折々再々

ハコニワ

文字の大きさ
上 下
61 / 78
再々

第61話 痣

しおりを挟む
 富美加が作ったものは冷やし麺と唐揚げだった。人数分作るのに手間取って辺りはほんのり薄暗い。小さな屍人が這っている。
「ごめんなさい。遅れて」
「美味しかったら許します!」
 四葉さんもパタパタと台所から品を持ってくる。皆手を合わせていただきます、と唱えた。
「お兄ちゃん、私たちが作ったから残さないでよ」  
「お兄ちゃんなぁ、朝からバイトで大変だったんだぞ。こんなの食える食える」
「うーん。人様の作る飯はうまいなぁ」
 伊礼がパクパク食べていく。
「料理好きなの?」
 琉巧が話しかける。
 優男のような優しい声。兄から危険人物だと言われてその人物から話しかけられてどう対処したらいいか戸惑う富美加にまず助け舟を出したのは横にいた四葉さんだ。
「困っているじゃない。やめなさい。困ったときはお義姉さん頼ってね」
「ははは、四葉お姉ちゃんありがとう」
 そのあと琉巧をしめたことは言うまでもない。


 ご飯を全部完食したら三人は帰っていった。屍人は暗い場所で多く這っているからここはより危険だ。だから懐中電灯を多めに持たせたが、伊礼以外の二人は持参してたから伊礼に三つ懐中電灯を持たせた。
「富美加、もう遅い。ここから実家まで帰るには夜道は危険べ。ここに泊まっていけ」
「端っからそのつまり。お泊り用バック持参してるから!」
 部屋の隅に見慣れない大きなバックがあった。泊まるき満々かよ。食べた皿はシンクで。作ってくれたのは富美加で後片付けは俺がやろう。富美加は風呂へ。
「お兄ちゃんあん人のことどう思ってる?」
 富美加が怪訝な声で訊いてきた。
 お風呂場でも声が通じる。壁が薄いからな。
「どうって誰の事べ」
「あの女じゃ。独りよがりに自分のことお義姉さんて言ってきた女!」
「あぁ四葉さんのことか。優しい人だったろ」
「どこか⁉ あの女、お兄ちゃんのこと厭らしい目で見とった! あのお兄さんより要注意人物じゃ」
 四葉さんそんな人じゃないけどな。富美加と接してたときは特に表情筋柔らかかったし。

 風呂から上がった富美加は下着一枚でこちらにやってきた。髪の毛からポタボタと水滴が落ちてきてるのにそのまま。
「こらっ! そんな薄着じゃ風邪を引く!」
 首に掲げていたタオルを取って頭をワシワシさせる。富美加は無抵抗でされるがまま。いっつもこうだからな。いっつも富美加は水滴垂らせながら歩く。そしてわざわざ俺のところまで来て濡れた髪の毛を拭かせる。全くいくつになっても子供なんだから。
 下着一枚から微かに見えた痣。

 富美加には生まれつき胸に痣があった。黒くて斑点模様の大きな痣。これは病気の一種で古来からあるらしい。古来では【蛇病】と呼ばれていたが現代では【日の手病】と呼ばれている。それはなぜか、古来からこの病に患った人は太陽の陽の光を一切浴びれない程徹底的に隔離されていた。施しようはない。だがこの病にようやく治療法が改善された。

 陽の光を浴びることだ。この病は暗い場所に行けばいるほど痣が体を侵食。古来の隔離方法では百%死亡する治療だった。この痣は太陽を嫌い、侵食しない。富美加は小さい頃から外で遊び田んぼも手伝っていたことが良好。痣の侵食は免れた。
「もうどこ見てるのお兄ちゃんのエッチ!」
 富美加の胸の痣を見過ぎてまだ発育していない胸を見ていると思われた。
「だいぶ小さくなったな、と思って」
「ふん! 言い訳がましい。どーせ私のおっぱいガン見してたんべ!」
「してないしてない」
 少し乱暴に頭を拭いた。富美加は「ぎゃー」と叫ぶ。

 我が家に布団は一枚しかない。そんなの知ってか知らすか富美加が実家の自分の布団まで用意してきた。用意周到だな。電気を消し、久しぶりに兄妹で寝る。俺は床で富美加は俺のベットを使っている。妹を床に寝かせるなんてさせないからな。
「お兄ちゃんの匂いずごい。かれー臭んだ」
「ぞがな臭いか? マクラ替えっか?」
 一度上体を起こすと富美加は勢い良く首を振った。「これがいい」とマクラを握った。痩せ我慢すんな、て言っても言うこと聞かないしな。



 一夜明けてあさが来た。
 朝起きると富美加がベットにいなくてかわりに台所に立ってパタパタと忙しそうに料理してた。なんだかその姿は小さいなかがらも一生懸命で健気だ。
 布団から出て台所へ向かう。
「富美加、おはよう。悪いな」
 髪の毛をポリポリかく。
「お兄ちゃん、おはよう! お兄ちゃんの妹なんべお兄ちゃんの栄養を管理するのが妹の務め!」
 富美加は自慢げに微笑む。愛くるしい。頭をポンポンすると富美加は「子供扱いすんな」とムスッと顔を膨れるが手を振り払わない。これはお兄ちゃんの特権かな。

 朝食はパンに目玉焼きが乗ったものとサラダ。おまけにヨーグルトまで。一人暮らしで食卓がここまで豪華になった姿は初めてだ。普段はコンビニの賞味期限切れのものをボソボソと食べて、食卓は物静かに何も置いていない。
「うまい」
「当たり前べ」
「今日帰れよ。お袋心配してるぞ」
「お兄ちゃんと常にいるから大丈夫べ」
「お兄ちゃんこれからバイトやぞ? 帰れ帰れ」
 富美加はムスッとした表情し睨みつける。睨みつかれてもバイトなのは変わらん。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※4話は2/25~投稿予定です。間が空いてしまってすみません…! 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...