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第二章 前世と神と
第25話 高天原の問題
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体育祭が終わり、その日は平日。けど、体育祭があったのでその翌日は休日となった。あたしたちが通う学校以外、学校に通ってんだろうなあ。としみじみ浸っている。
せっかくの休日。美穂たちとも約束はないので久しぶりにヘベと二人っきりだ。
漫画本を寝そべって読んでいるあたしはヘベに声かけた。
「ヘベっていつもそうしてるの?」
ヘベは部屋の中、ふわふわと宙に浮いたまま漫画雑誌を広げている。まるで、宇宙飛行に乗った人みたい。雑誌だけじゃなくお菓子の袋までもヘベの周りを浮いている。
「あぁそうだが?」
ヘベは当然のように応える。
ふぅん。そうなんだ。あたしってなんだかこのこと知るの初めてな気がする。知り合ってだいぶ経つけど。
すると、窓をコンコンと手の甲で叩く乾いた音が。ここは二階。人間がジャンプしても叩ける高さじゃない。恐る恐る覗くとそこには、天照と月詠。
「えへ。来ちゃった」
天照が舌をチョロリと出し、恥ずかしげに笑った。月詠はというと目でここを開けろと訴える。
あたしはカーテンをシャッと閉め、隙間風でも揺れぬように二重カーテンを洗濯バサミで一つにした。
「セールスお断り中です。五秒以内に出ていかないと爆発します」
「ちょっと、それないじゃない」
壁をすり抜け、天照と月詠がこの部屋に忍びこんできた。あたしは持っていた漫画本を二人に投げ飛ばした。しかし、華麗に交わされる。
けど月詠は最後に投げた漫画本を交わしきれず整った顔面に当たる。
美少年の顔が鼻も塗り壁みたいにぺちゃんこになっちやって、なんだか面白い。クスっと笑ったのを気に障ったのか鬼の血相になる月詠。
「キ・サ・マ~」
「はいはい、ごめんね。またうちの月詠が」
仲介に入った天照は月詠を力技で押し倒す。月詠は吹っ飛び、また壁をすり抜け窓の外に飛んでいった。
細腕なのにどこにそんな力が、とびっくりしていると数分も経たずに帰ってくる月詠。どこまで吹き飛ばされたのか頭の髪の毛には、葉っぱと小枝がくっついている。
「天照、何用だ?」
ヘベが訊ねた。それまで、ふわふわと宙に浮いてた体を地面に下ろし、座席に腰掛ける。天照はそれと向かいあうように腰掛ける。
天照はニッコリとした微笑みでプリンみたいな乳の前でパンと胸を合わせる。その振動で乳が二度揺れた。
「問題が起きちゃって、お願い。高天原に戻ってきて」
「即行断る」
「まだなにも言ってないじゃない」
女性体を思わせる細長い人差し指を天井に向け、天照はペラペラと喋った。
「昨日ね、高天原に帰ってきたらなかったのよ」
「何が?」
あたしが訊ねると待ってましたと言うように天照が口を開いた。
「壷よ」
「つ、つぼ!?」
昨日、月詠とこの地に舞い降りた際高天原は数分間最高神が留守だったらしい。
昨日はトンデモ神と触れ合って、長い時間共にしていたと思ったけど、高天原ではたったの数分間だったらしい。
その数分間の間に天照が大事にしている壷が失くなったらしい。壷といえば凹凸していて淀んだ色彩を施したもののイメージだけど今回は違う。
手乗りサイズの子皿みたいな壷らしい。そんなに大事なら、はなみ離さず持っていればいいのに。でも、そんなのが失くなってどうして家に来たんだろ。
「ヘベって高天原出身なの?」
ヘベは不自然なほど首を振った。
顎をギクシャクさせて、明らかに挙動不審。
「あら、知らないの? ま、無理ないものね」
天照が珍しいという表情をした。
知らないよ。そんなの全然一ミリも知らないよ。教えてくれないもん。ヘベは自分のこと、でも、あたしが聞かないせいでもあるのかな。
天照はかしこまった表情でその場を立ち上がった。
「さっ、行きましょ」
どこに、とツッコミを送る前に、あたしの目の前に黄金の光が現れた。目も開けられないその光に、目を閉じる。
温かいひだまりのような光。それは、もうすぐ雪が降りそうなこの日にとって、温かい暖房だった。
やがて、光がやみ恐る恐る目を開けてみた。そこは、あたしの部屋……ではなくなんか角とか尻尾とか生えてる未確認生物が商店街で賑やっていた。
「は? は!? ここどこ!?」
「高天原よ」
すぐに応えたのは、天照。気がつくとあたしの真後ろで立っていた。あたしは距離を置き、辺りを見渡す。三六〇見渡しても、変な生き物が人みたいに歩いている。
「失礼ね。変な生き物じゃなくって、みんな名のある神さまたちよ」
天照が上機嫌にフフと笑い、前を歩く。ちょ、ちょっと待ってよ。こんな訳の分からないところであたしを一人ぼっちにさせないでよ。
あれ、と思いまた周囲を見渡す。天照が言う名のある神さまとやらは、人間であるあたしの存在に気づいていないのか、スタスタと商店街を通り過ぎる。
「ヘベは? 月詠は? というか、みんなよくこっち見ないね。あたし人間だよ」
訊ねると天照はくるりと振り向く。猫のような垂れ目を一層にたれてあたしを見下ろす。
「ヘベは多分、もうじき来るかも……しれないわ。月詠はだいだい高天原に訪れない訪問者だから来ないわ。玲奈ちゃん大丈夫よ。私の力でここのみんなには私と玲奈ちゃん認識されていないの」
へぇ、それは便利……じゃない。そんなのに感心してる場合じゃない。
「帰りたい」
「無理」
天照がニコニコしながら断ってきた。なんだか、腹に何かをねじ込まれたように悔しい。嫌だ嫌だ絶対何がなんでも帰りたい。
「それじゃあ、壷探しね」
天照がニコッと不気味に笑った。
なるほどこの乳デカ女め、わざとこう仕向けるように。よっぽど壷を見つけたいらしい。
あたしは重いため息をこぼし、仕方なく天照と手を取って壷探しを実行する。
せっかくの休日。美穂たちとも約束はないので久しぶりにヘベと二人っきりだ。
漫画本を寝そべって読んでいるあたしはヘベに声かけた。
「ヘベっていつもそうしてるの?」
ヘベは部屋の中、ふわふわと宙に浮いたまま漫画雑誌を広げている。まるで、宇宙飛行に乗った人みたい。雑誌だけじゃなくお菓子の袋までもヘベの周りを浮いている。
「あぁそうだが?」
ヘベは当然のように応える。
ふぅん。そうなんだ。あたしってなんだかこのこと知るの初めてな気がする。知り合ってだいぶ経つけど。
すると、窓をコンコンと手の甲で叩く乾いた音が。ここは二階。人間がジャンプしても叩ける高さじゃない。恐る恐る覗くとそこには、天照と月詠。
「えへ。来ちゃった」
天照が舌をチョロリと出し、恥ずかしげに笑った。月詠はというと目でここを開けろと訴える。
あたしはカーテンをシャッと閉め、隙間風でも揺れぬように二重カーテンを洗濯バサミで一つにした。
「セールスお断り中です。五秒以内に出ていかないと爆発します」
「ちょっと、それないじゃない」
壁をすり抜け、天照と月詠がこの部屋に忍びこんできた。あたしは持っていた漫画本を二人に投げ飛ばした。しかし、華麗に交わされる。
けど月詠は最後に投げた漫画本を交わしきれず整った顔面に当たる。
美少年の顔が鼻も塗り壁みたいにぺちゃんこになっちやって、なんだか面白い。クスっと笑ったのを気に障ったのか鬼の血相になる月詠。
「キ・サ・マ~」
「はいはい、ごめんね。またうちの月詠が」
仲介に入った天照は月詠を力技で押し倒す。月詠は吹っ飛び、また壁をすり抜け窓の外に飛んでいった。
細腕なのにどこにそんな力が、とびっくりしていると数分も経たずに帰ってくる月詠。どこまで吹き飛ばされたのか頭の髪の毛には、葉っぱと小枝がくっついている。
「天照、何用だ?」
ヘベが訊ねた。それまで、ふわふわと宙に浮いてた体を地面に下ろし、座席に腰掛ける。天照はそれと向かいあうように腰掛ける。
天照はニッコリとした微笑みでプリンみたいな乳の前でパンと胸を合わせる。その振動で乳が二度揺れた。
「問題が起きちゃって、お願い。高天原に戻ってきて」
「即行断る」
「まだなにも言ってないじゃない」
女性体を思わせる細長い人差し指を天井に向け、天照はペラペラと喋った。
「昨日ね、高天原に帰ってきたらなかったのよ」
「何が?」
あたしが訊ねると待ってましたと言うように天照が口を開いた。
「壷よ」
「つ、つぼ!?」
昨日、月詠とこの地に舞い降りた際高天原は数分間最高神が留守だったらしい。
昨日はトンデモ神と触れ合って、長い時間共にしていたと思ったけど、高天原ではたったの数分間だったらしい。
その数分間の間に天照が大事にしている壷が失くなったらしい。壷といえば凹凸していて淀んだ色彩を施したもののイメージだけど今回は違う。
手乗りサイズの子皿みたいな壷らしい。そんなに大事なら、はなみ離さず持っていればいいのに。でも、そんなのが失くなってどうして家に来たんだろ。
「ヘベって高天原出身なの?」
ヘベは不自然なほど首を振った。
顎をギクシャクさせて、明らかに挙動不審。
「あら、知らないの? ま、無理ないものね」
天照が珍しいという表情をした。
知らないよ。そんなの全然一ミリも知らないよ。教えてくれないもん。ヘベは自分のこと、でも、あたしが聞かないせいでもあるのかな。
天照はかしこまった表情でその場を立ち上がった。
「さっ、行きましょ」
どこに、とツッコミを送る前に、あたしの目の前に黄金の光が現れた。目も開けられないその光に、目を閉じる。
温かいひだまりのような光。それは、もうすぐ雪が降りそうなこの日にとって、温かい暖房だった。
やがて、光がやみ恐る恐る目を開けてみた。そこは、あたしの部屋……ではなくなんか角とか尻尾とか生えてる未確認生物が商店街で賑やっていた。
「は? は!? ここどこ!?」
「高天原よ」
すぐに応えたのは、天照。気がつくとあたしの真後ろで立っていた。あたしは距離を置き、辺りを見渡す。三六〇見渡しても、変な生き物が人みたいに歩いている。
「失礼ね。変な生き物じゃなくって、みんな名のある神さまたちよ」
天照が上機嫌にフフと笑い、前を歩く。ちょ、ちょっと待ってよ。こんな訳の分からないところであたしを一人ぼっちにさせないでよ。
あれ、と思いまた周囲を見渡す。天照が言う名のある神さまとやらは、人間であるあたしの存在に気づいていないのか、スタスタと商店街を通り過ぎる。
「ヘベは? 月詠は? というか、みんなよくこっち見ないね。あたし人間だよ」
訊ねると天照はくるりと振り向く。猫のような垂れ目を一層にたれてあたしを見下ろす。
「ヘベは多分、もうじき来るかも……しれないわ。月詠はだいだい高天原に訪れない訪問者だから来ないわ。玲奈ちゃん大丈夫よ。私の力でここのみんなには私と玲奈ちゃん認識されていないの」
へぇ、それは便利……じゃない。そんなのに感心してる場合じゃない。
「帰りたい」
「無理」
天照がニコニコしながら断ってきた。なんだか、腹に何かをねじ込まれたように悔しい。嫌だ嫌だ絶対何がなんでも帰りたい。
「それじゃあ、壷探しね」
天照がニコッと不気味に笑った。
なるほどこの乳デカ女め、わざとこう仕向けるように。よっぽど壷を見つけたいらしい。
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