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Ⅶ 終末から明日~24歳~
第124話 夢
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全校舎を修復し、生徒たちの強制睡眠状態を解いた。時間が動き出したように、また生徒たちが学園内を走り回っている。
当然、学園が襲われた記憶はない。本当にこのシステムを見ると、残酷だが、年端もいかない少年少女たちには記憶があるこそが、残酷だ。
この考え、まだシステムを恨んでいた俺に言ったらどう反応するだろうか。他人の記憶を操作して操っていることに、憤りを感じていた俺が、今やそのシステムを支持している。
先生たちがこのシステムを支持する理由も、なんとなく分かった。本当に、いつまでもあの頃の若い考えじゃいられない。
そうして、もう一つの転機が訪れた。
ルイちゃんがリゼと一緒にこの島から出る。リゼは、アカネちゃんみたいに記憶の継承があって、恋仲のルイを覚えていたらしい。
でも、それは学園内ではダブーで。
「もう少し、ゆっくりしたかったけど、ごめんね」
ルイちゃんが切なく言った。
場所は、舟がとまった堤防。みんな、ルイちゃんと別れをするためにここにいる。虚空島へやっと帰れて、少しじか時間経っていない。
その間に、リゼと再会、荷造り、そしてここにいる。
「ほんとに出なきゃだめなの?」
アカネちゃんが涙まじりに言った。ルイちゃんの手をぎゅと握る。その手は、微かに震えていた。
ルイちゃんは、うるっと目を潤った。アカネちゃんの手を握り返し、ポツリと昔話を始めた。
「無効の邪鬼の体内のとき、言ったじゃん? 好きな人と島を出て幸せになりたいって、その夢を、今だから叶えたいの。生徒と教師の間柄だから逃げてるんじゃない。私たち、今度こそ、幸せになりたいの」
アカネちゃんの手を離し、隣にいたリゼの手を掴む。白銀の髪の毛に、スラリと背が高く、何でも着こなせる体型。優しい顔だちした男性だ。
全然知らない。けど、この人がDクラスの担任だった人。
ルイちゃんの顔は、その男性と一緒にいるだけで幸せに満ちた表情をしていた。リゼのほうも。
アカネちゃんは、寂しい表情するも、分かったと呟いた。
「絶対、文通するから。泣かないで」
アカネちゃんの目袋にたまった大粒の涙を、指で拭った。
「泣いてない。約束よ。忘れないから」
アカネちゃんはルイちゃんの前に小指を突き出した。その小指をまじまじ見つめ、ニッコリ笑って小指を重ねた。
手を離したルイちゃんは、次にジンのほうに顔を向けた。
「アカネちゃんのこと、幸せにしてね。絶対だよ」
「そんなの、当たり前」
ジンはさも当然のように宣言した。堂々とした態度に、ルイちゃんはふふふと笑った。そして最後に俺に顔を向けた。
「カイくんも、幸せになってほしいな。夢について、あのときはないって宣言してたけど、今はどうなの?」
無効の邪鬼のとき、体内にいたとき、そんな明るい話をしたけ。誰かがした。その誰かを覚えていない。
その時俺は、こんな状況で夢について語ってる場合か、て夢について深く言わなかった。いや、そもそも夢なんてなかった。こうしたい、あぁなりたい、なんて将来を見据えた考え一つもしてこなかった。
空っぽの人間だな。
改めて自分がクローンであると理解する。
会話が途切れたことに、ルイちゃんは察してくれた。
「大丈夫だよ。そのうち、壮大な夢を見つけるよ。カイくんなら、絶対に夢を見つけて叶えてね」
曖昧な返事で返した。
そして、その一つ一つの言葉を最後にルイはリゼと共に島を出た。
陽の光が明るく照らす旅路。青く透き通った海面が、二人を乗せた舟を穏やかな波で歓迎していた。
ルイちゃんは舟から身を乗り出し、いつまでいつまでこちらに手を振った。アカネちゃんは、大粒の涙を飛沫させ、ぶんぶん手を振る。
船の姿は、どんどん小さくなっていく。舟を漕ぐ波の音も聞こえない。どんどん小さくなり、ついには見えなくなった。アカネちゃんは、ぐすんぐすん泣きじゃくり、ジンも鼻を啜った。
ルイちゃんは、好きな人と共にこれから航海していく。とても幸せに満ちた図だ。誰も反対しなかった。でも、見送ったあと急にこみ上げてくる寂しさに、胸が締め付けられた。
それは、海を出たルイちゃんのほうも同じで。
俺は一人でルイちゃんに返せれなかった最後の質問の「夢」についてひたすら考えた。無効の邪鬼の体内のとき、どうして夢について語ったのか。ふと思い出した。
『島を出て、旅をして、自分が見てきてものを教えるの、そんな教師になりたいな』
そう言った誰かは知らない。そう言った誰かは、その夢を叶えたのだろうか。教師になるのは、立派なことだ。でも、その人物の記憶がないてことは、その誰かは、立派な夢を叶えずして死んだ。
俺は、夢についてしばらく考えることにした。
ルイちゃんのお別れが済、今度は団体たちとのお別れだ。ユーコミスとニアが学園に残り、他の団体は散り散りに別れた。この二人がここに残るのは意外だった。
何か、重要なことでも起きたのか。
心配するも、二人はただこの学園をしばらく様子見するらしい。そういえば、ユーコミスは紛れもなく元AAクラス。学園最高峰のトップ。
そのトップが、島に留まらず冒険家になったなんて。何か理由でもあるのか。理由なんて聞いてみた。
ユーコミスは、キョトンとし、何を聞かれたのか一瞬で理解出来ずに首をかしげてる。こいつ、普段は大真面目なのに自分のことになると天然になるな。タウラスさんも天然部分があるし、初期生あたりは何なんだ?
ユーコミスはポツリポツリ教えてくれた。
「夢だった、島を出て、いろんな景色を見ること。貴様は? 舟を出ていろんな旅をしたのだろう?」
「俺は」
ただ、外の景色を見たかっただけ。ジンと約束していただけで、それは夢じゃない。
ルイちゃんが最後に俺にかけてくれた言葉がぐるぐると渦巻いている。
ユーコミスは、まだ首をかしげて不思議そうに眺めた。
「夢は、努力によって掴むものだ。焦って見つけるものじゃない」
すごい正論だ。
焦って探すものじゃない。ゆっくり見つけよう、と言ってくれてる。その言葉は、ありがたく受け止めた。
すると、俺たちの間にニアが割って入ってきた。
「うわあああん!! リゼきゅん島出たのぉ!? 信じられない! 女と一緒なの!? 彼女をずぅっとつくらなかったあのリゼきゅんがぁ!?」
ニアはギャンギャン騒いだ。あの二人はもうとっくに島を出て幸せにいるのに。
甲高いキンキン声で叫ぶニア。
ユーコミスは騒ぐニアをなだめようと抑えるも、歯止めがきかない。こんなときこそ、牡丹先生、て今いない。
ちょうど懐においてあったバナナで助かった。バナナを与えると、何事もなかったようにバナナにむしゃぶり黙り込んだ。
§
数時間後、重傷負ったマモルが目を覚めた。後遺症もないし、食べるものも食べて元気いっぱいだ。ここまで回復できたのは、すぐに応急措置したアカネちゃんのおかげらしい。
適切な判断力で血管と血管を結び、神経を継ぎ合わせた。アカネちゃんは、すごいな。あの状況で適切な判断能力と呪怨を発揮させるなんて、中々出来ることじゃない。
マモルも、リゼとルイちゃんが島を出たことに嘆いた。
「あのカッコイイ子がねぇ。特有の女の子と一緒に。はぁ~どうしてあたしじゃないのかしら?」
そう嘆きながら、真っ赤なリンゴを豪快に齧る。マモルもしばらくは、安静にしつつ元の島に帰るそうだ。
その間、虚空島で厄介になる。
マモルは、よく島にいる動物たちのことを話してくれた。嬉しそうに。
硬い甲冑を背中に背負ってノロノロ動く「亀」という動物。ノロノロ動くからほっとけなくて、いつも世話をしている。でも、亀という動物は、逞しくも自分で餌を取り自分で寝床を造るので、マモルは、それ程心配してない。
でも、動物の話になるとやたらと念仏のように長い。動物のこと、好きなんだな。
§
虚空島を覆う結界を抜け出し、結界の外側でアルカ理事長は、ただ一人で夜景を眺めていた。月光が闇に染まった世界を艷やかに光らせていた。月の形が、どんどん満月になっている。夜空に輝くキラキラ星。
無数の星が漆黒の夜空に儚く輝いていた。潮の風がなびく。ずっと当たっていると、凍えそうだ。
「姉さん、わたし、悪魔を倒したよ」
返してくれる者は誰もいない。
潮風になびく髪の毛を耳にかけ、目を閉じた。瞼の裏に思い浮かべるのは、まだ元気で明るかった姉の姿。
その姿で、これを報告したらどう反応するだろうか。「頑張ったわね!」かもしれない。もう、数え切れない年月が過ぎようと、そんな労りの言葉をもらったことはない。
別に、その言葉が欲しいわけじゃない。
また、あの頃のように元気な歩果姉さんが、笑顔でその言葉をかけてくれることを、夢見てた。
そんなの、二度と起きないけど。
目をゆっくり開け、視界に広がるのは夜の海。油を塗ったような海面に、点々と煌めく星々が映っていた。
打ちひしがれる波の音しかしない。だんだん、風が冷たくなってきた。そろそろ戻ろうと、踵を返すと
『頑張ったね』
振り返ると、誰もいない。
その声は、歩果姉さんだった。優しくて、温かくて、元気だったあの頃の。見ていたのだろう。空の上で。ずっと。無数にある星の中に、きっと、歩果姉さんがいる。
ふっと笑って、学園に戻った。
当然、学園が襲われた記憶はない。本当にこのシステムを見ると、残酷だが、年端もいかない少年少女たちには記憶があるこそが、残酷だ。
この考え、まだシステムを恨んでいた俺に言ったらどう反応するだろうか。他人の記憶を操作して操っていることに、憤りを感じていた俺が、今やそのシステムを支持している。
先生たちがこのシステムを支持する理由も、なんとなく分かった。本当に、いつまでもあの頃の若い考えじゃいられない。
そうして、もう一つの転機が訪れた。
ルイちゃんがリゼと一緒にこの島から出る。リゼは、アカネちゃんみたいに記憶の継承があって、恋仲のルイを覚えていたらしい。
でも、それは学園内ではダブーで。
「もう少し、ゆっくりしたかったけど、ごめんね」
ルイちゃんが切なく言った。
場所は、舟がとまった堤防。みんな、ルイちゃんと別れをするためにここにいる。虚空島へやっと帰れて、少しじか時間経っていない。
その間に、リゼと再会、荷造り、そしてここにいる。
「ほんとに出なきゃだめなの?」
アカネちゃんが涙まじりに言った。ルイちゃんの手をぎゅと握る。その手は、微かに震えていた。
ルイちゃんは、うるっと目を潤った。アカネちゃんの手を握り返し、ポツリと昔話を始めた。
「無効の邪鬼の体内のとき、言ったじゃん? 好きな人と島を出て幸せになりたいって、その夢を、今だから叶えたいの。生徒と教師の間柄だから逃げてるんじゃない。私たち、今度こそ、幸せになりたいの」
アカネちゃんの手を離し、隣にいたリゼの手を掴む。白銀の髪の毛に、スラリと背が高く、何でも着こなせる体型。優しい顔だちした男性だ。
全然知らない。けど、この人がDクラスの担任だった人。
ルイちゃんの顔は、その男性と一緒にいるだけで幸せに満ちた表情をしていた。リゼのほうも。
アカネちゃんは、寂しい表情するも、分かったと呟いた。
「絶対、文通するから。泣かないで」
アカネちゃんの目袋にたまった大粒の涙を、指で拭った。
「泣いてない。約束よ。忘れないから」
アカネちゃんはルイちゃんの前に小指を突き出した。その小指をまじまじ見つめ、ニッコリ笑って小指を重ねた。
手を離したルイちゃんは、次にジンのほうに顔を向けた。
「アカネちゃんのこと、幸せにしてね。絶対だよ」
「そんなの、当たり前」
ジンはさも当然のように宣言した。堂々とした態度に、ルイちゃんはふふふと笑った。そして最後に俺に顔を向けた。
「カイくんも、幸せになってほしいな。夢について、あのときはないって宣言してたけど、今はどうなの?」
無効の邪鬼のとき、体内にいたとき、そんな明るい話をしたけ。誰かがした。その誰かを覚えていない。
その時俺は、こんな状況で夢について語ってる場合か、て夢について深く言わなかった。いや、そもそも夢なんてなかった。こうしたい、あぁなりたい、なんて将来を見据えた考え一つもしてこなかった。
空っぽの人間だな。
改めて自分がクローンであると理解する。
会話が途切れたことに、ルイちゃんは察してくれた。
「大丈夫だよ。そのうち、壮大な夢を見つけるよ。カイくんなら、絶対に夢を見つけて叶えてね」
曖昧な返事で返した。
そして、その一つ一つの言葉を最後にルイはリゼと共に島を出た。
陽の光が明るく照らす旅路。青く透き通った海面が、二人を乗せた舟を穏やかな波で歓迎していた。
ルイちゃんは舟から身を乗り出し、いつまでいつまでこちらに手を振った。アカネちゃんは、大粒の涙を飛沫させ、ぶんぶん手を振る。
船の姿は、どんどん小さくなっていく。舟を漕ぐ波の音も聞こえない。どんどん小さくなり、ついには見えなくなった。アカネちゃんは、ぐすんぐすん泣きじゃくり、ジンも鼻を啜った。
ルイちゃんは、好きな人と共にこれから航海していく。とても幸せに満ちた図だ。誰も反対しなかった。でも、見送ったあと急にこみ上げてくる寂しさに、胸が締め付けられた。
それは、海を出たルイちゃんのほうも同じで。
俺は一人でルイちゃんに返せれなかった最後の質問の「夢」についてひたすら考えた。無効の邪鬼の体内のとき、どうして夢について語ったのか。ふと思い出した。
『島を出て、旅をして、自分が見てきてものを教えるの、そんな教師になりたいな』
そう言った誰かは知らない。そう言った誰かは、その夢を叶えたのだろうか。教師になるのは、立派なことだ。でも、その人物の記憶がないてことは、その誰かは、立派な夢を叶えずして死んだ。
俺は、夢についてしばらく考えることにした。
ルイちゃんのお別れが済、今度は団体たちとのお別れだ。ユーコミスとニアが学園に残り、他の団体は散り散りに別れた。この二人がここに残るのは意外だった。
何か、重要なことでも起きたのか。
心配するも、二人はただこの学園をしばらく様子見するらしい。そういえば、ユーコミスは紛れもなく元AAクラス。学園最高峰のトップ。
そのトップが、島に留まらず冒険家になったなんて。何か理由でもあるのか。理由なんて聞いてみた。
ユーコミスは、キョトンとし、何を聞かれたのか一瞬で理解出来ずに首をかしげてる。こいつ、普段は大真面目なのに自分のことになると天然になるな。タウラスさんも天然部分があるし、初期生あたりは何なんだ?
ユーコミスはポツリポツリ教えてくれた。
「夢だった、島を出て、いろんな景色を見ること。貴様は? 舟を出ていろんな旅をしたのだろう?」
「俺は」
ただ、外の景色を見たかっただけ。ジンと約束していただけで、それは夢じゃない。
ルイちゃんが最後に俺にかけてくれた言葉がぐるぐると渦巻いている。
ユーコミスは、まだ首をかしげて不思議そうに眺めた。
「夢は、努力によって掴むものだ。焦って見つけるものじゃない」
すごい正論だ。
焦って探すものじゃない。ゆっくり見つけよう、と言ってくれてる。その言葉は、ありがたく受け止めた。
すると、俺たちの間にニアが割って入ってきた。
「うわあああん!! リゼきゅん島出たのぉ!? 信じられない! 女と一緒なの!? 彼女をずぅっとつくらなかったあのリゼきゅんがぁ!?」
ニアはギャンギャン騒いだ。あの二人はもうとっくに島を出て幸せにいるのに。
甲高いキンキン声で叫ぶニア。
ユーコミスは騒ぐニアをなだめようと抑えるも、歯止めがきかない。こんなときこそ、牡丹先生、て今いない。
ちょうど懐においてあったバナナで助かった。バナナを与えると、何事もなかったようにバナナにむしゃぶり黙り込んだ。
§
数時間後、重傷負ったマモルが目を覚めた。後遺症もないし、食べるものも食べて元気いっぱいだ。ここまで回復できたのは、すぐに応急措置したアカネちゃんのおかげらしい。
適切な判断力で血管と血管を結び、神経を継ぎ合わせた。アカネちゃんは、すごいな。あの状況で適切な判断能力と呪怨を発揮させるなんて、中々出来ることじゃない。
マモルも、リゼとルイちゃんが島を出たことに嘆いた。
「あのカッコイイ子がねぇ。特有の女の子と一緒に。はぁ~どうしてあたしじゃないのかしら?」
そう嘆きながら、真っ赤なリンゴを豪快に齧る。マモルもしばらくは、安静にしつつ元の島に帰るそうだ。
その間、虚空島で厄介になる。
マモルは、よく島にいる動物たちのことを話してくれた。嬉しそうに。
硬い甲冑を背中に背負ってノロノロ動く「亀」という動物。ノロノロ動くからほっとけなくて、いつも世話をしている。でも、亀という動物は、逞しくも自分で餌を取り自分で寝床を造るので、マモルは、それ程心配してない。
でも、動物の話になるとやたらと念仏のように長い。動物のこと、好きなんだな。
§
虚空島を覆う結界を抜け出し、結界の外側でアルカ理事長は、ただ一人で夜景を眺めていた。月光が闇に染まった世界を艷やかに光らせていた。月の形が、どんどん満月になっている。夜空に輝くキラキラ星。
無数の星が漆黒の夜空に儚く輝いていた。潮の風がなびく。ずっと当たっていると、凍えそうだ。
「姉さん、わたし、悪魔を倒したよ」
返してくれる者は誰もいない。
潮風になびく髪の毛を耳にかけ、目を閉じた。瞼の裏に思い浮かべるのは、まだ元気で明るかった姉の姿。
その姿で、これを報告したらどう反応するだろうか。「頑張ったわね!」かもしれない。もう、数え切れない年月が過ぎようと、そんな労りの言葉をもらったことはない。
別に、その言葉が欲しいわけじゃない。
また、あの頃のように元気な歩果姉さんが、笑顔でその言葉をかけてくれることを、夢見てた。
そんなの、二度と起きないけど。
目をゆっくり開け、視界に広がるのは夜の海。油を塗ったような海面に、点々と煌めく星々が映っていた。
打ちひしがれる波の音しかしない。だんだん、風が冷たくなってきた。そろそろ戻ろうと、踵を返すと
『頑張ったね』
振り返ると、誰もいない。
その声は、歩果姉さんだった。優しくて、温かくて、元気だったあの頃の。見ていたのだろう。空の上で。ずっと。無数にある星の中に、きっと、歩果姉さんがいる。
ふっと笑って、学園に戻った。
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