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第一章 出会い
第9話 欠落した記憶②
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この情景ははたして、本物か。占い師としての自我の芽生え。
どうする。このまま、何もしないで美穂が重傷を負ったら。何もしないでただ、守られてたら。見えていた未来を何も言わなかったら。頭の中が鍋のようにグツグツと沸いた。
煮えたぎる音は釜戸をも溢れそうになっている。
美穂は自分の正義を貫くという威勢で親分に言う。
「ここが縄張りだっていつ、何時何分、どこで、誰が決めたわけ? この場所は私たちより遥かに前に作られたんだよ。カズくん一人の場所じゃない」
そう言うと、親分の両目が明らかに一変した。獲物を睨みつけるライオンの姿。白銀を帯びたギラギラとした鋭い眼光。
やばい、こっちに向かってきてる。そういえば、昨日、大雨だった。窓を強く打ち付けるほどの強い雨。今日はカンカンにその雨が晴れたけど、ぬかるみがある。これだ。まさしく、あたしが見た情景はこれだったんだ。
「みっちゃん逃げて!」
「え?」
時既に遅し。親分がズルリとぬかるみにはまり、巨像な体が樽のように落下してくる。
「やっぱり、ここに落ちてくる!」
あたしは美穂の体を押した。けど、美穂の体はピクリとも反応しない。真上に落ちてくる巨像を見て、唖然としている。接着剤をつけられたように地に足をついている。体は石像のように止まっていた。
早くなんとかしないと。美穂が怪我を負う。いやだ。それじゃあ、もう一緒に遊べなくなる。早く、美穂気づいて。
樽ようにゴロゴロと転がり、お腹に溜まった肉の脂肪を揺れている。それが、寸前まできた。
すると、貧血を起こしたように右に傾ける美穂。あたしは左に体を仰け反る。そうして、巨像が間からゴロンと落下した。
「みっちゃん、大丈夫!?」
巨像の心配よりも美穂のほうに駆け寄った。美穂は地に尻もちをついてて、あいたたと涙を浮かんでいる。
「あはは、大丈夫……ゔっ!」
膝をつく片足には皮膚が剥がれ、赤い斑点が出来ていた。血がほんのりと皮膚に浮かびあがってき、それから、数分もしないうちにツゥと赤い玉が足を伝う。
「大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。これくらい」
ヒョイと何事もなかったように立ち上がる。が、一気に血を抜かれたようにフラリと横転しそうになる。
その体を支えたのはあたしでもなく、子分でもなく親分でもない。あたしたちのもう一人の幼馴染、斗馬だ。
「よっと、美穂ちゃん大丈夫!?」
漆黒の黒い髪に猫を連想させる細い瞳。右目にはほくろがある男の子。美穂とあたしたちの幼馴染でも、年は二つ上のお兄さんだ。
「あ、斗馬くんありがとう」
「どいたま。玲奈ちゃんは?」
「あたしは大丈夫。どうしてここに?」
訊ねると斗馬は一瞬、こめかみにシワを寄せ怒ったような雰囲気を出したが、次はニンマリと笑ってみせた。
「おばさんたち捜してるから。いつまでも帰ってこないと心配するよ」
あたしと美穂は一気に緊張の糸が芽生えた。お母さん、もしかして怒っている。
わなわなと取り乱す二人を他所に斗馬は美穂をおろして、胎児のように丸くなってズタズタの傷を負った親分のとこに駆け寄る。
親分は一瞬、顔を歪むが斗馬を見上げた。
「おいクソカギ。今度手ぇ出したらぶっ殺す」
それだけ言うと、斗馬は美穂を抱えその場を去った。
「カズくん大丈夫かな」
「ちょっと痛そうって思ったけど大丈夫しょ! 痛い目みたでしょうし!」
三人は逃げるようにあの場を去り、あのあとの親分はどうしたか覚えていない。
でも、確実に覚えているのがそのあと、やたらお母さんたちに怒られたということ。
言いつけを守らず、遠くに向かったこと、美穂に怪我を負わせたこと、こっぴどく怒られた。
それで、その写真を撮ったのは怒られたあとだったから。あぁ、そうだ。この事がきっかけで占い師としての力が怖くなったんだ。本当に予知した未来像。
それがどんなに怖いか。それは全身の血が目の前で吸われる恐怖。
虚ろな記憶を語り、ふとへべに顔を向けるとへべの目は水のように潤っていた。
どうする。このまま、何もしないで美穂が重傷を負ったら。何もしないでただ、守られてたら。見えていた未来を何も言わなかったら。頭の中が鍋のようにグツグツと沸いた。
煮えたぎる音は釜戸をも溢れそうになっている。
美穂は自分の正義を貫くという威勢で親分に言う。
「ここが縄張りだっていつ、何時何分、どこで、誰が決めたわけ? この場所は私たちより遥かに前に作られたんだよ。カズくん一人の場所じゃない」
そう言うと、親分の両目が明らかに一変した。獲物を睨みつけるライオンの姿。白銀を帯びたギラギラとした鋭い眼光。
やばい、こっちに向かってきてる。そういえば、昨日、大雨だった。窓を強く打ち付けるほどの強い雨。今日はカンカンにその雨が晴れたけど、ぬかるみがある。これだ。まさしく、あたしが見た情景はこれだったんだ。
「みっちゃん逃げて!」
「え?」
時既に遅し。親分がズルリとぬかるみにはまり、巨像な体が樽のように落下してくる。
「やっぱり、ここに落ちてくる!」
あたしは美穂の体を押した。けど、美穂の体はピクリとも反応しない。真上に落ちてくる巨像を見て、唖然としている。接着剤をつけられたように地に足をついている。体は石像のように止まっていた。
早くなんとかしないと。美穂が怪我を負う。いやだ。それじゃあ、もう一緒に遊べなくなる。早く、美穂気づいて。
樽ようにゴロゴロと転がり、お腹に溜まった肉の脂肪を揺れている。それが、寸前まできた。
すると、貧血を起こしたように右に傾ける美穂。あたしは左に体を仰け反る。そうして、巨像が間からゴロンと落下した。
「みっちゃん、大丈夫!?」
巨像の心配よりも美穂のほうに駆け寄った。美穂は地に尻もちをついてて、あいたたと涙を浮かんでいる。
「あはは、大丈夫……ゔっ!」
膝をつく片足には皮膚が剥がれ、赤い斑点が出来ていた。血がほんのりと皮膚に浮かびあがってき、それから、数分もしないうちにツゥと赤い玉が足を伝う。
「大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。これくらい」
ヒョイと何事もなかったように立ち上がる。が、一気に血を抜かれたようにフラリと横転しそうになる。
その体を支えたのはあたしでもなく、子分でもなく親分でもない。あたしたちのもう一人の幼馴染、斗馬だ。
「よっと、美穂ちゃん大丈夫!?」
漆黒の黒い髪に猫を連想させる細い瞳。右目にはほくろがある男の子。美穂とあたしたちの幼馴染でも、年は二つ上のお兄さんだ。
「あ、斗馬くんありがとう」
「どいたま。玲奈ちゃんは?」
「あたしは大丈夫。どうしてここに?」
訊ねると斗馬は一瞬、こめかみにシワを寄せ怒ったような雰囲気を出したが、次はニンマリと笑ってみせた。
「おばさんたち捜してるから。いつまでも帰ってこないと心配するよ」
あたしと美穂は一気に緊張の糸が芽生えた。お母さん、もしかして怒っている。
わなわなと取り乱す二人を他所に斗馬は美穂をおろして、胎児のように丸くなってズタズタの傷を負った親分のとこに駆け寄る。
親分は一瞬、顔を歪むが斗馬を見上げた。
「おいクソカギ。今度手ぇ出したらぶっ殺す」
それだけ言うと、斗馬は美穂を抱えその場を去った。
「カズくん大丈夫かな」
「ちょっと痛そうって思ったけど大丈夫しょ! 痛い目みたでしょうし!」
三人は逃げるようにあの場を去り、あのあとの親分はどうしたか覚えていない。
でも、確実に覚えているのがそのあと、やたらお母さんたちに怒られたということ。
言いつけを守らず、遠くに向かったこと、美穂に怪我を負わせたこと、こっぴどく怒られた。
それで、その写真を撮ったのは怒られたあとだったから。あぁ、そうだ。この事がきっかけで占い師としての力が怖くなったんだ。本当に予知した未来像。
それがどんなに怖いか。それは全身の血が目の前で吸われる恐怖。
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