神様記録

ハコニワ

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第一章 出会い

第11話 初めての依頼

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 学校の門を通り抜けようとした際、思わぬ声がかかった。低いキーにどこか落ち着いた男の声。校門の門の前にここの制服を着ていない男子学生が道を塞いだ。
「やっほ! 超久しぶり! 可愛くなっちゃって」
 おちゃらけたふうに言う。猫のように垂れ下がった目尻に、その下に小さなほくろ、華奢な体のくせにアスリート並の筋肉質な手足。その顔は見覚えがある。
「もしかして……斗馬?」
 斗馬はあたしたちのもう一人の幼馴染。
「合ったり。中学以来だから二年?」
 斗馬はニカと白い歯をみせ、にこやかに笑った。
 もう一人の幼馴染でも学年も違うし、なにより、学校が違う。中学時代、陸上部に入っていた斗馬は数々の賞を持っているので、そのまま陸上が強い名門高校に通っている。その証拠に持っている鞄の柄がかっこよくデザインされている。
 シャツのボタンを二つはだけた鎖骨から逞しい筋肉が覗いてた。それと同時に茶色の首筋には濃ゆい女の唇のマークがほんのりと残っている。陸上が強くても、ちょっと女たらしがある性格だ。まったく、仮にも上級生なのにみっともない。
 幼馴染でも家は近所ではない。昔から知り合いだからただ、そう言ってるだけ。家も違うので滅多に会わなくなった。
「どうしたの? こんなとこで」
 訊ねると斗馬は整った眉をハチの字に曲げた。
「おりいって話しがあるんだ」
「話し?」
 先は急いでいるけど、昔からのよしみ。話しを聞かないわけはない。校門の前で話しをするのもなんだし、とりあえず出よう。でないと痛い。さっきから周囲の視線がめっちゃ刺さるようで痛い。
「あ、最近できたアイスクリーム店、奢るよ」
 斗馬がちょいっと小さく指をアイスクリーム店がある商店街道を向け、軽く言う。
「え、いいの?」
「もちろん」
 先を急ぐようにあたしの肩を急に引き寄せてきた。硬い筋肉に鼻があたる。なんだか、手慣れてるなぁ。
 そう呆れて思う矢先、背後からさっき別れた美穂と奈美が声をかけてきた。
「れっちゃん、どうしたの?」
「その人誰ですか?」
 斗馬が声を聞いた途端、突き飛ばすようにあたしから距離を置いた。美穂を見てさっきとは違う表情で笑う。いいや、女たらしの顔つきではない。
「美穂ちゃんも久しぶり! 随分と大きくなっちゃって」
 美穂のたわわに膨らんだ胸を凝視して、微笑む。美穂は顔を機関車のように赤く火照り、サッと腕で胸を隠した。
「斗馬、先輩……見ないでください」
「相変わらずかわいいなぁ」
 斗馬がハハと小さく笑う。その眼差しは熱がこもったように熱い。あたしは知ってる。斗馬は美穂だけにその視線を送ることを。美穂は知らない。斗馬の気持ちを。昔からのよしみなのか、分かってしまった。
 見ている傍観者のあたしはなにも協力しないし、手も貸さない。でも、時がきたら貸そうと思う。
「斗馬でいいよ。先輩って呼ばれると調子狂うし。敬語もいいし。あ、そこの君は?」
 奈美を好奇な目で見つめ、訊ねた。そういえば、この二人は初対面だ。
「奈美っていいますです。お二人の幼馴染の男さんですか?」
 なんとなく日本語おかしいけど、まぁ、いいや。斗馬は初対面の女の子にたいしても、軽く接してきた。お人形のような真っ白な奈美の手を握りぶんぶんと派手に握手する。
「初めまして! 斗馬っす。あ、普通に斗馬であだ名はトーちんで!」
「チャラい」
 美穂がさりげなくツッコミを入れている。氷のような冷めた目で顎を上に向けて見下している。まさに、SNの女王のような。
「美穂ちゃん、いつからそんな……!」
 膝がカクンと折れそうにショックを抱いている斗馬。あたしはブランと垂れ下がった手提げバッグの紐を再び肩につるし、大きく息を吐いた。
「はいはい、それはあと。奢るって言ったよね?」
「あぁ、そうだったそうだった」
 本当に忘れてたみたいで、ポンと拳をもう片方の手のひらに置く。
「え、何を?」
 美穂と奈美は大きな瞳を見開かせ、好奇心旺盛の少年のようにキラキラと眩しい瞳をむけてくる。そうだった。この二人はこういう話が好きなのだ。
「最近できたアイスクリーム店。一緒行く?」
「え、良いの? お邪魔じゃない?」
「全然。むしろ、大人数だと助かる」
 怪しげな笑みでそう言った。斗馬のおりいっての話しとは一体なんなのだろう。闇が深まる中、あたしたちは最近できたアイスクリーム店に辿り着いた。
 商店街の一番先頭で良かった。ここの道は奈美も美穂もあたしも帰りが少し違うから。逆とはいいきれないが、複雑な経路なの。唯一、帰り道が逆なのは斗馬。
 隣街の高校からここまで来るなんて、よほどの話しなんだろう。あ、ヘベの甘いお菓子、これにしよっと。
 あたしはバニラ味、美穂は抹茶味、奈美はホワイトカルピ味、斗馬はチョコレート味と色々と違う種類を頼んで計一二〇〇円。
 本当に奢っていいのか、気がひけるが、斗馬は陽気に笑うだけ。こんもりとしたお財布の中からお金を払う。一体学生でどうやってそんなこんもりとしたお財布が生まれるのだろう。
 ペロリと食べると味は確かに市販のものとは違う。格別においしいのだ。放課後、空が暁に染まった頃、親友たちとで食べるからかな。
 ペロリとあっという間に完食したあと、斗馬が低いトーンで喋りだした。
「玲奈ちゃんには悪いけど。探してほしいやつがいるんだ」
 その曇った表情に真剣な眼差し、それはよく母に依頼を頼む人たちと同じ顔。
 つまり、あたしに初めての依頼がきた。
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