魔女は世界を救えますか?

ハコニワ

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Ⅴ 救済の魔女 

第68話 孤児

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 ハルトと長話してて、すっかり時間を忘れてた。リュウも帰っていたし、少しくらい、お話したかったな。避けた自分が何言ってんだか。

 この時間帯、まだシノは帰ってきてない。わたしは急いで近くの商店街へ。今日の献立はハンバーグと目玉焼きとマカロニサラダ。シノが帰ってくるまで、まだまだ余裕あるし、作れるでしょ。
 まずはお肉屋さんに。

 すれ違う人々は、仕事帰りの男性たち。辺りは薄暗くなってきた黄昏時。昼間のような主婦の群れじゃない。
 すれ違う人の中には、かつて魔女だった人がいたかも。わたしが知らないだけでこの街には、そんなのがいっぱいいる。

 魔女だったころの話をしたせいで、見ないようにしていた景色、目を逸らしていた景色を、思わず見てしまった。この商店街の上を見上げると、かつて、わたしたちが通っていた魔女の学校が見える。
 学校の敷地はない。全部爆弾で壊され、跡形もなく消えていった。教室も花壇も門も、全部壊された。
 あそこにあるのは、何もない。
 ただ、高台があるだけ。建物はない。
 この商店街は、かつて通っていた場所だ。ココアとスバルとリュウとで買い物に行った、この商店街だ。
 復興してまた元通り。ここは学校から近くて便利だった。だからここはよく見える。

 薄暗くなったので、商店街にぼとぼとと灯りが灯る。黄色い光の粒。辺りが明るくなる。
 わたしはずっとあの高い所から、この光を見上げていたんだ。儚くて、小さな光。でも、今は高台の下にいる。
 活気あふれる声、空腹が刺激される香り、この五感が触り、この街の中にいると頭に叩き込まれる。

 目を逸らして、お肉を買いに、一歩踏み出した。お肉も買ったし、無事完了。途中、商店街の人から余り物のプリンをおそすわけしてくれた。ありがたい。今夜のデザートにしよ。

 家に帰ってみると、窓から差し込む明かりはない。やっぱり帰ってきてない。しめしめ。シノが帰ってきたら驚くぞ。
 玄関を開けて、明かりをつけ、手を洗う。ハンバーグをつくるひき肉を捏ねて、混ぜ混ぜして、叩く。
 料理本で習ったことだ。ハンバーグをつくるためには、ひき肉を捏ねて叩く。この叩くときにポイントがあって、注意して叩く。
 料理本を何冊も買って試してみたよ。一回目は中々できなくて、二回目も三回目も、失敗10回以上。
 何度も失敗すると挫折することあったけど、成功したときの達成感、快感は得てしてものだ。
 もう今は慣れている。きっと美味しくなるはずだ。

 ハンバーグも終わったし、あとはマカロニサラダだ。これはもうお得意。得意だから献立にしたのである。マカロニサラダも終えて、ふと時計を見ると、時刻はすでに午後七時。そろそろ帰ってきてもよさそうだ。なのに、一項に帰ってこない。
 よくあることだ。孤児院の先生は少ない。子供は多いのに対して、大人は少ない。やることいっぱいで、交代制の勤務だ。

 ここからそう遠くないところに、孤児院がある。よく歓声な声が聞こえる。今日は早番じゃなかったし、九時まで帰ってこないかも。
 気長に待つことにした。

 九時になり、予想していたとおりその時間に帰ってきた。
「おかえり」
「え、まだ食べていなかったの?」
 帰ってきて、机にあるご飯とおかずを見て、目を見開かせた。
「うん。だって、一緒に食べたかったんだもん」
 照れ臭くて笑う。シノは申し訳なさそうに眉をハチの字に曲げた。隣の部屋で着替え、ご飯を食べた。
 やっぱり、一人で食べるより何倍も美味しい。ハンバーグは少し焦げたけど、その焦げた部分の味は、苦くなかった。シノも褒めてくれたから、嬉しい。
「そういえば、今日ずいぶん遅かったね。何かあったの?」
 時計の針はもうすでに、深夜をまわろうとしていた。シノは手を止めて、懐から何かを取り出した。
 掲示板に貼る大きさの紙。ポスターだ。子供の笑顔がいっぱいデザインしている。このポスターが印してあったのは
「バザー?」
「そっ、準備に手間取って遅くなったの」
 そうなんだ。
 そういえば、毎年この季節かも。孤児院のバザーは毎年この季節、この行事で、子供たちの賑やかな声が街中に響き渡る。
 昨夜のあれも、バザーに必要なものだった。ポスターをよくみてみる。日時と日付が詳しく書いている。
「えっ!? 明日?」
 驚くことに、日付は明日開催の文字が。シノも何度も頷く。
「今年は少し早くして、あとはのんびりしたいって、でも明日て本当に急よね」
 シノはため息をついた。 
 明日か。明日はちょうどおやすみだ。この機会、逃すはずがない。シノたちには苦痛だけど、わたしには絶好の機会だ。
「明日行ける! 絶対行く!」
 そう意気込むと、シノはふっと笑った。
「それは、楽しみね」
 今年の出来栄えはどうかというと、一番の盛り上がりと言い張る。始まる前からこの自信、きっと、凄いんだな。

 毎年、仕事が重なってて行けなかったから、わたしもどんなふうなのか、気になるな。明日が楽しみだ。

 そうして翌日、まちに待った孤児院バザー。近くに寄ると、孤児院の盛り上がりがよく分かる。ゲームの看板がいっぱいあって、子供たちの甲高い声が飛び交っていた。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
 輪投げだったり、段ボールて作った迷路だったり、大人でも楽しめそうなゲームがいっぱい。
 観客達を迎えるために、大きな門はずっと開いている。中に入ってみると、子供たちにすぐに見つかり、子供たちが群がってきた。
「何して遊ぶ?」
「こっちで遊ぼう!」
 など、キラキラした目で見上げてくる。無垢で汚れも知らない目。圧倒されそうだ。孤児院には大人はいるけど、門の外からやってきた人間には、好奇心旺盛。
 バザーというより、子供たちの遊び場みたいだな。
 群がってきたので、動けない。どうしようと不安にかけられた瞬間、救世主が。
「こらこら、その人が困っているじゃない。みんな、バザーの準備はいいの?」 
 シノが駆け寄ってくれた。シノ先生の登場で、子供たちは一気に冷めて散り散りに去っていく。
 やっと動ける。ほっとした。あのままだったら、誰かを踏んづけていたかも。
「シノありがとう」
「こっちこそ来てくれてありがとう」
 なんだか、さっきのシノと今のシノ、ちょっと違う。今のシノは、わたしの知っているシノだ。けどさっきのは、先生みたいな顔だった。

「これ、全部子供たちが?」
 驚いて訊いてみた。
「そう。凄いでしょ? 全部自分たちで考えて作ったものなのよ」
 まるで自分が褒められたように、嬉しい表情。シノにとって子供たちは、宝物のようだ。でも、それ以外でも驚いたことがある。
「こんなにいたんだ、孤児」
「ここ以外にも、この街は二十個ある。魔女制度が終わって、子の親はみんな、ここに捨てる。孤児だった子供も、親になり子を捨てる。どうしてだろうね」
 シノは切ない表情で言った。
 今でも我が子を捨てる人間が大勢いる。自分も捨てられたのに、親になったらその子も捨てる。断ち切れない連鎖だ。

 ここにいる子たちは、そんな不幸を乗り越えて今幸せに満ちている。大人たちが、幸せにしないといけない。
「それより、リュウは?」
 不思議に訊いてきた。
「それが、訳あって話してないの、今……」
「……そうなんだ」
 シノは「訳」を聞かなかった。元々興味薄い子だけど、わたしが嫌なことはしない。
 わたしたちが会話していると、子供たちから声がかけられた。さっきの子だ。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんこっちで遊ぼう? 遊ぼうよ!」
 真珠のように目をキラキラ輝かせ、ぐいぐい引っ張る。シノも「楽しんで」とニッコリ微笑む。子供の力は、弱いのにどうしても逆らえない。
 その子に引っ張られ、紙飛行機飛ばしゲームに連れてこられた。
「紙飛行機飛ばしゲーム?」
 はじめて聞くゲームの名前。少女がゲームのやり方を解説してくれた。至って簡単。自分で折った紙飛行機を飛ばして、何㍍飛んだか競争。わたしでもやれるゲームだ。
 わたしがいざやろうと折り紙に手を伸ばすと、みはからったかのように、何かを強請ってきた。
「え、何?」
「お・か・ね」 
 なんて、子供だ。
 確かにお金を払うために、みんな頑張ってきたんだ。資金を稼ぐために、こうする。きっと、この子たちはたくましく生きるな。
 ゲーム一回につき、五十円。五十円を払った。こんな小さな子供でも、お金の在り方、使い方を学べるのも、いいのかもしれない。

 紙飛行機を折っていると背後から声をかけられた。知っている声だ。懐かしいような、温かい感じ。恐る恐る振り向くと、そこにいたのはダイキ。
 まだ首がすわっていない赤ん坊をだいている。
「ダイキ、久しぶり! その子……もしかして」
 じとと見つめると、ダイキはすぐに否定。
「ちげぇよ! この子は一昨日着た子。俺が少し世話してんだ」
 シノと同様に、ここの孤児院の先生を務めているダイキ。なんだか、見ない間に大人になった感じ。
 学生時代から背は高かったけど、今も伸びてて、頭上が見えない。ダイキが赤ん坊を抱えている様をみると、ほんとに先生なんだなって改める。
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