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第一章 出会い
第5話 憂鬱
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待ちに待った昼休み。この時間を待ってました。四時間目からはお腹がグルグル鳴って、早く食べないと胃の中が空っぽになってしまう。
「今日は屋上で食べない?」
そう提案したのは奈美。
「どうしたの急に」
「んー。なんか屋上がいいかなぁて」
蒼い瞳が微細に細め、クスリと笑った。
あたしたちはいつも教室で三人固まって食べているけど今日は屋上かぁ。ん、屋上……? 屋上にはへべがいる!
「待って! やっぱ屋上なし!」
そう言うが時既に遅し。もう二人とも、屋上の前に立っている。
「なんで? 空気がおいしいよ!」
美穂が屋上の扉を開けた。ファと新鮮な空気が入ってくる。美穂と奈美の髪が滑らかに揺れ動いている。
「え、えっと風が冷たくって」
二人とも首を傾げながら、無色透明の風を掴むように手首を離したりしている。
「冷たくないよ? ちょうどいいし、はやく行こ!」
一歩遅れてるあたしを他所に、二人は太陽が照りつける屋上に足を置いた。
「うん! やっぱ空気がおいしいですぅ!」
奈美がお弁当片手にくるくると回った。白い肌が太陽の光によってますます輝いている。
「奈美、危ないよ」
母親みたく注意する美穂は地べたに座り、もうとっくにお弁当を広げている。風当たりと光が刺さない日陰の場所。
へべがいるかもと思って屋上に入れないしあたしを見て、美穂と奈美は大きく手を振って手招きした。
「どうしたの? れっちゃん!」
「お腹ペコペコですぅ。はやくたべましょう」
空のように澄み切った笑顔を向ける。その笑顔は罪や罰さえもあたかも消してくれるような暖かな笑顔。
その笑顔に惹かれ、あたしは恐る恐る屋上に立った。真っ青な空に積乱雲が綿菓子のように広がっている。
学校近くの木々たちがまるで、踊っているようにそよ風になびく。
あたしは辺りをキョロキョロしめみた。へべはいない。どこかに行ったのかな。動くなって言ったけど今は好都合。
美穂と奈美が座っている場所へと駆け寄った。お弁当を広げ、愉快な話しやテストの話し、先輩たちの噂話をここぞと喋る。
すると、背後から声がした。思わず、振り向くとへべがクスリと目を細め微笑していた。
「へべ!?」
「どうしたの? れっちゃん」
叫ぶあたしを怪訝に見てくる美穂と奈美。二つのくりくりした丸い目玉を押し上げている。
「い、いやなんでもない!」
両手をぶんぶんと振る。
何事もなかったようにお弁当を平らげた。その隙間にへべのほうを振り向く。
「どこにいたの」
「ん。ちょっと町の様子を」
白い人差し指で指差す方向は彩りどりの家やカラフルな道路がある。あたしの家の方向もそこだ。というか、問題なのはへべがどうやってあたしの背後から姿を現したのか。
あたしは緑苔色したフェンスに背中を預けていたから、背中は誰もいないはず。幽霊でなければ。
へべはなんと、空に浮いていたのだ。なんの支えもなく、ふよふよと雲のように浮いている。
「力が弱まってもこれくらいはできる!」
ふふんと自慢げに胸を張り、ニカッと唇を耳まで裂くまで笑った。
腰に手をあげ、ポヨンと水風船のように柔らかく膨らんだ二つの膨らみを見せつけるように。しかも、プルンと二回ほど揺れてる。
あたしはさりげなく、自分の胸に手を置いた。へべと違って、まな板のようにストーンとなにもない体。生まれて初めて歯がゆい屈辱。
「どうしたの?」
「胸が痛いのですか?」
美穂と奈美が壷の中身を見るように不安げに顔を覗いてきた。唐突に二人の膨らみに目がいった。
「みぃちゃん、なにカップ?」
「ちょ! なにいきなり!」
顔を沸騰したヤカンのように赤く赤面し、美穂がたじろいだ。美穂のスタイルは線を描いたように細く、華奢で小柄。とりわけ不釣り合いなのが、厚みのある胸だった。
以前、生徒会の集まりの行事で服装はキチンとしなければならないが、美穂に限って制服のボタンが胸のお山のせいで見えなくって、行事始まった直後慌てて奈美とあたしがボタンをかけたんだ。
小柄で華奢な体から一体どんな肉が集まればあんな脂肪が溜まるんだか。
「これ、女子にそんなことを言うではない」
「え、えっと今年の春測ったらなんかね、去年より大きくなってたの……。えっと、Gだった」
へべは浮いたまま横から会話に突っ込む。まるで、透明人間のように。
美穂は太腿をもじもじさせ、厚みのある脂肪を支えるように胸下に腕を抱き寄せて恥ずかしめに喋る。
「じ……っ!?」
「これ! 外で喋る話しではないぞ!」
聞いたあたしは絶句する。同じく、奈美も指が二本入れるくらい口を呆けている。
「ありえないです! 全日本の貧乳の敵なのです!」
「大丈夫。胸は大きさではない若いから知らなくても良いけど」
奈美は箸を持っていた右手をくちばしのように指先を尖らせ、つんつんと美穂の白い肌を突く。
突かれてる美穂はハハと苦笑いしている。食べよ、と言いたげにお弁当箱を手に持っている。
「おぉ、お弁当か中々可愛いものではないか」
奈美の肩上からへべが覗き、関心の面持ちで声をあげた。ちょ、へべ近い近い。幽霊みたいに見えない存在だけど、そう近いと集中できない。
「うん。こいつは甘いものが好きなんだな。箱も甘そうなクッキー柄だしフルーツばっかだ。で、玲奈、この子の名前は?」
金色に艶光った瞳にあたしが映っている。
「今日は屋上で食べない?」
そう提案したのは奈美。
「どうしたの急に」
「んー。なんか屋上がいいかなぁて」
蒼い瞳が微細に細め、クスリと笑った。
あたしたちはいつも教室で三人固まって食べているけど今日は屋上かぁ。ん、屋上……? 屋上にはへべがいる!
「待って! やっぱ屋上なし!」
そう言うが時既に遅し。もう二人とも、屋上の前に立っている。
「なんで? 空気がおいしいよ!」
美穂が屋上の扉を開けた。ファと新鮮な空気が入ってくる。美穂と奈美の髪が滑らかに揺れ動いている。
「え、えっと風が冷たくって」
二人とも首を傾げながら、無色透明の風を掴むように手首を離したりしている。
「冷たくないよ? ちょうどいいし、はやく行こ!」
一歩遅れてるあたしを他所に、二人は太陽が照りつける屋上に足を置いた。
「うん! やっぱ空気がおいしいですぅ!」
奈美がお弁当片手にくるくると回った。白い肌が太陽の光によってますます輝いている。
「奈美、危ないよ」
母親みたく注意する美穂は地べたに座り、もうとっくにお弁当を広げている。風当たりと光が刺さない日陰の場所。
へべがいるかもと思って屋上に入れないしあたしを見て、美穂と奈美は大きく手を振って手招きした。
「どうしたの? れっちゃん!」
「お腹ペコペコですぅ。はやくたべましょう」
空のように澄み切った笑顔を向ける。その笑顔は罪や罰さえもあたかも消してくれるような暖かな笑顔。
その笑顔に惹かれ、あたしは恐る恐る屋上に立った。真っ青な空に積乱雲が綿菓子のように広がっている。
学校近くの木々たちがまるで、踊っているようにそよ風になびく。
あたしは辺りをキョロキョロしめみた。へべはいない。どこかに行ったのかな。動くなって言ったけど今は好都合。
美穂と奈美が座っている場所へと駆け寄った。お弁当を広げ、愉快な話しやテストの話し、先輩たちの噂話をここぞと喋る。
すると、背後から声がした。思わず、振り向くとへべがクスリと目を細め微笑していた。
「へべ!?」
「どうしたの? れっちゃん」
叫ぶあたしを怪訝に見てくる美穂と奈美。二つのくりくりした丸い目玉を押し上げている。
「い、いやなんでもない!」
両手をぶんぶんと振る。
何事もなかったようにお弁当を平らげた。その隙間にへべのほうを振り向く。
「どこにいたの」
「ん。ちょっと町の様子を」
白い人差し指で指差す方向は彩りどりの家やカラフルな道路がある。あたしの家の方向もそこだ。というか、問題なのはへべがどうやってあたしの背後から姿を現したのか。
あたしは緑苔色したフェンスに背中を預けていたから、背中は誰もいないはず。幽霊でなければ。
へべはなんと、空に浮いていたのだ。なんの支えもなく、ふよふよと雲のように浮いている。
「力が弱まってもこれくらいはできる!」
ふふんと自慢げに胸を張り、ニカッと唇を耳まで裂くまで笑った。
腰に手をあげ、ポヨンと水風船のように柔らかく膨らんだ二つの膨らみを見せつけるように。しかも、プルンと二回ほど揺れてる。
あたしはさりげなく、自分の胸に手を置いた。へべと違って、まな板のようにストーンとなにもない体。生まれて初めて歯がゆい屈辱。
「どうしたの?」
「胸が痛いのですか?」
美穂と奈美が壷の中身を見るように不安げに顔を覗いてきた。唐突に二人の膨らみに目がいった。
「みぃちゃん、なにカップ?」
「ちょ! なにいきなり!」
顔を沸騰したヤカンのように赤く赤面し、美穂がたじろいだ。美穂のスタイルは線を描いたように細く、華奢で小柄。とりわけ不釣り合いなのが、厚みのある胸だった。
以前、生徒会の集まりの行事で服装はキチンとしなければならないが、美穂に限って制服のボタンが胸のお山のせいで見えなくって、行事始まった直後慌てて奈美とあたしがボタンをかけたんだ。
小柄で華奢な体から一体どんな肉が集まればあんな脂肪が溜まるんだか。
「これ、女子にそんなことを言うではない」
「え、えっと今年の春測ったらなんかね、去年より大きくなってたの……。えっと、Gだった」
へべは浮いたまま横から会話に突っ込む。まるで、透明人間のように。
美穂は太腿をもじもじさせ、厚みのある脂肪を支えるように胸下に腕を抱き寄せて恥ずかしめに喋る。
「じ……っ!?」
「これ! 外で喋る話しではないぞ!」
聞いたあたしは絶句する。同じく、奈美も指が二本入れるくらい口を呆けている。
「ありえないです! 全日本の貧乳の敵なのです!」
「大丈夫。胸は大きさではない若いから知らなくても良いけど」
奈美は箸を持っていた右手をくちばしのように指先を尖らせ、つんつんと美穂の白い肌を突く。
突かれてる美穂はハハと苦笑いしている。食べよ、と言いたげにお弁当箱を手に持っている。
「おぉ、お弁当か中々可愛いものではないか」
奈美の肩上からへべが覗き、関心の面持ちで声をあげた。ちょ、へべ近い近い。幽霊みたいに見えない存在だけど、そう近いと集中できない。
「うん。こいつは甘いものが好きなんだな。箱も甘そうなクッキー柄だしフルーツばっかだ。で、玲奈、この子の名前は?」
金色に艶光った瞳にあたしが映っている。
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