この虚空の地で

ハコニワ

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Ⅶ 終末から明日~24歳~ 

第122話 一緒に帰ろう

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 アカネちゃん、ルイちゃんと感動の再会を果たした俺たち。ジンはアカネちゃんを抱擁し、ニアは自身の人形が破壊されたことにボロボロ泣いていた。
 まだ横になっていないといけないのに、目が覚めてさっそく起き上がったユーコミス。島にいる仲間を呼んで降伏を出した。
 島では海岸にそって大砲がこちらを向いていた。全然気づかなかった。ニアからはすっかり元のユーちゃんだ、という。
 降伏を出したら、島から複数のマントを被った奴らがぞろぞろ現れた。黒魔術をやるような不気味なかっこう。
 ユーコミスは、そいつらの前に立った。俺に手を伸ばす。
「すまなかった。自分でも歯止めがきかなくて、誰かに操られてて、きみたちを傷つけた。本当にすまなかった」
 俺は差し伸ばした手を掴んだ。
「アルカ理事長から頼まれたんだ。〝ユーコミスも助けろ〟て」
「理事長が?」
 ユーコミスは目を見開かせた。そして、肩を緩ませる。
「お礼といっちゃなんだが、学園まで送ろう」
「助かる」
 ニアとアルカ理事長の言ったとおりかもしれない。律儀で優しい。俺たちの横からニアが割って入ってきた。
「ユーちゃあああんっ! ニア頑張ったよお! 褒めて褒めて!」
 ユーコミスに抱きつき、ニアはぴょんぴょん跳ねた。こちらも感動の再会を果たし、周りは感動の渦を巻いていた。

 ユーコミスたちは、俺たちと一緒に学園に行く。アルカ理事長と、その他迷惑かけた先生たちにも謝罪しに。ニアは戻りたくないとわんわん叫ぶが、牡丹先生に首根っこ捕まれ「ひぇぇ」と魂を抜かれる。

 やっと帰れる。〝終末の書〟はなくなったけど、世界が滅亡することも、破滅することもないし、平和だ。最悪な出来事も起きなくて、みんなと再会した。
 帰りは、アカネちゃんとルイちゃん、団体たちと一緒に虚空島へと帰る。

 舟は全部で四つ。一番先頭は俺とジンとアカネちゃんとルイちゃんを乗せている。アカネちゃんとジンは、いつまでもくっついて、頭上に照らしている太陽より暑苦しい。
 二人とも、酷いことされてなくて良かった。
 アカネちゃんとジンがイチャイチャしている横で、ルイちゃんは黙り込くていた。同じ船内のこの暑苦しいイチャつきを見て、暗い表情。
 変なものでも食べたのか。
 もしくは、船酔いか。
「どうした?」
 訊くと、ルイちゃんはうつむいたままポツリと語った。
「思い出したの……記憶」
 満杯島は記憶が蘇る特殊な島。そんなところに一日もいれば記憶が蘇ることは大いにあるだろう。ルイが蘇った記憶とは。
「リゼ先生。とても、大切な記憶だった」
「リゼ……?」
 オウム返しに言ってみた。
「私たちDクラスの担任だった人だよ。私の、せいで、邪鬼になってしまった」  
 Dクラスの担任は、ヨモツ先生だった。元々はBクラスの担任だった人。俺たちが脱走したせいで、責任としてDクラスの担任を受け持った。
 「リゼ」なんて名前、初めて聞いた。
 ルイからその人物の話しを切り出したとき、妙な空間になった。アカネちゃんと牡丹先生が深刻な表情。空気が一瞬で氷のように冷めた。
 なんだ。俺、変なこと言ったか?
 嵐のような静けさだ。「リゼ」の名前を最初にあげたルイちゃんは、「学園に戻ったらまた話すね」といつになく元気に言った。

 満杯島から虚空島までの帰路は、半日かかった。最も負傷したマモルは、アカネちゃんの呪怨で割と回復に差し掛かり、着いたらすぐに保健医に見てもらった。
 ニアとユーコミス、その他率いる仲間たちは、学園にいる先生一人一人に謝罪をし、最後にアルカ理事長と対面した。
 アルカ理事長は、あっさりと許した。ユーコミスが「すいません」の「す」を言う前にアルカ理事長は、さくっと。
 そのときのアルカ理事長は、二十代後半ぐらいの成熟した女性の姿だった。肩まであるショートカットの黒髪。金色の瞳が月光のように透明に光っている。
 ついその瞳に見惚れてしまいそうだ。
 
 牡丹先生みたいに白衣を着て、隙間から覗く色気あるフェロモンは、見る人を惑わす。
 俺とユーコミス、ニアの三人は理事長室に。相変わらず広い場所、天井まである窓は室内を神々しく纏っていた。
 理事長は机がある三つのうちの一つのソファーに腰掛けていた。
「理事長、お久しぶりです」
「ユーコミスもな」
 アルカ理事長は、野菜ジュースをチューと飲みながら、飄々と笑った。ニアは、ユーコミスの影に隠れ、ジトと睨んでいる。
 俺たち三人も、ソファーに座った。ふかふかで体が沈む。
「ご迷惑おかけしました。悪魔に心を支配されていました。不甲斐ない」
「うむうむ」
 野菜ジュースを飲みながら、首を頷く。ニアは、むっとした。
「ユーちゃん、この人、聞いてないよ!」
「心外じゃな。ちゃんと聞いておるわ。ドジでビッチなお主のお話しだったら何も聞かんぞぃ」
 ニアはムキーと猿のようにむっとした。アルカ理事長とニアは、どうやらそれ程仲がよろしくないようだ。ニアがビクビクしているところを見ると、昔、牡丹先生みたいに虐めていた可能性大だな。

 それにしても、大人びたこの姿は初めて見たな。いつもはダボダボのセーターを着た制服を着ていて、学生のような風貌。理事長という風格も威厳も感じない。
 なのに、大人びた姿になると一変。理事長という風格と威厳を放してある。なんとなく、近づきにくい。本当にアルカ理事長なのか。
 二人のやり取りをそばから見ていたら、ふいに、アルカ理事長が俺に顔を向けた。
「人質だけじゃなく、見事ユーコミスも救った。お主は本当にすごい奴じゃのお。見直したわい」
 ニッコリと優しく笑った。
 滅多に褒めないアルカ理事長が褒めると、体全身がこしょ悪い。ムズムズする。
「でも〝終末の書〟が悪魔に……」
 ユーコミスが不安げに呟いた。
 アルカ理事長は、手にしていた野菜ジュースを机に置いた。にんまりと笑い、ふんぞり返った。
「大丈夫じゃ。〝終末の書〟はここにある」
 何処に隠していたのか、懐から一冊の〝終末の書〟を取り出した。机の真ん中に置く。俺たちは目を疑った。バックにも入ってなかったものが、アルカ理事長の手の中に。まるで、マジックのようだ。
 純白な白の表紙。どこも汚れてないし、傷ついてない。一時はほっとした。そして、次に疑問が浮かんだ。
「どうしてアルカ理事長のもとに?」
「取り返したからじゃ」
 その言葉の意味をトントンと理解すると、アルカ理事長があの悪魔を倒したと理解した。思わず身を前に乗り出した。
「悪魔を!? どうやって!?」
「まあ落ち着け。たがら、その姿なんですか。強大で最も呪われた呪怨を使ったから、元の姿に……」
 ユーコミスは、しげしげと納得した。

 今気づいたが、ユーコミスもアルカ理事長の過去を知っているんだな。悪魔とか、そんな言葉、普段の日常で使わない。ニアなんて、ハテナマークを飛ばして、もう頭がショートしている。

 待て。ユーコミスは今なんて言った。アルカ理事長の元の姿が、これ、なのか? こんな大人びた姿が、普段子どもの姿を仮取っていたのか。アルカ理事長は、しまったという顔して、しっと人差し指を唇につけた。
 ユーコミスは首をかしげて、ふと俺に振り向くとなるほどと納得した。
 アルカ理事長の新の姿を知ってしまった。こんな形で。初めて知った。
 アルカ理事長は、蓄積された強大な呪怨を解き放った代償に、元の姿になっている。
 一ヶ月か、早ければ一週間には普通に呪怨が使える。その間、呪怨も全く何もできないただの人間。『不老不死』という呪怨だけは継続中だが。だが、それほどの代償を出すほどの相手。

 結局、〝終末の書〟とは何だったのか、最後まで分からなかったな。理事長室を出て、ユーコミスもニアもいないときに密かに教えてくれた。
「破滅をもたらすのは、本当じゃ。あれの文字をワシ以外が唱えたら、世界は崩壊する。だから、白に塗り替えたのじゃ」
 10冊分の本は一つとなり、アルカ理事長の手の中。そういうことか。術者じゃない者が呪文を唱えることが、破滅をもたらす。
 誰も他の呪怨の呪文を唱えることはしない。暗黙のルールだ。

§

 牡丹先生とルイちゃんは、保管庫の下の地下に行っていた。ルイちゃんが言っていた「リゼ」という人物に会いに。
 牡丹はちょくちょくルイに何度も「本当に後悔しない?」と訊ねた。そのたびにルイは「覚悟をしてきてます」と強く言う。
 保管庫の下の地下に潜り、薄暗い場所へ。炎の松明が辺りを明るくしても、遠くの景色は暗く、まるで、化物の口に進んでいるようだ。
 天井、壁、床、隈なく管が這って、カプセルに繋がっている。

 回復呪怨の液体に沈む男性に足が止まった。
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