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第一章 出会い
第10話 へべの正体
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話しを全部聞いたへべは、透明な涙をボロボロと零した。あたしはちょっと、クスッと悪戯が成功したような笑みが宿り、笑ってしまった。
本棚の近くにあるティッシュを取り、へべに渡す。
「もう、何泣いてんの」
バシッと背中を叩いてやると、金色に潤った瞳があたしの顔を見つめた。愛しい我が子を育むような優しい瞳。お団子のようにぷっくりとした頬肉を甘く微笑みかした。
「大きくなったんだな」
「え?」
言われた発言をどうやって、訊ねるか分からなかった。それよりも、あの話しからへべがこんな号泣していた本当の意味を知るわけがない。
「何? いきなりどうしたの?」
グスッと手の甲で涙をふくへべは目が充血した顔をあげた。
「森の泉神社、神の名前はなんていってた?」
訊ねられ、あたしは腕を組み、考えた。さも、難しい問題でもないのに、応えられない。昔、お父さんとお母さんに連れていってもらった場所なのに、全然名前が思いだせない。確か、へがつく名前。悶々と膝を折るように考え込んだ。
「へべだ」
あたしの横からへべが先に応えをだした。あたしは名前を聞いた途端、ずっと心の中で渦を巻いていた問題が綺麗に消え去り、安堵の息を零す刹那、名前に違和感を感じた。
思わず、へべの顔を凝視した。
「うそ。まさか……」
「そうだ、あの神社の守り神が余。覚えていなくても当然だな」
哀しい瞳を潤す。絶対に這い上がれない谷に落ちたような哀しい瞳。あたしは、広大な海に投げ飛ばされた悲哀を感じた。
雑巾のように心が締め付けられる。
「へべは覚えてたの? あたしのこと」
「最初は分からなかった。だが、今の話し聞いて思い出したんだ」
得意げにまた、腰に両手を持ってき、胸をはる。プルルンとプリンのように乳が揺れた。
「学校の近くに、壊された神社があったんだ。ごめん。気づかなくって」
フルフルと黙って首を横に振るへべ。
「あの時の少女が今、こんなに大きくなっている、それだけでへべは嬉しい」
勝気にニカッと笑ったのを見て、あたしは守り神としてへべが過ごしていた日常や色々なことを聞いてみた。何時間も惜しむぐらい。
§
チョンチョンと甲高く雀が鳴る朝。カーテンの隙間から眩しい陽光が顔に当たる。昨日、へべと深夜まで喋り合って寝不足だ。すると、あたしを起こしたのはへべ。毛布を離さまいとくるまっていたのに、ガバと毛布を引き離す。
「あと、五分……」
「五分も三分もないぞ」
引き離されたので、ベッドの隅に丸くなる。カーテンの隙間から温かい陽光が顔にあたり、仕方なく起き上がる。早朝見た顔は母ではなくヘベだった。
「おはよ」
「おはよう!」
薄い唇を上にし、無邪気に微笑み返した。身支度をし、二階から降りるとリビングには母がいた。黙々と朝ご飯の用意をしている。おはよ、と変わらずに声をかけると母は余程、驚いたのか恐る恐る振り向いた。
自分から起きてきたあたしを見て、母の口がぽっかり開いている。
「お、おはよう」
たじろぐ母と一緒に朝ご飯を食べた。昨日喧嘩してそれまで顔を見向きもしなかったのに、何故か話しがしたい、そんな衝動がかけ巡った。
そして、玄関から出ようとすると、裏玄関からヘベから呼び止められた。
「あ、玲奈これを!」
「何、それ?」
服のふところからなにかを取り出し、胸の前に突き出した。それは、赤い櫛。
古風な物を見せるような丸く月に帯びた形に、平たく手乗りサイズ。月のように丸く帯びたところは朝顔の絵がデザインされていた。
「あたしに?」
コクコク頷く。
あたしは赤い櫛を手にすると、へべはあたしの目の中を覗きこんで、小さく微笑んだ。
「この櫛は余の半分の力がこもっている。もし、なにかあったりピンチの時はこの櫛に頼れ。そうすれば、きっと助かる」
「ありがとう」
あたしは赤い櫛を制服のポケットに落ちないように入れ、へべに手を振り、学校に向かった。
何故だろう。いつも見慣れている景色がこんなにもキラキラしている。
§
四方の道から学校へと向かう生徒たちが集結する横断歩道。すぐ渡れば学校の門が見える。
涼しげな朝の風が肌を伝うたび、心地よい。青の点灯になるまで、暫く待っていると、後ろには上級生や下級生、同級生らが互いの隣にいる友達と喋り合っている。
昨日のテレビの話しや芸能人の話題の話し、待っている間、いい暇つぶしだ。しかも、やけに大きく言っているので、罪はない。
ふとした時に笑ってしまう話題を聞いてしまうと、つい一人でにやけてしまう。
「おはよう、れっちゃん!」
今日はそんなことにならずにすみそうだ。後ろから親友の美穂の声がし、振り向く。
「おはよう。ねぇ、覚えてる?」
「なにを?」
小耳に挟むように小声で訊ねるあたしの顔に耳を近づける美穂。
「昔、ここの近くで取り壊された神社あるの覚えてる? その神社で七五三をしたんだけど」
「森の泉神社でしょ?」
美穂がまんざらでもなく即答に応えた。あたしは美穂が困り果てる姿を想像したのだが、水となった。
あたしと違って美穂は覚えていたらしい。あの日のことや、あのあとの記憶を。
信号が青に変わり、颯爽と渡る人々に背中を押されるようにあたしと美穂は白線を渡った。森の泉神社での話しを細かく喋りたいも、どうして今ごろその話しをするのか美穂の怪しげな顔が覗いてくる。
あたしはなんでもない、と話題を切った。
§
本当に時間はあっという間だ。もう、空色が穏やかなオレンジ色が照りつけられている。あたしは急いで教室を出た。
あの時苺を食べたへべはその美味に惹かれて甘いものが好きになった。だから、あたしは帰りにケーキを買っていこうと急ぎ足になっている。
ふと、下駄箱に向かった時、美穂が慌てた様子で走ってきた。
「れっちゃん帰るの?」
わざわざ二階から下駄箱に走って向かってきたのか、肩を荒らしく揺れている。さらりとした髪の毛が荒れている。
「ごめん。ちょっと用があるから先帰るね」
「そうなんだ……ごめん止めちゃて」
「ううん。じゃあね」
靴を履き、美穂に大きく手を振る。
美穂はちょっと悲しい表情をするも、小さく手を振ってくれた。
本棚の近くにあるティッシュを取り、へべに渡す。
「もう、何泣いてんの」
バシッと背中を叩いてやると、金色に潤った瞳があたしの顔を見つめた。愛しい我が子を育むような優しい瞳。お団子のようにぷっくりとした頬肉を甘く微笑みかした。
「大きくなったんだな」
「え?」
言われた発言をどうやって、訊ねるか分からなかった。それよりも、あの話しからへべがこんな号泣していた本当の意味を知るわけがない。
「何? いきなりどうしたの?」
グスッと手の甲で涙をふくへべは目が充血した顔をあげた。
「森の泉神社、神の名前はなんていってた?」
訊ねられ、あたしは腕を組み、考えた。さも、難しい問題でもないのに、応えられない。昔、お父さんとお母さんに連れていってもらった場所なのに、全然名前が思いだせない。確か、へがつく名前。悶々と膝を折るように考え込んだ。
「へべだ」
あたしの横からへべが先に応えをだした。あたしは名前を聞いた途端、ずっと心の中で渦を巻いていた問題が綺麗に消え去り、安堵の息を零す刹那、名前に違和感を感じた。
思わず、へべの顔を凝視した。
「うそ。まさか……」
「そうだ、あの神社の守り神が余。覚えていなくても当然だな」
哀しい瞳を潤す。絶対に這い上がれない谷に落ちたような哀しい瞳。あたしは、広大な海に投げ飛ばされた悲哀を感じた。
雑巾のように心が締め付けられる。
「へべは覚えてたの? あたしのこと」
「最初は分からなかった。だが、今の話し聞いて思い出したんだ」
得意げにまた、腰に両手を持ってき、胸をはる。プルルンとプリンのように乳が揺れた。
「学校の近くに、壊された神社があったんだ。ごめん。気づかなくって」
フルフルと黙って首を横に振るへべ。
「あの時の少女が今、こんなに大きくなっている、それだけでへべは嬉しい」
勝気にニカッと笑ったのを見て、あたしは守り神としてへべが過ごしていた日常や色々なことを聞いてみた。何時間も惜しむぐらい。
§
チョンチョンと甲高く雀が鳴る朝。カーテンの隙間から眩しい陽光が顔に当たる。昨日、へべと深夜まで喋り合って寝不足だ。すると、あたしを起こしたのはへべ。毛布を離さまいとくるまっていたのに、ガバと毛布を引き離す。
「あと、五分……」
「五分も三分もないぞ」
引き離されたので、ベッドの隅に丸くなる。カーテンの隙間から温かい陽光が顔にあたり、仕方なく起き上がる。早朝見た顔は母ではなくヘベだった。
「おはよ」
「おはよう!」
薄い唇を上にし、無邪気に微笑み返した。身支度をし、二階から降りるとリビングには母がいた。黙々と朝ご飯の用意をしている。おはよ、と変わらずに声をかけると母は余程、驚いたのか恐る恐る振り向いた。
自分から起きてきたあたしを見て、母の口がぽっかり開いている。
「お、おはよう」
たじろぐ母と一緒に朝ご飯を食べた。昨日喧嘩してそれまで顔を見向きもしなかったのに、何故か話しがしたい、そんな衝動がかけ巡った。
そして、玄関から出ようとすると、裏玄関からヘベから呼び止められた。
「あ、玲奈これを!」
「何、それ?」
服のふところからなにかを取り出し、胸の前に突き出した。それは、赤い櫛。
古風な物を見せるような丸く月に帯びた形に、平たく手乗りサイズ。月のように丸く帯びたところは朝顔の絵がデザインされていた。
「あたしに?」
コクコク頷く。
あたしは赤い櫛を手にすると、へべはあたしの目の中を覗きこんで、小さく微笑んだ。
「この櫛は余の半分の力がこもっている。もし、なにかあったりピンチの時はこの櫛に頼れ。そうすれば、きっと助かる」
「ありがとう」
あたしは赤い櫛を制服のポケットに落ちないように入れ、へべに手を振り、学校に向かった。
何故だろう。いつも見慣れている景色がこんなにもキラキラしている。
§
四方の道から学校へと向かう生徒たちが集結する横断歩道。すぐ渡れば学校の門が見える。
涼しげな朝の風が肌を伝うたび、心地よい。青の点灯になるまで、暫く待っていると、後ろには上級生や下級生、同級生らが互いの隣にいる友達と喋り合っている。
昨日のテレビの話しや芸能人の話題の話し、待っている間、いい暇つぶしだ。しかも、やけに大きく言っているので、罪はない。
ふとした時に笑ってしまう話題を聞いてしまうと、つい一人でにやけてしまう。
「おはよう、れっちゃん!」
今日はそんなことにならずにすみそうだ。後ろから親友の美穂の声がし、振り向く。
「おはよう。ねぇ、覚えてる?」
「なにを?」
小耳に挟むように小声で訊ねるあたしの顔に耳を近づける美穂。
「昔、ここの近くで取り壊された神社あるの覚えてる? その神社で七五三をしたんだけど」
「森の泉神社でしょ?」
美穂がまんざらでもなく即答に応えた。あたしは美穂が困り果てる姿を想像したのだが、水となった。
あたしと違って美穂は覚えていたらしい。あの日のことや、あのあとの記憶を。
信号が青に変わり、颯爽と渡る人々に背中を押されるようにあたしと美穂は白線を渡った。森の泉神社での話しを細かく喋りたいも、どうして今ごろその話しをするのか美穂の怪しげな顔が覗いてくる。
あたしはなんでもない、と話題を切った。
§
本当に時間はあっという間だ。もう、空色が穏やかなオレンジ色が照りつけられている。あたしは急いで教室を出た。
あの時苺を食べたへべはその美味に惹かれて甘いものが好きになった。だから、あたしは帰りにケーキを買っていこうと急ぎ足になっている。
ふと、下駄箱に向かった時、美穂が慌てた様子で走ってきた。
「れっちゃん帰るの?」
わざわざ二階から下駄箱に走って向かってきたのか、肩を荒らしく揺れている。さらりとした髪の毛が荒れている。
「ごめん。ちょっと用があるから先帰るね」
「そうなんだ……ごめん止めちゃて」
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