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第三章 再び会うときまで
第29話 夢
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ようやくやってきた四連休。あれから、二人の話しを聞いて綾村について調べた。本当に長寿になれるらしい。成功者がネット上に浮上じている。まんざらでもなく、嬉々と書いている。
あたしはますます、怪しくなり気味が悪くなった。けど、旅行は外せない。ヘベに見送られ、美穂の車で空港に行く。
「綾村、綾村」
朝からハイテンションで奈美がはしゃぐ。キラキラな笑顔をクシャクシャにし、飛び跳ねるように足をバタつかせている。
「あ、綾村に行ったらおばあちゃんの友達が泊めてくれるらしいよ」
車の中で、はしゃぐ奈美の隣に座っていた美穂が口を開いた。分厚い本を両手で持ち、読書していた。甲高い声ではしゃいでいる奈美の隣に座ってよく、読書していたなぁと関心を覚える。
「そうなんだ。どんな人? ってだいぶ歳だよね」
あたしは携帯から顔を覗き、訊ねると美穂はクスクス笑った。
今日は旅行に行くので張り切っているのか、唇に少し薄いピンク色の口紅を塗っている。ツヤツヤして、女のあたしでもつい触ってしまうほどの魅力だ。
「おばあちゃんの友達だもん。そりゃ歳だよ。でも、唯一村で好印象なんだって」
「ふぅん」
あたしは再び携帯に目を通し、携帯を閉じた。向かい合って座っている美穂も分厚い本を置き、猫のように体を伸ばした。
それから、止まっていた時間を埋めるようにお喋りタイムが始まった。学校の噂話や奇奇怪怪な話し、近所の話しまで。
盛り上がって、持ってきたお菓子をちょっと半分食べてしまった。まあ、大丈夫。綾村でもスーパーあると思うしね。
空港に着くまで、まだだいぶ時間がある。食べたり、はしゃいだり車の中はカラオケボックスのような気分だった。
あれ? 少し、ウトウトしてきた。あんなに夜眠ったのに。瞼が勝手に閉じていく。踏んばって目を見開くも、シャッターのように重い。その重さに耐えきれず、あたしは暗闇の中に意識が入った。
§
『あれ? ここどこ?』
次に目が覚めた場所は車の中……ではなく真っ黒なドームの中。一筋の光も見えない闇。上も下も右も左も見渡すばかり、どこまでも続く真っ黒な世界。
まるで、あたししかいないような空間にヒヤリと汗が背中を伝った。
『みっちゃああん! 奈美ぃぃぃ! どこにいるのぉ!』
山頂でやまびこしたように、どこまでも何層にも重なってこだまするあたしの声。応える者は誰もいなかった。ますます怖くなり、足が震えた。
その震える足を一歩勇気を飲んで試みた。一歩一歩、少しずつでも歩いてみせた。
それでも周りの景色は変わらない。元いた自分の立ち位置さえも変わっているのか分からない。進んでいるのか、それとも、さらに奥に進んでいるのか全く分からない。
冬の時期だというのに、小さな冷たい汗玉が額から流れ、頬をツゥと伝う。触れるとシャボン玉のようにすぐに壊れる。本当に冷たくって水のような汗。
『一体、ここはどこなの?』
足を止め、もう一度辺りを見渡した。上も下も右も左も。そうしている内にある一本の光の線が見えた。
雲の切れ端から顔を覗く太陽のように、その線は眩しくそれでいて、希望に満ちた光。あたしはその線へと向かった。駆け足で、体育祭でもだしたことのない持久力で。
腕を伸ばし掴もうとした途端、目の前にある情景が焼きつけた。それは顔を振っても視線を変えてもどこまでも跡を追うようについてくる映像。
『なにこれ!? なんなの!?』
慌てるあたしをよそに映像が現れる。
田んぼの轍道の情景。田舎のよくある光景。空の色がやけに赤々しい。夕日ってこんなに赤かったけ。目が次第に赤くなるような夕日。
風も匂いも感じない。本当にだたの映像みたい。
その光景の真ん中に田舎者ではない明らかに浮いている都会人がいた。青年だ。程よく逞しい筋肉質な体型に大きな背広。
ひと目で分かった。響矢先輩だ。どうしてこんな所に。しかも、これってあたしの夢だよね。夢の中に先輩が!?
あれ、先輩の足元に魔法陣のような模様が浮かんでいる。桜色のようにピンク色で時が進むにつれ、最初よりもだんだん大きくなる陣。
響矢先輩の体が消えていく! 待って、どこに連れていくの。
待って! 響矢先輩…――!
§
「れっちゃん! れっちゃん!」
涼風のような柔らかい声が耳に聞こえた。この声は確か、幼馴染の美穂。真面目で優しくって誰にでも好かれる子。
あたしはその声を辿って、暗闇から這い上がった。薄っすらと瞼を開けると、さっき黒いドームにいたから明るい車内は目が眩しい。
寄り添うにように美穂と奈美が顔を覗いていた。二人とも、こめかみに皺を寄せるほど、眉が垂れ下がっている。
「あ、れ……? あたし」
「酷くうなされてたよ。大丈夫?」
手を強く握り、涙が溜まった熱い眼差しで美穂が言う。
「……大丈夫」
それしか、応えることができなかった。なんて、言っていいのか全く分からない。頭がまだボーってする。なんだったの。今のは。
ふと、奈美に訊ねた。頭が回らない中、夢に出てきた響矢先輩の安否だけが心配になっておもむろに訊ねる。
すると、奈美は大きく首をかしげあたしを凝視する。
「響矢先輩は奈美たちよりも一時間早く綾村に行きましたです。でも、なぜいま響矢先輩の話しですか?」
さぁと血の気が引いていった。あたしのみた夢、それはもしかして〝予知夢〟なんかじゃ。
小さい頃、よく母に聞かされてた。占い師としてまず、覚醒するのが〝予知夢〟。母もあたしと同じ年齢の頃、跡取りになるか必死に迷ったらしい。
その時、必然を思わせたようにその力が目覚め現在に至る。
あたしはショックを隠せなかった。予知夢を見たこととあたしの中に流れる血は紛れもなく〝占い師〟だったこと。
あたしはますます、怪しくなり気味が悪くなった。けど、旅行は外せない。ヘベに見送られ、美穂の車で空港に行く。
「綾村、綾村」
朝からハイテンションで奈美がはしゃぐ。キラキラな笑顔をクシャクシャにし、飛び跳ねるように足をバタつかせている。
「あ、綾村に行ったらおばあちゃんの友達が泊めてくれるらしいよ」
車の中で、はしゃぐ奈美の隣に座っていた美穂が口を開いた。分厚い本を両手で持ち、読書していた。甲高い声ではしゃいでいる奈美の隣に座ってよく、読書していたなぁと関心を覚える。
「そうなんだ。どんな人? ってだいぶ歳だよね」
あたしは携帯から顔を覗き、訊ねると美穂はクスクス笑った。
今日は旅行に行くので張り切っているのか、唇に少し薄いピンク色の口紅を塗っている。ツヤツヤして、女のあたしでもつい触ってしまうほどの魅力だ。
「おばあちゃんの友達だもん。そりゃ歳だよ。でも、唯一村で好印象なんだって」
「ふぅん」
あたしは再び携帯に目を通し、携帯を閉じた。向かい合って座っている美穂も分厚い本を置き、猫のように体を伸ばした。
それから、止まっていた時間を埋めるようにお喋りタイムが始まった。学校の噂話や奇奇怪怪な話し、近所の話しまで。
盛り上がって、持ってきたお菓子をちょっと半分食べてしまった。まあ、大丈夫。綾村でもスーパーあると思うしね。
空港に着くまで、まだだいぶ時間がある。食べたり、はしゃいだり車の中はカラオケボックスのような気分だった。
あれ? 少し、ウトウトしてきた。あんなに夜眠ったのに。瞼が勝手に閉じていく。踏んばって目を見開くも、シャッターのように重い。その重さに耐えきれず、あたしは暗闇の中に意識が入った。
§
『あれ? ここどこ?』
次に目が覚めた場所は車の中……ではなく真っ黒なドームの中。一筋の光も見えない闇。上も下も右も左も見渡すばかり、どこまでも続く真っ黒な世界。
まるで、あたししかいないような空間にヒヤリと汗が背中を伝った。
『みっちゃああん! 奈美ぃぃぃ! どこにいるのぉ!』
山頂でやまびこしたように、どこまでも何層にも重なってこだまするあたしの声。応える者は誰もいなかった。ますます怖くなり、足が震えた。
その震える足を一歩勇気を飲んで試みた。一歩一歩、少しずつでも歩いてみせた。
それでも周りの景色は変わらない。元いた自分の立ち位置さえも変わっているのか分からない。進んでいるのか、それとも、さらに奥に進んでいるのか全く分からない。
冬の時期だというのに、小さな冷たい汗玉が額から流れ、頬をツゥと伝う。触れるとシャボン玉のようにすぐに壊れる。本当に冷たくって水のような汗。
『一体、ここはどこなの?』
足を止め、もう一度辺りを見渡した。上も下も右も左も。そうしている内にある一本の光の線が見えた。
雲の切れ端から顔を覗く太陽のように、その線は眩しくそれでいて、希望に満ちた光。あたしはその線へと向かった。駆け足で、体育祭でもだしたことのない持久力で。
腕を伸ばし掴もうとした途端、目の前にある情景が焼きつけた。それは顔を振っても視線を変えてもどこまでも跡を追うようについてくる映像。
『なにこれ!? なんなの!?』
慌てるあたしをよそに映像が現れる。
田んぼの轍道の情景。田舎のよくある光景。空の色がやけに赤々しい。夕日ってこんなに赤かったけ。目が次第に赤くなるような夕日。
風も匂いも感じない。本当にだたの映像みたい。
その光景の真ん中に田舎者ではない明らかに浮いている都会人がいた。青年だ。程よく逞しい筋肉質な体型に大きな背広。
ひと目で分かった。響矢先輩だ。どうしてこんな所に。しかも、これってあたしの夢だよね。夢の中に先輩が!?
あれ、先輩の足元に魔法陣のような模様が浮かんでいる。桜色のようにピンク色で時が進むにつれ、最初よりもだんだん大きくなる陣。
響矢先輩の体が消えていく! 待って、どこに連れていくの。
待って! 響矢先輩…――!
§
「れっちゃん! れっちゃん!」
涼風のような柔らかい声が耳に聞こえた。この声は確か、幼馴染の美穂。真面目で優しくって誰にでも好かれる子。
あたしはその声を辿って、暗闇から這い上がった。薄っすらと瞼を開けると、さっき黒いドームにいたから明るい車内は目が眩しい。
寄り添うにように美穂と奈美が顔を覗いていた。二人とも、こめかみに皺を寄せるほど、眉が垂れ下がっている。
「あ、れ……? あたし」
「酷くうなされてたよ。大丈夫?」
手を強く握り、涙が溜まった熱い眼差しで美穂が言う。
「……大丈夫」
それしか、応えることができなかった。なんて、言っていいのか全く分からない。頭がまだボーってする。なんだったの。今のは。
ふと、奈美に訊ねた。頭が回らない中、夢に出てきた響矢先輩の安否だけが心配になっておもむろに訊ねる。
すると、奈美は大きく首をかしげあたしを凝視する。
「響矢先輩は奈美たちよりも一時間早く綾村に行きましたです。でも、なぜいま響矢先輩の話しですか?」
さぁと血の気が引いていった。あたしのみた夢、それはもしかして〝予知夢〟なんかじゃ。
小さい頃、よく母に聞かされてた。占い師としてまず、覚醒するのが〝予知夢〟。母もあたしと同じ年齢の頃、跡取りになるか必死に迷ったらしい。
その時、必然を思わせたようにその力が目覚め現在に至る。
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