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再々
第74話 声
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ドンドン、と叩く音を微かに聞こえた。
石が当たっているのだろうと最初の頃は思っていたが、もしかしたら、富美加たちが開けてほしいと叩いているのかもしれない。けれど、その希望はすぐに消された。
大地くんがもっている通信機を使って呼びかけると三人はまだ定位置にいるらしい。蛇のような鱗がある巨大生物が目の前で這っているせいで、身動きが取れないらしい。三人にはあまり動かないでくれと頼んだ。
激しい揺れと音。
狙いは明確。だが、何故狙うのかが分からないが自分の命さえ危ないのもあって、思考が動かない。
「蛇からヒカリ様が守ってくれる。蛇の弱点は太陽だからね」
有斗先輩が言った。
不安になって口数が減った俺を見て大丈夫だというように笑顔で。太陽――光――そうか。光が苦手なのか。ここにいれば安全。なんだかそれまるで、蛇病みたいだ。
「ねぇ、今何か聞こえなかった?」
四葉さんは唐突に聞いてきた。
「何も?」
「怖いこと言いなさんな四葉さん」
「そうね……ごめんね」
四葉さんは、肩をすくめ早足で俺の隣に座る。雨風に晒されたせいか、肩越しで感じる体温は冷たかった。上着があればいいものの、季節は夏休み真っ只中の猛暑が続いた日。ティシャツ一枚と半ズボンのみのかっこうで脱いだら全裸。
でもほっとけない。ティシャツを脱ぐ準備をしていると有斗先輩が着ている上着を脱いで四葉さんの肩にかけた。
「あ、ありがとう。寒くって寒くって」
四葉さんはホッとした表情で笑った。有斗先輩は極当たり前のような態度。なんたが、胸がちくりとした。自分がやる前に他の誰かがやったからだろう。有斗先輩の上着で温まっている姿を見て、なんだかモヤモヤが止まらない。
『……う……あ』
「え?」
声がした。男性の声だ。
どこからしたと思ったら洞窟内。俺たち以外誰もいないのに。
「聞こえた?」
四葉さんが暗い表情で俺の顔を覗いた。
「は、はい……男性の声で何か言っている?」
「おいおい、冗談はよせよ。俺たち以外この洞窟には入っていないはずだ」
有斗先輩には聞こえなかったらしい。その声は囁きかけるように話しかけてきた。
『来たよ来たよ』
『迎えに来たよ』
『赤信号止まれ』
『いってらっしゃい』
その声は次第に大きくなり、男性、女性、子供と増えていった。その声は全員の耳にも届く。耳障りに耳鳴りがして不快だ。そこに誰かいるのか、2人、3人規模じゃない。声は増えて一方的に話しかけてくる。
ナニかが近づいてくる。足音はない。
「やばいやばいやばい!」
「何何何⁉」
正体の分からぬものに怯えるのみ。
男性、女性、老人、子供、声は20にまで増えていった。ノイズが走ったような不快な声。耳に通って気持ち悪い。頭から離れられない。この世のものじゃないナニかがそこにいる。
「懐中電灯を灯して!」
四葉さんがバックから懐中電灯をつけてのれんの奥に照明をむける。のれんの奥にパッと映ったのは複数の人影。あれは屍人。
「なんでこんなところにまで」
俺たちも慌てて懐中電灯を灯してのれんに照明を向ける。人影がさっと去った。
でも声がする。
訴えかけるような大きい声。意味のわからない単語を繰り返している。
「屍人がこんなところにまでどうして、この光、効果ないのか?」
「そんなはずは……」
入り口付近で目が痛いぐらいの光、あれは一体何だのか。屍人にはピクリと通じていない。屍人は光に弱いのに。
「この集落に屍人が来ないよう、結界の社がある。それを壊してここまで来たのならたいしたもんだ」
有斗先輩は低い声で呟いた。暗い表情。
蛇がぐるぐると体を丸めて周辺を囲んだ。長い尾は家や建物を崩壊し、木や花は蛇の毒気にやられて枯れ、大地はボコボコに削られた。
長い尾の最終尾は見当たらない。地球一周するほどの長い尾でそこに元々建ててあった建物、シンボルをなぎ倒し、行き着いた先は東洋の国。
「これまで体も、魂も、傷つけられてここまで復活できた……長かった。ヒカリ、どうしてそんな状態でそんなところにいるんだ?」
ヤミは話しかけた。
誰も答えてくれない独り言。ずっと昔からそうだったから慣れている。別に寂しくもなんともなかった。創世記からずっとずっとそうだった。側にヒカリがいても、自分の存在全てが無のようで、逆にヒカリがいたからこそ虚無感が生まれた。
背中に小さな重みが生じた。
透ける体なのに、その重みははっきりと乗ってきて抱きしめるように覆ってきた。恐る恐る後ろを振り向くとそこには――。
ソレが背中に抱きついていた。
「な、なんで今さらになって」
声が震えた。ソレが現れて怒りよりも先に心の中にある糸が緩んだ。ソレの見た目はあの頃から変わりない。自分たちと同じように透明。なのに、人の形をしている。
「なんだよ、また蛇が世界を飲み込もうとするのに止めに来たのか⁉ なんだって今なんだ。なんだって、俺の前に出てきたんだ」
石が当たっているのだろうと最初の頃は思っていたが、もしかしたら、富美加たちが開けてほしいと叩いているのかもしれない。けれど、その希望はすぐに消された。
大地くんがもっている通信機を使って呼びかけると三人はまだ定位置にいるらしい。蛇のような鱗がある巨大生物が目の前で這っているせいで、身動きが取れないらしい。三人にはあまり動かないでくれと頼んだ。
激しい揺れと音。
狙いは明確。だが、何故狙うのかが分からないが自分の命さえ危ないのもあって、思考が動かない。
「蛇からヒカリ様が守ってくれる。蛇の弱点は太陽だからね」
有斗先輩が言った。
不安になって口数が減った俺を見て大丈夫だというように笑顔で。太陽――光――そうか。光が苦手なのか。ここにいれば安全。なんだかそれまるで、蛇病みたいだ。
「ねぇ、今何か聞こえなかった?」
四葉さんは唐突に聞いてきた。
「何も?」
「怖いこと言いなさんな四葉さん」
「そうね……ごめんね」
四葉さんは、肩をすくめ早足で俺の隣に座る。雨風に晒されたせいか、肩越しで感じる体温は冷たかった。上着があればいいものの、季節は夏休み真っ只中の猛暑が続いた日。ティシャツ一枚と半ズボンのみのかっこうで脱いだら全裸。
でもほっとけない。ティシャツを脱ぐ準備をしていると有斗先輩が着ている上着を脱いで四葉さんの肩にかけた。
「あ、ありがとう。寒くって寒くって」
四葉さんはホッとした表情で笑った。有斗先輩は極当たり前のような態度。なんたが、胸がちくりとした。自分がやる前に他の誰かがやったからだろう。有斗先輩の上着で温まっている姿を見て、なんだかモヤモヤが止まらない。
『……う……あ』
「え?」
声がした。男性の声だ。
どこからしたと思ったら洞窟内。俺たち以外誰もいないのに。
「聞こえた?」
四葉さんが暗い表情で俺の顔を覗いた。
「は、はい……男性の声で何か言っている?」
「おいおい、冗談はよせよ。俺たち以外この洞窟には入っていないはずだ」
有斗先輩には聞こえなかったらしい。その声は囁きかけるように話しかけてきた。
『来たよ来たよ』
『迎えに来たよ』
『赤信号止まれ』
『いってらっしゃい』
その声は次第に大きくなり、男性、女性、子供と増えていった。その声は全員の耳にも届く。耳障りに耳鳴りがして不快だ。そこに誰かいるのか、2人、3人規模じゃない。声は増えて一方的に話しかけてくる。
ナニかが近づいてくる。足音はない。
「やばいやばいやばい!」
「何何何⁉」
正体の分からぬものに怯えるのみ。
男性、女性、老人、子供、声は20にまで増えていった。ノイズが走ったような不快な声。耳に通って気持ち悪い。頭から離れられない。この世のものじゃないナニかがそこにいる。
「懐中電灯を灯して!」
四葉さんがバックから懐中電灯をつけてのれんの奥に照明をむける。のれんの奥にパッと映ったのは複数の人影。あれは屍人。
「なんでこんなところにまで」
俺たちも慌てて懐中電灯を灯してのれんに照明を向ける。人影がさっと去った。
でも声がする。
訴えかけるような大きい声。意味のわからない単語を繰り返している。
「屍人がこんなところにまでどうして、この光、効果ないのか?」
「そんなはずは……」
入り口付近で目が痛いぐらいの光、あれは一体何だのか。屍人にはピクリと通じていない。屍人は光に弱いのに。
「この集落に屍人が来ないよう、結界の社がある。それを壊してここまで来たのならたいしたもんだ」
有斗先輩は低い声で呟いた。暗い表情。
蛇がぐるぐると体を丸めて周辺を囲んだ。長い尾は家や建物を崩壊し、木や花は蛇の毒気にやられて枯れ、大地はボコボコに削られた。
長い尾の最終尾は見当たらない。地球一周するほどの長い尾でそこに元々建ててあった建物、シンボルをなぎ倒し、行き着いた先は東洋の国。
「これまで体も、魂も、傷つけられてここまで復活できた……長かった。ヒカリ、どうしてそんな状態でそんなところにいるんだ?」
ヤミは話しかけた。
誰も答えてくれない独り言。ずっと昔からそうだったから慣れている。別に寂しくもなんともなかった。創世記からずっとずっとそうだった。側にヒカリがいても、自分の存在全てが無のようで、逆にヒカリがいたからこそ虚無感が生まれた。
背中に小さな重みが生じた。
透ける体なのに、その重みははっきりと乗ってきて抱きしめるように覆ってきた。恐る恐る後ろを振り向くとそこには――。
ソレが背中に抱きついていた。
「な、なんで今さらになって」
声が震えた。ソレが現れて怒りよりも先に心の中にある糸が緩んだ。ソレの見た目はあの頃から変わりない。自分たちと同じように透明。なのに、人の形をしている。
「なんだよ、また蛇が世界を飲み込もうとするのに止めに来たのか⁉ なんだって今なんだ。なんだって、俺の前に出てきたんだ」
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