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再々
第76話 奇跡を
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「蛇がいなくなった」
大地くんがぱぁと笑った。
「蛇が灰となる」
ソラちゃんも同じことを口にする。四人、手を繋ぎヒカリ様を囲むように輪になる。それを遠目から見てた有斗先輩は怪訝に表情を歪む。
「お前ら、なにをするんだ?」
何かの儀式だと理解して進くんを止めようと肩に力を入れたが二人から止めに入られた。
「今はだめ! ヒカリ様をこのままにしておけない」
「僕らがやれるんだ。有斗兄ちゃんは信じて」
子供たちの毅然とした態度を眼にし、有斗先輩は口を閉じゆっくり、腕を離した。
「何かするの?」
四葉さんは困惑し三人に問いかけた。
「僕らは先代から合言葉を教えられた。ずっと耳にタコができるほど聞かされた言葉だ」
大地くんがニンマリ笑って答えてくれた。それを一緒に復唱してほしいと。
「でもなんで俺たちなんだ?」
手を握っている進くんに訊くと進くんは首を横に振った。
「わからない。なんで急に手を握ってみんなで輪になっているのかも。きっとこれは、天からの贈り物だ。僕らは、三柱。三千年の歴史。滅んだ時代も名ばかりの時代もあった。けれど、今世紀――この代で終わるときがくる」
三人の手に力が入った。
自然とこちらの力も強まる。進くんが深呼吸して口をゆっくり開いた。
「地獄の闇を地上の光で葬らん」
その言葉を復唱してみた。五人の違う声が洞窟内で響く。その言葉を二度唱えてみると屍人がいなくなった気配を感じた。
三度唱えてみるとヒカリ様の体が発光した。目を覆うほど白い輝きでここで浴びると日光浴のように熱く溶けていくみたいだ。
四度唱えてみるとない箇所からサラサラと砂のように黄金の腕が生えてきた。
五度唱えてみると突然斬撃のように光の粒が発生し、みんな驚いて腰を抜かした。でも手だけは繋いでいる。まるで、何かにとりつかれたようにその言葉を唱えてみせると瞬く光に包み込まれた。
視界に広がる光景が真っ白い。パチパチ目が痛い。体の感覚がない。浮遊しているかのように体が軽くて地に足がついていない。ぶらぶらしている。
「はっ! 四葉さん!」
手の感触がなくて振り向くと誰もいなかった。白い空間。真っ広い果てしなく白い壁と床が続く世界そのものに、自分一人が存在していた。
息はしている。
体が金縛りにあったかのように動かない。
なんだここは。みんなどこに行ったんだ。
焦燥で汗が滲むのにその空間では人としての感覚機能が不足していた。
不意に何かの気配を感じ取って後ろを振り向くとふわりと温かい風がなびく。
『ありがとう』
その言葉と一緒に風とともにすり抜けていく。
誰かの言葉。少年の声。知らない声。誰なのか考えても思考は定まらない。みるみるうちに白い空間が風のように通りすぎていく。自分は全く動いていないにもかかわらず、周りの景色だけが動いている。
そして、意識が遠のいていった。倒れると思っても手は伸ばせなかった。代わりに――現実世界で目が覚めた。
「よかった! 六路くん!」
ぼんやりしてる視界で四葉さんらしき人の形と声が響く。
「おいおい起きろ起きろ」
有斗先輩の声も聞こえる。
「お兄ちゃん‼」
富美加だって。
だるい体を起こし、ぼんやりしていた視界がクリアに。思考はトントンと今までの記憶を頼りに蘇らせる。
「ここは……富美加……良かった。怪我はないか?」
「お兄ちゃんのあんぽんたん! 自分の心配してよ~」
富美加は涙を流して抱きついた。琉巧と伊礼も無事そうで。子供たち三人は疲れた様子で固まって座って寝ている。
「本当に。突然大きな光に包まれたと思ったら突然倒れるんだもん。びっくり」
四葉さんの声が近くからした。顔を上げると、四葉さんはふふふと笑った。どうやら膝枕されていてる。四葉さんの体温と匂いが近いことでかぁとなった。
それから俺たちは洞窟を抜けて有斗先輩のお宅で一泊してもらった。洞窟を抜けたらそこに広がっていたのは激甚な光景。
木と電信柱は倒れ、どこから来たのかわからない車が屋根に突っ込んでいて、足元は木の枝や葉がカーペットのように広がってぬかるんでいた。外にあったバケツの中に満タンの水がキラリと光った。
雲の切れ目から太陽の陽光が差し掛かり地上に再び温もりを与える。忘れていたが今の時刻は午前三時である。陽光は真っ赤な血に染まり、広大に広がる空に親鳥と雛鳥を描いたアートのように、小さな雲たちが流れていた。
あれから月日が経ち、激甚災害の復興に世界は手を取り合った。また、世界各地で発見された謎の大きな黒い蛇がなんだったのか、まだ解明されていない。あれは一体何で、どこから来て、何故消えたのか今後のマニアたちが騒ぐだろう。それもあるが、人類に大きく変わった点が一つある。
昼と夜の時間が公平になったことだ。
朝日が登って五時になっても暗くならない。夜になっても屍人が出てこなくなった。一部の宗教団体たちがテレビでこんなことを言っていた。『地獄の門はもう今後一切開かないでしょう。我々の神が封じ込めたのだ!』と血眼になって自身の宗教団体を宣言していた。それは、三柱と違う宗教団体たちだ。
大地くんがぱぁと笑った。
「蛇が灰となる」
ソラちゃんも同じことを口にする。四人、手を繋ぎヒカリ様を囲むように輪になる。それを遠目から見てた有斗先輩は怪訝に表情を歪む。
「お前ら、なにをするんだ?」
何かの儀式だと理解して進くんを止めようと肩に力を入れたが二人から止めに入られた。
「今はだめ! ヒカリ様をこのままにしておけない」
「僕らがやれるんだ。有斗兄ちゃんは信じて」
子供たちの毅然とした態度を眼にし、有斗先輩は口を閉じゆっくり、腕を離した。
「何かするの?」
四葉さんは困惑し三人に問いかけた。
「僕らは先代から合言葉を教えられた。ずっと耳にタコができるほど聞かされた言葉だ」
大地くんがニンマリ笑って答えてくれた。それを一緒に復唱してほしいと。
「でもなんで俺たちなんだ?」
手を握っている進くんに訊くと進くんは首を横に振った。
「わからない。なんで急に手を握ってみんなで輪になっているのかも。きっとこれは、天からの贈り物だ。僕らは、三柱。三千年の歴史。滅んだ時代も名ばかりの時代もあった。けれど、今世紀――この代で終わるときがくる」
三人の手に力が入った。
自然とこちらの力も強まる。進くんが深呼吸して口をゆっくり開いた。
「地獄の闇を地上の光で葬らん」
その言葉を復唱してみた。五人の違う声が洞窟内で響く。その言葉を二度唱えてみると屍人がいなくなった気配を感じた。
三度唱えてみるとヒカリ様の体が発光した。目を覆うほど白い輝きでここで浴びると日光浴のように熱く溶けていくみたいだ。
四度唱えてみるとない箇所からサラサラと砂のように黄金の腕が生えてきた。
五度唱えてみると突然斬撃のように光の粒が発生し、みんな驚いて腰を抜かした。でも手だけは繋いでいる。まるで、何かにとりつかれたようにその言葉を唱えてみせると瞬く光に包み込まれた。
視界に広がる光景が真っ白い。パチパチ目が痛い。体の感覚がない。浮遊しているかのように体が軽くて地に足がついていない。ぶらぶらしている。
「はっ! 四葉さん!」
手の感触がなくて振り向くと誰もいなかった。白い空間。真っ広い果てしなく白い壁と床が続く世界そのものに、自分一人が存在していた。
息はしている。
体が金縛りにあったかのように動かない。
なんだここは。みんなどこに行ったんだ。
焦燥で汗が滲むのにその空間では人としての感覚機能が不足していた。
不意に何かの気配を感じ取って後ろを振り向くとふわりと温かい風がなびく。
『ありがとう』
その言葉と一緒に風とともにすり抜けていく。
誰かの言葉。少年の声。知らない声。誰なのか考えても思考は定まらない。みるみるうちに白い空間が風のように通りすぎていく。自分は全く動いていないにもかかわらず、周りの景色だけが動いている。
そして、意識が遠のいていった。倒れると思っても手は伸ばせなかった。代わりに――現実世界で目が覚めた。
「よかった! 六路くん!」
ぼんやりしてる視界で四葉さんらしき人の形と声が響く。
「おいおい起きろ起きろ」
有斗先輩の声も聞こえる。
「お兄ちゃん‼」
富美加だって。
だるい体を起こし、ぼんやりしていた視界がクリアに。思考はトントンと今までの記憶を頼りに蘇らせる。
「ここは……富美加……良かった。怪我はないか?」
「お兄ちゃんのあんぽんたん! 自分の心配してよ~」
富美加は涙を流して抱きついた。琉巧と伊礼も無事そうで。子供たち三人は疲れた様子で固まって座って寝ている。
「本当に。突然大きな光に包まれたと思ったら突然倒れるんだもん。びっくり」
四葉さんの声が近くからした。顔を上げると、四葉さんはふふふと笑った。どうやら膝枕されていてる。四葉さんの体温と匂いが近いことでかぁとなった。
それから俺たちは洞窟を抜けて有斗先輩のお宅で一泊してもらった。洞窟を抜けたらそこに広がっていたのは激甚な光景。
木と電信柱は倒れ、どこから来たのかわからない車が屋根に突っ込んでいて、足元は木の枝や葉がカーペットのように広がってぬかるんでいた。外にあったバケツの中に満タンの水がキラリと光った。
雲の切れ目から太陽の陽光が差し掛かり地上に再び温もりを与える。忘れていたが今の時刻は午前三時である。陽光は真っ赤な血に染まり、広大に広がる空に親鳥と雛鳥を描いたアートのように、小さな雲たちが流れていた。
あれから月日が経ち、激甚災害の復興に世界は手を取り合った。また、世界各地で発見された謎の大きな黒い蛇がなんだったのか、まだ解明されていない。あれは一体何で、どこから来て、何故消えたのか今後のマニアたちが騒ぐだろう。それもあるが、人類に大きく変わった点が一つある。
昼と夜の時間が公平になったことだ。
朝日が登って五時になっても暗くならない。夜になっても屍人が出てこなくなった。一部の宗教団体たちがテレビでこんなことを言っていた。『地獄の門はもう今後一切開かないでしょう。我々の神が封じ込めたのだ!』と血眼になって自身の宗教団体を宣言していた。それは、三柱と違う宗教団体たちだ。
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