神様記録

ハコニワ

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第一章 出会い

第3話 学校

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 あたしは耳に穴があくほど、ヘベに忠告をした。
「いい? もし、仮に見えなくっても問題とか起こさないでね」
 ヘベは不機嫌な顔つきになり、頬をリスのように膨らませた。
「さっきから、我はそんな低級な奴らとは違うぞ」
 ムスと膨らませ、風船みたいになっている。あたしは新鮮な屋上の空気を大きく吸った。ヘベの前に人差し指をあげ、金色の瞳を覗きこむ。
 うたた寝する直前に友人たちが騒ぎ始めたのを気に、憤然の面持ちをヘベは少しする。
「学校が終わったら、即、帰るからね。その間、ここで大人しくしてて!」
 ちょうど、授業が始まるチャイム音がした。
 屋上から聞くと、音が少し鈍っててどこが遠くの音だと認識してしまう。
「じゃあ、授業が終わったらまた来るから!」
「あ、まだ……!」
 新しく開設された屋上の戸を開け、バタバタと急ぎ足で階段を降りた。
 ヘベは最後に惜しむように玲奈に手を伸ばしていたが、玲奈にはその姿は見ていなかった。
「行ってしまった……」
 バタンと閉じた扉を見つめ、ヘベは言う。伸ばした腕を静かに戻し、ヘベは辺りをキョロキョロした。
 珍しいものでも見つけた子どものように目を輝かせ、次第に冷静になった面持ちになる。
「変わったな。この世も」
 積雲が転々と渡る大空を見上げた。

§

 朝から移動教室。屋上から降り、少し行った先にその教室なのだが、手元には授業に必要な筆記用具と教科書を持っていないので、一旦、教室に戻るはめになる。

「先生、すいません! 遅れましたぁ!」
 引き戸を思いっきり開け、叫ぶと教室中の視線が体にキシキシと当たった。教壇をふと見ると、今年男の子が生まれたと祝福された若い女性教師はいない。
 教室の中の不思議な空間に足を一歩一歩踏みれる。すると、室内の隅のほうに白い手が手招きしている。
 そこに行ってみると、美穂が太陽のような微笑みで温かく迎え入れてくれた。美穂の隣の椅子に座る。
「先生は?」
「ふふん。授業に遅れるように罠を仕掛けといたの。良かった、れっちゃん怒られなくって」
「……そ、そうなんだ?」
 美穂が一体なんの罠を仕掛けたのかわからないが、感謝すべきは感謝すべきだ。この先生のとき、遅れると点数が十点も引かれるのでそんなのはまっぴらごめんだ。

「ユーマが現れたのですか?」
 美穂の隣に座っていた奈美が目を真珠のように輝かせ、美穂を間にあたしに訊ねてきた。中腰になって覗くように窺う姿勢。金髪でふわふわ綿菓子みたいな柔らかい髪の毛が肩を伝ってさらりと前に伸びていた。
「それとも、奈美たちのご先祖様たちが降ってきたのですか?」
 奈美は好奇心旺盛に私に訊ねてきた。
 朝の挙動不審をそんな目で見ていたのか。
 奈美はいわゆる、ユーマや幽霊、この世に存在しないものが大好きなオカルトマニアだ。現に、オカルトマニアが集まる「オカルズ部」という奇妙な部に入っている。
 ヘベも確かに胡散臭いけど、それと一緒にいることになったあたしまでもが胡散臭いのと同じになるのは正直言っていやだ。

 あたしは首を大きく横にふってみせた。奈美はそれでもめげずにくってかかる。まるで、子どものイタチごっこだ。
「ユーマと幽霊はいます! 神様だって!」
「わかったわかった」
 間にいる美穂が宥めてくれたおかげでイタチごっこは終わり。それと同時に、先生が教室に入ってきた。慌てた様子で肩を上下にし、息が上がっている。
「ごめんね。今から授業を始めます」
 教卓に教科書を置き、ニッコリと笑った。
 遅れたのは先生だけじゃない。しかも、遅くなることを知っている。あたしと美穂と奈美は思わず、顔を背けてしまった。

 先生がやってきて、やっと授業が始まる。外国の有名人の曲を聴いたり、その人の人生などを習うなど。あたしは人の人生観とか興味ない。
 それなのに、授業ではこれが重要だと言わんばかりに教える。
「ねぇ、美穂」
 小声で美穂に声かけた。美穂はいつも真面目で優秀な生徒なので、黒板に書かれたくだらない文字さえもノートに記録している。
 それを見て、心の底から関心してしまった。
「ん、何?」
 栗色した髪を耳にかけ、あたしの顔を見る。
「これってテスト出るのかな?」
「うぅんと」
 右手に持っている兎の絵がデザインされたシャープペンを顎にあて、カチカチならす。眉間にやや、皺を寄せつけ、小難しい顔をしている。
 あたしの顔と机の上のノートを交互に見張って、次第にシャープペンをカチカチならすのを止めた。
「これ、確か先生テスト出さないって言ってたけど、あの先生ちょっと意地悪だからノートには写してたほうがいいよ」
「あぁ、確かに」
 記憶の溝を掘り起こし、音楽のテストで赤点とった悲惨な日を思いだした。仕方なしと口にし、ノートを机に広げ、先生が消す前に早々と書き写した。

 すると、何処からか、ピアノがポロンとなった。レの音響だ。一体、誰が演奏しているのか。
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