42 / 78
最初Ⅱ
第42話 シウォン
しおりを挟む
「日向ぼっこしてたらぐっすり寝てたよ」
彼女はあはは~と笑った。
冗談だろこの女。あんなに叫んでいたのに。ドン引きしている俺を素知らぬ顔で彼女は、顔を上げた。
「あぁあれか」
「俺が取る!」
「私が取るよ。ここから近いの私だしね」
細くて白い腕が伸びる。
上体を起こし、すんなりと帽子を手に。彼女は猿みたいに木から降りていった。俺はその後を追う。
「はい。もう飛ばされないようにね」
「お姉さんありがとう!」
「ありがとう! じゃあね!」
子供たちは帽子を受け取るや走って去っていった。俺が受け取る勲章だったのに。彼女は振り返って俺をまじまじ見るとぷっ、と笑った。
「横取りしてごめんね~」
嘲笑った。この女、いけすかねぇ。
「もういいよ、終わったことだしな。でも! もうあんな高いところで寝るのはやめろよ! 落ちたらどうなるだ」
俺は隅においてあった自分のバックを肩に回す。彼女は一瞬寂しい表情した。
「落ちて死んでも構わないよ」
「は?」
この女、脳みそほんとにイカれてやがる。無視だ。俺は女を無視して通り過ぎて行く際にふと、思い出した。
「お前、どこから来たんだ?」
彼女のかっこうは白い上品そうなワンピースに、髪の毛は少し荒れてるが、ちゃんと毎日手入れしているように見える。髪留めだって高価なものだ。
貴族、のような姿だ。
「えっと、そこの邸から」
指差した方向はこの街の中でとてつもなく大きな屋敷。ここは街の所有権を持っている男の家だ。ということは、その娘がこいつか。雷に打たれた衝撃だ。
「お前みたいなのが貴族かよ」
あまりのショックに本音が出た。
「失礼ね! 歴っとした貴族ですわよ~」
ふん、とふんぞり返る。癪に障るからやめろ。まぁいいや、今日は偶々知り合っただけでもうこいつとは話さないしな。
踵を返し、その場を離れた。
翌日――まだ朝日が昇る前の薄暗い時間。霧が街全体を覆い隠し包み込んでいるみたい。吐く息が白い。霧に飲まれる。
遠くの景色もまともに見れない。寒い。奥歯がガタガタなき足のつま先が感覚ないほどに寒い。風は吹いてないが肌の体温でしんみりした寒さは、今日は雪が降るな、と分かる。
肌を突き刺すような凍てつくような寒さは毎回、雪が降るんだ。
仕事に出勤して荷物を運んでいる最中に、大きな屋敷の窓から白い足が見えてギョッとした。幽霊なんじゃないかと思って荷物をその場で落としそうに。危ない危ない。
恐る恐る確認してみると、窓辺に座っている。こんな寒くて街全体も見渡せない霧の中なのに窓開けて何見ているんだ。
しかもあの屋敷、昨日の女がいた。
誰なのかはっきり確認してみようと恐る恐る建物から建物へ飛び映る。
やっぱりあの女だ。
あの女、この寒い中薄着で窓辺に座ってやがる。根性とかの話じゃねぇよ。
「おーい!」
気がかりで遠くから話しかけてみる。女は気づいてパッと手を振ってくる。
「やっほー! きゃっ!」
「うわぁ!」
危うく落ちるところをバタバタ足を動かしてその場で留まった。俺はというと、大事に抱えてた荷物をその場で置き去りにしている。
「大変だね、ロゥドくんも」
落ちそうになっても対して気にしてない様子で女は陽気に笑った。
「まぁな。お前こそ、こんな寒い中で風邪ひくぞ!」
「まぁお優しいこと。でも大丈夫! 二階から落ちても生きてる頑丈な体なの! それに、ここで座ってなかったらロゥドくんに会えてなかったでしょ?」
女は窓辺にて座ったまま、はにかんだ。続けて「何してたの?」と訊く。俺は慌てた。荷物を無造作な置きっぱなしだったことに今気づいた。
「これ、運んでたんだよ」
「へぇ。何のために?」
「決まってるだろ。食っていくためだ」
聞いておいてふーん、と興ざめた返事が返ってきて、貴族にはこっちの苦しい生活なんぞ分からないもんな、と怒りがわく。無神経なほどに笑っているのが尚更。荷物は落としたが幸い傷はついていない。腕にもう一度抱える。
「それじゃあな」と踵を返したら、女は待ったをかけた。
「シウォン。私、シウォンていうの。よろしくね」
彼女――シウォンとこうして出会った。食べる物も着る服も、価値観も身分も、人生の立っているスタートライン等全て違うのに、シウォンとはまるで生まれたときから一緒にいたように話しのうまが合う。
高価なものより質素なものを好み、コルセットは腰が痛くなるから普段から着ていない。猿みたいに木登りが得意で、他にも貴族らしいお茶会とか踊りも苦手。本当に貴族なのか疑わしいほどだ。女とより男といるみたいでなんだか心地良い。
「なぁ知ってるか? ここより先に大きな沼があってあれ遠くで見ると綺麗だけどさ、近くで見るとすっげーくせぇの! しかも濁っているし、あれはもう死の沼だな!」
「へー! そうなんだ。遠くからだからそんなの知らなかった。ねぇ、もっと教えて! ほら、あそこの怖い蔓が伸び放題の屋敷あるでしょ? あそこ人住んでる? どんな人かな?」
「これくらい腰が曲がったじいさんが住んでたぜ? しかも伸びた蔓の中にさ、虫を飼ってやがんの! すげぇ気持ち悪かったぜ」
へぇー、とシウォンは目をキラキラさせながら俺の話を昔話の読み聞かせのように釘付けだ。俺は運搬、配達業で見てきた世界を自慢気に語る。
彼女はあはは~と笑った。
冗談だろこの女。あんなに叫んでいたのに。ドン引きしている俺を素知らぬ顔で彼女は、顔を上げた。
「あぁあれか」
「俺が取る!」
「私が取るよ。ここから近いの私だしね」
細くて白い腕が伸びる。
上体を起こし、すんなりと帽子を手に。彼女は猿みたいに木から降りていった。俺はその後を追う。
「はい。もう飛ばされないようにね」
「お姉さんありがとう!」
「ありがとう! じゃあね!」
子供たちは帽子を受け取るや走って去っていった。俺が受け取る勲章だったのに。彼女は振り返って俺をまじまじ見るとぷっ、と笑った。
「横取りしてごめんね~」
嘲笑った。この女、いけすかねぇ。
「もういいよ、終わったことだしな。でも! もうあんな高いところで寝るのはやめろよ! 落ちたらどうなるだ」
俺は隅においてあった自分のバックを肩に回す。彼女は一瞬寂しい表情した。
「落ちて死んでも構わないよ」
「は?」
この女、脳みそほんとにイカれてやがる。無視だ。俺は女を無視して通り過ぎて行く際にふと、思い出した。
「お前、どこから来たんだ?」
彼女のかっこうは白い上品そうなワンピースに、髪の毛は少し荒れてるが、ちゃんと毎日手入れしているように見える。髪留めだって高価なものだ。
貴族、のような姿だ。
「えっと、そこの邸から」
指差した方向はこの街の中でとてつもなく大きな屋敷。ここは街の所有権を持っている男の家だ。ということは、その娘がこいつか。雷に打たれた衝撃だ。
「お前みたいなのが貴族かよ」
あまりのショックに本音が出た。
「失礼ね! 歴っとした貴族ですわよ~」
ふん、とふんぞり返る。癪に障るからやめろ。まぁいいや、今日は偶々知り合っただけでもうこいつとは話さないしな。
踵を返し、その場を離れた。
翌日――まだ朝日が昇る前の薄暗い時間。霧が街全体を覆い隠し包み込んでいるみたい。吐く息が白い。霧に飲まれる。
遠くの景色もまともに見れない。寒い。奥歯がガタガタなき足のつま先が感覚ないほどに寒い。風は吹いてないが肌の体温でしんみりした寒さは、今日は雪が降るな、と分かる。
肌を突き刺すような凍てつくような寒さは毎回、雪が降るんだ。
仕事に出勤して荷物を運んでいる最中に、大きな屋敷の窓から白い足が見えてギョッとした。幽霊なんじゃないかと思って荷物をその場で落としそうに。危ない危ない。
恐る恐る確認してみると、窓辺に座っている。こんな寒くて街全体も見渡せない霧の中なのに窓開けて何見ているんだ。
しかもあの屋敷、昨日の女がいた。
誰なのかはっきり確認してみようと恐る恐る建物から建物へ飛び映る。
やっぱりあの女だ。
あの女、この寒い中薄着で窓辺に座ってやがる。根性とかの話じゃねぇよ。
「おーい!」
気がかりで遠くから話しかけてみる。女は気づいてパッと手を振ってくる。
「やっほー! きゃっ!」
「うわぁ!」
危うく落ちるところをバタバタ足を動かしてその場で留まった。俺はというと、大事に抱えてた荷物をその場で置き去りにしている。
「大変だね、ロゥドくんも」
落ちそうになっても対して気にしてない様子で女は陽気に笑った。
「まぁな。お前こそ、こんな寒い中で風邪ひくぞ!」
「まぁお優しいこと。でも大丈夫! 二階から落ちても生きてる頑丈な体なの! それに、ここで座ってなかったらロゥドくんに会えてなかったでしょ?」
女は窓辺にて座ったまま、はにかんだ。続けて「何してたの?」と訊く。俺は慌てた。荷物を無造作な置きっぱなしだったことに今気づいた。
「これ、運んでたんだよ」
「へぇ。何のために?」
「決まってるだろ。食っていくためだ」
聞いておいてふーん、と興ざめた返事が返ってきて、貴族にはこっちの苦しい生活なんぞ分からないもんな、と怒りがわく。無神経なほどに笑っているのが尚更。荷物は落としたが幸い傷はついていない。腕にもう一度抱える。
「それじゃあな」と踵を返したら、女は待ったをかけた。
「シウォン。私、シウォンていうの。よろしくね」
彼女――シウォンとこうして出会った。食べる物も着る服も、価値観も身分も、人生の立っているスタートライン等全て違うのに、シウォンとはまるで生まれたときから一緒にいたように話しのうまが合う。
高価なものより質素なものを好み、コルセットは腰が痛くなるから普段から着ていない。猿みたいに木登りが得意で、他にも貴族らしいお茶会とか踊りも苦手。本当に貴族なのか疑わしいほどだ。女とより男といるみたいでなんだか心地良い。
「なぁ知ってるか? ここより先に大きな沼があってあれ遠くで見ると綺麗だけどさ、近くで見るとすっげーくせぇの! しかも濁っているし、あれはもう死の沼だな!」
「へー! そうなんだ。遠くからだからそんなの知らなかった。ねぇ、もっと教えて! ほら、あそこの怖い蔓が伸び放題の屋敷あるでしょ? あそこ人住んでる? どんな人かな?」
「これくらい腰が曲がったじいさんが住んでたぜ? しかも伸びた蔓の中にさ、虫を飼ってやがんの! すげぇ気持ち悪かったぜ」
へぇー、とシウォンは目をキラキラさせながら俺の話を昔話の読み聞かせのように釘付けだ。俺は運搬、配達業で見てきた世界を自慢気に語る。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※4話は2/25~投稿予定です。間が空いてしまってすみません…!
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる