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第一章 出会い
第13話 公園の滑り台
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ヘトヘトな体を動かし、やっと三人は猫の家に辿り着いた。腕につけた時計をみると、既に六時を回っている。まだ、六時なのに、こんなにも辺りが暗い。
夜道に明るく照りつける街頭のおかげもあって、この場所へと辿り着いた。猫がたくさんいるから、みんな〝猫の家〟って言ってるの。
猫の家はもともと空き家だっから、壊れた障子や割れた窓ガラス、ビリビリに破れたカーテン、空き缶やゴミが散乱してある。
夜見るととてつもなく怖い場所だ。走った体が急激に冷えていくのを感じとった。
「やっぱり不気味ですぅ」
胸の前に手を握り、目をガラス玉のようにキラキラと輝きだした。さすがオカルトマニア、こんな怖い場所でも無邪気だな。今でも探検しにいきそうだ。
「さぁ、行きますです!」
「こんな急に!?」
あたしは奈美の手をがっしり握り、その一歩を塞いだ。奈美は無垢でつぶらな瞳をキョトンとし、首を小さく傾げる。
奈美はいいけど、あたしはまだ心の準備というものがまだなの。怖いものとか幽霊とかそんな、全然興味ないけど、いざとなれば膝が震える小心者なの。だから、せめて10分待って。
「れっちゃん、大丈夫?」
美穂が声をかけてきた。
中腰になってあたしの顔色を伺う。吐息がかかるほど顔が近い。美穂は知ってる。あたしが怖がりなことを。こんなとき、最も信用できて頼りになる。あたしは小さく首を縦に振る。
すると、美穂はあたしの背中に手を添え、穏やかな目で言った。
「れっちゃんはここに残ってたほうが良くない?」
「玲奈は怖がりさんでしたか」
奈美も穏やかにそう言うと、美穂のほうに顔を向ける。
「ここはオカルズ部、期待の新人、奈美にお任せを! 必ずメケちゃんを探し出しますです!」
軍隊でする敬礼の構えをし、奈美は胸を張って言った。蒼い瞳が何事にも負けない強く凛々しい瞳へと変わっている。その眼差しは炎のように熱い。
「一人で? だめだよ」
美穂が寄ると奈美は黙って首を横に振る。
「美穂は玲奈のそばで見守ってください。奈美はこの誰も近寄れぬ家にずっと前から興味があったので!」
そう言うと、一緒に行く発言が少なくなる。確かに、一人で残っているほうがよっぽど怖い。
すると、美穂はポケットから携帯を取り出し、細やかな指で操作している。すると、携帯を耳に当てた。どうやら、誰かに電話しているらしい。でも、この現状で誰に?
携帯の音声からプルルルと掛かる音が聴こえる。暫く、そうしていると美穂の口が開いた。
「もしもし、今どこにいるの?」
『三日市駅だよ』
低いキーに穏やかな声。斗馬だ。斗馬の連絡先、あたしは知らない。二年会ってもいないし学校も違うからそんなの連絡の取り合いがしようがない。なのに、美穂は知ってる。この二人は既にそんな、関係までなっていたなんて。
まんざらでもなく、斗馬と話し合っている美穂は次第に結論が出たのか、電話を切った。
あたしと奈美の顔を交互に見る。
「斗馬と電話したら、こっちに来るって。奈美一人、こんな暗い場所に行かせるわけにはいかないし、れっちゃんも一人にさせない。そこで、斗馬を呼んだからその間、待ってよう」
携帯をポケットに入れ、言った。
猫の家を目の前にし、道路で佇んでいるわけにもいかないので、近くの公園に足を止めた。少し、安堵しているような、でも、少し複雑な気分。
公園のベンチに腰をおろすあたしと美穂。猫の家をウロウロと行ったり来たりしている奈美。こっちまで怪しい人物になるほど、怪しい。
「メケちゃん、本当にここにいるのかな」
途方に暮れたような遠い声で美穂が言う。静かに顔を向けると、美穂は首を項垂れ、足元を見張っていた。
その声はどこか、迷いのある色が見えた。でも、すぐに気のせいだと分かる。
猫の鳴き声がした。静寂な夜、それがやけに甲高く聞こえた。にゃぁ、と呼びかけに応えたようなそんな甘い声。
声のしたほうへ、美穂とあたしは振り向いた。公園の滑り台の上、気ままに体を伸びして腰を降ろしている一匹の猫を見つけた。
淀んだ茶色で胴に丸いって黒い斑点もの柄がついている。尻尾が丸い。明らかに、写真で見た猫だ。
「メケちゃん!」
美穂が慌ただしい声色と静かに慎重に張り上げた。その声は遠くにいる奈美にも聞こえたらしい。奈美も慌てて駆け寄ってきた。
猫はのんびり欠伸をかいて足を丸めてうたた寝している。あたしたちの存在に気づいてなさそう。
眠りから覚めぬよう、慎重に猫のもとへと歩み寄る。
「慎重に、みっちゃんは横から……」
「オッケ」
あたしは滑り台の階段から、奈美はカラフルに塗料された滑り台の下から、そして、万が一飛び退いて逃げたら一番身体能力が高い美穂が捕まえる。そんな、作戦だ。
あたし、奈美、美穂はそれぞれ立ち位置を揃うと顔を見合った。あとから思い出すと、やけに真剣な表情していたなぁ。まず、あたしと奈美が猫に近寄る。
階段を駆け上がり、手を伸ばすと、猫は全身を震わせ、丸まった足をピンと跳ねた。背中に翼が生えたように台から遊具にジャンプする。
「そっちいったよ! みっちゃん!」
「任せて! さっ! おいでっ!」
遊具へと飛び移る場所の前に美穂が駆け寄り、両腕を前に広げた。これで、逃げ場はない。いくら素早い猫どいえ、空中で急に帰路を変えるなんてことはありえない。
猫の大きな体が次第に丸まった。いいや、新体操部の人が技をやるとき、ジャンプしたあと撚り出すような回転しつつその技を繰り返す、そんな技を同等に猫がやってみせたのだ。
丸まった猫が美穂の手をなんなくすり抜け、美穂の柔らかいクッションを壁に仕立てた。そのクッションとは、
「きゃっ!」
美穂の〝女〟らしい黄色い悲鳴がこだました。腕をすり抜け、クッションみたいな柔らかい乳を足蹴にした。回転し、地に降り立つと猫は美穂のほうへと振り向く。嘲笑うように目を細め、にゃぁと鳴いた。
夜道に明るく照りつける街頭のおかげもあって、この場所へと辿り着いた。猫がたくさんいるから、みんな〝猫の家〟って言ってるの。
猫の家はもともと空き家だっから、壊れた障子や割れた窓ガラス、ビリビリに破れたカーテン、空き缶やゴミが散乱してある。
夜見るととてつもなく怖い場所だ。走った体が急激に冷えていくのを感じとった。
「やっぱり不気味ですぅ」
胸の前に手を握り、目をガラス玉のようにキラキラと輝きだした。さすがオカルトマニア、こんな怖い場所でも無邪気だな。今でも探検しにいきそうだ。
「さぁ、行きますです!」
「こんな急に!?」
あたしは奈美の手をがっしり握り、その一歩を塞いだ。奈美は無垢でつぶらな瞳をキョトンとし、首を小さく傾げる。
奈美はいいけど、あたしはまだ心の準備というものがまだなの。怖いものとか幽霊とかそんな、全然興味ないけど、いざとなれば膝が震える小心者なの。だから、せめて10分待って。
「れっちゃん、大丈夫?」
美穂が声をかけてきた。
中腰になってあたしの顔色を伺う。吐息がかかるほど顔が近い。美穂は知ってる。あたしが怖がりなことを。こんなとき、最も信用できて頼りになる。あたしは小さく首を縦に振る。
すると、美穂はあたしの背中に手を添え、穏やかな目で言った。
「れっちゃんはここに残ってたほうが良くない?」
「玲奈は怖がりさんでしたか」
奈美も穏やかにそう言うと、美穂のほうに顔を向ける。
「ここはオカルズ部、期待の新人、奈美にお任せを! 必ずメケちゃんを探し出しますです!」
軍隊でする敬礼の構えをし、奈美は胸を張って言った。蒼い瞳が何事にも負けない強く凛々しい瞳へと変わっている。その眼差しは炎のように熱い。
「一人で? だめだよ」
美穂が寄ると奈美は黙って首を横に振る。
「美穂は玲奈のそばで見守ってください。奈美はこの誰も近寄れぬ家にずっと前から興味があったので!」
そう言うと、一緒に行く発言が少なくなる。確かに、一人で残っているほうがよっぽど怖い。
すると、美穂はポケットから携帯を取り出し、細やかな指で操作している。すると、携帯を耳に当てた。どうやら、誰かに電話しているらしい。でも、この現状で誰に?
携帯の音声からプルルルと掛かる音が聴こえる。暫く、そうしていると美穂の口が開いた。
「もしもし、今どこにいるの?」
『三日市駅だよ』
低いキーに穏やかな声。斗馬だ。斗馬の連絡先、あたしは知らない。二年会ってもいないし学校も違うからそんなの連絡の取り合いがしようがない。なのに、美穂は知ってる。この二人は既にそんな、関係までなっていたなんて。
まんざらでもなく、斗馬と話し合っている美穂は次第に結論が出たのか、電話を切った。
あたしと奈美の顔を交互に見る。
「斗馬と電話したら、こっちに来るって。奈美一人、こんな暗い場所に行かせるわけにはいかないし、れっちゃんも一人にさせない。そこで、斗馬を呼んだからその間、待ってよう」
携帯をポケットに入れ、言った。
猫の家を目の前にし、道路で佇んでいるわけにもいかないので、近くの公園に足を止めた。少し、安堵しているような、でも、少し複雑な気分。
公園のベンチに腰をおろすあたしと美穂。猫の家をウロウロと行ったり来たりしている奈美。こっちまで怪しい人物になるほど、怪しい。
「メケちゃん、本当にここにいるのかな」
途方に暮れたような遠い声で美穂が言う。静かに顔を向けると、美穂は首を項垂れ、足元を見張っていた。
その声はどこか、迷いのある色が見えた。でも、すぐに気のせいだと分かる。
猫の鳴き声がした。静寂な夜、それがやけに甲高く聞こえた。にゃぁ、と呼びかけに応えたようなそんな甘い声。
声のしたほうへ、美穂とあたしは振り向いた。公園の滑り台の上、気ままに体を伸びして腰を降ろしている一匹の猫を見つけた。
淀んだ茶色で胴に丸いって黒い斑点もの柄がついている。尻尾が丸い。明らかに、写真で見た猫だ。
「メケちゃん!」
美穂が慌ただしい声色と静かに慎重に張り上げた。その声は遠くにいる奈美にも聞こえたらしい。奈美も慌てて駆け寄ってきた。
猫はのんびり欠伸をかいて足を丸めてうたた寝している。あたしたちの存在に気づいてなさそう。
眠りから覚めぬよう、慎重に猫のもとへと歩み寄る。
「慎重に、みっちゃんは横から……」
「オッケ」
あたしは滑り台の階段から、奈美はカラフルに塗料された滑り台の下から、そして、万が一飛び退いて逃げたら一番身体能力が高い美穂が捕まえる。そんな、作戦だ。
あたし、奈美、美穂はそれぞれ立ち位置を揃うと顔を見合った。あとから思い出すと、やけに真剣な表情していたなぁ。まず、あたしと奈美が猫に近寄る。
階段を駆け上がり、手を伸ばすと、猫は全身を震わせ、丸まった足をピンと跳ねた。背中に翼が生えたように台から遊具にジャンプする。
「そっちいったよ! みっちゃん!」
「任せて! さっ! おいでっ!」
遊具へと飛び移る場所の前に美穂が駆け寄り、両腕を前に広げた。これで、逃げ場はない。いくら素早い猫どいえ、空中で急に帰路を変えるなんてことはありえない。
猫の大きな体が次第に丸まった。いいや、新体操部の人が技をやるとき、ジャンプしたあと撚り出すような回転しつつその技を繰り返す、そんな技を同等に猫がやってみせたのだ。
丸まった猫が美穂の手をなんなくすり抜け、美穂の柔らかいクッションを壁に仕立てた。そのクッションとは、
「きゃっ!」
美穂の〝女〟らしい黄色い悲鳴がこだました。腕をすり抜け、クッションみたいな柔らかい乳を足蹴にした。回転し、地に降り立つと猫は美穂のほうへと振り向く。嘲笑うように目を細め、にゃぁと鳴いた。
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