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最初Ⅱ
第44話 屋敷
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木の下で落ち合うようになり、童話の読み聞かせや俺が見てきた他愛ない話、他の人ではたった一言で済ませる会話なのに二人で話すと話が続き、腹がよじれるほど笑い、時には一緒に泣いて怒って。
シウォンと一緒にいると心地良かった。心から安心できた。体全体が溶けていくようになっていくみたいにお互い寄り添いたいと思うほど。
ずっと前からお互いを知っていたかのようだ、以前からそう思っていたが確信に変わったのは、『恐怖』の対象が同じこと。
俺は物心つく頃から『夜』が怖かった。シウォンもだ。夜になれば姿形も分からないし、目に見えないものがそこにいるかもしれないその『恐怖』が何度も襲ってきた。
まだ母親が元気で生きてた頃、よくぐずって母親と一緒に寝ていたものだ。母親の抱きしめた温かさを今でも胸に、俺を支えてくれる。
でもシウォンはというと、大きなベットに一緒に寝てくれる自分の甘えがきく相手はいなかった。両親から厳しく育てられ、その両親も殆どが帰ってこない。大きな邸にたった1人ていうときも何回かある。
「知ってる? 同じものを怖がる人間は同じ魂の片割れだって」
「そんなこと、どうやって調べたんだ」
「もう! ロマンがないわね!」
「はぁ? だって、魂なんて目に見えねぇし同じものを怖がるのはどうせ、あれだ! たまたまってこと」
シウォンは持っていた本を俺の頭に叩きつけた。本で殴ってくる。痛い。すごい痛い。
「魂は見えなくても感じるものよ! ほら! こうすればあたたかいのと同じ」
「っ! な、何すんだよ!」
シウォンが俺の手を掴んで自分の頬に添えてきたことで俺は咄嗟にその手を払った。シウォンの頬は少し冷たかった。俺の手が温かかったからちょうど良かったのかもしれない。
手を払ったことに驚いてシウォンは背をのけぞる。いたずらっ子の表情でニヤニヤ。
「えー何? そんな驚く? シャイボーイめ」
「別にそんなんじゃねぇよ」
笑われるのは癪だが、振り払ってしまったときに生まれた開いた距離はなくなった。そのことにホッとしている自分がいる。
ぶわっといきなり風が強くなった。
いつの間にか入道雲が広がっていた空が曇天の空へ、今にでも降りそうな怪しい雲行きへ。草も飛んできて顔に当たって痛い。口を少し開けてて埃が入ってしまった。つばを吐く。
「怪しくなってきたな」
「急にね」
シウォンは本を胸に抱えて強く抱きしめた。その表情は強張っていて、不安そうに萎縮している。強張ったり不安な顔になると何処か子供のような顔になる。
分かりやすくてだかこそ、守りたい。
「シウォン、今日は俺もここで泊まっとく」
「は……は⁉ 何言ってんの⁉」
シウォンは信じられないものを見る目で固まる。俺は嘘も冗談も言っていない。本気だ。シウォンは口をパクパクして慌てふためく。
「だめだめ! お父様が何て言うか、それに、若し見つかったダダですまされない!」
「平気だ。見つからなければいい」
「そんなの、保障はどこにもない」
「シウォン、俺を信じろ。どんなことがあっても絶対平気だ。それに今のお前と別れて帰れることはできねぇし」
シウォンは大きく目を見開いた。ギクリとした顔。図星のようだ。ゆっくり顔を伏せて上目遣いで見上げてくる。唇をキュと強く結ぶ。
屋敷に堂々と入れるわけもなく裏門から侵入。シウォンは一度屋敷の中に入って数分経つと帰ってきた。お父様は書斎にこもってて気づいていない、と。ただし、書斎を避けて部屋に行こう、と。
大きな屋敷に入ったのは生まれて初めてだ。見るもの触るもの全て次元が違う。見渡すばかり金にあふれてキラキラして眩しい。目を覆うほどだ。埃まみれで過ごしてきた空気も圧倒的に違う。場違いすぎて言葉がでない。圧倒されて立ち竦む。
「こっち」
息を呑む俺を置いてシウォンはてくてく歩き出す。俺は必死にその背を追うが、目の前に広がっているありとあらゆる金の飾り物に目を奪われる。
「お父様は書斎にいたらずっと出てこないわ。たまに使用人が入ったり出たり、お母様は時々帰ってくるけど、私のことなんて見向きもしない」
シウォンのその声は遠のいて掠れていた。
そしてある部屋で立ち止まる。
書斎を避けて部屋に向かったため、わりかし少し遠かった。おかげで屋敷を一周分した気分だ。
「ここが私の部屋。男を連れ出したのは初めてだぞ、光栄に思え給えよロゥドくん」
シウォンはニヤニヤ笑う。
俺もこんな豪邸の中に入ったのは初めてだ、と言うとシウォンはジト目で睨んできた。「全然そんなのと比べ物にならない、分かってないなぁロゥドくんは」とやれやれと手を仰いだ。
部屋の中へ招待される。部屋の中はシウォンの香りで充満していた。当たり前だ。シウォンの部屋なんだから。それにしても、廊下や壁には金の置物とか鹿の首の飾り物とか飾ってるのにシウォンの部屋は金よりも白が目立っていた。
目立つ飾り物といえば、大きなくまのぬいぐるみがベットで真ん中で横たわったいること。
金はないし、むしろ殺風景に近い。
シウォンはテレ顔で「あまり見ないでよ」とはにかんだ。
シウォンと一緒にいると心地良かった。心から安心できた。体全体が溶けていくようになっていくみたいにお互い寄り添いたいと思うほど。
ずっと前からお互いを知っていたかのようだ、以前からそう思っていたが確信に変わったのは、『恐怖』の対象が同じこと。
俺は物心つく頃から『夜』が怖かった。シウォンもだ。夜になれば姿形も分からないし、目に見えないものがそこにいるかもしれないその『恐怖』が何度も襲ってきた。
まだ母親が元気で生きてた頃、よくぐずって母親と一緒に寝ていたものだ。母親の抱きしめた温かさを今でも胸に、俺を支えてくれる。
でもシウォンはというと、大きなベットに一緒に寝てくれる自分の甘えがきく相手はいなかった。両親から厳しく育てられ、その両親も殆どが帰ってこない。大きな邸にたった1人ていうときも何回かある。
「知ってる? 同じものを怖がる人間は同じ魂の片割れだって」
「そんなこと、どうやって調べたんだ」
「もう! ロマンがないわね!」
「はぁ? だって、魂なんて目に見えねぇし同じものを怖がるのはどうせ、あれだ! たまたまってこと」
シウォンは持っていた本を俺の頭に叩きつけた。本で殴ってくる。痛い。すごい痛い。
「魂は見えなくても感じるものよ! ほら! こうすればあたたかいのと同じ」
「っ! な、何すんだよ!」
シウォンが俺の手を掴んで自分の頬に添えてきたことで俺は咄嗟にその手を払った。シウォンの頬は少し冷たかった。俺の手が温かかったからちょうど良かったのかもしれない。
手を払ったことに驚いてシウォンは背をのけぞる。いたずらっ子の表情でニヤニヤ。
「えー何? そんな驚く? シャイボーイめ」
「別にそんなんじゃねぇよ」
笑われるのは癪だが、振り払ってしまったときに生まれた開いた距離はなくなった。そのことにホッとしている自分がいる。
ぶわっといきなり風が強くなった。
いつの間にか入道雲が広がっていた空が曇天の空へ、今にでも降りそうな怪しい雲行きへ。草も飛んできて顔に当たって痛い。口を少し開けてて埃が入ってしまった。つばを吐く。
「怪しくなってきたな」
「急にね」
シウォンは本を胸に抱えて強く抱きしめた。その表情は強張っていて、不安そうに萎縮している。強張ったり不安な顔になると何処か子供のような顔になる。
分かりやすくてだかこそ、守りたい。
「シウォン、今日は俺もここで泊まっとく」
「は……は⁉ 何言ってんの⁉」
シウォンは信じられないものを見る目で固まる。俺は嘘も冗談も言っていない。本気だ。シウォンは口をパクパクして慌てふためく。
「だめだめ! お父様が何て言うか、それに、若し見つかったダダですまされない!」
「平気だ。見つからなければいい」
「そんなの、保障はどこにもない」
「シウォン、俺を信じろ。どんなことがあっても絶対平気だ。それに今のお前と別れて帰れることはできねぇし」
シウォンは大きく目を見開いた。ギクリとした顔。図星のようだ。ゆっくり顔を伏せて上目遣いで見上げてくる。唇をキュと強く結ぶ。
屋敷に堂々と入れるわけもなく裏門から侵入。シウォンは一度屋敷の中に入って数分経つと帰ってきた。お父様は書斎にこもってて気づいていない、と。ただし、書斎を避けて部屋に行こう、と。
大きな屋敷に入ったのは生まれて初めてだ。見るもの触るもの全て次元が違う。見渡すばかり金にあふれてキラキラして眩しい。目を覆うほどだ。埃まみれで過ごしてきた空気も圧倒的に違う。場違いすぎて言葉がでない。圧倒されて立ち竦む。
「こっち」
息を呑む俺を置いてシウォンはてくてく歩き出す。俺は必死にその背を追うが、目の前に広がっているありとあらゆる金の飾り物に目を奪われる。
「お父様は書斎にいたらずっと出てこないわ。たまに使用人が入ったり出たり、お母様は時々帰ってくるけど、私のことなんて見向きもしない」
シウォンのその声は遠のいて掠れていた。
そしてある部屋で立ち止まる。
書斎を避けて部屋に向かったため、わりかし少し遠かった。おかげで屋敷を一周分した気分だ。
「ここが私の部屋。男を連れ出したのは初めてだぞ、光栄に思え給えよロゥドくん」
シウォンはニヤニヤ笑う。
俺もこんな豪邸の中に入ったのは初めてだ、と言うとシウォンはジト目で睨んできた。「全然そんなのと比べ物にならない、分かってないなぁロゥドくんは」とやれやれと手を仰いだ。
部屋の中へ招待される。部屋の中はシウォンの香りで充満していた。当たり前だ。シウォンの部屋なんだから。それにしても、廊下や壁には金の置物とか鹿の首の飾り物とか飾ってるのにシウォンの部屋は金よりも白が目立っていた。
目立つ飾り物といえば、大きなくまのぬいぐるみがベットで真ん中で横たわったいること。
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