神様記録

ハコニワ

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第二章 前世と神と

第17話 恋仲

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 なんとなく感じていた雰囲気とは違った。
 占いをやる場所って、予想的に室内が暗くって白い煙がモヤモヤと広がっているそんなとこだと思っていたのに、オフィスみたいな部屋だった。
「さ。上がって、君が奈美ちゃんね。玲奈からいつも聞いてるわ」
 母が奈美をひと目見るなり、微笑んだ。温かく歓迎するなり、オフィスの座席に誘導する。ゆったりと深いクッションだ。
 母と対面する形で奈美と雪くんが腰掛ける。なんだか、いよいよな雰囲気になったなぁ。
「さて。前世の診断ね。占いというより催眠術とかだけどね」
 母が手軽にお茶を用意し、そう言った。お茶を机に置き、微笑する。いつも家では凛とした姿を見せるけど、依頼者にたいしてはそんな笑みを浮かべるんだ。初めて知った。
 なんだか、その笑みの中に悟っているような空気が交えてある。そうして、始まった前世診断。
 生年月日や幼少期の思い出を尋問する母。あぁ、この姿が嫌いなんだよなぁ。遠目からその光景を見ていると、チョイチョイと肩を突かれた。振り向くと、斗馬が手招きする。
「何?」
「長そうだからさ、お茶しない?」
 あたしは迷いなくのった。

 ビルから去り、商店街の大広場で待つ。商店街の道路は色鮮やかなレンガだ。普段のコンクリートじゃない。
 赤色や青色、茶色のレンガで組み立てたレンガの道だ。商店街から抜けるとすぐにコンクリート道に戻る。この鮮やかなレンガ道を何度も見ると、心がうっとりとしてしまう。昔はこの道を何度も母と渡ったな。
 お買い物とか、よく手を繋いで歩いたっけ。占い家系じゃなかったら普通の一般家庭だ。
 大広場とは何も店が建っていない休憩場所だ。商店街の門があるとすれば、この大広場はゴールの門。
 樹木と椅子だけの空間。壁には映画のポスターや商店街の案内。
 人は疎らで椅子に座っているのはあたしと斗馬だけだ。静かすぎて小鳥の囀りが聞こえてくる。あぁ、のどかなだなぁ。
 あたしは不意に聞いてみた。
「ねぇ、取り壊された神社、覚えてる?」
「覚えてるよ」
 斗馬は携帯電話を弄くりながら応える。あたしはびっくりして思わず顔を見上げた。斗馬は変わらず、淡々と携帯電話を弄くり言った。
「森の泉神社。恋が叶うジンクスがある神社」
「お、覚えてたんだ」
「そりゃあね」
 斗馬と話しは途切れ、奈美の診断が終わるのを今か今かと思う。
 すると、ビルからあの二人が出てきた。あたしは二人の元に急いで駆け寄る。けど、なんだか雰囲気が違う。
 今まで気まずそうに距離を置いていた二人がピッタリとくっつき合い腕を組んでいる。
「え、なに、どうしたの?」
 訊ねると奈美はフフと笑った。
 まるで、全身の肉がとろりと溶けたようにたるんだ笑み。青い瞳がキラキラと輝いてる。
「ありがとう。玲奈!」
「え? 何が?」
 訊ねると雪くんが喋りだした。こいつも頬の肉がたるんでる。
「今から付き合うことになるんです。僕たち」
「……はっ!?」
 まったくもって意味がわからない。あれからどうなって今なぜそうなる。口をパクパクするあたしに奈美が穏やかに言った。
「奈美たち、前世では生涯の壁を壊した仲なんだって。つまり、夫婦だったのです!」
「へ、へぇ」
 若干、腰を引くあたし。
 あの母がこんな診断結果をやったの。何か間違っている。絶対。でも、この二人の仲睦まじい姿を見ると反対意見なんて言えない。
 前世なんて、この前まで興味のなかったから、こんなに人を変えるものなんて思いもしなかった。あぁ、これが占いの果ての力か。
 人を信じさせ、変える、そんなやり方にゾッと恐怖がめばえた。でも、占いで頼る人が世の中に大勢いる。そんな人のために占いがあるんだ。
 あたしは遠くからビルの2階を見上げた。胡散臭い看板はあとにして、母が窓から覗いてないか目を凝らして見上げてみる。でも、2階の窓を見るなり母の姿は見当たらない。少し母を見直してしまった。
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