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6 潜む家

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――パキ

 奥の部屋から物音がした。この現象は、この家を買ったときからだ。

 誰もいないのに、物が散乱している。
 深夜になると、ラップ音が凄い。
 朝になって気がつくと、水道の蛇口が回ってて、今月水道代が桁違いに高い。

 全く、困ったものだ。俺は正直お化けやら非現実の正体は信じない。

 きっと、忘れて物を探してそれを片付けるのを忘れてたんだ。
 深夜のラップ音は、近所の子どもたちの悪ふざけだな。
 水道の蛇口が一人でに開いているのは、閉めるのを忘れてたんだ。

 きっとそうだ。そうに違いない。

 しかし、日に日に怪奇現象は増していき、それは凶悪となった。肌がやけに青白い女が枕元で立っていたり、正常だった電気がバチバチと火花を散らして故障したり、誰もいないのに不気味な笑い声がしたり、と流石に非現実な奴らを信じない俺でも怖くなった。

 そんなある日のことだ。

 俺が終電ギリギリで仕事から帰って、風呂を浴び終わったとき、タオルがないことに気がついた。まあ、誰もいないし真っ裸で出歩いても通報されないか。

「どうぞ」

「あ、ありがとう」

 脱衣所でタオルを渡された。ビチョビチョの体でそこら辺をウロウロしなくて良かった。

 ん?

 俺は独り暮らしだ。誰に渡されたんだ? 恐る恐る目を配ると、誰もいない。俺以外誰もいない。

 当然だ。独り暮らしの家に、もう一人いてたまるか。ましてや、彼女歴イコール年齢の俺に女なんて簡単に連れ込めない。

 その夜は寝付けなかった。布団にくるまって、ガタガタ震え、見えぬ存在の気配を探っていた。

 翌日、会社に出勤し仕事をこなす。昨日の出来事を忘れるかのように没頭して。しかし、必ず家に帰宅する時間が訪れる。

 自分の家なのに、他人の家のように思えて、足取りが重くなった。ふと、その様を見て同僚が声をかけてくれた。俺は包み隠さず事情を説明すると、オカルトマニアな同僚が目を光らせ、ぜひ泊まりたいと申し出た。

 あの家で一人てのも怖かったし、俺は賛成した。
 
 そして、同僚を家に招き入れた。ホームを買って、初めて人を招いた。客人一号だ。

 最初はテレビを見ながらだべったり、漫画読んだり、楽しい時間を過ごした。

 しかし――ふと同僚がトイレに行ったきり、中々帰ってこないことに気がついた。俺は心配になり、トイレのドアを叩いた。しかし、応答はない。

 力強い叩いてみる。それでも応答はない。すると、いきなりドアがキィと開いた。何度叩いてもこじ開けられなかった重いドアが、意図的に扉が開く。

 キィ、と低い音で開き、恐る恐る片方の手で中の様子をうかがうほど大きく開いた。

 同僚が便器に座ったまま、首を項垂れている。

 恐る恐る肩を揺さぶってみた。床に吸い込まれるようにして倒れた。ドサッ、と重苦しい音。そして、やつの顔は、化物でも見た恐ろしい形相で死んでいた。

 元々この家に住んでいた先住民は、若い女性。もう何十年も前らしい。その女性には婚約者がいて、もう結婚間近の噂だった。しかし、片方の相手が突然拒否。その理由でトイレで自殺した。

 このことを初めて知ったときは、俺がこの家を出たときだった。
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