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再々
第57話 ばったり
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休日にシフトは入れるものだ。みんなが遅く寝ている間にこちらはコンビニのバイトやカフェのバイトなど。休む暇もなくバイトに明け暮れてる日々。そうして気づいた。
女の子と恋に落ちてリア充高校生活青春パラダイスから遠のいていることを。
大きなため息零しながら棚を整理。たまたまその後ろを通りかかった店長が俺に声をかけた。
「六路くん。今日はもういいよ」
「はい? いえいえ! 全然まだまだ余裕っすよ!」
「六路くんが一番頑張っているから今日だけ特別」
と店長は歯をみせて笑って言った。この顔はすごく機嫌がいい。何かいい事あったな。
「えぇと、じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんうん。お疲れー」
店長は最後まで機嫌がよかった。こんな日は滅多にないだろう。バイトを切り上げて店を出る。戸を開けた瞬間、日差しが目に刺して痛い。外はギラリと太陽が出ていた。照りつける太陽、むわりと蒸せる空気、田舎も都会も違いはあれど、この季節はやはりやってくる。あぁ、夏が来るんだ。
「暑っ」
顔にかかる日差しから遮るように手で影をつくる。風が吹かないから余計にむせ返る。まだ初夏でもないのにこの暑さでは本格的な夏がきたら人間焼け死ぬだろう。
この時間から他にバイトはいれていない。初めてじゃないか。この時間に余裕が生まれたのは。さてかえって何するか。いや先に、晩飯の準備……いやいや、この生活に慣れてしまって明日の献立か今日の飯しか考えてない。男子高校生、ここは普通にダチと遊びに行くのが鉄板では⁉ なぜこんな主婦みたいな考え方しているんだ。
頭の中でぐるぐる思考している。
一人で百面相して頭をブルブル振っていると後ろから声をかけられた。この水銀を震わせた心地よい声は俺の知っている限り人生において一人しかいない。くるりと振り向くと案の定、あの人がそこにいた。
「戸村くん、バイト帰り?」
制服じゃない私服姿の四葉さんをお目にかかれるなんて。白い半袖シャツにリボンのついた黒いロングスカート。普段結っていないストレートの髪の毛が後ろで一つにしてポニーテールにしている。かわ、可愛い。いつもの、いつも可愛いというより美人系なのに髪型ひとつ変えただけで可愛くみえる。あとすごいいい匂いする。
「えぇ四葉さん? そ、そっす」
緊張して声が裏返った。
だが、四葉さんは気にせず話を続ける。
「休日なのにバイトなんてすごいね」
「いやいや、全然全然。まだまだ不慣れで怒られてばっかすっ。四葉さんはこれからどこ行くんすか」
四葉さんは肩にかけているバックをもう一度かけ直した。さらりと髪の毛が揺れる。
「図書館。本を貸し借りしに行くの……一緒に行く?」
コテンと首を傾げて訊いてきた。
昨日もバイトに明け暮れて帰ってきたのは屍人が這う夜の十二時だった。青春真っ只中の若者にとって学校帰りは普通に友達と遊んでいるのになぜ、俺はと帰ってそうそうなだれ込むようにベットに横になってそのまま寝た。それが昨夜のことで、正直いって今すぐ帰って寝たい。一日中寝ていたい。
「そうか。バイト帰りだもんね。ごめんね」
四葉さんはそのまま俺の横を通っていく。
ふわりといい香りだけが残って風に飛ばされる。彼女はスタスタと歩いていく。まるでランウェイで如く姿勢良くコツコツと靴音を立てながら華麗に。
まぁ、正直言って眠かったし。太陽眩しいな本当に。クラクラするほどの暑さ。四葉さんはどんなに完璧にみえても割とドジだ。華麗に歩いていたのに何かに躓いて転けそうに。危うく転倒は避けたが大丈夫だろうか。足をぴょんぴょん跳ねている。
「大丈夫べ?」
「へっ⁉」
裏返った返事。
四葉さんはまさか、転けたところまで見られたなど思っていなくて上ずった声を出した。
「四葉さん、あんた、クールなくせに割とドジっ子なんだな」
「いわないでね……」
頬を赤らめ目を伏せる。
もちろんこんな姿、誰にも言わない。
「俺も、図書館行くっす」
という感じで2人は図書館に向かった。ここから然程遠くない場所にある。青々とした木の葉の隙間から陽光が降り注ぐ。その僅かな陽光が二人の顔をチカチカ照らす。
「戸村くん」
最初に話題を出したのは四葉さんからだった。
「戸村くんって、どこ出身?」
「えっと、秋田です」
「秋田かぁ。んだんだ言うから青森かと思った。ごめんね」
ふふふ、と愉快に笑う。
「も、もしかして俺、敬語下手っすか?」
「下手じゃないけどまぁ、地方の人だなてのは一発で分かる」
ドンマイドンマイといいたげに肩をポン、と叩く。やっぱり都会に馴染むには相当難しいことだ。学校ではこの方言で若干浮かれつつあるし。
「秋田かぁ。いいなぁ」
「なんもない所べ」
「ふっ。でも、都会っ子からすれば憧れるんだよ。こんな狭くて窮屈な都会より田舎のほうが広々としているイメージ」
四葉さんは右手を頭上まであげた。天に向かって手のひらをかざす。その眼差しは、悲しそう。
女の子と恋に落ちてリア充高校生活青春パラダイスから遠のいていることを。
大きなため息零しながら棚を整理。たまたまその後ろを通りかかった店長が俺に声をかけた。
「六路くん。今日はもういいよ」
「はい? いえいえ! 全然まだまだ余裕っすよ!」
「六路くんが一番頑張っているから今日だけ特別」
と店長は歯をみせて笑って言った。この顔はすごく機嫌がいい。何かいい事あったな。
「えぇと、じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんうん。お疲れー」
店長は最後まで機嫌がよかった。こんな日は滅多にないだろう。バイトを切り上げて店を出る。戸を開けた瞬間、日差しが目に刺して痛い。外はギラリと太陽が出ていた。照りつける太陽、むわりと蒸せる空気、田舎も都会も違いはあれど、この季節はやはりやってくる。あぁ、夏が来るんだ。
「暑っ」
顔にかかる日差しから遮るように手で影をつくる。風が吹かないから余計にむせ返る。まだ初夏でもないのにこの暑さでは本格的な夏がきたら人間焼け死ぬだろう。
この時間から他にバイトはいれていない。初めてじゃないか。この時間に余裕が生まれたのは。さてかえって何するか。いや先に、晩飯の準備……いやいや、この生活に慣れてしまって明日の献立か今日の飯しか考えてない。男子高校生、ここは普通にダチと遊びに行くのが鉄板では⁉ なぜこんな主婦みたいな考え方しているんだ。
頭の中でぐるぐる思考している。
一人で百面相して頭をブルブル振っていると後ろから声をかけられた。この水銀を震わせた心地よい声は俺の知っている限り人生において一人しかいない。くるりと振り向くと案の定、あの人がそこにいた。
「戸村くん、バイト帰り?」
制服じゃない私服姿の四葉さんをお目にかかれるなんて。白い半袖シャツにリボンのついた黒いロングスカート。普段結っていないストレートの髪の毛が後ろで一つにしてポニーテールにしている。かわ、可愛い。いつもの、いつも可愛いというより美人系なのに髪型ひとつ変えただけで可愛くみえる。あとすごいいい匂いする。
「えぇ四葉さん? そ、そっす」
緊張して声が裏返った。
だが、四葉さんは気にせず話を続ける。
「休日なのにバイトなんてすごいね」
「いやいや、全然全然。まだまだ不慣れで怒られてばっかすっ。四葉さんはこれからどこ行くんすか」
四葉さんは肩にかけているバックをもう一度かけ直した。さらりと髪の毛が揺れる。
「図書館。本を貸し借りしに行くの……一緒に行く?」
コテンと首を傾げて訊いてきた。
昨日もバイトに明け暮れて帰ってきたのは屍人が這う夜の十二時だった。青春真っ只中の若者にとって学校帰りは普通に友達と遊んでいるのになぜ、俺はと帰ってそうそうなだれ込むようにベットに横になってそのまま寝た。それが昨夜のことで、正直いって今すぐ帰って寝たい。一日中寝ていたい。
「そうか。バイト帰りだもんね。ごめんね」
四葉さんはそのまま俺の横を通っていく。
ふわりといい香りだけが残って風に飛ばされる。彼女はスタスタと歩いていく。まるでランウェイで如く姿勢良くコツコツと靴音を立てながら華麗に。
まぁ、正直言って眠かったし。太陽眩しいな本当に。クラクラするほどの暑さ。四葉さんはどんなに完璧にみえても割とドジだ。華麗に歩いていたのに何かに躓いて転けそうに。危うく転倒は避けたが大丈夫だろうか。足をぴょんぴょん跳ねている。
「大丈夫べ?」
「へっ⁉」
裏返った返事。
四葉さんはまさか、転けたところまで見られたなど思っていなくて上ずった声を出した。
「四葉さん、あんた、クールなくせに割とドジっ子なんだな」
「いわないでね……」
頬を赤らめ目を伏せる。
もちろんこんな姿、誰にも言わない。
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という感じで2人は図書館に向かった。ここから然程遠くない場所にある。青々とした木の葉の隙間から陽光が降り注ぐ。その僅かな陽光が二人の顔をチカチカ照らす。
「戸村くん」
最初に話題を出したのは四葉さんからだった。
「戸村くんって、どこ出身?」
「えっと、秋田です」
「秋田かぁ。んだんだ言うから青森かと思った。ごめんね」
ふふふ、と愉快に笑う。
「も、もしかして俺、敬語下手っすか?」
「下手じゃないけどまぁ、地方の人だなてのは一発で分かる」
ドンマイドンマイといいたげに肩をポン、と叩く。やっぱり都会に馴染むには相当難しいことだ。学校ではこの方言で若干浮かれつつあるし。
「秋田かぁ。いいなぁ」
「なんもない所べ」
「ふっ。でも、都会っ子からすれば憧れるんだよ。こんな狭くて窮屈な都会より田舎のほうが広々としているイメージ」
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