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第二章 前世と神と
第23話 月詠と天照
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美穂が同時に走った。朝から団競やリレー、四百㍍走に選抜されヘトヘトなのに、その体を一心不乱に動かしてる。
その頑張りにあたしは目が放せなかった。いつも思う。なにを思って走ってんだろう。
小さい頃からなんでもできて、でもその影では努力の上に努力を重ねて、人に見られてないのに認識されてもないのに美穂はゴールまで頑張る。
リレーにて応援してくれた恩にあたしは精一杯美穂を応援した。彼方の空まで轟くぐらい。
そうして美穂は一着で二年生にバトンを渡した。ぶっちぎりの一位だった。
「すげぇ」
斗馬がやや微笑し、感撃した。心酔された眼差しでゴール付近にいる美穂を見つめている。遠くからでもその眼差しはどこか寂しげで少しずつ燃える炎を連想できる。
部外者の斗馬がなぜ団のテントの中にてあたしの隣に座っているのか甚だ疑問だが、ひとまず置いておこう。
「ねぇ一つ聞いていい」
「なにかな」
「いつ告白するの」
斗馬は小さく笑った。ちょっと困った笑みにも似ている。
それから閉会式。朝の開会式よりもみな、体がぐったりとしている。辺りはもう秋を思わせる涼しげな気温があるにも、太陽は熱く照りつけていた。
「はぁやっと終わった! このあとどこか行く?」
閉会式を終え、テントやら椅子やら片付けている間、東が陽気に話しかけてきた。
「奈美は部活がありますので面食いの東とは一緒に出かけたくないです」
奈美が頬をパンパンに膨らませ、やや憤った態度で言った。意外と奈美って根に持つタイプなんだ。
途端に東は勝ち家にニヤリと笑った。
「ふぅん、行かないんだ。今年流行りの店行こうと思ったのに行かないんだ」
「行きます! 行きますです!」
なんだかんだでこの二人は犬猿だけど仲がいい。せっかくの申し出だけどあたしは行くところがある。近くだから、寄って行こうと思うのだ。元神社が建っていた祠へ。
「悪いけどパス」
そうすると、美穂も断わった。どうやら、久しぶりに祖父母が遠い地から遥々帰ってくる日らしい。
美穂はその辺を小躍りするほど嬉々としていた。美穂はおばあちゃん子だもん。そんな訳なので、犬猿の二人は仲良く流行りの店に向かいあたしと美穂は校門にて手を振って別れた。
§
そんなに活躍していないのに歩くたびにドッと疲れが足裏にやってきて足元がおぼつかない。それでも、社の場所へと辿りついた。
空が薄暗いので雑木林はいっそうに暗かった。まるで、ここだけ人気がない夜をも連想できる。
社を前にすると、不意に懐かさが感じる。ここでヘベと出会ったんだっけ。一年も経っていないのになんだか懐かしい。
「あら、先客かしら」
よく耳に入る透き通った声。
断末魔を切ったように振り返ると巫女さん服を着た女性と古代の着物を着た男性。
女性は隣にいる男性よりも、身長が大きく並ぶとデコボコだ。
膝まである狐色の髪色に華奢なくびれを目立つたわわな胸が服から盛り上がっている。対して男性は黒髪に皺のない服。自分以外信じない、そんな冷酷な瞳をしている。男性というか、少年に似ている。
並ぶとあたしより背が低い。こんなところに似つかない人たちだ。
「お前、何者だ?」
え、なにこの現状。少年が腰にさげた刀を向けてきた。そんなおっかないもの向けられて喋れないじゃん。
「こらこら、トト。よしなさい」
隣にいた温厚そうな女性がせき止めた。美穂以上ある乳をどうしても凝視してしまう。
「あなた、わたしたちのこと見えるのね」
「え?」
女性が優しい表情で言った。途端に思考が止まった。わたしたちのこと見えるのねそう女性は口走った。普通の人間ならそんなことは言わない。厨ニ病だったら言いそうだけど。
まるで、その言い方は自分たちが化物のような言い方だ。現に二人から感じる雰囲気やオーラは人間じゃない。どこかで感じたかとがある雰囲気だ。そう、ヘベみたいな特別な空気。
「えっと……」
戸惑ったあたしはさり気なく後退していた。その瞬間、内ポケットに入れてた櫛が黄金のように輝きだした。
自分じゃないのに、自分の体が黄色い光に輝きだすと、途端にわけが分からなくなる。オーラみたいな無機質な光。ひだまりのようかと思いきや、温かくもなんともない。
目を開けられない光に、目を覆うと気がつくまばゆい光は失っていた。恐る恐る目を開けると、あたしの目の前にヘベが立っていた。
スクリーン映像ではない。実際にそこにいる。
『玲奈、落ち着け。大丈夫だ』
ヘベがニッコリと太陽のような笑みを送ってきた。あたしは訳が分からなくなり、ヘベのする行動を黙って見守ることしかできなかった。
「お前、そんな奴の加護していたのか」
少年が尖った口調で言った。
隣にいる女性の狐目が少し開いた。それだけでパンドラの箱を開けたような状況だ。
「この頃、見かけないと思ったら……そんなとこにいたのね」
呆れたのか馬鹿にしてるのか、女性はヘベの姿を見て、はぁと深いため息をこぼした。ヘベは再びニッコリと笑みを送り、優しい眼差しであたしを見下ろした。
『驚いただろ。なんせこいつらは大物の神だ。左にいる女は太陽を守護している天照で右にいるのは月を守護している月詠。こうして会うのは久しいな』
ちょっ、ちょおおおと待って。なに当然のように神さまの自己紹介を受けているのあたし。しかも、その相手が太陽と月を守護しているってトンデモ神じゃん。
そんなトンデモ神と知らぬ間に口きいてるよあたし。
「ヘベ、あたし帰っていい?」
「ちょおおと待った!」
月詠という少年があたしの行き場を塞いだ。冷たい表情に冷たい眼差しであたしを見つめる。
なんだか、偉い神さまと向かいあうなんて初めてなもんで腰が抜けそう。でも向かいあうとやっぱり身長差がわかる。あたしより低い。
「お前の持っている櫛、かせ」
睨み睨まれ、第一開口はそれだった。
その頑張りにあたしは目が放せなかった。いつも思う。なにを思って走ってんだろう。
小さい頃からなんでもできて、でもその影では努力の上に努力を重ねて、人に見られてないのに認識されてもないのに美穂はゴールまで頑張る。
リレーにて応援してくれた恩にあたしは精一杯美穂を応援した。彼方の空まで轟くぐらい。
そうして美穂は一着で二年生にバトンを渡した。ぶっちぎりの一位だった。
「すげぇ」
斗馬がやや微笑し、感撃した。心酔された眼差しでゴール付近にいる美穂を見つめている。遠くからでもその眼差しはどこか寂しげで少しずつ燃える炎を連想できる。
部外者の斗馬がなぜ団のテントの中にてあたしの隣に座っているのか甚だ疑問だが、ひとまず置いておこう。
「ねぇ一つ聞いていい」
「なにかな」
「いつ告白するの」
斗馬は小さく笑った。ちょっと困った笑みにも似ている。
それから閉会式。朝の開会式よりもみな、体がぐったりとしている。辺りはもう秋を思わせる涼しげな気温があるにも、太陽は熱く照りつけていた。
「はぁやっと終わった! このあとどこか行く?」
閉会式を終え、テントやら椅子やら片付けている間、東が陽気に話しかけてきた。
「奈美は部活がありますので面食いの東とは一緒に出かけたくないです」
奈美が頬をパンパンに膨らませ、やや憤った態度で言った。意外と奈美って根に持つタイプなんだ。
途端に東は勝ち家にニヤリと笑った。
「ふぅん、行かないんだ。今年流行りの店行こうと思ったのに行かないんだ」
「行きます! 行きますです!」
なんだかんだでこの二人は犬猿だけど仲がいい。せっかくの申し出だけどあたしは行くところがある。近くだから、寄って行こうと思うのだ。元神社が建っていた祠へ。
「悪いけどパス」
そうすると、美穂も断わった。どうやら、久しぶりに祖父母が遠い地から遥々帰ってくる日らしい。
美穂はその辺を小躍りするほど嬉々としていた。美穂はおばあちゃん子だもん。そんな訳なので、犬猿の二人は仲良く流行りの店に向かいあたしと美穂は校門にて手を振って別れた。
§
そんなに活躍していないのに歩くたびにドッと疲れが足裏にやってきて足元がおぼつかない。それでも、社の場所へと辿りついた。
空が薄暗いので雑木林はいっそうに暗かった。まるで、ここだけ人気がない夜をも連想できる。
社を前にすると、不意に懐かさが感じる。ここでヘベと出会ったんだっけ。一年も経っていないのになんだか懐かしい。
「あら、先客かしら」
よく耳に入る透き通った声。
断末魔を切ったように振り返ると巫女さん服を着た女性と古代の着物を着た男性。
女性は隣にいる男性よりも、身長が大きく並ぶとデコボコだ。
膝まである狐色の髪色に華奢なくびれを目立つたわわな胸が服から盛り上がっている。対して男性は黒髪に皺のない服。自分以外信じない、そんな冷酷な瞳をしている。男性というか、少年に似ている。
並ぶとあたしより背が低い。こんなところに似つかない人たちだ。
「お前、何者だ?」
え、なにこの現状。少年が腰にさげた刀を向けてきた。そんなおっかないもの向けられて喋れないじゃん。
「こらこら、トト。よしなさい」
隣にいた温厚そうな女性がせき止めた。美穂以上ある乳をどうしても凝視してしまう。
「あなた、わたしたちのこと見えるのね」
「え?」
女性が優しい表情で言った。途端に思考が止まった。わたしたちのこと見えるのねそう女性は口走った。普通の人間ならそんなことは言わない。厨ニ病だったら言いそうだけど。
まるで、その言い方は自分たちが化物のような言い方だ。現に二人から感じる雰囲気やオーラは人間じゃない。どこかで感じたかとがある雰囲気だ。そう、ヘベみたいな特別な空気。
「えっと……」
戸惑ったあたしはさり気なく後退していた。その瞬間、内ポケットに入れてた櫛が黄金のように輝きだした。
自分じゃないのに、自分の体が黄色い光に輝きだすと、途端にわけが分からなくなる。オーラみたいな無機質な光。ひだまりのようかと思いきや、温かくもなんともない。
目を開けられない光に、目を覆うと気がつくまばゆい光は失っていた。恐る恐る目を開けると、あたしの目の前にヘベが立っていた。
スクリーン映像ではない。実際にそこにいる。
『玲奈、落ち着け。大丈夫だ』
ヘベがニッコリと太陽のような笑みを送ってきた。あたしは訳が分からなくなり、ヘベのする行動を黙って見守ることしかできなかった。
「お前、そんな奴の加護していたのか」
少年が尖った口調で言った。
隣にいる女性の狐目が少し開いた。それだけでパンドラの箱を開けたような状況だ。
「この頃、見かけないと思ったら……そんなとこにいたのね」
呆れたのか馬鹿にしてるのか、女性はヘベの姿を見て、はぁと深いため息をこぼした。ヘベは再びニッコリと笑みを送り、優しい眼差しであたしを見下ろした。
『驚いただろ。なんせこいつらは大物の神だ。左にいる女は太陽を守護している天照で右にいるのは月を守護している月詠。こうして会うのは久しいな』
ちょっ、ちょおおおと待って。なに当然のように神さまの自己紹介を受けているのあたし。しかも、その相手が太陽と月を守護しているってトンデモ神じゃん。
そんなトンデモ神と知らぬ間に口きいてるよあたし。
「ヘベ、あたし帰っていい?」
「ちょおおと待った!」
月詠という少年があたしの行き場を塞いだ。冷たい表情に冷たい眼差しであたしを見つめる。
なんだか、偉い神さまと向かいあうなんて初めてなもんで腰が抜けそう。でも向かいあうとやっぱり身長差がわかる。あたしより低い。
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