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Ⅶ 自由
第48話 続く
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現在の四人の力を持ってしても願いは断ち切れなかった。早々に守人たちはそれぞれの管轄に帰る。話したいことやゆっくりする時間もなく。
そして僕は明保野さんを北区に送ったあと、西区へ。苗化ちゃんが「忙しい人」と零す。
再びタイムマシンに。
苗化ちゃんが事前に用意してくれたリュクサックを抱えて。
「タイムパラドックスて知っている?」
太陽が真面目な顔で聞いてきた。
その顔はいつになく真剣で、その目は鋭く光って僕を見据えている。応答がなかったので太陽は話を続ける。
「別名〝親殺し〟と呼ばれる。〝未来〟の人間がタイムスリップして〝過去〟に行き、自分が生まれる前の両親を殺す。だが、それじゃその殺害する自分も生まれなくなる。ここで矛盾が生じてしまう。空が千年前の過去に行き、歴史を変えると俺たちの知っている歴史は存在しない。そして、本来生まれてくる人も生まれてこない。タイムパラドックスは大罪だ」
太陽はいつになく真剣な面持ちで言った。
空気が静かになる。ただ、タイムマシンの機械的な音だけが響いてそれが虚しい。
「歴史が変わるかもしれない。それでも、僕は彼女と約束したんだ」
「その約束こそが、パンドラだ」
太陽が冷たい声で強く言い切った。
僕はじっと太陽の顔を見る。真剣な目とかち合う。
「太陽の言ってること、分かるよ。でも、僕はやる。どんな結末になったとしても」
僕は太陽の横をとおりすぎ、タイムマシンの台に寝そべった。苗化ちゃんはこちらを配慮したが、僕がオーケーのサインを送ると、タイムマシンを操作し、やがて、窓がしまった。あの時のように、意識が遠のき川や山の自然な情景が直接頭の中に。
窓を閉められたから終始太陽はどんな姿だったか分からない。彼の言っていた〝タイムパラドックス〟という単語も頭に入れておく。あんな真剣だった物を忘れるわけない。
そうして、目が覚めると見覚えのある緑色の木々。風が穏やか、鳥の囀りが聞こえ、遂に来たかと感覚でわかる。まだ全身に力が入らない。少しずつ指先を動かしていくしかない。
それから上体を起き上がり、歩くまでには時間がかかった。今日も曇天のない晴れやかな快晴。陽光が痛い。海面に反射する光よりもギラギラしているのは気のせいか。さて、どうするか。
あれから、どうなったのかが気になる。あの暴力団みたいな連中に連れ去られていないか心配だ。明保野さん宅に急いで向かう。
道中、知っている背中を見かけ背後から声をかけた。
「良かった。二人とも、無事だったんだね!」
声をかけ、振り向いた二人は僕を見るなり悲鳴をあげた。
「そ、そんな驚かないでよ」
僕は宥めるために、蜜鞘姉妹の姉、鳳華姐さんに一歩近づくと鳳華姐さんは持っていたバックからなんと、拳銃を取り出した。
「ちょ、ちょっと!」
掛ける言葉が見つからない。どうして拳銃なんか向けられているのか。何故二人ともそんな恐ろしい顔で僕を見ているのか。とりあえず落ち着いてほしい。でも僕が口を開くとさらに慄いた顔するので、どうするか困惑するとやんわり、落ち着いた声が降り注いだ。
「二人とも、落ち着いて」
近づいてきたのは、明保野さんと久乃さん。
拳銃を持っている腕に手を添えてニコリと微笑むと、その顔を見た鳳華姐さんが腕をおろした。
「亡霊に足はない。こいつはやっぱり生きていた」
久乃さんが足元を指差す。
どういうことか、話をしてくれた。
なんと、あの暴力団みたいな連中は蜜鞘家の使用人であり蜜鞘姉妹を捕らえにきた。そしてその姉妹を唆した、実際唆してはいないのだが、そうなっている。唆したといわれる僕はその人たちに殺された。それから約一週間が過ぎたこの日にまた、僕がひょっこり現れたもんだから二人はびっくり。なるほどね、そりゃびっくりするわ。
「あの、ごめんなさい」
鳳華姐さんが謝った。いつになく肩を落としてる姿は見たことない。それに雰囲気もなんだか落ち着いた――。
「あれ、髪……」
指摘すると彼女は更に顔を暗くさせた。
蜜鞘家がどれだけ厳しいかなんて僕は知らない。友人も着る服もまともに選べない不自由で、呪詛のような呪いがかかった家なんて。その呪いにどれだけ足掻いていても彼女はその家の中。藁に釘が刺さって抜け出せない。
「行動も制限されて、門番は五時まで。あぁ、こんな時間……それじゃ」
鳳華姐さんは妹の苗化ちゃんの手を取って去っていった。苗化ちゃんは手を取られてもう片方でバイバイしてくる。その目は助けてと言っていた。
「黒髪になるとさらに大和撫子感が出てくるな」
明保野さんが羨ましいと言った。
「ぼのちゃん……私も、帰るね」
久乃さんがいそいそと踵を返していく。
「珍しいな。いつもは一緒に帰るのに」
本当に仲良しでくっついているのに、別々に行動とは。何かあったに違いない。僕がいない一週間の中で。
「あの姉妹も生活制限されて、クノちゃんもお義父さんにそれが報告されて暫くは監禁されてたんだ。でもこのご時世煩いから学校だけは通わせている。わたし、わたしもね……あれからいっぱいあって、家ないんだ」
明保野さんは切ない顔をして告げた。
「家がない?」
僕はオウム返しに聞くと明保野さんは事の経緯を淡々と零した。取り立て屋が何回も複数来てしかも、学校まで付け回し、住居を燃やされたことより明保野さんは、無職の女子高生。
学校には当然行けない。
久乃さん宅は当面、お義父さんがいるせいで滞在できない。無職で住居無しの女子高生がどうやって生活するのかというと、公園で野宿するのみ。
「良かった! まだ体は売ってないんだね!」
僕はそれを聞いて心底ホッとした。
無職の女子高生がどうやって生活できるのか、それは体を売って工面するしか……なんて薄汚い邪心をしていた。しかし僕がホッでした束の間、すでにその作戦はやっていたらしい。明保野さんは今晩は寒いから男の部屋で寝ると。
僕は待って、と伸びかけた腕を止めた。なんせ僕にはお金も持っていない彼女と同じ、無職だ。そんな奴が引き止めてどうする。ここは彼女の安泰のために放っておくしかない。伸びた腕を下ろして彼女を見送った。
そして僕は一人、公園で野宿。雪がしんしんと降り積もる夜。風や大地や空気が凍てついて痛い。歯がカチカチ鳴り、体温が低下して死ぬ。温かいものを今から浴びないと凍死。
頼りのリュクを開けてみると花火セットや小型扇風機が出てきて季節外れのものばかり。夏だったら喜ばしいものの今は雪が降り積もり冬。こんなの見て更に寒さが泊尺かかる。
あぁ、死ぬ。死んじゃう。
寒さに震えて膝を抱える。
「ココアミルク、家ならあるよ」
あぁ、幻聴だ。遂に迎えが来たんだ。苗化ちゃんそっくりの天使が。僕は意識が朦朧としてじっ、と彼女を見上げていると横から雪を踏み歩く音が。視界の端に鳳華姐さんが。
「ぼのちゃんの言う通り、本当にいた。膝を抱えて、まぁ、可愛い」
クスクス笑い、白い腕が伸びてきた。僕は彼女の手をすくい取り、蜜鞘家へ。
家は本当に富豪で横一面建物がずっと続いている。庭には鯉がいて、桜の樹が何本も立ってあって、住居がお城のように大きい。しかも鯱たってあったし。ここが本当に家なのかと思うほど日本の和を詰め合わせた場所だ。なんか、住む世界が違うな。
「あれ、なんだが騒がしい」
奥の広間から喧騒な声が。もしかして家の人が暴れているのでは、心配になるも杞憂だった。なんと、今日は親戚一同集まって宴会だという。そうなのか。そんなときに僕を招いてよかったのだろうか。
しかし、それは彼女の計らいだった。彼女の願いは――『蜜鞘一家、その親戚一同殺して欲しい』
今夜集まったその一同に尖りのない石を放り込む鳳華姐さん。その計らいを察して僕はこの場から去ろうとしたが、苗化ちゃんによって止められた。門の前に立ち塞がる。
「殺してしまえばみんな、自由。助けてくれるんでしょ? ヒーロー」
ズキン、と胸が傷んだ。
その目は、心のない人形でゾッとした。凡そ小学生がするもんじゃない悪意に落ちた瞳。鳳華姐さんも同じだ。遠くから活気溢れた声が響いているもここは静寂で雪の寒さに倍してナイフのように空気が冷たく寒い。
「二人にとっての自由……て何なの?」
僕は真剣に聞く。
「そんなの決まっている。この一家皆殺しにして晴れて新しい自分になる。親が決めた学校も友達も着る服も、全部捨てて! 新しく生まれ変わる! もう鳥籠は嫌なの」
鳳華姐さんが泣きながら叫んだ。
苗化ちゃんがそっと支える。暗い瞳をうるうるさせて、着物の懐から黒いものを取り出した。それは、黄昏時見せた拳銃。それを僕の方に投げた。カラカラと乾いた音で足に当たる。
さぁ、早く。
そんな目だった。
僕は受け取ることはできなかった。いや、そもそもしたくない。
そして僕は明保野さんを北区に送ったあと、西区へ。苗化ちゃんが「忙しい人」と零す。
再びタイムマシンに。
苗化ちゃんが事前に用意してくれたリュクサックを抱えて。
「タイムパラドックスて知っている?」
太陽が真面目な顔で聞いてきた。
その顔はいつになく真剣で、その目は鋭く光って僕を見据えている。応答がなかったので太陽は話を続ける。
「別名〝親殺し〟と呼ばれる。〝未来〟の人間がタイムスリップして〝過去〟に行き、自分が生まれる前の両親を殺す。だが、それじゃその殺害する自分も生まれなくなる。ここで矛盾が生じてしまう。空が千年前の過去に行き、歴史を変えると俺たちの知っている歴史は存在しない。そして、本来生まれてくる人も生まれてこない。タイムパラドックスは大罪だ」
太陽はいつになく真剣な面持ちで言った。
空気が静かになる。ただ、タイムマシンの機械的な音だけが響いてそれが虚しい。
「歴史が変わるかもしれない。それでも、僕は彼女と約束したんだ」
「その約束こそが、パンドラだ」
太陽が冷たい声で強く言い切った。
僕はじっと太陽の顔を見る。真剣な目とかち合う。
「太陽の言ってること、分かるよ。でも、僕はやる。どんな結末になったとしても」
僕は太陽の横をとおりすぎ、タイムマシンの台に寝そべった。苗化ちゃんはこちらを配慮したが、僕がオーケーのサインを送ると、タイムマシンを操作し、やがて、窓がしまった。あの時のように、意識が遠のき川や山の自然な情景が直接頭の中に。
窓を閉められたから終始太陽はどんな姿だったか分からない。彼の言っていた〝タイムパラドックス〟という単語も頭に入れておく。あんな真剣だった物を忘れるわけない。
そうして、目が覚めると見覚えのある緑色の木々。風が穏やか、鳥の囀りが聞こえ、遂に来たかと感覚でわかる。まだ全身に力が入らない。少しずつ指先を動かしていくしかない。
それから上体を起き上がり、歩くまでには時間がかかった。今日も曇天のない晴れやかな快晴。陽光が痛い。海面に反射する光よりもギラギラしているのは気のせいか。さて、どうするか。
あれから、どうなったのかが気になる。あの暴力団みたいな連中に連れ去られていないか心配だ。明保野さん宅に急いで向かう。
道中、知っている背中を見かけ背後から声をかけた。
「良かった。二人とも、無事だったんだね!」
声をかけ、振り向いた二人は僕を見るなり悲鳴をあげた。
「そ、そんな驚かないでよ」
僕は宥めるために、蜜鞘姉妹の姉、鳳華姐さんに一歩近づくと鳳華姐さんは持っていたバックからなんと、拳銃を取り出した。
「ちょ、ちょっと!」
掛ける言葉が見つからない。どうして拳銃なんか向けられているのか。何故二人ともそんな恐ろしい顔で僕を見ているのか。とりあえず落ち着いてほしい。でも僕が口を開くとさらに慄いた顔するので、どうするか困惑するとやんわり、落ち着いた声が降り注いだ。
「二人とも、落ち着いて」
近づいてきたのは、明保野さんと久乃さん。
拳銃を持っている腕に手を添えてニコリと微笑むと、その顔を見た鳳華姐さんが腕をおろした。
「亡霊に足はない。こいつはやっぱり生きていた」
久乃さんが足元を指差す。
どういうことか、話をしてくれた。
なんと、あの暴力団みたいな連中は蜜鞘家の使用人であり蜜鞘姉妹を捕らえにきた。そしてその姉妹を唆した、実際唆してはいないのだが、そうなっている。唆したといわれる僕はその人たちに殺された。それから約一週間が過ぎたこの日にまた、僕がひょっこり現れたもんだから二人はびっくり。なるほどね、そりゃびっくりするわ。
「あの、ごめんなさい」
鳳華姐さんが謝った。いつになく肩を落としてる姿は見たことない。それに雰囲気もなんだか落ち着いた――。
「あれ、髪……」
指摘すると彼女は更に顔を暗くさせた。
蜜鞘家がどれだけ厳しいかなんて僕は知らない。友人も着る服もまともに選べない不自由で、呪詛のような呪いがかかった家なんて。その呪いにどれだけ足掻いていても彼女はその家の中。藁に釘が刺さって抜け出せない。
「行動も制限されて、門番は五時まで。あぁ、こんな時間……それじゃ」
鳳華姐さんは妹の苗化ちゃんの手を取って去っていった。苗化ちゃんは手を取られてもう片方でバイバイしてくる。その目は助けてと言っていた。
「黒髪になるとさらに大和撫子感が出てくるな」
明保野さんが羨ましいと言った。
「ぼのちゃん……私も、帰るね」
久乃さんがいそいそと踵を返していく。
「珍しいな。いつもは一緒に帰るのに」
本当に仲良しでくっついているのに、別々に行動とは。何かあったに違いない。僕がいない一週間の中で。
「あの姉妹も生活制限されて、クノちゃんもお義父さんにそれが報告されて暫くは監禁されてたんだ。でもこのご時世煩いから学校だけは通わせている。わたし、わたしもね……あれからいっぱいあって、家ないんだ」
明保野さんは切ない顔をして告げた。
「家がない?」
僕はオウム返しに聞くと明保野さんは事の経緯を淡々と零した。取り立て屋が何回も複数来てしかも、学校まで付け回し、住居を燃やされたことより明保野さんは、無職の女子高生。
学校には当然行けない。
久乃さん宅は当面、お義父さんがいるせいで滞在できない。無職で住居無しの女子高生がどうやって生活するのかというと、公園で野宿するのみ。
「良かった! まだ体は売ってないんだね!」
僕はそれを聞いて心底ホッとした。
無職の女子高生がどうやって生活できるのか、それは体を売って工面するしか……なんて薄汚い邪心をしていた。しかし僕がホッでした束の間、すでにその作戦はやっていたらしい。明保野さんは今晩は寒いから男の部屋で寝ると。
僕は待って、と伸びかけた腕を止めた。なんせ僕にはお金も持っていない彼女と同じ、無職だ。そんな奴が引き止めてどうする。ここは彼女の安泰のために放っておくしかない。伸びた腕を下ろして彼女を見送った。
そして僕は一人、公園で野宿。雪がしんしんと降り積もる夜。風や大地や空気が凍てついて痛い。歯がカチカチ鳴り、体温が低下して死ぬ。温かいものを今から浴びないと凍死。
頼りのリュクを開けてみると花火セットや小型扇風機が出てきて季節外れのものばかり。夏だったら喜ばしいものの今は雪が降り積もり冬。こんなの見て更に寒さが泊尺かかる。
あぁ、死ぬ。死んじゃう。
寒さに震えて膝を抱える。
「ココアミルク、家ならあるよ」
あぁ、幻聴だ。遂に迎えが来たんだ。苗化ちゃんそっくりの天使が。僕は意識が朦朧としてじっ、と彼女を見上げていると横から雪を踏み歩く音が。視界の端に鳳華姐さんが。
「ぼのちゃんの言う通り、本当にいた。膝を抱えて、まぁ、可愛い」
クスクス笑い、白い腕が伸びてきた。僕は彼女の手をすくい取り、蜜鞘家へ。
家は本当に富豪で横一面建物がずっと続いている。庭には鯉がいて、桜の樹が何本も立ってあって、住居がお城のように大きい。しかも鯱たってあったし。ここが本当に家なのかと思うほど日本の和を詰め合わせた場所だ。なんか、住む世界が違うな。
「あれ、なんだが騒がしい」
奥の広間から喧騒な声が。もしかして家の人が暴れているのでは、心配になるも杞憂だった。なんと、今日は親戚一同集まって宴会だという。そうなのか。そんなときに僕を招いてよかったのだろうか。
しかし、それは彼女の計らいだった。彼女の願いは――『蜜鞘一家、その親戚一同殺して欲しい』
今夜集まったその一同に尖りのない石を放り込む鳳華姐さん。その計らいを察して僕はこの場から去ろうとしたが、苗化ちゃんによって止められた。門の前に立ち塞がる。
「殺してしまえばみんな、自由。助けてくれるんでしょ? ヒーロー」
ズキン、と胸が傷んだ。
その目は、心のない人形でゾッとした。凡そ小学生がするもんじゃない悪意に落ちた瞳。鳳華姐さんも同じだ。遠くから活気溢れた声が響いているもここは静寂で雪の寒さに倍してナイフのように空気が冷たく寒い。
「二人にとっての自由……て何なの?」
僕は真剣に聞く。
「そんなの決まっている。この一家皆殺しにして晴れて新しい自分になる。親が決めた学校も友達も着る服も、全部捨てて! 新しく生まれ変わる! もう鳥籠は嫌なの」
鳳華姐さんが泣きながら叫んだ。
苗化ちゃんがそっと支える。暗い瞳をうるうるさせて、着物の懐から黒いものを取り出した。それは、黄昏時見せた拳銃。それを僕の方に投げた。カラカラと乾いた音で足に当たる。
さぁ、早く。
そんな目だった。
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