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再々
第71話 死者
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停電になって、外がこんな真っ暗になってきっと怖くなったのだろう、通常の大人ならそう判断する。だが、有斗先輩は二人の異常さに異変を感じ取った。
「それは本当か?」
「うん。何か、外で何か、動いているような」
「蛇が来る。もう半分まで迫ってきた」
有斗先輩は黙り込んですぐにたちあがった。
「一泊なし。ここから離れるぞ。風呂に入ったあいつらは気の毒だが、また外に出ることになるな」
「出るって、こんな大雨の中⁉」
「何処に⁉ 近くに避難場所あるの?」
「避難場所じゃない。あの洞窟だ」
有斗先輩の突拍子な発言に振り回される。何度抗議しても有斗先輩は行くと断言する。子供の言葉を信じるのはいいが、鵜呑みにすぎると危険だ。
有斗先輩は黙々と家を出る準備をする。その態度に怒りを覚えた四葉さんがあの日のように、有斗先輩を羽交い締めにする。
「後輩に絞められるの二度目なんだけど」
「すいません」
ぎろりと睨まれる。
「ちゃんと説明して。あなたは言葉が足りない。こんな時だからこそ、最低限の行動の理由が聞きたい。でも、あなたの口からは曖昧で隠されている。もっと、こっちを頼ってほしいの。秘密主義者なのかもしれないけど、こっちだってあなたのこと信頼してるから」
四葉さんは有斗先輩を覗き込む。
いやいや近くない? いや集中しろ!
拘束をとき、有斗先輩は今まで見たことない真剣な表情。そして、重い口を開く。
「三柱は天空、大地、時空。時代ごとに血が絶えていても、なくならないのは俺たちみたいな宗教の信者がいるから、とか考えていてもそれが本当の答えじゃない」
三柱と言われる、三人の子供の顔が不安げに有斗先輩を見つめる。
「俺もさっき思い出したことがある。お前らが見たあの洞窟のアレは、死体なんかじゃない。あれは木でできた人形。本体はあの光るものだ。昔、16世紀頃。この世が昼と夜で逆転した時代。それを救った神様がいた。それがアレで、俺たち三柱構成含む、信者がそれを守る。意味わからないだろ?」
有斗先輩は苦笑した。
四葉さんは真剣な表情で口を閉ざす。タイミングが良いのか悪いのか、風呂から2人が上がってきた。ホクホクと湯気が出ていた。艶やかな頬をしている。有斗先輩は2人に事情を説明すると、案の定、2人も抗議した。伊礼に至っては悲鳴に近い抗議。
網戸に叩きつけられる風の音が強い。
枝や石ころじゃない、大きなものが当たったのか、ガン、と音を立てた。緊張と不安の空気の中、さらに緊張感が増した。子供たちはその音でビクビク震えている。雨や小石が窓に叩きつけられる音がより強くなった。
「とりあえず……避難したほうがいいと思う」
四葉さんが提案した。
子供たちを見て、呟いた。
「浸水するかもしれないしね」
琉巧も賛同した。
各自、荷物と食料をバックに詰めて有斗先輩ん家のレインコートをもらった。災害対策に危機感を持っている家だったから色々持っている。食料や懐中電灯、スマホの充電器まで、そのリュクには日用品がほぼ入っていた。
「おし、みんな! お兄ちゃんお姉ちゃんが手を繋いで一緒に行くからあそこまで競争だ!」
「生存率やば」
「蛇との競争だと無理がある」
有斗先輩の賑やかな声掛けで準備は整った。
少し戸を開いた。ブワッと風が襲う。その隙間だけで体が一瞬傾いた。
「お兄ちゃん、しっかり!」
手を繋いでいた富美加が支えてくれた。
「はは、悪い悪い」
笑うと富美加はムス、と頬を膨らませた。しっかりしてよね、とも言われる。しっかりしている妹がいると敵わんな。
俺と富美加はペアで、有斗先輩と進くんがペア。四葉さんとソラちゃんがペア。琉巧と大地くんがペア。一人残るのは……。
「三人で連結」
有斗先輩が指差したのは琉巧のペアに伊礼を入れること。
「手を繋ごう親友よ」
「いやだ。この手は女の子の手しか握らないんだ!」
「薄情者め! カッコつけんな!」
「仕方ないわね。はぐれて川に落ちたら大変だからほら、こっち」
四葉さんが握られていない片方の手をひらひらさせた。伊礼が「あざっす! さっすが先輩!」とその手を握る。「褒めても何もないわよ」と案外満更でもなさそうな。意外と仲いいんだよな。あの二人。
それぞれペアが決まったことで戸を全開にして外へ進んだ。隙間だけでも強い風だってわかっていたのに外へ足を運ぶとそれは強風に襲われた。
外の世界は信じられない光景が広がっていた。
木の枝や天井の瓦や看板が竜巻のように渦を描いてビュンビュン飛んでいた。地面に叩きつける音がぐしゃりと、捻じ曲げる音。雨と風、体にこれでもかと叩きつけられる。まともに呼吸ができない。
空の色は見たことないほど禍々しい、どす黒い雲。太陽の光も垣間見えない。見えるのは空に、黒い、鱗のようなもの。
「蛇、蛇」
ソラちゃんが指を指す。
「行くぞ! そこまでの距離だ!」
有斗先輩が走り出した。
嵐の中、進んでいく。真昼だというのに、外は暗い。そのせいで屍人が這っていた。この世の光景じゃない異常な自体に頭が追いつけない。
「それは本当か?」
「うん。何か、外で何か、動いているような」
「蛇が来る。もう半分まで迫ってきた」
有斗先輩は黙り込んですぐにたちあがった。
「一泊なし。ここから離れるぞ。風呂に入ったあいつらは気の毒だが、また外に出ることになるな」
「出るって、こんな大雨の中⁉」
「何処に⁉ 近くに避難場所あるの?」
「避難場所じゃない。あの洞窟だ」
有斗先輩の突拍子な発言に振り回される。何度抗議しても有斗先輩は行くと断言する。子供の言葉を信じるのはいいが、鵜呑みにすぎると危険だ。
有斗先輩は黙々と家を出る準備をする。その態度に怒りを覚えた四葉さんがあの日のように、有斗先輩を羽交い締めにする。
「後輩に絞められるの二度目なんだけど」
「すいません」
ぎろりと睨まれる。
「ちゃんと説明して。あなたは言葉が足りない。こんな時だからこそ、最低限の行動の理由が聞きたい。でも、あなたの口からは曖昧で隠されている。もっと、こっちを頼ってほしいの。秘密主義者なのかもしれないけど、こっちだってあなたのこと信頼してるから」
四葉さんは有斗先輩を覗き込む。
いやいや近くない? いや集中しろ!
拘束をとき、有斗先輩は今まで見たことない真剣な表情。そして、重い口を開く。
「三柱は天空、大地、時空。時代ごとに血が絶えていても、なくならないのは俺たちみたいな宗教の信者がいるから、とか考えていてもそれが本当の答えじゃない」
三柱と言われる、三人の子供の顔が不安げに有斗先輩を見つめる。
「俺もさっき思い出したことがある。お前らが見たあの洞窟のアレは、死体なんかじゃない。あれは木でできた人形。本体はあの光るものだ。昔、16世紀頃。この世が昼と夜で逆転した時代。それを救った神様がいた。それがアレで、俺たち三柱構成含む、信者がそれを守る。意味わからないだろ?」
有斗先輩は苦笑した。
四葉さんは真剣な表情で口を閉ざす。タイミングが良いのか悪いのか、風呂から2人が上がってきた。ホクホクと湯気が出ていた。艶やかな頬をしている。有斗先輩は2人に事情を説明すると、案の定、2人も抗議した。伊礼に至っては悲鳴に近い抗議。
網戸に叩きつけられる風の音が強い。
枝や石ころじゃない、大きなものが当たったのか、ガン、と音を立てた。緊張と不安の空気の中、さらに緊張感が増した。子供たちはその音でビクビク震えている。雨や小石が窓に叩きつけられる音がより強くなった。
「とりあえず……避難したほうがいいと思う」
四葉さんが提案した。
子供たちを見て、呟いた。
「浸水するかもしれないしね」
琉巧も賛同した。
各自、荷物と食料をバックに詰めて有斗先輩ん家のレインコートをもらった。災害対策に危機感を持っている家だったから色々持っている。食料や懐中電灯、スマホの充電器まで、そのリュクには日用品がほぼ入っていた。
「おし、みんな! お兄ちゃんお姉ちゃんが手を繋いで一緒に行くからあそこまで競争だ!」
「生存率やば」
「蛇との競争だと無理がある」
有斗先輩の賑やかな声掛けで準備は整った。
少し戸を開いた。ブワッと風が襲う。その隙間だけで体が一瞬傾いた。
「お兄ちゃん、しっかり!」
手を繋いでいた富美加が支えてくれた。
「はは、悪い悪い」
笑うと富美加はムス、と頬を膨らませた。しっかりしてよね、とも言われる。しっかりしている妹がいると敵わんな。
俺と富美加はペアで、有斗先輩と進くんがペア。四葉さんとソラちゃんがペア。琉巧と大地くんがペア。一人残るのは……。
「三人で連結」
有斗先輩が指差したのは琉巧のペアに伊礼を入れること。
「手を繋ごう親友よ」
「いやだ。この手は女の子の手しか握らないんだ!」
「薄情者め! カッコつけんな!」
「仕方ないわね。はぐれて川に落ちたら大変だからほら、こっち」
四葉さんが握られていない片方の手をひらひらさせた。伊礼が「あざっす! さっすが先輩!」とその手を握る。「褒めても何もないわよ」と案外満更でもなさそうな。意外と仲いいんだよな。あの二人。
それぞれペアが決まったことで戸を全開にして外へ進んだ。隙間だけでも強い風だってわかっていたのに外へ足を運ぶとそれは強風に襲われた。
外の世界は信じられない光景が広がっていた。
木の枝や天井の瓦や看板が竜巻のように渦を描いてビュンビュン飛んでいた。地面に叩きつける音がぐしゃりと、捻じ曲げる音。雨と風、体にこれでもかと叩きつけられる。まともに呼吸ができない。
空の色は見たことないほど禍々しい、どす黒い雲。太陽の光も垣間見えない。見えるのは空に、黒い、鱗のようなもの。
「蛇、蛇」
ソラちゃんが指を指す。
「行くぞ! そこまでの距離だ!」
有斗先輩が走り出した。
嵐の中、進んでいく。真昼だというのに、外は暗い。そのせいで屍人が這っていた。この世の光景じゃない異常な自体に頭が追いつけない。
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