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Ⅲ 戦場に咲く可憐な花たち~16歳~
第50話 可愛い女の子
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アカネは自分が倒れたことに、一切の記憶がないらしい。しかも、この保管庫にきて自分たちが本当に邪鬼だという真実を知った辺りから、それからの記憶が飛んでいる。
「これも、強力な記憶操作?」
頭をおさえ、壁に背を預けた状態。
記憶が飛んでいることに、アカネは頭を強く押さえる。
踏み込んではいけない領域に達した罰なのか、この室内を早々に出た。願わくば、今後一切踏み入らないようにと願って。
行くときも同様、帰るときも誰にも見つからずサクサクと帰れた。もちろん、このことは他言無用。相手がどんな信頼しているやつでも、言ってはいけない。
§
自然と笑みがこぼれた。冷たかった心に温かな光が捧げ、満たさていく。心から踊りたくなる気分だ。
すっ、と目を開き、椅子から立ち上がった。こんな気分のときは音楽をかけたい。
すぐ近くの、蓄音機に手を伸ばした。金色のラッパ。何千年も時が経っているのに、この色はまだ現役バリバリに光り輝いている。
針を落とした。そして、ラッパから音楽が奏でる。繊細でせせらぎのように綺麗なメロディだ。
音楽にあわせて暫く辺りをまわっていると、コンコン、と扉から訪問者の合図が。音楽のボリュームが大きいだけに、微かに聞こえた。
その訪問者に「どうぞ」といつものように軽く言ってみると、扉が開いた。
その訪問者は、大音量の音楽で一人クルクルまわっているワシに、目をぱちくりさせていた。
「要件は?」
訊くと、訪問者は止めてた思考を再び再起するようにハッとさせた。訪問者は、Bクラス担任のヨモツ先生。
開けっ放しの扉を急いで閉じ、中に入ってきた。
「何者かが保管庫に侵入したもようです」
いかがなさいますか、と丁寧口調で訊ねるヨモツ先生に、ワシは、飄々と魅せた。
「保管庫など、あんなのただの薄っぺらい紙じゃ。誰に見られようと、あんなの記録でしかないのじゃ」
「せ、生徒に見られても?」
オズオズと彼は訊いてきた。
学園の全てが詰まっている保管庫を、生徒が侵入した、という驚愕な事件に顔を蒼白させている。
そんな彼をあしらうように、ワシは腰をくねらせ踊った。
「知っておろう。現に今、ワシはそれで喜んでいるのじゃ」
彼は、キョトンとした。
自分の周りをクルクルと踊り子のように踊る理事長に、信じられない表情を浮かす。
しかし、理事長は恍惚とした表情を浮かべた。
「あぁ、やっときたのじゃな。ワシの言うとおり、自分たちの足で真理を掴みに。嬉しいのおぉ。はて、ヨモツ先生も立っていないで一緒に踊ろんかの?」
手をヒョイと取られ、男を、しかも片手でくるりと反転させた。ヨモツ先生はあっけらかんとなり、踊りに身を投じる。
「ど、どうやって見て……」
「ふっ、簡単じゃ。憑依してこの目で見たのじゃ」
さも当たり前に言った理事長に戸惑いは隠せない。
侵入者の一人に憑依しておきながら、何故未然に防がないのか、この人はおかしな人だとヨモツ先生はため息をつく。
§
自分たちで見てきた真実にとても受け止めきれない様子で、まだ夢なのかもと、体がふわふわしている。
でも、これは現実でとても酷く残酷な、誰かに与えられた運命だ。
食堂で俺たちは解散した。
美樹は寮に帰って一人考えるんだと。ジンも寮に帰って寝るって言ってた。
アカネは倒れたからか、一人になりたいとルイを誘って何処かに向かった。
残すは俺一人。
まぁ、俺も行くところあったし一人になって逆に良かった。
行くところはもちろん、シモン先輩の場所だ。俺はこの先の真実を知りたい。禁忌だと言われても、その禁忌を外し、この手で掴みたい。
シモン先輩のAAクラスの寮内に入った。時刻は昼に近い。それなのに、夜のように静寂で誰とも出会わない。
ここ、ほんとに華やかなAAクラスなのだろうか。天井はシャンデリアで飾られ、廊下には赤い絨毯がずっと敷いてある。確かに見たこともない華やかな景色だ。
ランクの最下層の俺にしては、眩し過ぎる景色に、目から鱗がでちまう。AAクラスの寮だと確認できる。
でも、人一人出会わないなんて。
不安にかられ、足取りが重くなったとき、背後から声がした。
「ここで、何をしているのですか?」
静まり返った廊下に、キーンと反響する声。
この声の主は、と頭に人物像を思い浮かべ振り返ってみた。振り返って、やっぱりと心が高なった。
小夏先輩だ。胸の下に腕を組み、仁王立ちでこちらを見下ろしている。
戦闘服ではない私服姿の小夏先輩に胸がドキリとした。
白いシャツに、短めのスカートを履いており、肌を隠すように黒いタイツで生足を覆い隠している。しかし、タイツからやや白い生足が覗くことに、卑猥を感じる。
「どうしてここに?」
もう一度訊いてきた。
地に落ちた低い声。眼差しもいつにも増して鋭い。歓迎されていない待遇だな。
「えっと、シモン先輩は何処に?」
はぁ、と小夏先輩が大きなため息をついた。
「お疲れになっています。お引き取りを。そして、今後一切来ないように」
後半愚痴ただ漏れだぞ。
やっぱり小夏先輩とは慣れないな。シモン先輩、休んでいるのか。破壊の邪鬼との戦闘で、かなり負傷したからな。
仕方ない改めて出直すか、と踵を返した途端、ガチャリと何処かの扉が開いた音がした。
乾いた音。
驚いて振り向くと扉が半分ほど開いた状態。そこからひょっこりと顔を出すシモン先輩。白いシャツに、短めのスカート。そこからすらりと伸びる真っ白い雪のような肌。
小夏先輩と同じ服装だ。
「小夏、だめよ。せっかく来たんだから」
小さい子どもを叱るようにめっ、と言った。シモン先輩の貴重な『めっ!』悶えたのは俺だけじゃない。廊下をゴロゴロ転がって悶えているのは小夏先輩。
ゴロゴロ転がっている小夏先輩をよそに、シモン先輩は手招きした。
恐る恐る足を運ぶと、シモン先輩の部屋に招かれた。ランクが最下層の俺たちは二人部屋だ。でもAAクラスになると、個室が与えられる。
全体的にピンクな、ふかふかクッションとか可愛いぬいぐるみが置かれたザ、女の子の部屋的な空間。
中に入って男の俺は、気まずさが増した。ここに入っていいのか、と思うほど可愛いグッズが四方に囲まっている。
「ゆっくりしなさい」
シモン先輩が暖かく言った。
紅茶を煎れているのだろうか、ほんのりと香りが心地良い。
ちょこんと適当に座った場所は地べた。庶民の感覚を忘れてはいけない。そうだ。庶民は庶民らしく地べたに座ればいいさ。
それにしても、と周囲を見渡してみた。
シモン先輩は、昔から最強と謳われ学園全員が誇る憧れの的。その人物がこんな、可愛いグッズだらけの部屋で住んでいるなんてびっくりだ。
「もしかして、引いた?」
紅茶を煎れた二つのカップを持ってきた。
俺は心のことを言い当てられて、咄嗟に首を横にふった。
シモン先輩は、二つのカップを机に置き、横に座った。
「いいの。わかっている。最強だと言われる私に、こんな可愛いもの似合わないよね」
寂しそうな表情になり、心がズキズキ痛んだ。咄嗟についた嘘に、俺はとことん後悔した。
こんな表情みたいために来たんじゃないのに。
「シモン先輩は、可愛いです!」
気がついたら、声をあげて叫んでいた。シーン、と室内が氷のように冷たくなる。ポカンと小さな口を呆けているシモン先輩。構わず喋り続けた。
「時々笑ったときなんだか可愛くて、目に焼き付いて離れません! それに、その服、可愛いです!」
言った瞬間、あ、と思った。
静まり返った室内。シモン先輩は、黙ったまま。時計の針だけがカチコチなる。勢い余って先輩に「可愛い」を連呼してしまった。かりにも、学園全員が憧れの的のシモン先輩に何言ってるんだ。
すると、黙っていたシモン先輩がポツリと喋った。
「男の子に可愛い、て言われたのは初めて」
ポッ、と真っ白な肌が赤くなっている。初々しさを目の当たりにし、獣のような衝動にかられた。
すぐ手を伸ばせば、たわわな胸が。鷲掴みにすれば、指先からはみ出て、両手で揉める大きな胸。しかも、女の子の部屋で二人っきり。
こんな状況、誰がどう見ても襲うしかない。
しかし、僅かに残っている理性で己を保つ。しっかりしろ、ここにきたのはシモン先輩犯すためじゃないし、いいや、皆の憧れの的を穢すようなことしないし。
俺はなんとか、理性を引張って気を紛らわすために質問した。
「そ、そういえば、AAクラスの寮って広いのに誰とも廊下で出くわさなかったんですよ」
「あぁ、AAクラスは稀だからな。私と小夏二人だけだよ」
そ、そうか。確かに二人だけなら、誰にも会わないな。納得して、会話終了。
気まずい沈黙が生まれた。シモン先輩は、湯気がたっている熱々の紅茶を口に運んだ。
「これも、強力な記憶操作?」
頭をおさえ、壁に背を預けた状態。
記憶が飛んでいることに、アカネは頭を強く押さえる。
踏み込んではいけない領域に達した罰なのか、この室内を早々に出た。願わくば、今後一切踏み入らないようにと願って。
行くときも同様、帰るときも誰にも見つからずサクサクと帰れた。もちろん、このことは他言無用。相手がどんな信頼しているやつでも、言ってはいけない。
§
自然と笑みがこぼれた。冷たかった心に温かな光が捧げ、満たさていく。心から踊りたくなる気分だ。
すっ、と目を開き、椅子から立ち上がった。こんな気分のときは音楽をかけたい。
すぐ近くの、蓄音機に手を伸ばした。金色のラッパ。何千年も時が経っているのに、この色はまだ現役バリバリに光り輝いている。
針を落とした。そして、ラッパから音楽が奏でる。繊細でせせらぎのように綺麗なメロディだ。
音楽にあわせて暫く辺りをまわっていると、コンコン、と扉から訪問者の合図が。音楽のボリュームが大きいだけに、微かに聞こえた。
その訪問者に「どうぞ」といつものように軽く言ってみると、扉が開いた。
その訪問者は、大音量の音楽で一人クルクルまわっているワシに、目をぱちくりさせていた。
「要件は?」
訊くと、訪問者は止めてた思考を再び再起するようにハッとさせた。訪問者は、Bクラス担任のヨモツ先生。
開けっ放しの扉を急いで閉じ、中に入ってきた。
「何者かが保管庫に侵入したもようです」
いかがなさいますか、と丁寧口調で訊ねるヨモツ先生に、ワシは、飄々と魅せた。
「保管庫など、あんなのただの薄っぺらい紙じゃ。誰に見られようと、あんなの記録でしかないのじゃ」
「せ、生徒に見られても?」
オズオズと彼は訊いてきた。
学園の全てが詰まっている保管庫を、生徒が侵入した、という驚愕な事件に顔を蒼白させている。
そんな彼をあしらうように、ワシは腰をくねらせ踊った。
「知っておろう。現に今、ワシはそれで喜んでいるのじゃ」
彼は、キョトンとした。
自分の周りをクルクルと踊り子のように踊る理事長に、信じられない表情を浮かす。
しかし、理事長は恍惚とした表情を浮かべた。
「あぁ、やっときたのじゃな。ワシの言うとおり、自分たちの足で真理を掴みに。嬉しいのおぉ。はて、ヨモツ先生も立っていないで一緒に踊ろんかの?」
手をヒョイと取られ、男を、しかも片手でくるりと反転させた。ヨモツ先生はあっけらかんとなり、踊りに身を投じる。
「ど、どうやって見て……」
「ふっ、簡単じゃ。憑依してこの目で見たのじゃ」
さも当たり前に言った理事長に戸惑いは隠せない。
侵入者の一人に憑依しておきながら、何故未然に防がないのか、この人はおかしな人だとヨモツ先生はため息をつく。
§
自分たちで見てきた真実にとても受け止めきれない様子で、まだ夢なのかもと、体がふわふわしている。
でも、これは現実でとても酷く残酷な、誰かに与えられた運命だ。
食堂で俺たちは解散した。
美樹は寮に帰って一人考えるんだと。ジンも寮に帰って寝るって言ってた。
アカネは倒れたからか、一人になりたいとルイを誘って何処かに向かった。
残すは俺一人。
まぁ、俺も行くところあったし一人になって逆に良かった。
行くところはもちろん、シモン先輩の場所だ。俺はこの先の真実を知りたい。禁忌だと言われても、その禁忌を外し、この手で掴みたい。
シモン先輩のAAクラスの寮内に入った。時刻は昼に近い。それなのに、夜のように静寂で誰とも出会わない。
ここ、ほんとに華やかなAAクラスなのだろうか。天井はシャンデリアで飾られ、廊下には赤い絨毯がずっと敷いてある。確かに見たこともない華やかな景色だ。
ランクの最下層の俺にしては、眩し過ぎる景色に、目から鱗がでちまう。AAクラスの寮だと確認できる。
でも、人一人出会わないなんて。
不安にかられ、足取りが重くなったとき、背後から声がした。
「ここで、何をしているのですか?」
静まり返った廊下に、キーンと反響する声。
この声の主は、と頭に人物像を思い浮かべ振り返ってみた。振り返って、やっぱりと心が高なった。
小夏先輩だ。胸の下に腕を組み、仁王立ちでこちらを見下ろしている。
戦闘服ではない私服姿の小夏先輩に胸がドキリとした。
白いシャツに、短めのスカートを履いており、肌を隠すように黒いタイツで生足を覆い隠している。しかし、タイツからやや白い生足が覗くことに、卑猥を感じる。
「どうしてここに?」
もう一度訊いてきた。
地に落ちた低い声。眼差しもいつにも増して鋭い。歓迎されていない待遇だな。
「えっと、シモン先輩は何処に?」
はぁ、と小夏先輩が大きなため息をついた。
「お疲れになっています。お引き取りを。そして、今後一切来ないように」
後半愚痴ただ漏れだぞ。
やっぱり小夏先輩とは慣れないな。シモン先輩、休んでいるのか。破壊の邪鬼との戦闘で、かなり負傷したからな。
仕方ない改めて出直すか、と踵を返した途端、ガチャリと何処かの扉が開いた音がした。
乾いた音。
驚いて振り向くと扉が半分ほど開いた状態。そこからひょっこりと顔を出すシモン先輩。白いシャツに、短めのスカート。そこからすらりと伸びる真っ白い雪のような肌。
小夏先輩と同じ服装だ。
「小夏、だめよ。せっかく来たんだから」
小さい子どもを叱るようにめっ、と言った。シモン先輩の貴重な『めっ!』悶えたのは俺だけじゃない。廊下をゴロゴロ転がって悶えているのは小夏先輩。
ゴロゴロ転がっている小夏先輩をよそに、シモン先輩は手招きした。
恐る恐る足を運ぶと、シモン先輩の部屋に招かれた。ランクが最下層の俺たちは二人部屋だ。でもAAクラスになると、個室が与えられる。
全体的にピンクな、ふかふかクッションとか可愛いぬいぐるみが置かれたザ、女の子の部屋的な空間。
中に入って男の俺は、気まずさが増した。ここに入っていいのか、と思うほど可愛いグッズが四方に囲まっている。
「ゆっくりしなさい」
シモン先輩が暖かく言った。
紅茶を煎れているのだろうか、ほんのりと香りが心地良い。
ちょこんと適当に座った場所は地べた。庶民の感覚を忘れてはいけない。そうだ。庶民は庶民らしく地べたに座ればいいさ。
それにしても、と周囲を見渡してみた。
シモン先輩は、昔から最強と謳われ学園全員が誇る憧れの的。その人物がこんな、可愛いグッズだらけの部屋で住んでいるなんてびっくりだ。
「もしかして、引いた?」
紅茶を煎れた二つのカップを持ってきた。
俺は心のことを言い当てられて、咄嗟に首を横にふった。
シモン先輩は、二つのカップを机に置き、横に座った。
「いいの。わかっている。最強だと言われる私に、こんな可愛いもの似合わないよね」
寂しそうな表情になり、心がズキズキ痛んだ。咄嗟についた嘘に、俺はとことん後悔した。
こんな表情みたいために来たんじゃないのに。
「シモン先輩は、可愛いです!」
気がついたら、声をあげて叫んでいた。シーン、と室内が氷のように冷たくなる。ポカンと小さな口を呆けているシモン先輩。構わず喋り続けた。
「時々笑ったときなんだか可愛くて、目に焼き付いて離れません! それに、その服、可愛いです!」
言った瞬間、あ、と思った。
静まり返った室内。シモン先輩は、黙ったまま。時計の針だけがカチコチなる。勢い余って先輩に「可愛い」を連呼してしまった。かりにも、学園全員が憧れの的のシモン先輩に何言ってるんだ。
すると、黙っていたシモン先輩がポツリと喋った。
「男の子に可愛い、て言われたのは初めて」
ポッ、と真っ白な肌が赤くなっている。初々しさを目の当たりにし、獣のような衝動にかられた。
すぐ手を伸ばせば、たわわな胸が。鷲掴みにすれば、指先からはみ出て、両手で揉める大きな胸。しかも、女の子の部屋で二人っきり。
こんな状況、誰がどう見ても襲うしかない。
しかし、僅かに残っている理性で己を保つ。しっかりしろ、ここにきたのはシモン先輩犯すためじゃないし、いいや、皆の憧れの的を穢すようなことしないし。
俺はなんとか、理性を引張って気を紛らわすために質問した。
「そ、そういえば、AAクラスの寮って広いのに誰とも廊下で出くわさなかったんですよ」
「あぁ、AAクラスは稀だからな。私と小夏二人だけだよ」
そ、そうか。確かに二人だけなら、誰にも会わないな。納得して、会話終了。
気まずい沈黙が生まれた。シモン先輩は、湯気がたっている熱々の紅茶を口に運んだ。
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