14 / 34
第一章 出会い
第14話 運命の人
しおりを挟む
まさか、あの乳を壁と仕立てあげ足蹴にするとは、この猫、かなりやりおる! 美穂の乳がプルルンと揺れた擬音がしたかのように聴こえる。
「この、バカ巨乳ぅぅぅぅ!」
奈美が叫んだ。いつも蝉みたいに甲高い声がやけに甲高く響く。その言葉にははっきり、あたしも同意だ。
足蹴にされ、ヘナヘナと地面に尻もちついている美穂はなにが起きたのか呆然としている。皺一つなかったブレザーには猫の肉きゅうがくっきりと残っている。
「猫ちゃん捕獲どころか、完全に嘲笑っていましたです!」
奈美が奥歯を噛み締め、猫がすたこらさっさと逃げた場所に一目散と追いかけた。
「なんか、奈美、いつもと気合い充分すぎじゃない?」
あたしは美穂に駆け寄り、手を伸ばす。
「うん。なんか、奈美じゃないみたい……」
手を握り、立ち上がると服についた泥や砂を手で払った。美穂の準備が整うと急いで奈美のあとを追った。
猫は公園近くの民家に入り、その跡を追っていた奈美も民家の庭に堂々と入る。ごく普通の一般的な家だ。2階建ての大きな家。玄関には家族全員の名前が表札に刻まれている。どうやら、この家は子どもが一人いるだけらしい。名前を見ても男か女かはっきりできないな。
急いであたしたちが向かうとそれまで黙っていた木の葉が渦を巻くように巻いた。木の葉が擦れ木々たちが呻る。嵐の舞ぶれのように空気がピリピリする。
「好きです!」
その一声がやけに響いた。
まだ、少年の味が残るちょっと高い声。あたしと美穂はピタッと立ち尽くし、その声の主を目の奥まで凝視した。
猫が逃げた場所だ。さらに奈美まで立ち入った場所の家。その告白を受けているこそ、奈美だった。
呆然と立ち尽くししている奈美の前に一人の少年がいる。この家の息子さんなのかな。髪の毛が漆黒で瞳の色が澄み切った青空の色。
「…――え?」
奈美の殻から抜けた一声が応えだった。
なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。なぜこの少年が初対面の奈美に告白するのだろう。しかも、その告白を受け、奈美は透明な涙をポロポロと溢れている。蒼い瞳がそのまま、ぽろりと溢れていきそうなみずみずしい涙。
現状を把握できないあたしたちはただ、遠くからその姿を見つめた。
「なに? どうなってんの!?」
「しっ!」
公園近くの自動販売機から顔を覗かせ、様子見。彩りどりにピカピカ光っている自動販売機だ。
少年が途端、我をしり、あわてふためく。
「ご、ごめんなさい! 見ず知らずの人にこんなこと言って……」
「いいえ……」
奈美も慌てて手の甲で涙を掬う。熱を帯びた熱い涙だった。現状に追いついていけないのは、あの二人も同じだようだ。確かに奈美もクラスで一、ニを争うほどの美少女だ。太陽に似た明るい金髪に天然つやつや光った白い肌、どこか穏やかな雰囲気をしめる彼女はいつもスカートの丈を誰よりも短く折っている。そこから覗く程よい形の太もも。
以前、一緒に帰っているときたまたま芸能事務所の社長が通りかかり、奈美をスカウトしたことがある。
その美貌はそんな高い位まで認められるほど。告白をされるなんて、日常茶飯事。なのに、奈美は初めて泣いた。男の子の前で。
影から二人を観察していると、美穂が驚いたような間抜けな声をだした。
「あ、あれ見て!」
少年の足元を小さく指差す。つられてあたしは視線を送った。なんと、少年の足元に猫がいる。足に頭をスリスリ擦りつけ、にゃぁんと戯れあように鳴いた。
声もかけられない緊迫とした空気の中、あのチャラ男が元気に声をかけてきた。
「おぉい! そこでなにやってんの二人とも」
公園の先の坂から手をぶんぶんと大げさに振って寄ってくる斗馬。それまで、二つはだけてたシャツがますますはだけてて、鎖骨からの胸板が覗いていた。驚くほどがっしりとした筋肉。
「あんた、どこで遊んでたの?」
「遊んでないよぉ。走っただけ」
あたしの第一声がそんなおかしかったのか、ケラケラ笑う。と、空気が明らかにおかしいことに気づき、視線を奈美たちに向けた。
「あれ? 雪くん?」
「と、斗馬……くん、どうしてここに?」
なんと、少年と斗馬は知り合いらしい。それまで、かしこまっていた少年の頬に笑顔が戻る。
「知り合い?」
「うん。同クラだよ」
ということは、斗馬と同じ高校三年生の一八歳。身長が奈美とあたしと同じなので同い年か年下かと思ってしまった。
美穂がちゃっかり奈美の隣に駆け寄っている。あたしも駆け寄ると、いつも元気な表情がうっすらとなくなっている。生気を取られた人間のよう。
「どうしたの?」
美穂が顔を覗き、穏やかな口調で訊ねた。
「やっと会えました」
ボソリとそう呟いた。その表情は曇天のように暗く、けど、目の奥にはうっすらと光が見えていた。
この言葉にあたしたちは知る由もなく、この場で解散となった。猫は斗馬が捕獲してなんとか、依頼も終了。奈美は無事家に帰れるか心配だったので家まで送るか相談したら、奈美は気さくに断った。
「大丈夫です。家まで帰れます」
微笑し、ゆっくりと電車のホームに向かう背中はポッキリと折れてしまいそうに小さい。
§
家に帰りつくと既に時刻は七時を過ぎようとしていた。流石の母も怒るだろうと身構えてたら、家にはヘベしかいなかった。
叱られたのは母ではなくヘベだったけど、今日のことをヘベに話すとヘベは急に顔色をかえた。
「玲奈は〝前世〟というものを信じるか?」
「前世……? まぁたく」
あたしは言った通り、占いなんてざっと興味ないからね。前世なんてあっても知ったこっちゃない。
「この、バカ巨乳ぅぅぅぅ!」
奈美が叫んだ。いつも蝉みたいに甲高い声がやけに甲高く響く。その言葉にははっきり、あたしも同意だ。
足蹴にされ、ヘナヘナと地面に尻もちついている美穂はなにが起きたのか呆然としている。皺一つなかったブレザーには猫の肉きゅうがくっきりと残っている。
「猫ちゃん捕獲どころか、完全に嘲笑っていましたです!」
奈美が奥歯を噛み締め、猫がすたこらさっさと逃げた場所に一目散と追いかけた。
「なんか、奈美、いつもと気合い充分すぎじゃない?」
あたしは美穂に駆け寄り、手を伸ばす。
「うん。なんか、奈美じゃないみたい……」
手を握り、立ち上がると服についた泥や砂を手で払った。美穂の準備が整うと急いで奈美のあとを追った。
猫は公園近くの民家に入り、その跡を追っていた奈美も民家の庭に堂々と入る。ごく普通の一般的な家だ。2階建ての大きな家。玄関には家族全員の名前が表札に刻まれている。どうやら、この家は子どもが一人いるだけらしい。名前を見ても男か女かはっきりできないな。
急いであたしたちが向かうとそれまで黙っていた木の葉が渦を巻くように巻いた。木の葉が擦れ木々たちが呻る。嵐の舞ぶれのように空気がピリピリする。
「好きです!」
その一声がやけに響いた。
まだ、少年の味が残るちょっと高い声。あたしと美穂はピタッと立ち尽くし、その声の主を目の奥まで凝視した。
猫が逃げた場所だ。さらに奈美まで立ち入った場所の家。その告白を受けているこそ、奈美だった。
呆然と立ち尽くししている奈美の前に一人の少年がいる。この家の息子さんなのかな。髪の毛が漆黒で瞳の色が澄み切った青空の色。
「…――え?」
奈美の殻から抜けた一声が応えだった。
なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。なぜこの少年が初対面の奈美に告白するのだろう。しかも、その告白を受け、奈美は透明な涙をポロポロと溢れている。蒼い瞳がそのまま、ぽろりと溢れていきそうなみずみずしい涙。
現状を把握できないあたしたちはただ、遠くからその姿を見つめた。
「なに? どうなってんの!?」
「しっ!」
公園近くの自動販売機から顔を覗かせ、様子見。彩りどりにピカピカ光っている自動販売機だ。
少年が途端、我をしり、あわてふためく。
「ご、ごめんなさい! 見ず知らずの人にこんなこと言って……」
「いいえ……」
奈美も慌てて手の甲で涙を掬う。熱を帯びた熱い涙だった。現状に追いついていけないのは、あの二人も同じだようだ。確かに奈美もクラスで一、ニを争うほどの美少女だ。太陽に似た明るい金髪に天然つやつや光った白い肌、どこか穏やかな雰囲気をしめる彼女はいつもスカートの丈を誰よりも短く折っている。そこから覗く程よい形の太もも。
以前、一緒に帰っているときたまたま芸能事務所の社長が通りかかり、奈美をスカウトしたことがある。
その美貌はそんな高い位まで認められるほど。告白をされるなんて、日常茶飯事。なのに、奈美は初めて泣いた。男の子の前で。
影から二人を観察していると、美穂が驚いたような間抜けな声をだした。
「あ、あれ見て!」
少年の足元を小さく指差す。つられてあたしは視線を送った。なんと、少年の足元に猫がいる。足に頭をスリスリ擦りつけ、にゃぁんと戯れあように鳴いた。
声もかけられない緊迫とした空気の中、あのチャラ男が元気に声をかけてきた。
「おぉい! そこでなにやってんの二人とも」
公園の先の坂から手をぶんぶんと大げさに振って寄ってくる斗馬。それまで、二つはだけてたシャツがますますはだけてて、鎖骨からの胸板が覗いていた。驚くほどがっしりとした筋肉。
「あんた、どこで遊んでたの?」
「遊んでないよぉ。走っただけ」
あたしの第一声がそんなおかしかったのか、ケラケラ笑う。と、空気が明らかにおかしいことに気づき、視線を奈美たちに向けた。
「あれ? 雪くん?」
「と、斗馬……くん、どうしてここに?」
なんと、少年と斗馬は知り合いらしい。それまで、かしこまっていた少年の頬に笑顔が戻る。
「知り合い?」
「うん。同クラだよ」
ということは、斗馬と同じ高校三年生の一八歳。身長が奈美とあたしと同じなので同い年か年下かと思ってしまった。
美穂がちゃっかり奈美の隣に駆け寄っている。あたしも駆け寄ると、いつも元気な表情がうっすらとなくなっている。生気を取られた人間のよう。
「どうしたの?」
美穂が顔を覗き、穏やかな口調で訊ねた。
「やっと会えました」
ボソリとそう呟いた。その表情は曇天のように暗く、けど、目の奥にはうっすらと光が見えていた。
この言葉にあたしたちは知る由もなく、この場で解散となった。猫は斗馬が捕獲してなんとか、依頼も終了。奈美は無事家に帰れるか心配だったので家まで送るか相談したら、奈美は気さくに断った。
「大丈夫です。家まで帰れます」
微笑し、ゆっくりと電車のホームに向かう背中はポッキリと折れてしまいそうに小さい。
§
家に帰りつくと既に時刻は七時を過ぎようとしていた。流石の母も怒るだろうと身構えてたら、家にはヘベしかいなかった。
叱られたのは母ではなくヘベだったけど、今日のことをヘベに話すとヘベは急に顔色をかえた。
「玲奈は〝前世〟というものを信じるか?」
「前世……? まぁたく」
あたしは言った通り、占いなんてざっと興味ないからね。前世なんてあっても知ったこっちゃない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】僕は君を思い出すことができない
朱村びすりん
青春
「久しぶり!」
高校の入学式当日。隣の席に座る見知らぬ女子に、突然声をかけられた。
どうして君は、僕のことを覚えているの……?
心の中で、たしかに残り続ける幼い頃の思い出。君たちと交わした、大切な約束。海のような、美しいメロディ。
思い出を取り戻すのか。生きることを選ぶのか。迷う必要なんてないはずなのに。
僕はその答えに、悩んでしまっていた──
「いま」を懸命に生きる、少年少女の青春ストーリー。
■素敵なイラストはみつ葉さまにかいていただきました! ありがとうございます!

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
悩みの夏は小さな謎とともに
渋川宙
青春
お盆前に親戚の家を訪れた高校二年の蓮井悠人。この機会に普段は東京の大学で大学院生をしている従兄の新井和臣に進路相談をしとうと決意する。
そんな悠人と和臣に、祖母の志津が不思議な話を持ってきた。なんでも町はずれにある廃校舎を勝手に利用している人がいるという話で…
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて
ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる