大丈夫です」と断った。なんか、ほんとに大人びているというか、俺、頼りにされてない。
 くるりと踵を返し、スタスタと去っていくシモンちゃん。あれがアカネちゃんたちの下の後輩と考えると感無量だ。
 すると、ピタリと足が止まった。くるりと振り向く。なんだ。何かいい忘れたことがあるのか。
 この世の穢れも知らない、純心な、大きな目を向けてくる。 
「ずっといい忘れてたけど、おかえりなさい。無事でよかった」
 心からほっとした表情。
 あの旅路を終え、学園中の先生から言われた一言だ。でも、生徒からは一言もない。そりゃそうだ。俺たちがこの島を出るのを知ってるのは、ごく一部しか知らないのだから。
 仲の良い美樹ちゃんや雨ちゃんさえ知らない。言ってないからな。
 その一部の中に、シモンちゃんが存在していたことに驚いた。そういえば、見送りのときに小夏先輩の横にいたから、それでなんとなく察しがついたのかも。
 目を細めて笑う少女に俺は、笑みを返した。
「ただいま」
 シモンちゃんは、満足したように去っていった。なんでだろう。もうちょっと話したい。なんか、体中がウズウズして自分でも何でなのか分からない。

 シモンちゃんを引き止めようと手を伸ばした。その時、背後から脊椎を折るかのような勢いでタックルされた。
「ゔっが!!」
 勢いに押され、俺は地面にキスをした。衝撃と背中の痛み、あとは怒りがめばえた。どこのどいつだ。無鉄砲なやつを後ろから背後するたぁ、いい度胸してるじゃねぇか。
 その人物は、俺が地面にひれ伏してても、その上をまだ乗っかかてる。
 まだ動かせるギリギリの範囲内で見上げた。ニアだった。この野郎、無鉄砲のやつをタックルするのが趣味なのか。
「誰誰誰誰誰!? あのちょーう美少女っ!! ニアという可愛い女の子がいながら、浮気はだめだよっ!!」
 キャンキャン吠えた。
 いや、そんなの知らないし。ニアは俺の何なんだ。ニアは俺の上に乗っかっていることに一㍉も罪悪感など感じていない様子。
 俺はふん、と上体を起き、ニアを払いのけた。ニアは、でんぐり返ししてペチャと地面に尻をつく。
 すると、一部始終を見ていた牡丹先生と小夏先輩が駆け寄ってきた。
「本当ですよ!! シモンちゃんと何話してたの!?」
 小夏先輩が恐ろしい形相で怒鳴る。どんな、て普通のことだよ。当たり障りない、特に隠し事もない。
「そういえば。さっき、シモンちゃん小夏先輩のこと探してましたよ?」
 小夏先輩は、恐ろしい形相からするすると元に戻っていく。
「え? 本当?」
「勉強を見てもらいたいって」
 小夏先輩は、ぱあと輝いてパタパタと走っていった。シモンちゃんが去っていった方向に。残るは牡丹先生なわけだが、牡丹先生は尻もちついているニアに耳打ちしている。
「いきなり走りだしたと思えば、何? 嫉妬?」
「嫉妬じゃないもん!」
 ニヤニヤ牡丹先生が笑っている。不気味だ。
 二人は、話に夢中で俺に関心がない。逃げるなら今だ。足音忍ばせその場から去った。


 何もないと思っていたが、割とあるようだ。予測がつかないことが。今日はとりたてそれが多い日なのだろう。ニアのタックル受けて、少し休もうと部屋に戻った。
 部屋の中には、ジン以外に複数の人影が。
「あ、カイくーん! お久~!!」
「来たか……」  
「ちっ、野郎かよ」
「遅いじゃない」
「ババ抜きしてっから、入れよ」
 美樹ちゃん雨ちゃん、スタンリーくんやミラノくん、アカネちゃんとジン、それになんと、ユーコミスがいた。
 みんなして輪になってトランプゲームをしている。六畳の部屋が余計に狭く感じた。みんなのひだまりのような和やかさと笑顔に、自然と足は部屋の中に。
 俺も加わり、ババ抜き開始。トランプカードとか運ゲーに弱いアカネちゃんから始まる。アカネちゃんからジン、美樹ちゃんとなり、俺は隣にいるユーコミスのカードを取る。
 しかし、難しい。こいつ、何考えてるか全く分からん無表情じゃねぇか。
 相手の表情を見て取ろうとしても、こいつ、全く表情に出さない。というか、表情筋動かしてない。ポーカーフェイスにも程があるぞ。
「夢は見つかったか?」
 カードを引き抜く際に、ユーコミスに訊かれた。俺は、しばらく考えて「まだ」と答える。ユーコミスは「そうか」と静かに言ってカードをシャッフルした。
 引いたカードは、ハートの四。
 合わせるカードなしで一枚追加。
 そのカードをまじまじ眺め、もう一度、夢について考えた。
 ゲームは続き、結局負けたのはアカネちゃん。やっぱり運ゲーに弱いな。アカネちゃんは負けず嫌いで「もう一回もう一回」と強請る。
 アカネちゃんが負けるたびにゲームは続く。これでもかと。
 アカネちゃんがやっと一勝したら、即解散になった。みんなヘトヘトなのに、アカネちゃんだけは満足げ。まぁ、幸せなようで何よりだ。


 数ヶ月経つと、やっと回復したマモルが島を出る。虚空島にずっといたから、もうここの存在だと勘違いしてたが、マモルには、帰る場所があったんだ。
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