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Ⅲ 奪取の魔女 

第48話 拷問

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 あれから、何があったのか分からない。ナノカは助かったのだろうか。わたしは、今どこにいるのだろうか。

 目が覚めて、一番先に視界に入ったのは自分の足元だった。制服を着ている。あのときの格好。体が重い。鉛みたいだ。
 椅子に両手を縛られ、ずっと気を失っていた。首をずっとうなだれていた態勢。なので首が痛い。頭を動かすと、刺すような痛みが走った。
 電撃をくらったような衝撃。
 それにどくどくと頭から何かがした垂れ落ちてくる。水かな。と思いきや、赤黒くてヌルってしてる。
 血だ。血が流れてる。わたしの頭から。わたしは曖昧な意識でトントンと理解していく。

 そうだ。思い出した。わたしはあの青年たちに現状注意をして、帰ろうとしたら鈍器なもので叩かれたんだ。背後から。
 それで、わたしはこうなって。
 ここは何処だ。賑わっている人々の声が聞こえないから、神社じゃない。わたしは今、一軒家の屋内にいる。明かりも見つからない。真っ暗。
 何があるのか分からない。神社から離れた一軒家だということ。窓からさす光は、月光の光しかない。銀色の光で、薄っすらな光。
 ちょうど風が吹き、近くの木々が揺れる。波のようにざあざあと。その拍子に、木々に隠れていたその光が、屋内を照らした。

 屋内が見れる。その景色は、驚愕なものだった。屋内の広さは、わたしたちの寮の部屋と同じ広さ。
 屋内に、わたしもいれて五人の人間がいた。三人はあの青年たち。そして、もう一人はナノカだ。
 ナノカもわたしと同じように、椅子に両手を縛られていた。あの青年たちに囲まられている。
 声を出そうにも、喉がカラカラでうまく出せない。ゴホゴホと咳き込んだ。青年たちが反応した。

 赤い帽子を被っている青年がヘラヘラと近づいてくる。わたしは睨みつける。青年の顔までは見えないけど、ヘラヘラ笑っている感じがして、腹が立つ。
「こんなことして、ただですむと思っているの!?」
 青年はくすくす笑って、一言二言何かを言った。けど聞こえない。ナノカが椅子から前に乗り出して何かを叫んでいる。
 ナノカの甲高い声なら、どんなにつんざくのに、全然聞こえない。

 まるで、世界に置いてけぼりにされたみたい。全然聞こえない。声も、呼吸も、自分の鼓動まで。今まで聞こえてた「音」何もかもが白黒。どうして。どうして、いきなり耳が。
 頭から流れた血がポタっと顎を伝い落ちた。その音も全然聞こえない。
 鈍器で殴られたところは、右の脳。右の脳があって、唯一聞こえてた右耳を損傷し、それと同時に鼓膜が破れたんだ。

 信じられない。今まで普通に聞こえてきたものが聞き取れないことに、大きくショックを抱いた。
 わたしはこれから、この障がいで生きていくのか。ずっとずっと聞こえないの。聞きたかった音学、好きな人の声も、もう、聞けないの?
 得体の知れない恐怖だ。
 大きな壁が目の前に立っている。とても登れそうにない。

 すると、赤い帽子を被っていた男が地団駄踏んでいた。口をぺちゃくちゃ動かしている。何かを吠えているようだけど、聞こえないの。無視してるわけじゃないの。
 男はいきなり、ナイフのようなものを取り出した。
 わたしはびっくりした。
 そのナイフで何をするつもり。待って。何かを問いかけていたなら、ごめんなさい。無視してないの。聞こえなかっただけ。
 わたしの胸に、ナイフを突き出している。一歩動けば刺される距離。男の目がギラリと光っている。
 獰猛な野獣の目つきで、鋭い眼光が暗闇の中光っている。
 巨大ノルンと出くわしたときより、恐怖に震えた。膝がガクガクしてる。
 男は、胸からすっとナイフを放した。良かった。でも、あの眼光は変わらない。飢えた野獣の目つき。何をするのか分からない。
 すると、そのナイフはスカーフに持っていく。何をするのかと思いきや、ナイフでスカーフをするすると、抜けていくではないか。器用な。
 わたしはかっと赤くなり、叫ぼうと口を開いた瞬間、その口は手で覆われた。男は一言言っている。
 鋭い眼光で、怖い表情で。
 こんなに近くなら、唇を読むことはできた。
「喋るなよ。すぐ楽になるんだから」
 そう言ってる。
 わたしは首が振った。ナノカが『あたしの友達に触んじゃねぇ!』と怒声をあげている。
 でも、そのナノカも制服がビリビリに破れている。わたしが気を失っているときに、ナイフで裂かれたんだ。
 なんて卑劣。
 スカーフがするする解かれ、ファサと足元に落ちた。スカーフが落ち、ナイフは制服をビリビリに破く。刃があと近かったら肉を斬るところだ。
 ビリビリに破れ、白い肌と昔から気に入ってたクマ柄のスポブラが顕に。子どもぽいて言われたけど、これが合っているから、いつも着ている。恥辱と屈辱。男たちはにやにや笑っている。
 わたしはきっと睨むと、男はまた鋭利な刃物を顔に近づけた。
「強い子でちゅねぇ~こことか、こことか痛いでちゅか~?」
 赤ちゃん語で、わたしの頬、耳、太腿をつんつんと刺した。軽くなのに、刺された感じで痛い。その箇所は、蚊に刺されたようにほんのり赤くなっている。
『あたしが受けるから、その子は返して!』
 ナノカがつんざいた。
 泣きそうな表情。
 大丈夫だよ。ナノカ、わたしはこんな痛みに負けるはずがない。男はわたしから離れ、ナノカに近づいた。やめて。ナノカにそれ以上何もしないで。


 男はわたしたちを交互にみて、ナイフを振り回した。見たことない真面目な表情。怒っているに近い。
「これは裁判なんだよ。お前らがどんだけのうのうと過ごしてきたかの。裁判によって、お前らは魔女狩りに処す」
 男の仲間が黒い何かを持っている。
 暗くて分からないけど、それは、禍々しいもの。
『はぁ!? 何いってんの!? あたしらは魔女だよ。あんたたちを助けてんの!』
 ナノカがさらに吠えた。遠回しに男たちをさらに怒らせる油を注いでいる。
「知らねぇのかよ。お前らはな――」
 やめて。ナノカは知らないの。ナノカの心を壊さないで。そんな願いも虚しく届かず、男たちの口から、真実を聞かされた。
 ナノカは中盤、半信半疑だったようだけれど、終盤にかけて話が進むに連れて、絶望の表情を。
 いつもキラキラ輝く真珠の目が、人形のような虚ろな目を。


 あぁ可哀想に。慰めて抱きしめてやりたいけれど、動けない。男たちが取り出したのはナシの形をした、黒い物体。
「これは〝苦悩の梨〟ていう拷問器具だ」
 太っている男と、刺青がある二人がナノカの背後に回った。絶望に打ちのめされて、身動きとれないナノカを、椅子から床へ。二人がナノカの両手を掴み、もう一人の帽子被ったやつがナノカに跨る。
 何をするつもりなの。
「これは色々なやり方があってな、口にいれたり、肛門にいれたりすんだ。だんだんこれを広げでいくと、この真ん中の刃がどんどん刺すんだ」
 ナノカに跨り、ソレをアソコに。
 ナノカの目がかっと見開いた。眼球が飛び出しそうなほど見開き、口をパクパクしている。見開いた目から大粒な涙を流してる。

 苦悩の梨とは、形はなしで、頭のネジを回すと開くような感じ。先端に刃があって、それを口に差し込めば、何もできない食べれない苦痛の道具。または、肛門に差し込めば直腸と大腸を傷つき破壊する道具。そして、膣に差し込めば子宮を破壊する。内部が傷ついてるだけで、外見的にはそれは分からない。

 膣にそれをいれると、じわじわと広げられ中で先端の刃がかき乱して傷ついていく。ナノカは悲鳴に似た絶叫をあげた。
 ジタバタ暴れるナノカを、二人が抑えている。真ん中のやつは、さらにネジを回した。加速する痛苦に、ナノカは気絶しかけたけど、男たちは、液のはいった注射器を入れた。
 気絶しかけたけど、ビクンと体が跳ね上げて起きた。人形のようにガクブル震えている。
 目はかっと見開き、顔は涙でしわくちゃ。
 そのせいで、痛苦の地獄を味わう。
 気絶も許してもらえない。
 気絶をするたびに、それをうち、ひどい痛苦が続く。

 わたしはただ、眺めていることしかできなかった。正直いって、声もでなかった。恐怖で、喉が死んでいる。
 これは地獄だ。
 地獄を見ている。
 魔女のことを、嫌っている人は世界中だ。好きな人間を探すのが困難だ。だからって、こんな酷いことをするなんて。あんまりだ。
 恐怖で身がすくんだ。
 助けないといけないのに、声も出ない。
 ナノカの悲鳴は、耳が聞こえなくても、はっきり聞こえる。その悲鳴は、世界中を轟かしている気がする。
 やがて、痛苦に慣れていきジタバタもがく様子はなくなった。静か。そんなわけがない。痛苦の悲鳴をあげているずっと。
 男たちは、ゲラゲラ笑っていた。
 おかしくもないのに。
 悪魔だ。
 RPGとか神話とかに出てくる悪魔なんかじゃない。悪魔ていうのは、人間のことを指すんじゃないか。この人たちは、悪魔だ。本物の。人間の皮をかぶった悪魔だ。
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