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最初Ⅱ
第49話 暴行
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行かせるか。あの場所からシウォンを掻っ攫うのは俺て決まってんだよ。異端審問が連れて向かわせるのは拷問に決まっている。
裏門にて向かうと鎖でがんじがらめに結ばれていて閉めることも開けることもできない。裏門からではなく正門からか。俺はさぁ、と血の気が引いていった。
正門へ向かうと大勢の群れはまだあるも、異端審問の影も、シウォンの姿もなかった。どうしてだ。だって、馬車もなかったし。こんなあっさり他人に取られるのか。
大事なもの守りきらないでどうする。
どうしよう。シウォンが取られた。悲しみよりも先に怒りが芽生えて目の前が真っ赤になる。あのときよりも腹の底がふつふつと煮えたぎって、この感情をどうにかしないと発狂しそうだ。
異端審問がいる教会へ向かった。
だが道中、馬車をみつけた。馬車に引きずられるようにして鎖に繋がれてるのはシウォン邸の使用人含めてざっと二十人はいる。あれはもしかして、と思って馬車の前へ両手を広げて道を塞いだ。
馬が驚いてひぃん、と甲高く鳴く。
「何だ貴様!」
「シウォンを返せ! そいつは魔女なんかじゃない!」
馬車を運転している男の1人の目をぎっと睨む。馬車が立ち止まったことにより、中にいた連中が顔を出す。
「我々の同行を塞ぐとは、貴様、魔女の手下だな」
「おい、魔女をこっちに」
男の一人が降りて、繋がられてたシウォンを解放した。シウォンの顔は殴られたように右頬が膨らんで赤青く腫れている。シウォンの綺麗な顔が腫れ、右目だけ痛々しく閉じている。
何てことを――怒りがさらに激昂し男に飛びかかった。それを複数人で押さえつけられ、腹や顔、頭など殴られ蹴られた。くそ、あともう少しで手が伸ばせそうなのに。俺がシウォンを救いたかったのに。
俺は手を伸した。
朦朧とした意識の中でシウォンの姿だけはぼんやり目に見える。この隙に逃げろ。早く。一緒に逃げられなくても、シウォン、お前だけが生きていればいい。もうあの頃に戻れなくても――。
「知らない人です。私にこんな手下はいません」
シウォンは冷たく言い放った。
その時の表情は視界が霞んで見えない。でも声色が今まで聞いたことのない淡々としたものだった。感情の起伏を感じない。
「つまり、魔女の虜になった哀れな民か。それは済まない。おい」
男の一人が指示を出すと、暴行がやみさっきまでの荒々しさは何処へ。皆一斉に離れた。かわりにシウォンの胸グラを掴み、馬車を走らせた。
行かないでくれ――なんで――シウォン、あんな嘘を。逃げられたはずなのに。俺を置いて逃げれば良かったのに。シウォン、行くな! 行かないでくれ――シウォン‼
意識が朦朧とし、深い絶望の底に堕ちる。
最後に見た光景はシウォンの苦しそうな顔だった。俺のこと知らないて言っておきながら、あんな泣きそうな顔をするなよ。そんな顔より笑った顔のほうが好きだ。
シウォン……。
「シウォンっ‼」
意識が深い海から浅瀬に出てこれた。
視界は雲一つない快晴の空。意識が目覚めるまでは体も思考もおぼつかなくて、やがてトントンと意識が途切れる前の記憶が思い出す。
「……シ、ウォン」
喉がカラカラで名前を呼んでもか細い声だった。喉が乾いて痛い。水が欲しい。でも体が動けない。手足を拘束されてるみたいに自分の体が動けない。
「良かった! 気がついた!」
誰かの声がした。
俺の顔をうかがうように見下ろす3人の知らない男女。誰、なんて言葉出てこなかった。かわりに3人のうちの1人が喋った。
「良かった。道端で倒れてたんですよ。血だらけで。僕らが通りすがらなかったら君、死んでたよ?」
白装束を着た教祖のようなかっこう。
ある1人が懐から容器を取り出し俺の顔にかけた。ツゥとその液体が口から零れて舌へ、体内へ。水だ。ゴクンと飲んだときにそれは、水だとわかった。
ありがたい。喉がカラカラで本当に死ぬところだった。
「ありがとう。でも行かないと」
体を這いずる。意識も覚醒すると、視界、嗅覚まで鮮明になった。火薬の匂い。もう処刑が始まっているかも。激痛にも耐え体を這いずり、歯を噛み締めながら進む。
すると、体が浮いた。
ふわりと。浮いたのではなく両肩を男の子二人に支えられて立っていた。
「行き先が同じなら一緒に行くよ」
右にいた少年が穏やかに言った。
「お前たち、誰だ?」
教祖のようなかっこうを見ると嫌気が差してくる。シウォンを奪った奴らと同じ。
「……三柱ていう、無宗教のようなものだ」
左にいた男性がボソリと言った。
顔まで深くフードを被っていて、顔ははっきりみえない。男の子だと分かったのは骨格の逞しさ。二十前半くらいの体格差。
「信じなくていいアル。わたしもこんな宗教の素性分からないアルからな!」
後ろにいた女の子が語った。
頭にお団子二つで目はくりくりしてて可愛らしい女の子。
「おいおい何自慢げに言ってんだよ〝天空〟ちゃんよ」
左にいた男性が飽き飽きした息をつく。
このご時世に無宗教なんてありえない。かっこうからして多くの信者を束ねる教祖のくせに。いや、もっと見るべきはそこじゃない。コイツらは俺と同じ、魔女がいつも処刑される広場に向かっている。そこにいくにつれて、人だかりができていて、いつ始まるかとワクワクしながらご婦人たちや子供たちが騒いでいた。
裏門にて向かうと鎖でがんじがらめに結ばれていて閉めることも開けることもできない。裏門からではなく正門からか。俺はさぁ、と血の気が引いていった。
正門へ向かうと大勢の群れはまだあるも、異端審問の影も、シウォンの姿もなかった。どうしてだ。だって、馬車もなかったし。こんなあっさり他人に取られるのか。
大事なもの守りきらないでどうする。
どうしよう。シウォンが取られた。悲しみよりも先に怒りが芽生えて目の前が真っ赤になる。あのときよりも腹の底がふつふつと煮えたぎって、この感情をどうにかしないと発狂しそうだ。
異端審問がいる教会へ向かった。
だが道中、馬車をみつけた。馬車に引きずられるようにして鎖に繋がれてるのはシウォン邸の使用人含めてざっと二十人はいる。あれはもしかして、と思って馬車の前へ両手を広げて道を塞いだ。
馬が驚いてひぃん、と甲高く鳴く。
「何だ貴様!」
「シウォンを返せ! そいつは魔女なんかじゃない!」
馬車を運転している男の1人の目をぎっと睨む。馬車が立ち止まったことにより、中にいた連中が顔を出す。
「我々の同行を塞ぐとは、貴様、魔女の手下だな」
「おい、魔女をこっちに」
男の一人が降りて、繋がられてたシウォンを解放した。シウォンの顔は殴られたように右頬が膨らんで赤青く腫れている。シウォンの綺麗な顔が腫れ、右目だけ痛々しく閉じている。
何てことを――怒りがさらに激昂し男に飛びかかった。それを複数人で押さえつけられ、腹や顔、頭など殴られ蹴られた。くそ、あともう少しで手が伸ばせそうなのに。俺がシウォンを救いたかったのに。
俺は手を伸した。
朦朧とした意識の中でシウォンの姿だけはぼんやり目に見える。この隙に逃げろ。早く。一緒に逃げられなくても、シウォン、お前だけが生きていればいい。もうあの頃に戻れなくても――。
「知らない人です。私にこんな手下はいません」
シウォンは冷たく言い放った。
その時の表情は視界が霞んで見えない。でも声色が今まで聞いたことのない淡々としたものだった。感情の起伏を感じない。
「つまり、魔女の虜になった哀れな民か。それは済まない。おい」
男の一人が指示を出すと、暴行がやみさっきまでの荒々しさは何処へ。皆一斉に離れた。かわりにシウォンの胸グラを掴み、馬車を走らせた。
行かないでくれ――なんで――シウォン、あんな嘘を。逃げられたはずなのに。俺を置いて逃げれば良かったのに。シウォン、行くな! 行かないでくれ――シウォン‼
意識が朦朧とし、深い絶望の底に堕ちる。
最後に見た光景はシウォンの苦しそうな顔だった。俺のこと知らないて言っておきながら、あんな泣きそうな顔をするなよ。そんな顔より笑った顔のほうが好きだ。
シウォン……。
「シウォンっ‼」
意識が深い海から浅瀬に出てこれた。
視界は雲一つない快晴の空。意識が目覚めるまでは体も思考もおぼつかなくて、やがてトントンと意識が途切れる前の記憶が思い出す。
「……シ、ウォン」
喉がカラカラで名前を呼んでもか細い声だった。喉が乾いて痛い。水が欲しい。でも体が動けない。手足を拘束されてるみたいに自分の体が動けない。
「良かった! 気がついた!」
誰かの声がした。
俺の顔をうかがうように見下ろす3人の知らない男女。誰、なんて言葉出てこなかった。かわりに3人のうちの1人が喋った。
「良かった。道端で倒れてたんですよ。血だらけで。僕らが通りすがらなかったら君、死んでたよ?」
白装束を着た教祖のようなかっこう。
ある1人が懐から容器を取り出し俺の顔にかけた。ツゥとその液体が口から零れて舌へ、体内へ。水だ。ゴクンと飲んだときにそれは、水だとわかった。
ありがたい。喉がカラカラで本当に死ぬところだった。
「ありがとう。でも行かないと」
体を這いずる。意識も覚醒すると、視界、嗅覚まで鮮明になった。火薬の匂い。もう処刑が始まっているかも。激痛にも耐え体を這いずり、歯を噛み締めながら進む。
すると、体が浮いた。
ふわりと。浮いたのではなく両肩を男の子二人に支えられて立っていた。
「行き先が同じなら一緒に行くよ」
右にいた少年が穏やかに言った。
「お前たち、誰だ?」
教祖のようなかっこうを見ると嫌気が差してくる。シウォンを奪った奴らと同じ。
「……三柱ていう、無宗教のようなものだ」
左にいた男性がボソリと言った。
顔まで深くフードを被っていて、顔ははっきりみえない。男の子だと分かったのは骨格の逞しさ。二十前半くらいの体格差。
「信じなくていいアル。わたしもこんな宗教の素性分からないアルからな!」
後ろにいた女の子が語った。
頭にお団子二つで目はくりくりしてて可愛らしい女の子。
「おいおい何自慢げに言ってんだよ〝天空〟ちゃんよ」
左にいた男性が飽き飽きした息をつく。
このご時世に無宗教なんてありえない。かっこうからして多くの信者を束ねる教祖のくせに。いや、もっと見るべきはそこじゃない。コイツらは俺と同じ、魔女がいつも処刑される広場に向かっている。そこにいくにつれて、人だかりができていて、いつ始まるかとワクワクしながらご婦人たちや子供たちが騒いでいた。
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