この虚空の地で

ハコニワ

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Ⅶ 終末から明日~24歳~ 

第102話 冬青の過去③

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 中学を卒業する頃、歩果姉さんには付き合っている人がいると気づいた。たまたま、帰りが遅いときに人気ない路上で、男の人と一緒に歩いてたのを発見した。
 空が暗くなっているにも関わらず、ゆっくり歩いて、お互い笑いあっていた。仲良しそうに。きになって歩果姉さんに聞いてみると、去年の夏季から交際していると、告白してくれた。
 去年の夏季は、兄の結婚があった。歩果姉さんは、あぁ切なく言った理由はこれでか。
 誰かと付き合っている、てことは内緒。歩果姉さんと口外しないと、約束した。

 一族は、他所に異能力があると悟られたくない。そのため、不順異性行為を禁じている。ただ付き合っている、という仲でも厳しく処分される。性行為だと、さらに処分が重い。
 もちろん、歩果姉さんは性行為はやってないよね?
 歩果姉さんは、目を伏せた。「このことは、絶対内緒よ。ハリ一万本だから」と忠告された。

 でも、悪魔と接触していると気づいたときも早く、誰かと交際していることに一族に早く気づかれた。
 姉には処分が下された。
 ワシはそのとき、学校で、たった一人の姉を守ることもできなかった。
 学校から帰ったとき、姉は人ではなかった。姿形は人であったも、精神が病み廃人と化していた。
「人としての尊厳は失われたが、肉体があります。歩果には、茂と結婚し子どもを生みなさい。男のほうは、一族が抹殺します」
 優しかった母が言った。
 姉にされた処分は酷いものだった。
 裸にされ、凶暴な野良犬に十時間獣姦じゅうかん。それを一族総出で傍観しているという、人として尊厳を失いさせ、身も心も壊された。
 母は「体がある」て言った。冷たく。自分の娘が犯されたのに。身も心もぐちゃぐちゃにされたんだよ。

 もう、喋ることもできない。声も出せない。自分では何一つ動けない、そんな廃人にさせたんだ。噎せ返るほど怒りが芽ばえた。
 たった一人の姉を、こんな目に合わせ、且つ冷たい表情。これ程までに怒りが芽ばえたことはない。

 怒りが頂点にきたとき、因果律で一族を抹消しようとした。だが、一族もそれなりに強い。因果律操作もいれば、全知全能もいる。ワシが出来ることは、何もなかった。

 優しかった姉は、もう二度笑うこともできない。この頭を撫でることもできない。死んだようにベットにいる。ただ、息をしているだけ。

 人を好きになって何が悪い。何も悪いことしてないのに、姉はこうなってしまった。男と同時に姉も消えたことに、姉の友達と名乗る女性が訪ねてきた。

 噎せ返る暑さが過ぎた冬の時期だった。
 風が冷たくなり、毎日凍えそうな日々。その日は特に寒かった。その人は、玄関前で息を白くさせ姉のことを訪ねてきた。
 ワシは適当なことを言って、帰らせようとした。一族のこと、姉がされた恥辱を伏せると、凄い適当になるのだが、その女性は根掘り葉掘り聞かなかった。
「それじゃあ、最後に。これだけは歩果に言ってくれる? ずっと、待ってるからって」
 その人は、それだけ言って帰っていった。まるで、分かっているかのような素振り。でも、流石に姉は一族のことは公言はしてないと思う。勝手に思ってるけど。
 姉が横になってるベットに座った。何も言ってこない。微動だにしない。人形のよう。
「私だって、待ってるよ歩果姉さん」
 たとえ響かなくても、この言葉は、とうか届いてほしい。

 自分じゃトイレにもお風呂にも行けない歩果姉さんと婚約した茂兄は、毎日欠かさず歩果姉さんの心のケアをしていた。
「茂兄の能力、治癒でいいなぁ」
「お前のは、もんの凄いだろ。だからこの冴えない兄に分けてくれよ」
 茂兄は暴れ回る体育会系で、誰かの傷を癒やしたりとか心を落ち着かせたり、そんな地味な能力は合わないと昔から思っていた。
 けど、それが今、歩果姉さんにはいいと思っている。歩果姉さんのケアのため、茂兄と夫婦になるのかな。
 でも、生まれたときから過ごしてきた姉弟が、すぐに夫婦になるには気持ちの整理がいる。
 茂兄はどうなんだろう。年頃だし、歩果姉さんみたいに、隠れて付き合っている人とか、もしくは好きな人がいたり。
 でも茂兄は歩果姉さんと結婚することに、反対意見を述べなかった。一族が決めたことを従順に従う人でもあった人だから、単にしなかっただけかもしれない。
 でも、そうじゃなかったら? 考えることをやめた。とりあえず、ワシは二人の幸せを願った。
 二人がこのまま何事もなく、生涯を終えるのを、ワシは手助けした。一族に抹殺されるルート、姉が強盗犯に殺されるルート、そんな血みどろな道を全て消して、ただ一本の幸福の道だけを残した。
 あれ。どのルート辿っても、二人して同じ結末を辿っている。試しに他の人間の結末も視た。

 どのルート行っても、世界中の人間が同じ結末を辿っている。こんなのはありえない。一人ひとり、違う運命が託されてる。だけど、地球が崩壊する結末は絶対なのだ。
 一度幼いとき視たときは、違う。一度視たときは、戦争や飢饉、地球温暖化で一度は滅びかけたけど、千年も二千年も地球は続いている。果てしない未来に、ワシは耐えきれなくて最後の終着点は見なかった。
 
 早くない? 地球滅亡早くない? どうして? アネモネのせいで運命が変わりすぎでしょ。運命は絶対だ。たとえそれが操れるワシだとしても。

 この運命には逆らえない。人の運命を弄っても、こればかりは抗えなかった。自分自身の能力を模索するのではなく、悪魔を討つための方法を考えた。


 高校生になったころ、朝のテレビでこんなニュースが報じられた。ある国がクローンをつくることに成功と。
 そのニュースはそんなに大きく報じなかった。約三分で終わる内容だったが、ワシの心には大きな起点がさした。

 地球滅亡は待ったなし。悪魔を討つのはその先の数年後、数千年後だ。
 だからワシは、クローンをつくろうと思う。死んだら元もこうもないけど、クローンなら滅亡しても生きていられる。
 そうだ。ただの人間じゃない。ワシらと同じように能力があるもの。一族をクローンの実体実験にしてみよう。

 クローンは、性格、能力も引き継ぐのかを実験した。

 最初はうまくいかなった。想定済みだ。次に心臓の核となるものをいれた。花の微生物だ。花畑の庭の花をたくさん摘んで確保したもの。庭にこれだけの花があって良かった。 
 死んだ人間は動かない。
 だが、心臓に生きている微生物を入れてみた。ゾンビのように動いた。
 感情もないただのゾンビ。
 実験は続けた。この屍がいつか感情を持つまで。

 クローンをつくる実態実験を手伝ってくれたのは、茂兄と歩果姉さんのお友達。お友達の牡丹ぼたんさんは、こちらの事情を聞かずに、よう動いてくれた。

 茂兄は最初反対された。屍のクローンをつくるなんて人間の業じゃない、と怒鳴られたけどワシらの存在こそが業だ。いや、元々ワシらは人間じゃない。こんな力を持ってて、人のように暮らしても、人とは違う物を持っている限り、普通には暮らせないんだ。
 人間じゃないワシらが特に何をやっても、処されることはない。

 早くクローンをつくらねば。クローンが成功したとしても、能力が引き継いでいるか心配だ。
 クローンが成功したのは、実験を行って八ヶ月だった。最初は感情のないゾンビのように動いてたクローンが、感情や意識を芽生えさせたのは、それから一年もかかった。
 能力のほうは、引き継いでいた。最初の実体実験の一号は、兄だった。
 毒で死んだ兄。
 青い炎を操る炎系の能力者。

 まず実験一号に、指示したものを燃やせと命令した。だが、コントロールができなくて周囲を青い炎に包んだ。
 かつ、自分自身の能力に驚き自らも青い炎に取り囲まれた。実験一号は、死んだ。でもまだクローンがある。

 早く確実に成功しなければならない。ワシには時間がない。高校を出た直後に、婚約が決まることになる。一方的に。相手は叔母さんの息子だ。
 叔母さんの息子は、確かに優秀だ。外務省にも勤めて政治をうまく利用している。炎を操る能力は、亡くなった兄と似た能力。

 叔母さんは、氷を操る能力で炎系と氷系、そして、因果律を操作するワシを嫁にすれば、最強の子になる。
 ワシを求めて、一族が群がった。ワシ自身ではなく、ワシの能力目当て。これも決まっていることだ。
 だから早く、やり遂げなければならない。一刻も早く。
 因果律で操作するのは簡単だ。でも、どの道求婚される。相手は誰でも構わない。だって、その人を殺してすぐに実験するもの。
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