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再々
第64話 有斗先輩
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今日の四葉さん、妙におかしかったな。一日の出来事を瞼の裏で思い出す。廊下で偶々あった四葉さん。部室に行くと伊礼の勉強教えてる最中に俺に擦り寄ってくる四葉さん。席が隣だからかやたら肩が当たってくる四葉さん。
なんか変というか。あれか? 夢を諦めるなて所から妙によそよそしかったな。おかしなこと言ったか?
伊礼も同じ室内にいたのに全くおかしくなった。いつものバカだった。勉強で疲れ果てた様子もなかったし。何だこの違和感は。
学校から帰路につく道中、頭の中でもやもやした。紫色の雲とオレンジ色の雲が混ざり合っている。昼も暑いし陽が傾いた時間帯になってもやっぱりまだ蒸し暑い。
夏になると屍人が這う時間帯が遅くなる。陽が冬より沈まないから。だからか、夏の時期になると懐中電灯を忘れて外に行く奴がいる。屍人に捕まるからやめとけ、と小学生から習われてるものをすぐに忘れる連中はいる。時々ニュースに流れるからだ。夏は特に多い。早めに帰ることだ。
なんて思っていると公園から子供たちのはしゃぐ声が聞こえて耳を疑った。こんな時間帯に子供がまだ外で遊んでいる。保護者は一体何をしているべ。
「有斗先輩⁉」
公園に入るとベンチで保護者らしき大人がいたと思ったら知っていた人物だった。有斗先輩は声がして振り向く。軽く手を振った。
「おっ、六路くんバイト帰り?」
「今日はバイトないっす。有斗先輩、こんな所で何してんすか?」
有斗先輩は顔を公園で遊んでいる子供たちに向けた。
「んー。監視役かな」
「だったら帰ったほうがいいすよ。もうこんな時間」
有斗先輩は表情も態度も変えずに飄々としている。大きなリング型のイヤリングが揺れた。
「大丈夫。こっから家近いから」
ニヤリと笑った。
なら、いいけど。子供たちは合わせて三人。女の子1人に男の子2人。水辺の場所で走り回っている。
「親戚ですか?」
「んー。まっ。そんな感じ。あぁでも一人だけ身内。あの中で分かる?」
有斗先輩は悪戯っ子のように笑いかけてきた。試されてる。ここは間違えないように。女の子を指差した。有斗先輩はあははと笑った。
「残念。正解はあの水色の服着た子でした。これで正解した奴は誰もいない。似てない兄弟だからな」
有斗先輩はあははと笑う。セミの鳴き声が静かになった。子供たちの声と噴水の水の音が響く。少しだけ風が涼しくなった。どこからか風鈴の音がする。夏らしくていい感じだ。
風鈴と同じように有斗先輩のイヤリングも揺れる。
「お兄ちゃん!」
「富美加⁉」
エプロンしている富美加が迎えに来た。タッタと走ってくる。俺の胸に飛び込む。
「富美加、こんな時間に歩き回るな。俺がいなかったらどうすんべ!」
「お兄ちゃんいたからいいじゃん」
富美加は不貞腐れた顔をする。富美加だけかと思ったら富美加の後ろから琉巧が歩いてきた。頬がほんのり赤い。
「あれ、どうしたんべ。女の子に暴力振るわれたか?」
「兄妹揃って観察眼鋭くない?」
琉巧はさっ、と顔を隠しその場をスタスタと去った。
「富美加、何かされたか?」
奴がいなくなって小声で訊いてみる。富美加は首を振った。そうか。それならいいけど。富美加に近づこうとするなら排除する。
「な~んだお前妹いたのか」
有斗先輩が言った。少し低い声。普段おちゃらけた声で笑い飛ばす人が時折見せる普段と違うものを見た瞬間、人は固まる。
「俺と違って仲良いんだな」
有斗先輩の表情は見えない。飄々とした態度とは打って変わって様子がおかしい。遊び疲れたのか子供たちが集まってきた。水辺にいたせいで髪の毛は肌にくっついて服もびしょびしょだ。有斗先輩はよっこらせ、と立ち上がった。
「満足したか? んじゃ帰ろー」
「有斗も満足した?」
「つかれた」
「その人たち誰?」
三人は俺らに視線を向ける。有斗先輩が「学校の後輩だよ」と優しく教える。それに対し子供たちは興味なさそうに「ふぅん」と答える。
「私、富美加。こっちは私のお兄ちゃん。田舎から来たの。よろしくね」
富美加が一歩歩み寄り、女の子と手を繋いだ。女の子はポカンと口を呆けている。有斗先輩はその子の肩をポンと叩いた。
「ほら、仲良くなりたいってさ」
有斗先輩が肩を叩いた衝撃で女の子はハッとした顔になる。有斗と少年たちの顔をまじまじ見る。それから富美加へと顔を合わすともじもじしながら口を開いた。
「よろ、しく……わた、私はみんなから【天空様】て呼ばれて、いる」
「【天空様】? それが名前?」
富美加は目を丸くする。
【天空様】と自称した女の子は申し訳なさそうに俯いた。有斗先輩が後頭部をかいた。
「んー。ちょっと事情があってな、この子の周りはそう呼んでいるけど、俺はソラちゃんて呼んでる。可愛いだろ。ソラちゃん」
「ソラちゃん! 可愛いねっ!」
富美加がぱぁと笑った。
なんか変というか。あれか? 夢を諦めるなて所から妙によそよそしかったな。おかしなこと言ったか?
伊礼も同じ室内にいたのに全くおかしくなった。いつものバカだった。勉強で疲れ果てた様子もなかったし。何だこの違和感は。
学校から帰路につく道中、頭の中でもやもやした。紫色の雲とオレンジ色の雲が混ざり合っている。昼も暑いし陽が傾いた時間帯になってもやっぱりまだ蒸し暑い。
夏になると屍人が這う時間帯が遅くなる。陽が冬より沈まないから。だからか、夏の時期になると懐中電灯を忘れて外に行く奴がいる。屍人に捕まるからやめとけ、と小学生から習われてるものをすぐに忘れる連中はいる。時々ニュースに流れるからだ。夏は特に多い。早めに帰ることだ。
なんて思っていると公園から子供たちのはしゃぐ声が聞こえて耳を疑った。こんな時間帯に子供がまだ外で遊んでいる。保護者は一体何をしているべ。
「有斗先輩⁉」
公園に入るとベンチで保護者らしき大人がいたと思ったら知っていた人物だった。有斗先輩は声がして振り向く。軽く手を振った。
「おっ、六路くんバイト帰り?」
「今日はバイトないっす。有斗先輩、こんな所で何してんすか?」
有斗先輩は顔を公園で遊んでいる子供たちに向けた。
「んー。監視役かな」
「だったら帰ったほうがいいすよ。もうこんな時間」
有斗先輩は表情も態度も変えずに飄々としている。大きなリング型のイヤリングが揺れた。
「大丈夫。こっから家近いから」
ニヤリと笑った。
なら、いいけど。子供たちは合わせて三人。女の子1人に男の子2人。水辺の場所で走り回っている。
「親戚ですか?」
「んー。まっ。そんな感じ。あぁでも一人だけ身内。あの中で分かる?」
有斗先輩は悪戯っ子のように笑いかけてきた。試されてる。ここは間違えないように。女の子を指差した。有斗先輩はあははと笑った。
「残念。正解はあの水色の服着た子でした。これで正解した奴は誰もいない。似てない兄弟だからな」
有斗先輩はあははと笑う。セミの鳴き声が静かになった。子供たちの声と噴水の水の音が響く。少しだけ風が涼しくなった。どこからか風鈴の音がする。夏らしくていい感じだ。
風鈴と同じように有斗先輩のイヤリングも揺れる。
「お兄ちゃん!」
「富美加⁉」
エプロンしている富美加が迎えに来た。タッタと走ってくる。俺の胸に飛び込む。
「富美加、こんな時間に歩き回るな。俺がいなかったらどうすんべ!」
「お兄ちゃんいたからいいじゃん」
富美加は不貞腐れた顔をする。富美加だけかと思ったら富美加の後ろから琉巧が歩いてきた。頬がほんのり赤い。
「あれ、どうしたんべ。女の子に暴力振るわれたか?」
「兄妹揃って観察眼鋭くない?」
琉巧はさっ、と顔を隠しその場をスタスタと去った。
「富美加、何かされたか?」
奴がいなくなって小声で訊いてみる。富美加は首を振った。そうか。それならいいけど。富美加に近づこうとするなら排除する。
「な~んだお前妹いたのか」
有斗先輩が言った。少し低い声。普段おちゃらけた声で笑い飛ばす人が時折見せる普段と違うものを見た瞬間、人は固まる。
「俺と違って仲良いんだな」
有斗先輩の表情は見えない。飄々とした態度とは打って変わって様子がおかしい。遊び疲れたのか子供たちが集まってきた。水辺にいたせいで髪の毛は肌にくっついて服もびしょびしょだ。有斗先輩はよっこらせ、と立ち上がった。
「満足したか? んじゃ帰ろー」
「有斗も満足した?」
「つかれた」
「その人たち誰?」
三人は俺らに視線を向ける。有斗先輩が「学校の後輩だよ」と優しく教える。それに対し子供たちは興味なさそうに「ふぅん」と答える。
「私、富美加。こっちは私のお兄ちゃん。田舎から来たの。よろしくね」
富美加が一歩歩み寄り、女の子と手を繋いだ。女の子はポカンと口を呆けている。有斗先輩はその子の肩をポンと叩いた。
「ほら、仲良くなりたいってさ」
有斗先輩が肩を叩いた衝撃で女の子はハッとした顔になる。有斗と少年たちの顔をまじまじ見る。それから富美加へと顔を合わすともじもじしながら口を開いた。
「よろ、しく……わた、私はみんなから【天空様】て呼ばれて、いる」
「【天空様】? それが名前?」
富美加は目を丸くする。
【天空様】と自称した女の子は申し訳なさそうに俯いた。有斗先輩が後頭部をかいた。
「んー。ちょっと事情があってな、この子の周りはそう呼んでいるけど、俺はソラちゃんて呼んでる。可愛いだろ。ソラちゃん」
「ソラちゃん! 可愛いねっ!」
富美加がぱぁと笑った。
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