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第三章 再び会うときまで
第28話 綾村へ!
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体育祭が終わり、鮮やかな赤茶色だった木の葉がすっかりと枯れ落ち、絶食したように木々たちはやせ細っている。
盛大に咲いていた木の葉たちは落ちて、道の隅っこに身を潜めるように集まっている。
外に一歩行けば肌寒い風が足先から髪の毛まで伝い、身を固めるような寒さ。もうすぐ、四連休があります。
「綾村へ行きましょうです!」
楽しみな四連休を控えた一週間前、ある日の授業の休み時間、奈美が元気にそう言い寄ってきた。
「あやむら?」
あたしは聞いたことのない自治区の名前を口にし、ガラス玉のようにキラキラと帯びた丸い瞳を覗いた。
「綾村って宮崎の?」
美穂が訊ねる。奈美は元気に首を頷いた。美穂も奈美も知ってる自治区なんて、あたしは知らない。二人で勝手に盛り上がる話しにあたしは割いて間に入った。
「ちょっと待て待て。綾村でどこでなにをしに行くわけ?」
訊ねると奈美が飛び跳ねるように机を叩いた。ガラス玉の目玉をキラキラとさせ、あたしに言う。
「長年のオカルズ部の夢、それは聖地の綾村に行くことなのです! 綾村は百年前に起きた大災害にて一番早く復興した村とも名が知れ渡っていますけど、それだけじゃないんです! 綾村はとっても長寿の村なのです。その場所に一度でも出向くとたちまち、長寿になるという言い伝えがあるのですよ!」
ペラペラと自分の理想論を語り、奈美は興奮したように周りをぴよんぴよんと小さく飛び跳ねる。美穂も嬉しそうに目尻をあげた。奈美と一緒に飛び跳ねるように微笑む。
「私も行きたいなぁ、綾村。私のおばあちゃんがね、そこの出身なんだ。年に一回家族で旅行に行くんだけど、ほんとに楽しいところだよ!」
絶賛されても困る。だって、あたしそんな言い伝えがある村、気味悪くって行きたくないし楽しみな四連休旅行したくない。
美穂のおばあちゃんとは顔見知りな仲だけど、そこの出身なんだ。初めて知った。
「あたしも行くの?」
訊ねると、さも当たり前に旅行の話しになった。チケットは美穂が全額払うらしい。オカルズ部の為なのか、祖母の故郷を見に行きたいのか全く分からない。
同伴にオカルズの部長も行くらしい。
「え、三年の?」
「そうなのです。響矢先輩です!」
オカルズ部といえば、怪しい雰囲気を持つ部だけど、そこの部長は一味違う。一年のあたしまで知っている有名な先輩。成績優秀でなにより、体育祭で団のリーダーを着飾るほどの運動神経抜群。
去年と続き団の優勝を勝ち取ったのもこの人のおかげ。選抜リレーで身体能力が強い美穂ですら敵わなかったんだもん。なんで、そんな人が怪しい部の部長なのか全く理解できないけどこの機会でお目にかかるなんてあたしは少し鼻がこそばゆくなってきた。
「響矢先輩、楽しみで今ルンルンなのですよ」
奈美が天真爛漫な笑みで、くるりと輪を描くように回った。陽光に照らされた向日葵畑を駆け巡るような周りかただ。
そんな中、旅行に盛り上がったあたしたちに近寄ってくる影が。
「なんの話し?」
「あ、東」
肌寒い廊下からトコトコ歩み寄ってくる。
「東も行きましょうです! 綾村に!!」
奈美がひときわ輝く目玉を一層、キラキラさせ、東により詰める。東は自分の席に座り、少し考え込む。同伴にあの響矢先輩も来るんだ。即効行くだろうと考えてたら違った。
「ごめん。私はパス」
はっきりとそう言い切った。そこで肩を落とすのは奈美と美穂。自分の無実を必死に証明するかのように綾村を絶賛賛否する二人。
あたしもここで、はっきりとパスって言えたらなぁ。ここで怖じ気ついちゃう所がだめなんだよね。
どうやら、東は四連休家族と旅行に行くらしい。水をさすようなのであたしたちはだんまりした。
ヘベはこの話を聞いてついてくるだろうか。四連休ずっとヘベと離れ離れになるのだから、ついてくるよね? でもそれはあたしの勝手のエゴ? あたしは離れると寂しいけど、ヘベはあたしと離れても寂しくなかったりして。それはそれで少し寂しい。どうしようかな。
悶々と考え込む中、あっという間に放課後。昼間温かかった陽光の光が少し和ぎ、真っ赤な炎ようなただの眩しい陽光が建物の間からさしてくる。外に一歩歩んだだけで、吐く息が白くなる。
「ヘベ、聞いて!」
「なんだ?」
苺がのったショートケーキを頬張るヘベにあたしは寄り掛かった。
「四連休、みっちゃんたちと旅行しにいくんだけどヘベもついてく?」
ついていく、ひたすらそんな返事を待った。ヘベは少し考えてから口を開く。
「楽しんで行ってこい!」
「え、行かないの?」
内心、膝が折れるほどがっかりした。ヘベは金色の瞳を細め、ニッコリと満足げに笑う。
「玲奈が家にいないということは、私は四連休この家を守らなくては」
スプーンで苺がのったショートケーキを口に入れるぐらいの小さな適量で切った。パクリと口に頬張る。色白のほっぺたがポロリと落ちそうなほど溶けている。
ちょっと、それ、冷蔵庫にあったあたしのケーキじゃない。なに黙って満足げに食べてんの。ヘベは唇の骨格をあげ、ちょっと寂しそうに笑った。
「ついて行きたいのは山々だが、私は元はこの地域一帯でも名のある神さまでもあったのだ。今はないけど、それでも私はここから離れられない。ごめんな」
あたしはさっきよりもショックを感じた。ヘベがここを離れるとどうなるか、検討もつかないけどヘベの気持ちなんて考えてなかった。
「ごめん。それじゃ留守番よろしくね」
ヘベは任せろ、というように親指サインをしてきた。あたしはちょっと微笑する。
「いい? お母さんが少しでも二階に上がってきたら……」
「窓から逃げる!」
「泥棒に遭遇したら……」
「コテンパに倒す!」
「よしっ!」
あたしの苦しい検査をなんとか、合格し、この家の留守番係を公認した。
さてと、あとは旅行の荷造りだ。バックどこにしまったっけ。
盛大に咲いていた木の葉たちは落ちて、道の隅っこに身を潜めるように集まっている。
外に一歩行けば肌寒い風が足先から髪の毛まで伝い、身を固めるような寒さ。もうすぐ、四連休があります。
「綾村へ行きましょうです!」
楽しみな四連休を控えた一週間前、ある日の授業の休み時間、奈美が元気にそう言い寄ってきた。
「あやむら?」
あたしは聞いたことのない自治区の名前を口にし、ガラス玉のようにキラキラと帯びた丸い瞳を覗いた。
「綾村って宮崎の?」
美穂が訊ねる。奈美は元気に首を頷いた。美穂も奈美も知ってる自治区なんて、あたしは知らない。二人で勝手に盛り上がる話しにあたしは割いて間に入った。
「ちょっと待て待て。綾村でどこでなにをしに行くわけ?」
訊ねると奈美が飛び跳ねるように机を叩いた。ガラス玉の目玉をキラキラとさせ、あたしに言う。
「長年のオカルズ部の夢、それは聖地の綾村に行くことなのです! 綾村は百年前に起きた大災害にて一番早く復興した村とも名が知れ渡っていますけど、それだけじゃないんです! 綾村はとっても長寿の村なのです。その場所に一度でも出向くとたちまち、長寿になるという言い伝えがあるのですよ!」
ペラペラと自分の理想論を語り、奈美は興奮したように周りをぴよんぴよんと小さく飛び跳ねる。美穂も嬉しそうに目尻をあげた。奈美と一緒に飛び跳ねるように微笑む。
「私も行きたいなぁ、綾村。私のおばあちゃんがね、そこの出身なんだ。年に一回家族で旅行に行くんだけど、ほんとに楽しいところだよ!」
絶賛されても困る。だって、あたしそんな言い伝えがある村、気味悪くって行きたくないし楽しみな四連休旅行したくない。
美穂のおばあちゃんとは顔見知りな仲だけど、そこの出身なんだ。初めて知った。
「あたしも行くの?」
訊ねると、さも当たり前に旅行の話しになった。チケットは美穂が全額払うらしい。オカルズ部の為なのか、祖母の故郷を見に行きたいのか全く分からない。
同伴にオカルズの部長も行くらしい。
「え、三年の?」
「そうなのです。響矢先輩です!」
オカルズ部といえば、怪しい雰囲気を持つ部だけど、そこの部長は一味違う。一年のあたしまで知っている有名な先輩。成績優秀でなにより、体育祭で団のリーダーを着飾るほどの運動神経抜群。
去年と続き団の優勝を勝ち取ったのもこの人のおかげ。選抜リレーで身体能力が強い美穂ですら敵わなかったんだもん。なんで、そんな人が怪しい部の部長なのか全く理解できないけどこの機会でお目にかかるなんてあたしは少し鼻がこそばゆくなってきた。
「響矢先輩、楽しみで今ルンルンなのですよ」
奈美が天真爛漫な笑みで、くるりと輪を描くように回った。陽光に照らされた向日葵畑を駆け巡るような周りかただ。
そんな中、旅行に盛り上がったあたしたちに近寄ってくる影が。
「なんの話し?」
「あ、東」
肌寒い廊下からトコトコ歩み寄ってくる。
「東も行きましょうです! 綾村に!!」
奈美がひときわ輝く目玉を一層、キラキラさせ、東により詰める。東は自分の席に座り、少し考え込む。同伴にあの響矢先輩も来るんだ。即効行くだろうと考えてたら違った。
「ごめん。私はパス」
はっきりとそう言い切った。そこで肩を落とすのは奈美と美穂。自分の無実を必死に証明するかのように綾村を絶賛賛否する二人。
あたしもここで、はっきりとパスって言えたらなぁ。ここで怖じ気ついちゃう所がだめなんだよね。
どうやら、東は四連休家族と旅行に行くらしい。水をさすようなのであたしたちはだんまりした。
ヘベはこの話を聞いてついてくるだろうか。四連休ずっとヘベと離れ離れになるのだから、ついてくるよね? でもそれはあたしの勝手のエゴ? あたしは離れると寂しいけど、ヘベはあたしと離れても寂しくなかったりして。それはそれで少し寂しい。どうしようかな。
悶々と考え込む中、あっという間に放課後。昼間温かかった陽光の光が少し和ぎ、真っ赤な炎ようなただの眩しい陽光が建物の間からさしてくる。外に一歩歩んだだけで、吐く息が白くなる。
「ヘベ、聞いて!」
「なんだ?」
苺がのったショートケーキを頬張るヘベにあたしは寄り掛かった。
「四連休、みっちゃんたちと旅行しにいくんだけどヘベもついてく?」
ついていく、ひたすらそんな返事を待った。ヘベは少し考えてから口を開く。
「楽しんで行ってこい!」
「え、行かないの?」
内心、膝が折れるほどがっかりした。ヘベは金色の瞳を細め、ニッコリと満足げに笑う。
「玲奈が家にいないということは、私は四連休この家を守らなくては」
スプーンで苺がのったショートケーキを口に入れるぐらいの小さな適量で切った。パクリと口に頬張る。色白のほっぺたがポロリと落ちそうなほど溶けている。
ちょっと、それ、冷蔵庫にあったあたしのケーキじゃない。なに黙って満足げに食べてんの。ヘベは唇の骨格をあげ、ちょっと寂しそうに笑った。
「ついて行きたいのは山々だが、私は元はこの地域一帯でも名のある神さまでもあったのだ。今はないけど、それでも私はここから離れられない。ごめんな」
あたしはさっきよりもショックを感じた。ヘベがここを離れるとどうなるか、検討もつかないけどヘベの気持ちなんて考えてなかった。
「ごめん。それじゃ留守番よろしくね」
ヘベは任せろ、というように親指サインをしてきた。あたしはちょっと微笑する。
「いい? お母さんが少しでも二階に上がってきたら……」
「窓から逃げる!」
「泥棒に遭遇したら……」
「コテンパに倒す!」
「よしっ!」
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