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再々
第65話 ライン
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有斗先輩の言った通り、この子たちのお家は公園からすぐそばだった。
「俺もここの近くなんだ。この3人はいわば、幼馴染に近い。よーし、帰るぞ! お前らの帰りが遅いとなると俺がしこたま怒られる」
じゃあな、と軽く挨拶して有斗先輩と別れた。
富美加はソラちゃんとあの短時間で仲良くなった。俺の妹としてあっぱれだ。コミュ力高すぎて引くぐらい。二人も手を振って別れた。
「ここの近くなら遊びに行けれるな」
「うん!」
オレンジ色の空が次第に黒くなってきた。小さな屍人が這っている。俺たちも帰路についた。富美加は道中、琉巧の心配をしていた。
「何かあったのか?」
「道端で相撲取りして叩かれよった」
「修羅場じゃ。どうりであの頬は」
「一応冷やしたんじゃが、大丈夫け? その後もすっごい泣いちょった」
「冷やし……家に上げたんか⁉」
「当たり前じゃろ。お兄ちゃんが見た時よりもすっごい腫れちょったべ。冷やさんとあれはパンパンに膨れ上がって治らんと」
富美加は優しいな、本当に。
でも無防備過ぎじゃ。兄のいない家に兄の知人だとしても男を招くなんて。
「富美加、今後、知人だとしても一人のときは男を家に入れるな。危険や」
「えーお兄ちゃん心配し過ぎべ。まぁお兄ちゃんの可愛い妹だから、仕方ないけど。大丈夫べ。私はそこそこ防犯グッズも揃えてて敵が来ようが大丈夫べ!」
そのポジティブ思考なんとかならんのか。
目を覆いたくなるほどの考え方だな。
土日があっという間に終わり、学校に行くと琉巧からは富美加の存在について聞いてきた。富美加は土日に来られるから平日はいない。
田舎の学校が休みじゃない限りはな。今日いないことを告げると琉巧はすぐに立ち去った。何だったんべ。
まぁ、いいか。今日はいない、と言っても明日からはいる可能性が高い。なんせ、明日から夏休みなのだからな。小学校の夏休みは明日から八月の最終日まで。高校の夏休みが始まるのは二週間遅れだ。夏休みは何をするかこれから楽しみだ。
授業中、グループラインが届いた。
幸い無音にしてたしバイブもない。誰も気づいていない。教科書をたてて誰にもバレないようにスマホを覗く。有斗先輩からだった。有斗先輩のアイコンはあの時の子供たちが遊んでいる姿だ。見慣れていたが最初、アイコンに映っていたのはあの子たちだって分からなかった。親戚の子と言っても割と可愛がっているんだな。
有斗先輩はラインに部活動としての提案を持ちかけてきた。
【俺の近所に洞窟があって部として探索しないか?】
そういや、探索部は埋蔵金を掘ったとか言われてて、この洞窟の中にももしかしたら、あるんじゃないかと提案しているのか。
速攻で返事を返したのは部長の四葉さんじゃなくて伊礼だった。
【了解! いつがいい?】
なんでみんなの了承が当たり前な感じに話を持ち込むんだ。琉巧もラインのやり取りを見ていて伊礼を制するように足で椅子を蹴った。
「どわっ!」と伊礼がびっくりした声が静寂な教室に響き渡る。それまで真面目に授業をしていた人たちの顔が伊礼に一点集中し、空気が変わる。水面に一石の石を投じたような波紋。
その授業は幸い怒らない優しい先生で良かった。数学の厳しい先生よりか。授業が終わり、三人で話し合う。
「秋にある文化祭のための出し物を夏休み期間で早めにやる、てこと?」
琉巧がスマホを眺めた。
「四葉さんから既読も返信もない」
「3年だしね。夏休み期間も忙しいと思う」
琉巧はスマホを閉じてひと呼吸置いた。
部長の四葉さんから返信もないし、ここで気合があるのはただ1人。伊礼だけだ。
「夏休みかぁ。楽しみだったんじゃが、バイト尽し。洞窟探検の時間あるじゃろか?」
「そっちは時間考えてくれると思う……」
琉巧はそっとスマホの画面に顔を戻し真剣な面持ちになった。
そういや、俺と同じように大変なんだよな。彼女付き合いに。
三限目が終わった頃、漸く四葉さんからの返信が返ってきた。一言返事でOKと。これで部の活動は動き出した。
昼休み、部室に集まった。クーラーも利いていない扇風機だけが回っているだけの部室は暑苦しい。幸い、太陽が真上に差し掛かると他の校舎が影を作って部室全体は日陰となって涼しくなる。
それでもジトリと汗がわくのだからしょうがない。部室に足を運ぶとムワッと熱気が襲った。窓も開いてないのだから当然だ。
いつも俺たちよりも先にいる四葉さんの姿がない。四葉さんがいつも部室の窓を開けて扇風機を回してくれてたから涼しかったのに。その四葉さんは遅れてやってきた。
部室の窓は全開。扇風機も他のところから持ってきて計四機が首を回してフル稼働。四葉さんはパタパタ慌ててやってきたのに部室の前へ来るや前髪をとかす。
「ごめんね。遅れて。それで有斗くん家の近くの洞窟探検だっけ?」
四葉さんは自分の席に座る。ふわりといい匂いが鼻孔をくすった。四葉さんから初めての匂いだ。この匂い、蜜柑のような爽やかな匂い。スンスン嗅いでたら犬みたいだ。
「俺もここの近くなんだ。この3人はいわば、幼馴染に近い。よーし、帰るぞ! お前らの帰りが遅いとなると俺がしこたま怒られる」
じゃあな、と軽く挨拶して有斗先輩と別れた。
富美加はソラちゃんとあの短時間で仲良くなった。俺の妹としてあっぱれだ。コミュ力高すぎて引くぐらい。二人も手を振って別れた。
「ここの近くなら遊びに行けれるな」
「うん!」
オレンジ色の空が次第に黒くなってきた。小さな屍人が這っている。俺たちも帰路についた。富美加は道中、琉巧の心配をしていた。
「何かあったのか?」
「道端で相撲取りして叩かれよった」
「修羅場じゃ。どうりであの頬は」
「一応冷やしたんじゃが、大丈夫け? その後もすっごい泣いちょった」
「冷やし……家に上げたんか⁉」
「当たり前じゃろ。お兄ちゃんが見た時よりもすっごい腫れちょったべ。冷やさんとあれはパンパンに膨れ上がって治らんと」
富美加は優しいな、本当に。
でも無防備過ぎじゃ。兄のいない家に兄の知人だとしても男を招くなんて。
「富美加、今後、知人だとしても一人のときは男を家に入れるな。危険や」
「えーお兄ちゃん心配し過ぎべ。まぁお兄ちゃんの可愛い妹だから、仕方ないけど。大丈夫べ。私はそこそこ防犯グッズも揃えてて敵が来ようが大丈夫べ!」
そのポジティブ思考なんとかならんのか。
目を覆いたくなるほどの考え方だな。
土日があっという間に終わり、学校に行くと琉巧からは富美加の存在について聞いてきた。富美加は土日に来られるから平日はいない。
田舎の学校が休みじゃない限りはな。今日いないことを告げると琉巧はすぐに立ち去った。何だったんべ。
まぁ、いいか。今日はいない、と言っても明日からはいる可能性が高い。なんせ、明日から夏休みなのだからな。小学校の夏休みは明日から八月の最終日まで。高校の夏休みが始まるのは二週間遅れだ。夏休みは何をするかこれから楽しみだ。
授業中、グループラインが届いた。
幸い無音にしてたしバイブもない。誰も気づいていない。教科書をたてて誰にもバレないようにスマホを覗く。有斗先輩からだった。有斗先輩のアイコンはあの時の子供たちが遊んでいる姿だ。見慣れていたが最初、アイコンに映っていたのはあの子たちだって分からなかった。親戚の子と言っても割と可愛がっているんだな。
有斗先輩はラインに部活動としての提案を持ちかけてきた。
【俺の近所に洞窟があって部として探索しないか?】
そういや、探索部は埋蔵金を掘ったとか言われてて、この洞窟の中にももしかしたら、あるんじゃないかと提案しているのか。
速攻で返事を返したのは部長の四葉さんじゃなくて伊礼だった。
【了解! いつがいい?】
なんでみんなの了承が当たり前な感じに話を持ち込むんだ。琉巧もラインのやり取りを見ていて伊礼を制するように足で椅子を蹴った。
「どわっ!」と伊礼がびっくりした声が静寂な教室に響き渡る。それまで真面目に授業をしていた人たちの顔が伊礼に一点集中し、空気が変わる。水面に一石の石を投じたような波紋。
その授業は幸い怒らない優しい先生で良かった。数学の厳しい先生よりか。授業が終わり、三人で話し合う。
「秋にある文化祭のための出し物を夏休み期間で早めにやる、てこと?」
琉巧がスマホを眺めた。
「四葉さんから既読も返信もない」
「3年だしね。夏休み期間も忙しいと思う」
琉巧はスマホを閉じてひと呼吸置いた。
部長の四葉さんから返信もないし、ここで気合があるのはただ1人。伊礼だけだ。
「夏休みかぁ。楽しみだったんじゃが、バイト尽し。洞窟探検の時間あるじゃろか?」
「そっちは時間考えてくれると思う……」
琉巧はそっとスマホの画面に顔を戻し真剣な面持ちになった。
そういや、俺と同じように大変なんだよな。彼女付き合いに。
三限目が終わった頃、漸く四葉さんからの返信が返ってきた。一言返事でOKと。これで部の活動は動き出した。
昼休み、部室に集まった。クーラーも利いていない扇風機だけが回っているだけの部室は暑苦しい。幸い、太陽が真上に差し掛かると他の校舎が影を作って部室全体は日陰となって涼しくなる。
それでもジトリと汗がわくのだからしょうがない。部室に足を運ぶとムワッと熱気が襲った。窓も開いてないのだから当然だ。
いつも俺たちよりも先にいる四葉さんの姿がない。四葉さんがいつも部室の窓を開けて扇風機を回してくれてたから涼しかったのに。その四葉さんは遅れてやってきた。
部室の窓は全開。扇風機も他のところから持ってきて計四機が首を回してフル稼働。四葉さんはパタパタ慌ててやってきたのに部室の前へ来るや前髪をとかす。
「ごめんね。遅れて。それで有斗くん家の近くの洞窟探検だっけ?」
四葉さんは自分の席に座る。ふわりといい匂いが鼻孔をくすった。四葉さんから初めての匂いだ。この匂い、蜜柑のような爽やかな匂い。スンスン嗅いでたら犬みたいだ。
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