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Ⅴ 救済の魔女
第73話 恋話
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視線が熱い。握られた手が解けない。眼差しが、表情が、全部わたしのことを好きだと訴えてくる。
どうしたらいいのか分からない。
人から好意をもらったことがないから、こなとき、どう対処すればいいの。
頭がぐるぐるしてる。
ハルトから真剣な眼差しが返ってくる。ほんのり顔が赤い。
逃れられない視線から、どうやって逃げ切れたのか、シノが通りかかってくれた。
「まだこんなところにいたの?」
不思議に言った。
わたしたちが夜の街で密着して、見つめ合っていたから、シノは不思議な眼差し。シノが通りかかってくれたから、熱かった視線が離れた。
目と鼻の先にいた距離が、さっと離れていく。ぎこちない空気が流れた。ぎこちない空気に、シノは少し怪訝な表情。
どうやら、子供たちが早々に寝てくれたおかげで、シノは予定より早くに帰れたらしい。怪しむ眼差しを送ってくるから、わたしは咄嗟に閃いた理由を口にした。
「えっと、これは……虫! 虫がいたんだ! ね、ハルト」
ハルトはびっくりして、わたしを二度見した。でもすぐに視線をそらした。
「うんうん、虫だ。虫が頭についてて、それを取ってたんだ」
「そんな密着してまで?」
じとと睨まれた。
ますます怪しまれた。わたしたちが、あたふたしているからだと思う。わたしたちはシノが信じてくるまで、何度も言い続けた。シノは、疑心暗鬼ながらも、理解してくれた。
わたしたちの必死な弁明に呆れたのかもしれない。それか、何かを察したのか。
わたしたちは、横に並んであるきだした。流石に、あの後だからハルトの横は気まずいから、シノを真ん中にしてお互い左右に。
あれから、ハルトとは目も合っていない。恥ずかしいのと、気まずいのと、多分、今目が合うと頭がぐるぐるするはず。
わたしたちの家は、すぐ近くだからすぐに別れた。やっと家に帰ると、ピンと張り詰めていた緊張の糸が解れる。
「さっき、ほんとは何してたの?」
家に帰ると、シノが問いだした。やっぱりまだ、疑っていたのか。
「実は……」
わたしは、ハルトに告白されたことをシノに相談した。シノだったら、きっと上手くあの場を収めていそう。
「告白された!?」
「そうなの、告白されたの初めてで、しかも、ハルトは大事な後輩だよ。シノだったらどうやってあの場を乗り切ってた?」
あれから時間経っているのに、あの空気、あの瞬間が鮮明に思い出す。
シノは、まるで、自分事のようにわたしの相談を真剣に考えてくれた。でも終始「結局彼は振られたわね」と冷たく言った。
「どうしてわたしが振るの」
「だって、リュウのことが好きなのに、彼と付き合うわけないでしょ?」
シノの言葉は、ときに心臓にくる。
わたしは昔からリュウが好きだ。しかも一方通行。この想いは誰に邪魔されても、止められない。
だから、ハルトの想いには答えられない。けど、どうしてあの腕を離さなかったんだろう。きっぱり言えば良かったのに、わたしは断るどころか、あの強い視線に魅了されていた。
あの眼差しを向けられ、わたし、嬉しかったんだ。全力で好きだと言ってくる彼から、背を向けたくなかった。
人から好意を得たこと、なかったから。わたしが俯いて黙ったから、シノはボソリと呟いた。
「まぁ、たっぷり考えてもいいと思う。速攻で振られたら、彼だって気にするものね」
「うん……」
でも、一つ問題がある。
ハルトとは同じ職場なのだ。しかもよくちょくちょく現れるから、顔を見に行かなくても現れる。明日は気まずいなぁ。どんな顔すればいいのか分からない。
シノは普通でいい、と言ったけどわたしの普通て、何だっけ。もう頭が混乱だ。相談を聞いてくれたシノは、さっさと明日の身支度を整えて寝る準備をしていた。
「ありがと。聞いてくれて」
「いいわよ。今日のお礼だし」
そうだ。わたしも早く寝ないと。明日はバザーの片付けを手伝うんだ。きっと、マドカ先輩たちも来るだろう。ハルトは、さっき話題になっていたからぽやんと顔が浮かんだ。
いつものハルトじゃなくて、告白してきた熱い眼差しを向ける表情。かっと赤くなった。どうして、そんな姿を思い出したんだ。邪心がいっぱいだ。
頭を振って邪心を振り払った。
いつの間にか、電気を消し、シノは布団に横になっていた。わたしはぱっちり目を開けて横になっている。あんなに疲れたのに、全然眠くない。
こんなときは、誰かとお話したいな。ここにはシノしかいないけど。
そういえば、修学旅行でナノカに無理やり起こされて、恋話したんだっけ。一方的だったけど、今思い浮かべると、ナノカは眠れなかったんじゃないかな。
眠れなくて、寂しくて、誰かとお話したくて、わたしを無理やり起こしたんだと思う。
今なら、ナノカの気持ちがわかるよ。わたしも今、寂しいから。電気も消して室内は真っ黒。時計の針の音だけが響いている。
外からも何も音がしない。静まり返った街。窓の奥から、ぼつぼつと小さな光が見える。その光は、この暗闇の世界で一筋の光のように輝いている。
「シノ起きてる?」
寝ていると思ってても、確かめていた。返ってくるとは思っていない。でも、返ってきた。
「……何?」
驚いた。シノが起きている。もう、眠っているのだと。返事が返ってきたから、わたしは嬉しくなった。寝返りをうって、シノの方に顔を向ける。シノは背中を見せていた。
「ねぇねぇ、シノには好きな人いないの?」
好奇心に訊いてみた。シノは暫く黙り込んで、ぽつりぽつり呟いた。
「胸をときめかせる、これが恋。それがよく分からなかったけど、少しずつ知るようになった」
感情の抑制がない声。
わたしはベットから落ちるギリギリの所までいった。
「つまり、それは……誰に?」
シノは言いかけたけど、口を摘むんだ。
「いいから寝なさい。明日も早いのよ」
「分かってるよ。ねぇねぇ、それは誰なの?」
聞きたい。シノの冷たい氷に温もりを与えた人間。きっと素敵な人なんだろうな。
「……ユナには、関係ない人よ」
「いいじゃんそれでも教えて!」
わたしのしつこさは知ってるはず。
ため息が聞こえた気がした。それでも、仕方なく教えてくれる。
「はっきりいえば、あなたみたいに二十七年間も一途な人。その人しか見てなくて、だから、私が出る幕はない」
背中越しでも、その表情は切ないと分かった。時計の針の音が、やたらと響く。シノの想い人には、違う想い人がいてその人を一途に想っている。複雑だな。
けど、その想い人は幸せものだと思う。だって、たくさんの人から好意を寄せられている。シノの想いに早く気づいてあげて。
「わたしみたいに一方通行の人、他にもいるんだ」
「たくさんいるわよ。一方通行すぎて、拗れた人もいるし」
へぇ、詳しい。
すると、背中越しでも分かるほど、睨まれた感じがした。
「話は終わり? いいから寝て」
「はーい」
シノがそろそろ怒りそうなので、退散。でも知りたかったな。明日にでも聞けるかな。明日は、子供たちにも会えるし、嬉しいな。
だんだんと意識が遠のいていく。視界が黒くなって、深い溝へと落ちていく。泥のように眠った。
目が覚ますと、朝の眩しい光が窓から射し込んでいた。真っ黒だった室内が白い。窓を開ければ、きっと、これよりも眩しいのだろう。
わたしはゆるゆると起き上がった。シノはすぅすぅ寝息たてて寝ている。相変わらず背中を見せている。わたしが一番のり。珍しい。
珍しくも何ともないか。だって今日は、やる事があるからね。時計を見ると、まだ七時前。シノが出る時間帯は、九時だ。まだ余裕がある。
二度寝しようかな。
でもでも、せっかく起きたんだから、朝の空気吸いたいな。
カーテンを開くと、そこから目も覆うほどの光量が襲った。顔を手のひらで覆った。寝起きだから、目が痛い。目をぱちぱちしながら風景を眺めた。
朝の光が降り注ぐ景色。
何も色がなかった景色に、色がついていく。鮮やかな色が散りばめた。
商店街の人たちが忙しそうに、歩いてたり、通勤の人が早足で歩いてたり、いつもの光景。
窓を開けてみると、爽やかな空気が入ってきた。髪の毛がなびく。朝の風が頬を伝った。今日は照明が全開についている。晴天だな。
今日はいいことがありそう。
天井を見上げて、わたしの心は晴れた。良い事があるといったら、絶対あるんだよな。すると、シノが起きた。朝の冷たい風で多分起きたんだ。
「おはよう、すごい晴天だよ」
「ん、おはよう」
シノは眠たい目をこすって、目をぱちぱちさせた。この光の量は寝起きにはキツイよね。わたしたちは朝ご飯食べて、早速孤児院へ。
どうしたらいいのか分からない。
人から好意をもらったことがないから、こなとき、どう対処すればいいの。
頭がぐるぐるしてる。
ハルトから真剣な眼差しが返ってくる。ほんのり顔が赤い。
逃れられない視線から、どうやって逃げ切れたのか、シノが通りかかってくれた。
「まだこんなところにいたの?」
不思議に言った。
わたしたちが夜の街で密着して、見つめ合っていたから、シノは不思議な眼差し。シノが通りかかってくれたから、熱かった視線が離れた。
目と鼻の先にいた距離が、さっと離れていく。ぎこちない空気が流れた。ぎこちない空気に、シノは少し怪訝な表情。
どうやら、子供たちが早々に寝てくれたおかげで、シノは予定より早くに帰れたらしい。怪しむ眼差しを送ってくるから、わたしは咄嗟に閃いた理由を口にした。
「えっと、これは……虫! 虫がいたんだ! ね、ハルト」
ハルトはびっくりして、わたしを二度見した。でもすぐに視線をそらした。
「うんうん、虫だ。虫が頭についてて、それを取ってたんだ」
「そんな密着してまで?」
じとと睨まれた。
ますます怪しまれた。わたしたちが、あたふたしているからだと思う。わたしたちはシノが信じてくるまで、何度も言い続けた。シノは、疑心暗鬼ながらも、理解してくれた。
わたしたちの必死な弁明に呆れたのかもしれない。それか、何かを察したのか。
わたしたちは、横に並んであるきだした。流石に、あの後だからハルトの横は気まずいから、シノを真ん中にしてお互い左右に。
あれから、ハルトとは目も合っていない。恥ずかしいのと、気まずいのと、多分、今目が合うと頭がぐるぐるするはず。
わたしたちの家は、すぐ近くだからすぐに別れた。やっと家に帰ると、ピンと張り詰めていた緊張の糸が解れる。
「さっき、ほんとは何してたの?」
家に帰ると、シノが問いだした。やっぱりまだ、疑っていたのか。
「実は……」
わたしは、ハルトに告白されたことをシノに相談した。シノだったら、きっと上手くあの場を収めていそう。
「告白された!?」
「そうなの、告白されたの初めてで、しかも、ハルトは大事な後輩だよ。シノだったらどうやってあの場を乗り切ってた?」
あれから時間経っているのに、あの空気、あの瞬間が鮮明に思い出す。
シノは、まるで、自分事のようにわたしの相談を真剣に考えてくれた。でも終始「結局彼は振られたわね」と冷たく言った。
「どうしてわたしが振るの」
「だって、リュウのことが好きなのに、彼と付き合うわけないでしょ?」
シノの言葉は、ときに心臓にくる。
わたしは昔からリュウが好きだ。しかも一方通行。この想いは誰に邪魔されても、止められない。
だから、ハルトの想いには答えられない。けど、どうしてあの腕を離さなかったんだろう。きっぱり言えば良かったのに、わたしは断るどころか、あの強い視線に魅了されていた。
あの眼差しを向けられ、わたし、嬉しかったんだ。全力で好きだと言ってくる彼から、背を向けたくなかった。
人から好意を得たこと、なかったから。わたしが俯いて黙ったから、シノはボソリと呟いた。
「まぁ、たっぷり考えてもいいと思う。速攻で振られたら、彼だって気にするものね」
「うん……」
でも、一つ問題がある。
ハルトとは同じ職場なのだ。しかもよくちょくちょく現れるから、顔を見に行かなくても現れる。明日は気まずいなぁ。どんな顔すればいいのか分からない。
シノは普通でいい、と言ったけどわたしの普通て、何だっけ。もう頭が混乱だ。相談を聞いてくれたシノは、さっさと明日の身支度を整えて寝る準備をしていた。
「ありがと。聞いてくれて」
「いいわよ。今日のお礼だし」
そうだ。わたしも早く寝ないと。明日はバザーの片付けを手伝うんだ。きっと、マドカ先輩たちも来るだろう。ハルトは、さっき話題になっていたからぽやんと顔が浮かんだ。
いつものハルトじゃなくて、告白してきた熱い眼差しを向ける表情。かっと赤くなった。どうして、そんな姿を思い出したんだ。邪心がいっぱいだ。
頭を振って邪心を振り払った。
いつの間にか、電気を消し、シノは布団に横になっていた。わたしはぱっちり目を開けて横になっている。あんなに疲れたのに、全然眠くない。
こんなときは、誰かとお話したいな。ここにはシノしかいないけど。
そういえば、修学旅行でナノカに無理やり起こされて、恋話したんだっけ。一方的だったけど、今思い浮かべると、ナノカは眠れなかったんじゃないかな。
眠れなくて、寂しくて、誰かとお話したくて、わたしを無理やり起こしたんだと思う。
今なら、ナノカの気持ちがわかるよ。わたしも今、寂しいから。電気も消して室内は真っ黒。時計の針の音だけが響いている。
外からも何も音がしない。静まり返った街。窓の奥から、ぼつぼつと小さな光が見える。その光は、この暗闇の世界で一筋の光のように輝いている。
「シノ起きてる?」
寝ていると思ってても、確かめていた。返ってくるとは思っていない。でも、返ってきた。
「……何?」
驚いた。シノが起きている。もう、眠っているのだと。返事が返ってきたから、わたしは嬉しくなった。寝返りをうって、シノの方に顔を向ける。シノは背中を見せていた。
「ねぇねぇ、シノには好きな人いないの?」
好奇心に訊いてみた。シノは暫く黙り込んで、ぽつりぽつり呟いた。
「胸をときめかせる、これが恋。それがよく分からなかったけど、少しずつ知るようになった」
感情の抑制がない声。
わたしはベットから落ちるギリギリの所までいった。
「つまり、それは……誰に?」
シノは言いかけたけど、口を摘むんだ。
「いいから寝なさい。明日も早いのよ」
「分かってるよ。ねぇねぇ、それは誰なの?」
聞きたい。シノの冷たい氷に温もりを与えた人間。きっと素敵な人なんだろうな。
「……ユナには、関係ない人よ」
「いいじゃんそれでも教えて!」
わたしのしつこさは知ってるはず。
ため息が聞こえた気がした。それでも、仕方なく教えてくれる。
「はっきりいえば、あなたみたいに二十七年間も一途な人。その人しか見てなくて、だから、私が出る幕はない」
背中越しでも、その表情は切ないと分かった。時計の針の音が、やたらと響く。シノの想い人には、違う想い人がいてその人を一途に想っている。複雑だな。
けど、その想い人は幸せものだと思う。だって、たくさんの人から好意を寄せられている。シノの想いに早く気づいてあげて。
「わたしみたいに一方通行の人、他にもいるんだ」
「たくさんいるわよ。一方通行すぎて、拗れた人もいるし」
へぇ、詳しい。
すると、背中越しでも分かるほど、睨まれた感じがした。
「話は終わり? いいから寝て」
「はーい」
シノがそろそろ怒りそうなので、退散。でも知りたかったな。明日にでも聞けるかな。明日は、子供たちにも会えるし、嬉しいな。
だんだんと意識が遠のいていく。視界が黒くなって、深い溝へと落ちていく。泥のように眠った。
目が覚ますと、朝の眩しい光が窓から射し込んでいた。真っ黒だった室内が白い。窓を開ければ、きっと、これよりも眩しいのだろう。
わたしはゆるゆると起き上がった。シノはすぅすぅ寝息たてて寝ている。相変わらず背中を見せている。わたしが一番のり。珍しい。
珍しくも何ともないか。だって今日は、やる事があるからね。時計を見ると、まだ七時前。シノが出る時間帯は、九時だ。まだ余裕がある。
二度寝しようかな。
でもでも、せっかく起きたんだから、朝の空気吸いたいな。
カーテンを開くと、そこから目も覆うほどの光量が襲った。顔を手のひらで覆った。寝起きだから、目が痛い。目をぱちぱちしながら風景を眺めた。
朝の光が降り注ぐ景色。
何も色がなかった景色に、色がついていく。鮮やかな色が散りばめた。
商店街の人たちが忙しそうに、歩いてたり、通勤の人が早足で歩いてたり、いつもの光景。
窓を開けてみると、爽やかな空気が入ってきた。髪の毛がなびく。朝の風が頬を伝った。今日は照明が全開についている。晴天だな。
今日はいいことがありそう。
天井を見上げて、わたしの心は晴れた。良い事があるといったら、絶対あるんだよな。すると、シノが起きた。朝の冷たい風で多分起きたんだ。
「おはよう、すごい晴天だよ」
「ん、おはよう」
シノは眠たい目をこすって、目をぱちぱちさせた。この光の量は寝起きにはキツイよね。わたしたちは朝ご飯食べて、早速孤児院へ。
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