神様記録

ハコニワ

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第一章 出会い

第14話 運命の人

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 まさか、あの乳を壁と仕立てあげ足蹴にするとは、この猫、かなりやりおる! 美穂の乳がプルルンと揺れた擬音がしたかのように聴こえる。
「この、バカ巨乳ぅぅぅぅ!」
 奈美が叫んだ。いつも蝉みたいに甲高い声がやけに甲高く響く。その言葉にははっきり、あたしも同意だ。
 足蹴にされ、ヘナヘナと地面に尻もちついている美穂はなにが起きたのか呆然としている。皺一つなかったブレザーには猫の肉きゅうがくっきりと残っている。
「猫ちゃん捕獲どころか、完全に嘲笑っていましたです!」
 奈美が奥歯を噛み締め、猫がすたこらさっさと逃げた場所に一目散と追いかけた。
「なんか、奈美、いつもと気合い充分すぎじゃない?」
 あたしは美穂に駆け寄り、手を伸ばす。
「うん。なんか、奈美じゃないみたい……」
 手を握り、立ち上がると服についた泥や砂を手で払った。美穂の準備が整うと急いで奈美のあとを追った。
 猫は公園近くの民家に入り、その跡を追っていた奈美も民家の庭に堂々と入る。ごく普通の一般的な家だ。2階建ての大きな家。玄関には家族全員の名前が表札に刻まれている。どうやら、この家は子どもが一人いるだけらしい。名前を見ても男か女かはっきりできないな。

 急いであたしたちが向かうとそれまで黙っていた木の葉が渦を巻くように巻いた。木の葉が擦れ木々たちが呻る。嵐の舞ぶれのように空気がピリピリする。
「好きです!」
 その一声がやけに響いた。
 まだ、少年の味が残るちょっと高い声。あたしと美穂はピタッと立ち尽くし、その声の主を目の奥まで凝視した。
 猫が逃げた場所だ。さらに奈美まで立ち入った場所の家。その告白を受けているこそ、奈美だった。
 呆然と立ち尽くししている奈美の前に一人の少年がいる。この家の息子さんなのかな。髪の毛が漆黒で瞳の色が澄み切った青空の色。
「…――え?」
 奈美の殻から抜けた一声が応えだった。

 なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。なぜこの少年が初対面の奈美に告白するのだろう。しかも、その告白を受け、奈美は透明な涙をポロポロと溢れている。蒼い瞳がそのまま、ぽろりと溢れていきそうなみずみずしい涙。
 現状を把握できないあたしたちはただ、遠くからその姿を見つめた。
「なに? どうなってんの!?」
「しっ!」
 公園近くの自動販売機から顔を覗かせ、様子見。彩りどりにピカピカ光っている自動販売機だ。
 少年が途端、我をしり、あわてふためく。
「ご、ごめんなさい! 見ず知らずの人にこんなこと言って……」
「いいえ……」
 奈美も慌てて手の甲で涙を掬う。熱を帯びた熱い涙だった。現状に追いついていけないのは、あの二人も同じだようだ。確かに奈美もクラスで一、ニを争うほどの美少女だ。太陽に似た明るい金髪に天然つやつや光った白い肌、どこか穏やかな雰囲気をしめる彼女はいつもスカートの丈を誰よりも短く折っている。そこから覗く程よい形の太もも。

 以前、一緒に帰っているときたまたま芸能事務所の社長が通りかかり、奈美をスカウトしたことがある。
 その美貌はそんな高い位まで認められるほど。告白をされるなんて、日常茶飯事。なのに、奈美は初めて泣いた。男の子の前で。
 影から二人を観察していると、美穂が驚いたような間抜けな声をだした。
「あ、あれ見て!」
 少年の足元を小さく指差す。つられてあたしは視線を送った。なんと、少年の足元に猫がいる。足に頭をスリスリ擦りつけ、にゃぁんと戯れあように鳴いた。

 声もかけられない緊迫とした空気の中、あのチャラ男が元気に声をかけてきた。
「おぉい! そこでなにやってんの二人とも」
 公園の先の坂から手をぶんぶんと大げさに振って寄ってくる斗馬。それまで、二つはだけてたシャツがますますはだけてて、鎖骨からの胸板が覗いていた。驚くほどがっしりとした筋肉。
「あんた、どこで遊んでたの?」
「遊んでないよぉ。走っただけ」
 あたしの第一声がそんなおかしかったのか、ケラケラ笑う。と、空気が明らかにおかしいことに気づき、視線を奈美たちに向けた。
「あれ? ゆきくん?」
「と、斗馬……くん、どうしてここに?」
 なんと、少年と斗馬は知り合いらしい。それまで、かしこまっていた少年の頬に笑顔が戻る。
「知り合い?」
「うん。同クラだよ」
 ということは、斗馬と同じ高校三年生の一八歳。身長が奈美とあたしと同じなので同い年か年下かと思ってしまった。
 美穂がちゃっかり奈美の隣に駆け寄っている。あたしも駆け寄ると、いつも元気な表情がうっすらとなくなっている。生気を取られた人間のよう。
「どうしたの?」
 美穂が顔を覗き、穏やかな口調で訊ねた。
「やっと会えました」
 ボソリとそう呟いた。その表情は曇天のように暗く、けど、目の奥にはうっすらと光が見えていた。
 この言葉にあたしたちは知る由もなく、この場で解散となった。猫は斗馬が捕獲してなんとか、依頼も終了。奈美は無事家に帰れるか心配だったので家まで送るか相談したら、奈美は気さくに断った。
「大丈夫です。家まで帰れます」
 微笑し、ゆっくりと電車のホームに向かう背中はポッキリと折れてしまいそうに小さい。

§

 家に帰りつくと既に時刻は七時を過ぎようとしていた。流石の母も怒るだろうと身構えてたら、家にはヘベしかいなかった。
 叱られたのは母ではなくヘベだったけど、今日のことをヘベに話すとヘベは急に顔色をかえた。
「玲奈は〝前世〟というものを信じるか?」
「前世……? まぁたく」
 あたしは言った通り、占いなんてざっと興味ないからね。前世なんてあっても知ったこっちゃない。
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