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ハコニワ

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第2話 前世診断

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 女将さんの案内で辿り着いた場所は、九畳ある他の部屋と比べてやや広い部屋。
「こちらは食事や休憩の部屋となっております。寝室は男性は隣。女性は上の階となっております」
 深く礼をすると、颯爽と忍びのように帰っていった。
 九畳ある部屋へと四人入ると、襖の戸を梅子がピッシャンと思いっきり閉めた。
「なんなのよ!? あれ! 態度悪過ぎじゃない!?」
 今まで袋に貯めて我慢してたものを開いて発狂した。その光景に慣れてる天谷とねねは梅子の怒り状態も気にせず、部屋を探索している。
「でも、外の景色だけはいいね。ほら、見て」
「飯の時間まであと二時間かぁ。それまで寝てよ!」
 ごろりと横になる天谷。猛獣のような走りで向かったのは僕。
「天谷! 約束したろ、梅子を誘うって!」
 小声でそう言うと、天谷は駄々を捏ねたように、起きもしない。切羽琢磨に僕は天谷をバシバシ叩いた。
 すると、ねねが携帯電話を開き、声を上げた。
「今日、特別番組がある! こっちでも見られるって」
 目を真珠のように輝かせ、携帯を前に突き出した。載っていたのはテレビの番組表。
 嬉しい気持ちに同意を得ようと、梅子に語りだした。
「この番組、イセさんがでるんだよ! ねぇ、見よ見よ!」
 イセさんとはねねが今、猛烈にファンになってる芸能歌手。オリコン1位や紅白にも出演するほどの話題の男性だ。
 ねねはいわゆる、おっかけをやっている。イセさんがでる番組は欠かさずチェックし、録画やDVDさえも借りて見るくらい猛烈に好きなのだ。
 
「今日の深夜一時にある! 見よ見よ!」
 アイスクリームを強請る子どものように駄々をこねてきた。冷静で大人しいねねの性格ぶん、この姿は呆気に囚われる。
「りょ、深夜一時にここに集合ってことで」
 天谷が提案した。すると、僕のほうを見てさりげないウインクをしてくる。
 まんざらでもない嬉々とした表情で。深夜一時にみんなここに集合ってことはさりげなく梅子と顔を合わせることができる。ちょっと馬鹿な天谷にしてはいい考えだ! ありがとう天谷!

 二時間経ったあと、夜ご飯が渡ってきた。オンボロで汚い宿なのでそんな期待はしていなかった。
 しかし、実際に渡ってきたご飯は珍しい海の幸や揚げ物がいっぱい。こんな豪華な食事は生まれて初めてだ。

 そんなこんなで、深夜十二時になった。
 僕は早く梅子に会いたくて一時間も早く部屋に来てしまった。
 ほとんど顔合わせてるけど、告白というイベントこどになると胸がドキドキして今にでも死んじゃいそうだ。
 早く来てしまったから誰もいないと思ったけど、そこには既に先客がいたようだ。
「ねね、はやいね」
「待ちきれなくて」
 ねねはテレビを前に足を広げて座っていた。ねねも僕と同じように待ちきれなくてきてしまったのだろう。
 髪が少し濡れている。黄色い電気が部屋を明るくするので、その髪は白く艶が入っている。
 しかも、シャンプーの良い香りが周辺に撒き散らして、少し興奮が襲った。
 そんはことをつゆ知らず、ねねは屈託ない笑顔で言う。
「イセさん。新曲歌うんだって! 楽しみだなぁ」
「そっか」
「それで、どうなの?」
 急に質問を投げかけてきた。目を細め、微笑しながら僕を見る。悪戯をしかけてきた眼差し。
 質問の意味が分からず、暫く、見つめ合っていると、ねねは言葉を変えてきた。
「告白のチャンスは」
「分かっていたの?」
 そりゃもちろん、と頬を上に膨らませ満面の笑みで応える。僕は肩を竦め、泣き声のように言った。
「勇気はあるんだよ。でも、あと一歩のところで胸が苦しくって……」
「あらら」
 また急にお菓子を前に突き出した。細棒の塩分が入ってあるサラダ味。格安スーパーで買える商品だ。
 これでも食って元気だしな、というような苦笑いでねねがお菓子を差し出す。僕はありがと、とお菓子を受け取った。

 時計の針が十二半を過ぎた時刻、天谷と梅子が揃った。
「この番組か?」
 天谷がポチポチと意味もなくテレビのチャンネルを変える。
「ちょっと、イセさんの番組、今さっきだったのに、勝手に変えないでくれるっ!?」
 ねねが猛獣のような憤然とした態度で天谷を叱る。お墓に悪戯した子どもを叱りつける母親みたいだ。
 梅子はねねの持ってきたお菓子をパクパク食っている。あれほど、夕食食べたのに。
 叱られた天谷はしぶしぶ、チャンネルをもとの番組に戻す。
 その時、既に違うバラエティに変わっていた。『前世診断』だそうだ。
「なにこれ面白そう!」
 梅子がなんと、興味が沸いたらしい。
 ねね、天谷、僕を誘ってテレビの中の前世を簡単に見れる専門家がしているように僕たちもそうした。
 専門家は怪しい黒マントを羽織った男。
 ベッドに寝そべっている有名女優の頭らへんに立って、念能力をかけるように両手を広げている。
『まず、初めに部屋を真っ暗にし寝そべってください。重要なのは気持ちが落ち着ける場所か』
 僕たちは言われるままに畳の上に寝そべった。布団があったら川の字だ。
 部屋の明かりを消すと、静かになる。テレビが近いほうからねね、天谷、梅子、僕、という順。僕の隣は梅子だ。やった!
 でも、気持ちは落ち着けない。でもいいや。前世とかそんな興味ないし。
『次にゆっくりと目を閉じ、肩の力を落とす。時間は10分にしてください。これ以上長いと大変なことになります』
 そう言うと目をとじ、肩の力を落とす。何度も何度も。
 そうなると、だんだん眠くなってきた。でも、時間とかどうなるんだろ。誰が数えるんだ。あ、ねねか。

§

 あれから何分経ったのだろう。わからない。目も開けられないし、口を開いてもいいのかもわからない。というか、今何分経っている。
 既に10分は過ぎているはずだ。なのに、誰も何も言わない。もしかして、僕だけがこうしているんじゃないか。みんな、からかって……うわぁ! さっき寝ていたのがばれる!
 腹筋運動をするように上体を起こした。視界が真っ暗闇だ。電気の辺りを壁を這いつくばって探る。やっと点いた。
 驚くことに僕以外みんな、寝ている。なんだ、良かった。テレビ、消してある。女将さんかな。時計の針を見ると深夜一を回っていた。
 10分どころじゃない。二〇分も過ぎている。慌てて、みんなを起こした。
 みんなの肩を二回ほど叩く。まるで、救命処置のときの呼びかけだ。
 それで起きたのは梅子とねね。寝たらぐっすりの天谷は蹴って起こした。
「寝てたんだよ。ほら、10分以上過ぎている」
 頭を抱えるみんなにそう言うと、寝起きなのか、みな、反応を示さない。
 生気を吸われた人間のような顔。魂を奪われたようにピクリとも動かない。
「どうしたの?」
 不安にかられ、訪ねるとポツリポツリと梅子が口を開いた。
 氷のような淡々とした面持ちで。意味の分からないことを言う。
「享保一七年、雨など悪天候が続く毎日でした…――」
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