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再々
第60話 ボロアパート
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「なんで急に」
すぐに街を出て人混みがややすくなっていく。三人がこんな急に俺ん家に行こうなんて突拍子すぎて疑念を抱かないわけない。
「だって俺ら買い物帰りにろくろっちのアパート行こうてのは元々決まってたことだし。こんなトコでばったりあうとは思わなかったけど」
伊礼がにこやかに言った。
「じゃ、じゃあ四葉さんは」
聞くと四葉さんはギクリとして顔を赤らめた。
「えっと、その、ほら、どんなアパートに住んでいるのか他の住民のことも把握しといた方がいいかな? と思って」
「へぇ」
お年寄りばっかりのアパートだって告げると四葉さんはアパート周辺のも知りたいと言ってきた。心配屋にも程がある。
「さーてろくろっちのアパートは」
「すぐそこだ」
指差した場所は全体的に木が覆い被って暗く、壁はボロボロに色落ちて茶色く変色し、ある階では窓ガラスも割れて人が住んでいないような部屋もある。まるでお化け屋敷みたいなものだ。
このボロアパートを見るや三人は固まって絶句した。都会っ子には見慣れないものだ。
「ほらな~ここそんなキラッキラなトコじゃねぇべ、ほら、さっさと帰るべ!」
俺は三人の前に立ってシッシッと追い返す。
だが、予想に反して三人が取った行動とは――。
「すっげぇ! なんだここ!」
「リアルお化け屋敷みたいだ」
「近所に女はいないよね?」
伊礼ははしゃいで走り回る。琉巧はアパートをパシャパシャ撮る。もちろんその中には自撮りも含まれて。四葉さんは周辺の家を探すがここは近所もいないぞ。空き家が隣である。
伊礼が先に鉄格子の階段を登り始めた。カンカンと響く。1階にいるおじいちゃんたちに迷惑だろうが!
「こら! はしゃぐんじゃありません!」
一喝しても無駄だった。
先に階段を登りきったのが先だった。間をおいて琉巧が登る。
「2階なの?」
四葉さんが遅れてやってきた。アパート一周してきた人。
「あいつらに言うんじゃなかった」
後の祭りとはこのことだ。あのときは自慢話にも似た感覚で喋ってたら、いつかこうなるとは思わなかった。二人の行動力を驚愕する。
伊礼が俺の表札に気づいたのだろう。早く上がってこいと叫ばれた。うるさい近所迷惑だ。おじいちゃんおばあちゃんしかいないけど、苦情来たらどうすんだ。四葉さんと二人して鉄格子の階段を登った。ゆっくり歩いてもカンカンと乾いた音を出すのだから走り回るようにここで飛ぶとかなり音が響くのだ。
俺の表札のところで二人固まって立っていた。
「開いてないのにどうやって入ろうとすんだ」
俺はため息ついた。
「え、でもここ、開いてるよ」
琉巧がほら、と示すようにドアノブに手をかけてゆっくり引いた。すると、本当に開いたのだ。
「あれ、おかしいな」
鍵かけたつもりなんだけどな。
「おかしいと思ってここで待ってたんだ。お~怖怖、琉巧みたいに元カノが部屋で待ってたりして」
「女……?」
「今まで付き合ったことなんぞないぞ」
俺はドアノブに手をかけて少し開いたドアをもっと、自分が入れるような空間まで開けた。なんかひんやりしてて背筋にツゥと玉の汗が流れる。ふわりと風がなびいた。
俺が怖くて佇んでいると四葉さんが恐れなしに勇敢に家に上がる。
「待ってて。わたしが退治してくるから」
「待って、四葉さん!」
危険だ。泥棒だったらどうすんだあんた先に死ぬべ。俺は慌てて後を追う。伊礼は口を呆けて「修羅場や」と呟き琉巧はカメラを向けて家に上がる。
家に一気にバタバタと押し入る。泥棒だったらこの音ですぐに退散する。だが、そこにいたのは俺が予想していたものより斜め上だった。
――そいつは台所で立ち尽くし訪問者を見上げてた。小さくて小柄で、そして良くしてっている人物。
「富美加!」
「お兄ちゃん‼」
台所にいたのは俺の妹だった。身内ということで修羅場ではなくなった。四葉さんは怒気を孕む勇ましさは何処へ。富美加が妹だと知るや慈愛の笑みを浮かべて接してくる。
「この子が四つ離れた妹さん?」
琉巧が初めましてと挨拶する。
「あぁそうだ。あ、富美加、危険だそいつ! そいつは誰彼女を誑かす狂人だ話すなよ!」
「人聞きの悪い」
琉巧はムスッとした顔をした。伊礼は許しても琉巧だけはだめだ。今後の妹のことを考えるとこの男だけは接触してはならん。
「富美加どうしてここに! どうやって入ったんだ」
「見てわからない? 可愛い可愛い妹が一人暮らしで途方に暮れているお兄ちゃんの為に自炊してるの! あ、ここを彷徨いてたら大家さんが開けてくれた。都会もそんな悪くないね」
台所では調理された具材と火に掛けている鍋があった。朝だるくてシンクに置きっぱなしの皿がない。洗われていた。
「あ、折角だから皆さんも食べていってください」
富美加は3人に顔を向けた。伊礼が驚く。
「訛っていない!」「標準語頑張ったので」
「お言葉に甘えて食べていこっかな」
琉巧がニコリと笑う。
「わたし、手伝っていい? 富美加ちゃん、わたしのことは四葉お義姉ちゃんて呼んでね」
「四葉お姉さん、ありがとうございます」
えっと、じゃあ人数分作るんで麺をこの中に。
四葉さんと富美加は台所で。俺たち男三人はテレビをつけて眺めてる。
なんだか、寂しい空間だったここに騒がしい声や音が響いて心地いい。嫌じゃない。
すぐに街を出て人混みがややすくなっていく。三人がこんな急に俺ん家に行こうなんて突拍子すぎて疑念を抱かないわけない。
「だって俺ら買い物帰りにろくろっちのアパート行こうてのは元々決まってたことだし。こんなトコでばったりあうとは思わなかったけど」
伊礼がにこやかに言った。
「じゃ、じゃあ四葉さんは」
聞くと四葉さんはギクリとして顔を赤らめた。
「えっと、その、ほら、どんなアパートに住んでいるのか他の住民のことも把握しといた方がいいかな? と思って」
「へぇ」
お年寄りばっかりのアパートだって告げると四葉さんはアパート周辺のも知りたいと言ってきた。心配屋にも程がある。
「さーてろくろっちのアパートは」
「すぐそこだ」
指差した場所は全体的に木が覆い被って暗く、壁はボロボロに色落ちて茶色く変色し、ある階では窓ガラスも割れて人が住んでいないような部屋もある。まるでお化け屋敷みたいなものだ。
このボロアパートを見るや三人は固まって絶句した。都会っ子には見慣れないものだ。
「ほらな~ここそんなキラッキラなトコじゃねぇべ、ほら、さっさと帰るべ!」
俺は三人の前に立ってシッシッと追い返す。
だが、予想に反して三人が取った行動とは――。
「すっげぇ! なんだここ!」
「リアルお化け屋敷みたいだ」
「近所に女はいないよね?」
伊礼ははしゃいで走り回る。琉巧はアパートをパシャパシャ撮る。もちろんその中には自撮りも含まれて。四葉さんは周辺の家を探すがここは近所もいないぞ。空き家が隣である。
伊礼が先に鉄格子の階段を登り始めた。カンカンと響く。1階にいるおじいちゃんたちに迷惑だろうが!
「こら! はしゃぐんじゃありません!」
一喝しても無駄だった。
先に階段を登りきったのが先だった。間をおいて琉巧が登る。
「2階なの?」
四葉さんが遅れてやってきた。アパート一周してきた人。
「あいつらに言うんじゃなかった」
後の祭りとはこのことだ。あのときは自慢話にも似た感覚で喋ってたら、いつかこうなるとは思わなかった。二人の行動力を驚愕する。
伊礼が俺の表札に気づいたのだろう。早く上がってこいと叫ばれた。うるさい近所迷惑だ。おじいちゃんおばあちゃんしかいないけど、苦情来たらどうすんだ。四葉さんと二人して鉄格子の階段を登った。ゆっくり歩いてもカンカンと乾いた音を出すのだから走り回るようにここで飛ぶとかなり音が響くのだ。
俺の表札のところで二人固まって立っていた。
「開いてないのにどうやって入ろうとすんだ」
俺はため息ついた。
「え、でもここ、開いてるよ」
琉巧がほら、と示すようにドアノブに手をかけてゆっくり引いた。すると、本当に開いたのだ。
「あれ、おかしいな」
鍵かけたつもりなんだけどな。
「おかしいと思ってここで待ってたんだ。お~怖怖、琉巧みたいに元カノが部屋で待ってたりして」
「女……?」
「今まで付き合ったことなんぞないぞ」
俺はドアノブに手をかけて少し開いたドアをもっと、自分が入れるような空間まで開けた。なんかひんやりしてて背筋にツゥと玉の汗が流れる。ふわりと風がなびいた。
俺が怖くて佇んでいると四葉さんが恐れなしに勇敢に家に上がる。
「待ってて。わたしが退治してくるから」
「待って、四葉さん!」
危険だ。泥棒だったらどうすんだあんた先に死ぬべ。俺は慌てて後を追う。伊礼は口を呆けて「修羅場や」と呟き琉巧はカメラを向けて家に上がる。
家に一気にバタバタと押し入る。泥棒だったらこの音ですぐに退散する。だが、そこにいたのは俺が予想していたものより斜め上だった。
――そいつは台所で立ち尽くし訪問者を見上げてた。小さくて小柄で、そして良くしてっている人物。
「富美加!」
「お兄ちゃん‼」
台所にいたのは俺の妹だった。身内ということで修羅場ではなくなった。四葉さんは怒気を孕む勇ましさは何処へ。富美加が妹だと知るや慈愛の笑みを浮かべて接してくる。
「この子が四つ離れた妹さん?」
琉巧が初めましてと挨拶する。
「あぁそうだ。あ、富美加、危険だそいつ! そいつは誰彼女を誑かす狂人だ話すなよ!」
「人聞きの悪い」
琉巧はムスッとした顔をした。伊礼は許しても琉巧だけはだめだ。今後の妹のことを考えるとこの男だけは接触してはならん。
「富美加どうしてここに! どうやって入ったんだ」
「見てわからない? 可愛い可愛い妹が一人暮らしで途方に暮れているお兄ちゃんの為に自炊してるの! あ、ここを彷徨いてたら大家さんが開けてくれた。都会もそんな悪くないね」
台所では調理された具材と火に掛けている鍋があった。朝だるくてシンクに置きっぱなしの皿がない。洗われていた。
「あ、折角だから皆さんも食べていってください」
富美加は3人に顔を向けた。伊礼が驚く。
「訛っていない!」「標準語頑張ったので」
「お言葉に甘えて食べていこっかな」
琉巧がニコリと笑う。
「わたし、手伝っていい? 富美加ちゃん、わたしのことは四葉お義姉ちゃんて呼んでね」
「四葉お姉さん、ありがとうございます」
えっと、じゃあ人数分作るんで麺をこの中に。
四葉さんと富美加は台所で。俺たち男三人はテレビをつけて眺めてる。
なんだか、寂しい空間だったここに騒がしい声や音が響いて心地いい。嫌じゃない。
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