折々再々

ハコニワ

文字の大きさ
上 下
55 / 78
再々

第55話 あともう1人

しおりを挟む
 昼休みが終わり五限目が始まる。昼ごはん食べたあとは眠くなる。眠気を抑えて机の教科書とにらみっ子していると、背後で、背中を叩かれた。
 眠気ありながらくるりと振り向く。伊礼がぱっちりした眼で何ら真剣な面持ち。
「なぁあと一人じゃねぇか? 入部すんの」
「そうじゃ。放課後また宣伝をする」
「あーやっぱり」
「でも大声で宣伝すっと四葉さんに怒られるんだよ。目立つな、て。だから放送部借りたりポスターを書いたりしねぇと」
 眠い目をこすりながらあやふやに考える。
 何よりもあの美人を怒らせるのが怖いから。美人は怒っても美人だけど。 
「んー。難しいな」
 伊礼は頭を抱えて悩みだす。そんなの俺も知っている。伊礼はうーんと考えて口を開かない。俺は前を向いて今、黒板にある文字をつらつらとノートに書き写す。

 そして、全部書き終わったらノートの後ろのページをめくり、そこにつらつらとある事を書き込んだ。

 放課後――生徒会で忙しいと思いきや言った通り彼女は部室にいた。椅子に座り静かに読書をしている。綺麗な姿勢で。
 俺が来たことも分からない程本に集中している。このまま黙って部屋に入ったほうがいい。邪魔はしたくない。
「やっほー‼ この伊礼、探求部へ一歩、踏み出しました!」
 騒がしい奴が出てきて、俺を退けて部室の放課後の、一歩目を踏み出した。彼女はじとりと本から顔を覗く。
「うるさい。響いてる」
 その後ろに琉巧が。
「幽霊部員じゃなかったか?」
 嫌味たらしく言うと琉巧は口をとがらせる。
「そのつもり。でも初回一回は顔を見せないとだめだろ。うわ、何ここ」  
 琉巧は部室を見て怪訝なかおした。

 本やマット、運動部が使うボールや使えなさそうな棒きれまであるものの、肝心のものがこの部室にない。それは、机と椅子。
「これじゃ勉強できねぇべ! 図書館から机と椅子を掻っ攫って行くでごわすよ、ろくろっち!」
「んだ! でも『ごわすよ』はない」
「頑張って、ここで待ってる」
 俺と伊礼は張り切って部室を出ていき、琉巧はスマホ片手に夢中。四葉も読書に夢中。騒がしくしてた連中が出ていってホッとする。

 勉強をしている人もいて、放課後だというのに疎らに人が集まっている。物音一つたてば響く室内。くしゃみ一つ許されない場所にズカズカと入っていく。図書館の先生は突然やって来て突然の要求に目を白黒させた。
「余った机と椅子? うぅん、あんまりないわね」
「殺生なっ! お恵みください~」
「うるさいわよ。ちょっと待ってなさい」
 メガネをかけた寡黙そうな優しい先生は、奥の小さな小部屋へ。図書館にいる人たちの視線が刺すように痛い。小声で話しかけたのにそんな小さな物音でもこの室内ではよく響くような環境。少しでも物音たてば睨むんだからこわい。 
 
 少ししてから先生がやってきた。
「うーん、ここにあるのは先生と委員会の人たちが座るものしかないわ。ごめんね、他を当たってくれる?」
「そうすっか。分かりました。先生、あんがとー」
 俺たちは図書館を出た。
 静かな場所を抜けられてせいせいする。少しだけ息が落ち着いた。 
「図書館にないとすると、用具室から借りてくるか」
 伊礼が深く考え込む。
「どこだ?」
 入学してからそれ程月日は立っていない。むしろ、こんな大きな校舎を0から覚えてる人間はあまりいないだろう。さながら一年の俺たちからすれば校舎自体が大きな迷路だ。
「四葉さんに聞くか」  
 俺たちは踵を返して部室に戻る。この大きな校舎を0から覚えてる極小の人間といえば生徒会でもある、四葉さんに頼るしかない。

 部室に再び戻ってきた俺たちに四葉さんは、本を閉じた。

「こうなることは分かっていたわ。さて、行くわよ」

 本を椅子に置き、俺たちを連れて生徒会の部屋まで。誰もいなかった。静まり返っている部屋に足音と声が響く。生徒会の部屋は書類がダンボールの中にギッシリ入ってて、ダンボールが二個、三個積んである。広いわけもなくかといって狭い訳もなく、物も沢山あって寂れた空間でもない。
 俺たちの目当ての机や椅子がそこにあった。椅子を交互に別けて積んである。天井高く積んである椅子を見てバランス崩さないかヒヤヒヤする。
「分かってんなら最初からここに来ればよかったのに」
「あなたたちが俄然と先に飛び出したからでしょ。さ、運ぶわよ」
 絶妙なバランス感覚で保っているのを崩すのは気が引けるがまぁ、四葉さんが言うには地震が来たことあっても一度も崩れたことない、と断言。

 まぁ、そんな? 誇らしげな顔で言われるとね信じるしかない。

 椅子を人数分降ろしても確かに崩れなかった。どういうバランス感覚しているんだ。机も一脚摂る。これを部室まで持っていく。同じ1階だからいいけども。椅子と机を部室まで運びんだところで今日のところは解散としよう。
 ふと窓を見れば、空の色がうっすら暗くなって夕日が半分以上も沈んでいる。もっと見上げれば月がもう輝いていた。
「早く帰らねぇと屍人しびとが徘徊するだぁ!」
 俺たちは鞄を持って急いで学校を出た。


 暗くなると現れる屍人は文字通り、死んだ人間。幽霊みたいなオカルト話ではない。本当に死んだ人間が夜な夜な徘徊するのだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※4話は2/25~投稿予定です。間が空いてしまってすみません…! 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...